見て、触れて、重なって


 ウォーリア・オブ・ライトが見回りから戻ってきた時、屋敷には待機役だったティーダと、ジタン、バッツと共に探索に出ていたスコールが戻って来ていた。
ジタンとバッツは、スコールと共に一度は屋敷に戻って来ていたのだが、一休みした後、また出掛けて行ったと言う。
探索で拾った素材と、屋敷の自室に貯めていた素材を揃えて、モーグリショップに向かったようだ。
ついでに今晩の食事当番であるバッツが、ついでに食糧も買って来るそうで、今夜は少々豪華な食事になりそうだ。

 帰りを迎えてくれたティーダから、そんな話を聞きながら、ウォーリアはリビングに入る。
先に聞いていた通り、リビングにはスコールの姿があり、彼はソファに横になって眠っていた。
どちらかと言えばボリュームの大きいティーダの話声や、リビングのドアの開閉の音にも起きる様子のないスコールに、ウォーリアが微かに眉を潜めていると、ティーダが声のトーンを落として言った。


「探索でちょっと疲れたんだって」
「そんなにも遠くへ行っていたのか?」


 スコールが判り易く疲労を露わにする事は珍しい。
どうしても疲労が隠せない時には、こうして寝落ちる前に自室に篭る。
そんな気力もない程に疲れているのか、と言うウォーリアに、ティーダは蜜色の頭を掻いて、


「どうだろ?でも怪我とかはしてないし、ジタンとバッツは元気だったし。飯食って腹が膨れて、気が抜けただじゃないっスかね」


 ウォーリアが心配する程、大袈裟な事ではない、とティーダは言った。
午前中の早い内から聖域を出発し、ジタンとバッツの賑やか組に挟まれての素材集め、昼を過ぎてから帰投して、遅めの昼食。
ジタンとバッツは食事を終えて間もなくモーグリショップへ出発したので、屋敷にはスコールとティーダだけが残された。
それからしばらくはティーダとぽつぽつと他愛のない会話をしていたのだが、いつの間にか睡魔に捉われたらしく、ティーダが気付いた時には目を閉じていたと言う。

 ウォーリアはしばらくの間、ソファで肘掛に寄り掛かり眠るスコールを見詰めていた。
スコールはいつも寄せられている眉間の皺が解け、常の印象よりも随分と幼い顔になっている。
リビングの開けた窓から滑り込む微風が、柔らかな濃茶色の髪をふわふわと揺らす。
普段、曇天であれば良い方と言えるこの世界の天候にあって、今日の秩序の聖域上空は、柔らかな日差しに恵まれている。
ティーダが「昼寝するのに丁度良い感じっスね〜」と言うのも判る気温で、スコールもそんな穏やかさに身を委ねてしまったのだろうか。

 ならば、起こしてしまうのは忍びない。
話し相手が眠ってしまい、暇を持て余していたティーダが、それでもスコール起こさなかったのも無理からん事であった。


(だが、このままでは……)


 ウォーリアには気掛かりな事があった。
ソファに座り、肘掛けに寄り掛かって眠るスコールの形格好である。
ティーダと話をしながら眠ってしまった為、スコールは肘掛に上半身を寄り掛からせており、背筋を横へと歪ませている。
人体の中で最も重いパーツである頭部も傾いており、首に不自然な負荷がかかっている事は明らかだ。
このまましばらく眠っていたら、目を覚ました時に身体中が悲鳴を上げるに違いない。

 幼い顔で眠る少年を起こすのは、ウォーリアとて気が引けるものがあった。
スコールもそうだが、この闘争の世界で出逢った仲間の半分は、まだまだ少年少女の息を出ていない。
ティーダ等は本来ならば戦闘とは縁遠い世界にいたらしく、気が張り詰める生活が長く続くのは辛いものらしい。
闘争の世界ではそうした時間は中々得られるものではない為、偶に恵まれた休息の時間は、可惜に壊してはならない。
況してスコールの場合、自身の弱味を他者に晒す事を嫌う所為か、休める時にすら素直に休息に身を委ねられない事もあるようだった。
だから尚更、こうやって穏やかに眠るスコールの姿は貴重なものであり、可惜に他人が壊してはならないものだと、ウォーリアは考える。

 しかし、やはり、このままと言うのも良くない。
一時の居眠りで、本人が直ぐに起きるつもりで目を閉じているのならともかく、すっかり眠っているのであれば、体もきちんと休める形を取るべきだ。

 ───そうと決まれば、ウォーリアの行動は早い。


「ウォーリア、何か飲み物いる……あれ、何してるんスか?」


 見回りから戻ってきたウォーリアへの気遣いに、飲み物を用意しようとキッチンに向かっていたティーダだったが、その前にソファ傍に屈んでいるウォーリアを見付けて足を止める。
二、三歩戻って覗き込んでみると、ウォーリアがスコールを腕に抱えて立ち上がった。


「このままでは体調を崩してしまう。部屋に運んでおこう」
「…大丈夫っスか?途中で起きるんじゃ」
「なるべく起こさないように努力しよう」


 その言葉の通り、ウォーリアは出来るだけ、腕に抱いたスコールに余計な揺れや振動を与えないよう、注意を払って歩き出した。
身に付けた鎧の所為で、どうしても歩く度に鳴る具足の金属音は消えないが、普通に歩いている時よりも、その音は小さい。
ティーダは、ウォーリアがスコールを離さない事を察して、一足先に廊下へ繋がる扉へ走った。

 蝶番の音に気を配りながらティーダがドアを開け、ウォーリアが扉を潜る。
ありがとう、と潜めた声で謝辞を述べるウォーリアに、ティーダは照れ臭そうに頬を赤らめる。
じゃあ、と言って扉がゆっくりと閉まるのを背に、ウォーリアは階段へ向かった。

 秩序の聖域に構えられた屋敷には、一階にリビングダイニングの他、風呂場や書庫と言った共同生活スペースがあり、二階と三階に各人の部屋がある。
スコールが自室として使っている部屋は二階に、ウォーリアの部屋は三階にあった。
だからウォーリアは、一度スコールをベッドに寝かせる為、二階の彼の部屋に向かう必要があったのだが、階段を上る足はそのまま三階へと進んで行く。

 抱えた腕の中で、スコールは穏やかな寝息を零している。
ウォーリアの歩調に合わせて、濃茶色の髪がさらさらと揺れていた。
前髪の隙間から覗く古傷に、前に唇を当てたのは何時だっただろうか。
思い出したのは四日前の事で、それ程遠い話ではない筈なのに、彼に触れてからそんなにも時間が経っていたのか、と密かに驚き、そんな自分にもいつも驚く。
以前は酷く遠く、一日二日と顔を合わせないのも珍しくなかったのだが、今ではたった一日でも、彼と共にいられない時がある事を寂しく思う。
我儘を言って彼との時間のみを優先させる性格ではないが、反面、こうして共に過ごせる時間がある時は、出来るだけ時間を共有していたかった。

 塞がった手でなんとか自室の扉を開けると、ウォーリアはベッドの上にスコールを下ろした。
軽くなった両腕に若干の侘しさを覚えつつ、ベッドの上でころりと寝返りを打つ少年の姿に、唇が笑みを浮かべた。

 ウォーリアはスコールの猫に似た髪を撫でた後、鎧具足を外し始めた。
どうしても鳴る金属音を、出来るだけ響かせないよう、ゆっくりと静かに外して行く。
が、上半身が楽になった所で、ベッドの軋む音が鳴り、見れば寝返りを打ったスコールが眩しげに眼を擦っている所だった。
起こしてしまったか、と彼の休息を妨げてしまった事に申し訳なく思いつつも、ゆっくりと持ち上がる瞼の裏から、ぼんやりとした光を帯びた蒼灰色を見るのが嬉しくて、ウォーリアの頬が緩む。


「ん……?」


 不精に伸ばされている銀色の髪が、ブルーグレイの中で閃く。
窓から差し込む陽光を受け、ひらひらと反射する銀光に、スコールはもう一度目を擦った。
のろのろと起き上がった後で、スコールはきょろきょろと辺りを見回し、


「……?」


 最後の記憶にある場所と光景が違う事に気付いて、スコールはことんと首を傾げた。
眉間の皺がないと、存外と幼い顔立ちをしている彼が、そうして子供らしい仕種をするのが、ウォーリアには愛らしい。

 スコールはしばらくの間、ベッドの上でぼんやりとしていたが、ゆっくりと何度目かの瞬きをした後、ようやく部屋の主を見上げた。


「……ウォーリア」
「おかえり、スコール」
「……ただいま。あんたも、いつ帰って来てたんだ?」
「つい先程だ」
「そうか。……おかえり」
「ただいま、スコール」


 鎧具足を全て外し、楽な格好になって、ウォーリアはベッドに腰を下ろした。
ぎしりと微かに傾いたスプリングに釣られるように、スコールがウォーリアの背中に寄り掛かる。
ぽすん、と背中に押し付けられた温もりを感じながら、ウォーリアは笑みを零す。


「随分と疲れているようだな」
「…別に」
「無理をしてはいけない」
「してない。少し、眠いだけだ」
「怪我は?」
「それもない。……俺より、あんたの方が怪我してるんじゃないのか」


 そう言ったスコールの手が、ひたりとウォーリアの背中に触れた。
その言葉と、触れられた場所に滲んだ鈍い痛みに、そう言えば、とウォーリアは他人事のように思い出した。

 背中に残されたその傷は、ウォーリアにしてみれば怪我と言う程大袈裟なものではない。
見回りの最中に遭遇したイミテーションと戦闘した時、背後から獅子の一撃を喰らった時に負った物だが、鎧のお陰で直接的なダメージは少なかった。
スコールの持つ特異な性質を持つ剣が起こした炸裂で、強い振動で痣が出来た程度───とウォーリアは思っていたのだが、スコールはそれでは済まさなかった。


「脱げ。治す」
「大した事はない」
「無意識に庇うような動きをしている癖に、何処が大した事がないんだ。そう言うのは、見てから俺が判断する」


 素人の自己診断など当てにならない、と言うスコールの指摘は最もだ。
ウォーリアは、スコールの言う通り、大人しく服を脱いで背中を晒した。

 背中の状態がウォーリアには確認できないので、具合がどうなのかは判らないが、やっぱり、とスコールが苦々しげに呟くのが聞こえたので、どうやら自分で思っているよりも傷は酷いらしい。
無意識に背中を庇う動きをしていたとも言われたので、確かに、放置して良いような傷ではなかったのかも知れない。
大した事ではない、と勝手に判断したのは、些か軽率だったようだ。

 しかしウォーリアは、そうした反省に落ち込むよりも、背中に触れる柔らかな温もりに唇が緩む。
魔法は得意じゃない、と言いながらも、スコールの治癒魔法の使い方は非常に丁寧だ。
ティナやセシルのようにあっと言う間に治せる程の魔力はないが、小さな傷なら先ず痕が残らないように治してくれる。
そんな優しさの込められた手が、ゆっくりと背中から離れるのを感じて、ウォーリアは振り返った。


「もう良いだろうか」
「一応。ティナかセシルが帰ったら看て貰え」
「君が治してくれたのだから十分だ」


 そう言って、ウォーリアはスコールの頬に手を伸ばす。
滑らかな頬にウォーリアの長い指が滑ると、スコールが緊張したように唇を噤んだ。
その唇にウォーリアの親指が触れると、ぴくっ、とスコールの肩が震える。


「…君は、本当に怪我はないのか?」
「……ない」


 ウォーリアの問いに答えながら、スコールは目を逸らす。
頬が赤らんでいるので、言葉そのものは嘘ではないのだろう。
人の目を見る事を苦手としているスコールが、至近距離にあるウォーリアの目を見れずに視線を逸らすのは、よくある事だった。

 だが、よくある事と言っても、ウォーリアにしてみれば寂しいものがある。
同時に、彼の言葉に嘘がない事も確かめたくて、ゆっくりと彼の肩を押して、細身の体をベッドへと横たえた。


「ウォーリア、」


 待て、とでも言おうとしたのだろう唇を、ウォーリアは己のそれで塞いだ。
殆ど無い距離にある蒼灰色の瞳が、驚いたように見開かれる。

 逃げを打つようにスコールの足がベッドシーツを蹴り、衣擦れの音が鳴る。
掴まるものを求めて彷徨った手が、ウォーリアの銀糸を掴んで、ぐいぐいと引っ張った。
しかしウォーリアは気に留める事もなく、スコールの桜色の唇に舌を這わせ、薄く開いたその隙間から中へと侵入した。


「んぅ……っ」


 艶めかしいものが咥内に侵入してきた感触に、スコールの体がぶるっと震えた。
しかし拒絶を示す程に彼が暴れる事はなく、髪を引っ張っていた手はいつしか首へと絡められ、抱き付くようにウォーリアに縋る。
シーツを蹴っていた足も静かになり、もどかしげにもぞもぞと揺れながら、馬乗りになったウォーリアの足下に擦り寄っていた。


「ん…ぅ、は……っ」
「……スコール」
「ウォ、ル……んぅ……っ」


 名を呼ぶ男に、スコールが息を切らせて応える。
その呼び名が褥の中でのみ呼ばれるものになっている事を聞いて、ウォーリアはもう一度キスをした。

 探索から帰って来てから、そのままリビングで眠ってしまっていたスコールの服装は、いつも通りのモノトーンのものだ。
そのジャケットを肩から脱がせ、シャツを捲り上げると、微かに汗を滲ませた肌が露わになる。
ウォーリアの堅い皮膚に覆われた指が、スコールの薄い胸板を撫でる。
胸の奥で早鐘を打つ鼓動を自覚していたスコールは、それに気付かれる事に顔を赤らめ、鼓動を沈めようと唇を噛む。
しかし、意識すればする程、スコールの芯土蔵は煩くなって行き、ウォーリアの手にもその鼓動が鮮明に伝わってしまう。

 早い鼓動に、顔を真っ赤にさせ、唇を真一文字に噤んでいるスコール。
ふるふると肩身を縮こまらせる姿が、ウォーリアには小動物が怯えている様子と重なる。


「緊張しているか?スコール」
「……ん…っ」
「疲れているのなら、止めるが───」
「……っ」


 ウォーリアの言葉に、スコールは迷わずに首を横に振った。
唇は相変わらず固く噤み、良いとも厭とも言わないが、決してウォーリアと体を重ねる事が嫌なのではない。
元々他人との接触を苦手としている上に、恋愛経験など自分と無関係と思っていたから、こう言う行為に慣れる事が出来ないだけだ。

 スコールはぎこちのない手で、ウォーリアの頬を撫でた。
手袋をしたままの手に気付いて、スコールは手袋を外し、もう一度ウォーリアに触れる。
頬を滑る、熱を持った手の感触が心地良くて、ウォーリアは目を閉じた。
その様子を見て、大型動物をあやしてるみたいだ、とスコールはこっそりと笑う。


「……ウォル。続き」
「……ああ」


 このままただ触れ合っているだけと言うのも悪くはないが、もっと繋がりたい、と思うのはお互い様だった。
言葉少なに先を促すスコールに、ウォーリアも目を開けて、スコールの首に唇を寄せる。


「んっ……!」


 ウォーリアの唇がスコールの首筋に触れた。
ピクッ、と喉を逸らして肩を震わせたスコールを見て、ウォーリアのアイスブルーの瞳に熱が灯る。

 ウォーリアはスコールの胸を撫でながら、首筋をゆっくりと舌でくすぐって行く。
触れられる事そのものに敏感なスコールにとっては、それだけで酷く甘美で堪らない刺激になってしまう。
ともすれば零れそうになる情けない声を、必死で唇を噛んで堪えているが、


「…ん……っ!」
「……スコール。声を聞かせてくれ」
「…や…う……っ」


 甘声を聞かせて欲しいと強請るウォーリアに、スコールは顔を真っ赤にしていやいやと首を振った。
恥ずかしがり屋な恋人に、ウォーリアは眉尻を下げるが、強制的に口を開かせる事はしない。
代わりに胸の頂きの蕾を摘むと、ヒクン、とスコールの体が判り易い反応を示した。


「や…っ、ウォル……っ」
「大丈夫だ。君が嫌がる事はしない」
「…は…うぅ……んっ……!」


 摘まんだ乳首を柔らかく捏ねるように指の先で圧され、スコールの胸を痒みに似た刺激が襲う。
スコールの手がウォーリアの手を掴んだが、ウォーリアは構わず胸を遊び続けた。


「はっ、あっ…!んん……っ!」


 スコールの乳首は次第に固くなって行き、コリコリとした突起のように膨らんだ。
胸を逃がそうとベッドの上にずり上がろうとするスコールだったが、ウォーリアはスコールの腰を捕まえると、しっかりと抱き締めて逃げ道を奪う。
そうしてスコールを抱き締めたまま、膨らんだ乳首を口に食むと、スコールはまた一つ高い声を上げて啼いた。


「あぁ……っ!ウォ、ル……んっ…!」


 刺激を与えられて敏感になった乳首を、慰めるように、ねっとりと肉厚な舌が這う。
更に逆の乳首も摘まれて、スコールはビクビクと四肢を震わせた。


「や…ウォル……っ、両方、は……っ」
「嫌か」
「あっ、あぁ……っ!やだ…っ、喋るな……っ!」


 乳首を食んだままで喋るウォーリアに、吐息と舌の動きで余計に快感を得てしまい、スコールは潤んだ瞳でウォーリアに訴えた。
すると、先の言葉の通り、ウォーリアはスコールの乳首から手を離し、舌だけで胸を愛撫し続ける。

 ねっとりと皮膚を撫でる舌、そうして濡れた肌にかかる熱の篭った吐息。
食まれた乳首を、ちゅう、と強く吸われる度に、スコールは背筋を弓形に撓らせた。
少しだけ触られて直ぐに解放された乳首はと言うと、物欲しげにぷっくりと膨らんでいる。


「ん……ふ……っ」


 もどかしげに身を捩るスコールだったが、相変わらず腰を抱くウォーリアの腕には力が込められていて、幾らも動く事が出来ない。
乳首をちろちろと舌先で舐られる感覚に、じわじわと体の芯が熱くなって行くのが判る。
それを体現するように血が集まって行く中心部に、ウォーリアの右手が触れた。


「……っ!」
「嫌ならそう言ってくれ。君が望まない事はしない」


 言いながら、ウォーリアの手がスコールのベルトを外し、ズボンの中へと滑り込む。
下着の上から中心部をやわやわと揉めば、薄い布地の裏側にじっとりと汗が滲んだ。

 ウォーリアがボトムを脱がそうとしているのを感じ取って、スコールはベッドから腰を浮かせた。
ぴったりと体のラインに沿ったズボンを脱がすのは、いつも少し手間がかかる。
その間のもどかしさがどうにも恥ずかしくて、スコールは少しずつ腰を捻って、ウォーリアの手を助けた。
その甲斐あって、常程時間をかける事なく、下着ごとズボンが下ろされる。

 窮屈さから解放された雄は、直ぐに天井を向いた。
昂っている自分の有様に、スコールの顔が真っ赤になり、自分の様を見ないように、スコールは両腕で顔を隠す。


「ふ…ぅ……っ」
「スコール。顔を見せてくれ」
「……嫌だ……っ」


 自分が情けない顔をしている事を、スコールは自覚していた。
だからウォーリアの言葉に、はっきりと嫌だと示したのだが、ウォーリアの手がスコールの腕を掴む。
顔を見ようとしているウォーリアに、スコールは腕に力を籠めて抵抗するが、結局無駄な足掻きであった。


「あんた…っ、俺が嫌がる事はしないって言っただろ…!」


 ちゃんと嫌だと言ったのに、と赤くなった顔でスコールが睨む。
ウォーリアは、それをじっと冷たいアイスブルーで見詰めながら、


「……すまない。だが、私は君の顔を見ていたい」


 スコールの望む通りにしてやりたいと言う気持ちはある。
嫌がる事はしたくないと思うのも、嘘ではない。
しかし、スコールが嫌だと言っても、愛しい人の顔を見ていたいと言う気持ちも本物で、誤魔化す事が出来なかった。

 窓から差し込む陽光に閃く銀色と、微かに熱の情欲を孕んだ青の瞳に見詰められ、スコールは歯を噛んだ。
真っ直ぐに見下ろす瞳は、未だにスコールにとって苦手なものだった。
余りにも透明な瞳に見つめられていると、自分の中に抱いたもの───羨望、嫉妬、もっとドロドロとした醜く矮小な感情まで見抜かれてしまうのではないかと思う。
しかし反面、その透明な瞳に自分だけが映っていると言うのが嬉しくて、それで浮き足立つ自分の気持ちを覗かれるのが恥ずかしい。

 スコールは自分の顔を隠そうと腕を捻るが、ウォーリアに掴まれたまま、腕はベッドに縫い付けられた。
重い鎧具足を身に付け、長剣を大盾を自在に操る筋力は伊達ではない。
こうして組み敷かれてしまえば、スコールが彼に抗う事は出来なかった。


「……すまない、スコール。君が嫌だと言っても、私は君の顔が見えないのが嫌だ」
「ウォ、ル……んっ…!」


 近付いて来る人形のように端整な顔に、スコールが息を飲んでいると、二人の唇が合わさった。
スコールの舌が絡め取られ、スコールの口の中で二人の唾液が交じり合う。

 スコールの腕を掴んでいたウォーリアの手が離れる。
自由になっても、スコールはもう顔を隠そうとはしなかった。

 ウォーリアの手がもう一度スコールの下肢へ伸び、膨らんだ中心部を撫でる。
白い指が雄の裏側をくすぐりながら降りて行き、密やかな穴に触れた。
ピクッ、とスコールの肩が震え、ウォーリアの手が一瞬迷うように止まったが、直ぐにまた同じ場所に触れる。
指先で縁をくすぐるように撫でた後、スコールがゆっくりと息を吐くのに合わせて、ウォーリアの指が中へと侵入を始めた。


「……っあ……!」


 異物感にスコールが喉を仰け反らせる。
汗を滲ませた喉にウォーリアが唇を寄せ、喉仏を甘く噛んだ。
ヒクン、とスコールの体が震えた後、スコールは意識して短い呼吸を繰り返す。


「はっ…はっ……あ…んん……っ」
「辛くはないか?」
「…ん……あ……っ」


 ウォーリアの問いに、スコールが小さく頷く。
頭が微かに縦に動いただけだったが、答えには十分だ。

 節のある指が、ゆっくりと中へと潜り込んで行く。
武骨さのある手指なのに、動きは酷く慎重で、スコールを傷付けまいとしているのが判った。
第二関節まで入れた所で、ウォーリアが指先を曲げて、スコールの内壁をそっと押し撫でる。


「んぁ……っ」


 甘露を含んだ声が漏れて、スコールは自分の物とは思えない声に、耳まで赤くなった。
しかし、ウォーリアにとってはその声こそが心地良い。
指をゆっくりと曲げ伸ばしして、何度も同じ場所を撫でてやれば、スコールの細い躯がビクッ、ビクッ、と何度も跳ねた。


「あ…ふ…っ!…ん……あ…あ……っ!」
「少し硬いな……」
「んぅ……っ!」


 くぷ、と二本目の指が挿入されて、スコールの躯が一瞬強張る。
縋るように抱き付き、息を殺して唇を噛むスコールの額に、ウォーリアの唇が触れる。
触れては離れ、離れては触れる口付けは、怯える子供をあやしているようだったが、段々とキスの場所が降りて行くと、その雰囲気も変わる。
最後に唇が合わされば、深くまで貪り合うディープキスになり、スコールも恋人の首に腕を絡み付かせてそれに応えた。


「んっ…んん……っ」


 二本の指がスコールの中で動いている。
掻き回すように、慰めるように撫でる指先に、スコールの体は熱を増して行き、それは一ヵ所へと集まって行く。

 内肉が蕩けるまでは然程時間はかからなかった。
もっと大きくて確かな熱を求めるように、スコールの躯はおのずと準備を整える。
しかし、そうと知らないのか、傷付けまいと言う配慮からか、ウォーリアの前戯は丹念に丹念を重ねており、スコールの躯が蕩け切ってもまだ先へ進まない。


「ふあ…あ……っ、あぁ……っ」


 恥ずかしがって噤んでいた声も、次第に大きくなって行く。
唇を噛む力すら、躯を苛む熱に奪われているのだ。
肉壁を形の良い指がなぞる度、スコールの背中をぞくぞくとしたものが迸り、我慢を重ねた蜜が溢れ出す。


「ウォ…ル……っ、もう……っ」
「まだもう少し───」
「もう、良い……っ!良い、から……あ…っ!」


 ウォーリアはいつもスコールの中をたっぷりと解してから挿入する。
その方がスコールの躯に要らぬ負担を課せずに済むからだ。
特に、この関係が始まった頃、触れる事にも触れられる事にも不慣れなスコールは、体の中も外もガチガチに緊張させているのが常だった。
それもあって、ウォーリアは出来るだけじっくりと時間をかけて、スコールを慣らすように心がけている。

 けれども、今となってはそれも昔の話だ。
スコールはウォーリアに与えられる熱を知り、覚え、体もそれを迎えるように自ら準備するようになった。
だからもう十分に内側は解れていると言うのに、其処から更に丹念に愛撫を施されるのは、焦らされているのと同じだ。

 スコールはウォーリアの手を握って、彼の指を秘部から抜いた。
ぬぽっ、と空気の篭った音が聞こえた気がして、スコールの躯がふるりと震える。
そのままスコールは自身の手を陰部に当てて、秘孔を指でくぱっと開かせた。


「あんたが…欲しい……、ウォル……っ!」


 我慢の限界なんだと訴える恋人に、ウォーリアの熱も限界を迎えた。
指の愛撫で悶え喘ぎ、悩ましげに揺れていた腰を捕まえる。
くつろげた自身をヒクヒクと膨らんでいる秘園に押し当てれば、それだけでスコールは甘い吐息を零した。


「苦しくなったら、言ってくれ」
「…平、気…だから……早く……っ」
「ああ」


 開かせた足がウォーリアの腰に擦り寄った。
ウォーリアはスコールの白い太腿を撫でて、ひくん、と戦慄いた腰を抱き、一気に自身を突き入れる。


「あああぁぁぁ……っ!」


 悲鳴のような声が上がったが、直ぐに甘い音が混じった。
スコールの中がウォーリアの物で一杯になり、スコールのピンク色の唇がはくはくと喘ぐ。

 隙間なく絡み付いて来る肉の感触に、ウォーリアは知らず唾を飲んでいた。
白磁のように白いウォーリアの額に、じっとりと汗が滲んでいる。
スコールは身体の奥を犯す逞しい熱の感触にうっとりと目を細めながら、ウォーリアの頬に手を当てた。


「ウォ…ル……」
「スコール……苦しくはないか?」
「ん……」


 夢見心地のような表情で頷くスコールに、良かった、とウォーリアは言った。
微かに笑みを浮かべた唇に、スコールの指が滑る。

 ウォーリアがゆっくりと腰を動かし始め、スコールの中を突く。
初めは浅い抽出で、短いストロークでコツコツと打つように壁を穿っていた。
スコールの呼吸もまだ上がって行き、突き上げられる度に腰全体に痺れるような快感が襲う。


「はっ、んっ…!あっ、んっ…、あ、ふぅ…っ!」


 揺さぶられる躯を賢明にウォーリアにしがみ付かせて、スコールは甘い声を漏らしている。
十分過ぎる程に解されたお陰で、スコールの躯に痛みはなく、得られるのは充足感と快感ばかり。
聞こえる自分の声は酷く恥ずかしいものだったが、解すついでに焦らされた所為で、与えられる快感を我慢できず、口を閉じる事が出来ない。


「あ、はっ、あぁ…っ!や、んっ…!」


 スコールの声が上がる度に、ベッドがギシギシと軋んだ音を立てる。
その音が次第に大きくなって行き、ウォーリアの動きが激しさを増しているのが判った。
突き上げが徐々に深くなって行き、スコールは強くなる快感に本能的に逃げを打つが、細い腰を抱く腕は已然として離れない。
離さない、とでも言わんばかりに強く腰を抱かれ、逃げ場を失ったスコールは、雄の責め立てに成す術もなく揺さぶられるしかなかった。


「あっ、あっ、あぁ…っ!ウォ、ル…んっ、そこ……んんっ…!」
「スコール…く、…っは…!」
「あふ…っ、あ…っ!うぅん……っ!」


 耳元で囁かれる、名を呼ぶ声にすら、スコールの躯は反応する。
耳朶にかかる吐息も、スコールには堪らなかった。
鼓膜から犯されているような感覚に、スコールの躯は快感を拾い、秘奥に咥え込んだ雄を強く締め付ける。
不意の締め付けにウォーリアが微かに眉根を寄せ、競り上がる衝動に唇を噛んで堪え、またスコールの中を強く突き上げる。


「んぁああっ!」
「く……うぅ……っ!」


 締め付けを振り切るように突き上げたウォーリアに、スコールは甘い悲鳴を上げてしがみ付いた。
ウォーリアの背中に爪が立ち、ガリ、と引っ掻く痛みが走るが、ウォーリアは気にしなかった。
スコールを世界から隠すように覆い被さって抱き締め、蕩けて甘い汁を滲ませる彼の秘孔を、何度も激しく責め立てる。


「あっ、ウォル、んんっ!や…激し、い……っ!」
「…すまない……止められない…っ!」
「うっ、あっ、あぁっ!ウォル、んっ、ウォル、ぅ……っ!」


 詫びるウォーリアに、スコールは良い、と言うように首を振った。
許してくれる恋人に、もう一度すまない、と詫びて、ウォーリアはスコールを強く抱き締める。
スコールもウォーリアの腰に足を絡み付かせて、昂る熱と、抱き締める男に身を委ねた。


「あっ、来る、イく…っ!ウォル…うぅんんん……っ!」
「スコー、ル……っ!」


 絶頂の瞬間、スコールの媚肉がウォーリアが一等強く締め付けた。
根本から先端まで、隙間なく絡み付いた肉が蠢き、ウォーリアの欲を搾り取ろうとする。
ウォーリアは唇を噛んで堪えようとしたが、貪欲に熱を欲しがる躯の誘いに逆らえず、蕩けた肉の中に自身の熱を解き放った。

 どろりとしたものが中に注ぎ込まれるのを感じて、スコールの躯がビクッ、ビクッ、と痙攣する。
長い射精に攻められている間にも、スコールの躯は熱を増して行き、白い肌をピンク色に火照らせて、悩ましげに腰を揺らす。


「あ、あ…っ…、ふぁ…あぁ……っ!」


 爪先をベッドから浮かせ、攣らんばかりに強張ったスコールの脚。
足の指が握り開きを繰り返し、彼の躯を襲う快感信号の激しさを物語る。

 ウォーリアの射精が終わっても、スコールの体は快感の波から帰って来れなかった。
うっとりと熱に浮かされた瞳を彷徨わせ、しどけなく開かれた唇から艶のある吐息を零しているスコールの頬を、ウォーリアの手が撫でる。


「すまない、スコール。中に出してしまった」
「ん…ぅ……い、い……」


 詫びるウォーリアに、スコールは虚ろな表情のまま言って、


「いい、から……もっと……」


 もっと欲しい、もっと抱き締めて欲しい、もっとキスして欲しい。
言葉では追い付かない気持ちを伝えようと、スコールはウォーリアに抱き付いた。
ぎゅう、と縋る腕から伝わる熱に、ウォーリアは小さく頷いて、スコールの唇を吸った。





 人生、何が起こるか判らないものだ───と、恋人となった男を見る度、スコールは思う。

 自分が決してコミュニケーション能力に置いて優れていない自覚はある。
寧ろ半分は自らそうあるように振る舞っていた所もあり、意図して他者との距離を遠く保とうとしていたのも確かだ。
この世界には、それを全く気に留めず、ずかずかと此方の領域に踏み込んでくる者が多かったので、余り意味のない事ではあったのだが、その踏み込み方の違いの所為で、余計に距離を取ろうと思う相手があったのも事実。
この齟齬に関しては、形は違えど、あちらもコミュニケーション能力に難があったのが原因で、人一倍パーソナルスペースを意識するスコールに対し、パーソナルスペースと言う概念そのものが抜け落ちている者が相手だった事が、他のメンバー以上に擦れ違いを生んでいた。
仲間である事、判り易いと言えば判り易い性格の人物だった事もあり、戦闘能力やリーダーシップと言った点では、スコールも信用していたが、人間性については絶対に受け付けられないタイプだと思っていた。

 それがいつの間にか、こうして褥を共にする仲になっているのだから、本当に人生と言うものは判らない───と言う事を、眠る男の顔を見詰めながら、特に意味もなくつらつらと考える。


(……だからと言って、今の状況に不満がある訳でも……)


 其処まで考えて、無い事も無い、と言う結論に行き着く。
ただ、その不満は口に出して言わなければならない程の事もなく、時折ちくちくと心の中で棘が立つ程度だ。
そして、結局の所、そうした不満は褥の中で蕩けて消え、忘れてしまう物なのである。

 眠るウォーリアの腕は、スコールの腰に回されており、しっかりとした力でスコールを捕まえている。
ちなみにその手は、つい数分前までは、労わるようにスコールの腰を撫でていた。
剣盾を握る手は大きく分厚く、彼のしっかりとした体躯に似合っていて、こうして触れている場所を意識するだけでも、彼の存在の大きさと言うものがよく判る。
思えば、スコールが彼に対して強い苦手意識を持っていたのは、そうした存在感の大きさと、自分を比較した時に感じる劣等感から来るものだったのかも知れない。


(……それが今じゃ……)


 今となっては、あれだけ苦手だった大きな存在感が、安心するものになっている。
良い事なのか悪い事なのか、スコールは判然とせず、深く考えると怖いものに捕まりそうで、意識して頭の中から追い出していた。

 触れる程に近い距離にある端整な顔に、スコールはそっと手を伸ばした。
行為の最中、何度触れたか判らない頬を撫でてみる。
いつも先陣を切り開き、数えきれない傷を負っているのに、ウォーリアの肌はまるで生まれたての赤子のように滑らかだった。
肌色は白いので、紅潮して赤くなると直ぐに判る。
滅多に見られない筈のその赤みは、スコールにとって然程珍しい物ではなく、褥の中では毎回見る事が出来ていた。

 何度か頬を撫でていると、長い睫がふるりと震えた。
起こした、と悟った直後、瞼がゆっくりと持ち上がり、これも赤子に似た透明度を持った瞳がスコールを映し出す。


「……スコール……」
「悪い。起こした」
「…構わない。君の顔が見れた」


 仄かに嬉しそうに頬を緩めるウォーリアの言葉に、馬鹿なのか、とスコールは毒を吐く。
そんな可愛げのない反応を見ても、ウォーリアの表情は緩んだままだ。

 スコールの腰を抱いていた手が離れ、柔らかな濃茶色の髪を撫でる。
ふわふわと指先を滑る髪の感触に遊びながら、ウォーリアはもう一度目を閉じた。
また寝るのか、とスコールは思ったが、撫でる手は止まっていないので、ウォーリア自身に眠るつもりはないらしい。

 ぼんやりとした意識の外で、仲間達が帰って来た声が聞こえた。
窓の外を見れば、薄らとオレンジ色を帯びた光が見える。
この部屋に時計はないので、正確な時間は判らないが、直に夕飯時になるだろう。
このまま眠れば、その時間になっても起きないまま、夕飯を食べ損ねるかも知れない───と思ってはいるのだが、撫でる手の心地良さには抗えず、スコールはゆっくりと目を閉じた。




『ウォルスコのちょっとえっちな話』でリクエストを頂きました。
ちょっとどころかいつも通りのえっちな話で突っ走ってしまいました。

人形めいても見えるウォルが、本能的にスコールを求めたりすると萌える。
スコールに対して何かとウォルが謝ってるのは、スコールを気遣ってるつもり。
気遣ってるけど、抑えられない自分の所為で、スコールに負担を強いている後ろめたさがあったりすると良いなって。