見れないものを求めるよりも


 むっすりと、見るからに不満を露出させている顔が二つ並んでいる。
その内の一つは、常に不機嫌を滲ませた皺を眉間に刻んでいるので、見慣れた顔ではあるのだが、それでも醸し出される刺々しい空気はいつもの倍増しであった。
もう一つはと言うと、無表情ではないが感情が表に露出し難い所があり、ごく一部の条件下を除けば、基本的には落ち着いている。
それだけに、刺々しさの比を考えると、此方の方が上を行っている───ような気がする。

 その不機嫌な二つの顔には、幾つかの青痣があった。
引っ掻いたような爪痕もある。
青痣の大きさや形は、双方の拳のサイズと一致する。
そんな顔をお互いに見ないようにとツンとそっぽを向き合っている二人に、仲間達は大いに困惑した。
まさか殴り合いの喧嘩でもしたのか、と仲間が冗談交じりに問うと、期待していた否定の言葉はなく、どちらも黙ったまま返事すらしない。
それこそが答えであり、それを見た仲間達は、一層混乱したのだった。

 不機嫌な二人───スコールとクラウドの有様は、それはもう酷いものであった。
顔や腕の痣は勿論の事、共に服も解れた所が見られ、取っ組み合いの殴り合いでもしたかのようだ。
実際、その通りである事は、二人をリビングから離し、それぞれの自室に連れて行って手当の為に服を脱がせた事で判った。
スコールの肩は大きな青痣が残っているし、クラウドの背中には蹴り痕がある。
剣撃の形跡が見られないのは仲間達にとって幸いであったが、それでも加減をしない一撃をお互いに食らわせていると言うのは、一体どういう事か。
余程腹に据えかねた事があったのか。
ともかく原因を調べ、これ以上拗れる前に仲直りをして欲しいのが、仲間達の総意である。

 が、クラウドの方は───落ち着きさえすれば───なんとかなるとしても、問題はスコールだ。
元々、意地を張り易い性質である上に、彼の言い分を聞くに、原因はクラウドの方にあると言う。
であるなら、仲直りなんて、ましてやそれを自分から切り出しに行くなんて、どうして俺がそんな事、と言う気分になるのも無理はないかも知れない。
けれども、このまま殺伐とした空気を振り撒かれても、良い事は何もない。
スコールの事をよく知るジタンとバッツは、一先ず本人の熱が冷めるまでそっとして置くのが吉、と判断した。

 その間に、クラウドから事情聴取を始めたのはセシルだ。
彼はクラウドとスコールが密かな仲である事を知っており、この手の話に過敏な年頃であるスコールの事を慮って、他の戦士達には秘密にしてくれている。
だから今回の件で、クラウドから詳しい話を聞けるのは、彼の他にいなかった。

 蹴り痕の残る背中にアイシングを施しながら、それで何があったの、と率直に問うセシルに、クラウドは判り易く苦い表情をしてみせた。
それはジタンとバッツに同じ事を問われた時のスコールとよく似た表情だったが、スコールのそれとは違い、クラウドの顔には若干の暗い翳がある。
表面的には判り難いが、落ち込んでいると言う事が滲んでいるのを感じ取って、これなら話してくれそうだ、とセシルが思った所で、


「……意趣返し、のつもりだったんだ」


 ぽつりと呟いて、クラウドは深々と溜息を吐いた。


「はあ……意趣返し、か。つまり、先の原因はスコールにあると言う事?」
「いや……」


 掘り下げて尋ねるセシルに、クラウドは益々苦味の滲む顔をした。
口元に手を当て、言い難そうに視線を彷徨わせるクラウドに、セシルはもう一度彼が言葉を発するのを待つ。

 一秒一秒の時間が経つ毎に、クラウドは眉根を歪めて行き、じんわりとした空気を漂わせている。
しかし、それは一定のメーターを越えると、一転して落ち込んだように引っ込んで、クラウドは何度目かになる溜息を吐いた。
思考の迷路に嵌まり込んでいるらしいクラウドが、次に口を開くまでには、短くはない時間を要した。


「……スコールは、よくジタンやバッツと一緒にいるだろう」


 余り他者と行動を共にしないスコールであるが、ジタンとバッツに限っては別格であった。
彼等の方がスコールを放って置かないと言うのもあるが、スコールも彼等を露骨に拒否する事はない。
何処までも遠慮をしない彼らの態度に拒否を諦めた、と言うのもあるだろうが、そうであったとしても、スコールは二人に対して判り易く寛容な所があった。

 それ自体は、特に悪い事ではない、とクラウドは思っている。
クラウドとスコールの間柄は、顔を合わせた当初は軍人と傭兵と言う役割以上のものを持たず、互いの不可侵領域にも触れる事なく過ごしていた。
それが今の距離感まで変化したのは、ジタンとバッツを介して、スコールの様々な表情や側面を知る事が出来たからだ。
また、ジタンとバッツが相手であれば、スコールも遠慮をしないので、他の仲間達と共にいる時よりも、様々な表情を見る事が出来る。
───そう、クラウドといる時よりもずっと、色んな顔を見せてくれるのである。

 初めの頃は、自分が引き出す事が出来ない表情を、ジタンとバッツが見せてくれるだけで嬉しかった。
しかし、小さな種は其処から撒かれ、段々とジタンとバッツの事が妬ましくなった。
はっきりと言ってしまえば、クラウドは嫉妬したのだ。
自分では見る事が出来ないスコールの表情を、ジタンとバッツは簡単に引き出す事が出来る。
元々の距離感やスキンシップの仕方が違うのだから、仕方のない事であり、見たいのであればクラウド自身が努力するしかないだろう。
だが、クラウドがジタンやバッツのようなスキンシップを臨んだら、スコールは困惑してしまうに違いない。
触れ合う事に不慣れな恋人を怯えさせてしまうのは本意ではないから、二人の仲間を羨みつつも、感謝を抱いていた。

 だが人間とは欲深いもので、いつの間にか嫉妬の感情の方が大きくなった。
重ねて、此処しばらく、恋人同士の甘やかな逢瀬の時間と言うものも減っている。
クラウドがスコールに声をかけた時には、スコールは既にバッツとジタンから先約されていた。
仕方のない事だと大人の対応を続けていられたのも長くはなく、三人が秩序の聖域を出て行く時、じゃれる二人を振り払う事なく歩いて行くスコールの姿を見る内に、心の靄は深くなる。
それを繰り返している内に、ジタンとバッツばかりを優先しているスコールに、じわじわと苛立ちが募って行った。

 そして、今日になってようやく待機番が重なり、久しぶりに二人きりの時間が取れた───が、二人の空気は甘さとは程遠い。
いつもならクラウドの方からスコールに触れに行くのだが、此処しばらくの放置期間への当てつけから、クラウドはスコールに近付かなかった。
偶には彼の方から触れて欲しい、と言う欲もあって、クラウドはずっとスコールに近付かないように、けれども離れないようにしていたのだが、その中途半端な距離感にスコールの方も苛立ちが募ったらしく、険しい表情で「あんた、何がしたいんだ?」と言った。
不機嫌を滲ませたその声に対し、虫の居所が悪かったクラウドが「自分で考えてみろ」と言ったのも、良くなかった。
二人の空気は益々険悪なものとなり、「訳も判らないのに怒っている人間の気が知れない」と言うスコールと、「鈍い奴は気楽でいいな」と、売り言葉に買い言葉が続いた。
存外と短気なスコールが堪忍袋の緒を切らせるまでには時間は要らず、スコールは偶然手に持っていた水入りグラスを、ソファに座っていたクラウドの頭の上で逆様にした。
言外に、頭を冷やして喋れ、と言う事だったのだろうが、それはそれで悪手である。
クラウドの蓄積された苛立ちも限界に達し、自分の感情を、その理由を理解してくれない恋人の胸倉を掴み────取っ組み合いとなった。


「……………クラウド」


 一連の流れを聞いて、セシルは目の前で項垂れている男の名を呼んだ。
びくっ、とクラウドの肩が竦むように跳ねたので、自分の行動が如何に稚拙であるかを理解する程度には頭が冷えたのだと判る。
が、その理解には、もっと早く至るべきであった。


「大人げないよ、クラウド」
「……言ってくれるな、今そう感じているから……」


 感情の波が落ち着いてから、クラウドは落ち込まずにはいられなかった。
仲間への嫉妬も、自分を優先してくれないと言う苛立ちも、全てクラウドが勝手に抱いていたものであり、スコールに非はない。
彼がジタンとバッツばかりと一緒にいると言っても、先約が優先であると言うだけで、クラウドがもっと早く声をかけていれば、此方に付き合ってくれただろう。


「まあ、スコールも色々と良くない所もあるけどね。水を被ったんだろう?そこそこ時間が経ったと思うけど、大丈夫かい?」
「俺は平気だ。ソファは大分水浸しになっていたと思うが……そっちも乾いたようだし」


 ソファについて、セシルは確認していないが、ただの水なら特に心配する事はないだろう。
近い内、天気の良い日に日干しでもすれば十分か。

 家具の心配は其処までにして、問題はこっちだ、とセシルは改めてクラウドを見る。
クラウド自身は自分の行為を反省しているようだが、彼の苛立ちと嫉妬に当てられたスコールの方はどうだろう。
しっかりとした外見とは裏腹に、子供っぽい意固地さと繊細さを併せ持つ彼は、ネガティブな思考のループに陥り易い。
怒りで意地を張っている間はまだ良いが、それが落ち着くと、自分の行動を振り返りつつ、クラウドの行動に苛立ちを募らせ、二進も三進も行かずに蓑虫になっている可能性が高い。
ベッドでごろごろし始めると長いんだ、と言っていたのはバッツだ。

 元々、喧嘩の原因はクラウドだ。
話を聞く限り、発端を作ったのもクラウドである。
それを助長させたスコールへの説教は、事が丸く収まってからで良いだろう。


「クラウド。早い内にスコールの所に行った方が良いよ」
「……」
「君、明日は僕と一緒に哨戒だろう。スコールの方は判らないけど、ジタンとバッツが声をかけている可能性は高いし。長引くと拗れてしまうよ」


 時間た経てば経つ程、ぎくしゃくすればする程、和解のタイミングは難しくなる。
況してや、相手はスコールだ。
ウォーリアを相手に出来るだけ忌避する姿勢を取る彼を見れば、苦手意識や、気まずい相手とは顔を合わせないように避け始めるかも知れない。
ジタンやバッツが協力して捕まえてくれれば良いが、彼等はスコールに対して多分に甘い所があり、スコール自身が落ち着くまでは刺激しないでやって欲しい、と言うスタンスになる事が多い為、益々向き合うタイミングが難しくなるのも、想像に難くなかった。

 が、クラウドもループに嵌ると中々腰が重い。
自分が原因だと判っている分、どんな顔をして逢えば、と思うのだ。
しかし、其処まで細かく助言をしてやる程、セシルも甲斐甲斐しい訳ではない。
相手がルーネスやティナ、ティーダと言った若い面々であれば、胸を貸す事も吝かではないが、今回の相手はクラウドだ。


「今ならスコールは部屋にいるし、ジタンとバッツはそっとして置こうって言ってたから、一緒にはいないと思うし。逆に言えば、今しかゆっくり話す機会はないよ」


 そう言ってセシルは、クラウドの腕を引いて、彼を部屋から連れ出した。
其処からは、行ってらっしゃい、と背中を押すのみに留め、自身は一階で待っている仲間達の下へと向かうのだった。




 大人だからと、何もかもが聞き分け良くする事は難しい。
感情の揺らぎは、大人も子供も関係なく、あるとすればそれを抑圧する為の理由───理性がどれ程働くかと言う程度。
そう言う点では、クラウドもスコールも大差はないかも知れない。
クラウドは出来ない事は諦めると言う割り切りが出来るし、スコールも理に適わない事には我を出さないので、共に理性は強い方と言って良い。

 同時に、根の部分ではお互いに子供である事も否めない。
クラウドは、他者が言う程、自分は寛容な性格ではないと思っている。
平時はそれを隠しているだけで、納得の行かない事はこの世にごまんとあるし、ティーダが言うような「大人っスね〜」と言う言葉は、自分には分不相応だと感じている。
スコールはと言うと、あれは判り易く子供である。
まだ成人年齢に達しておらず、傭兵ではあるが学生でもある身分の話は勿論の事、些細な事で拗ねたり、根に持ったり、仕返しをしたりする。
大人びた顔立ちと、冷静を張り付けたような表情で隠しているが、彼の中身はティーダと同じ、思春期真っ只中の少年であった。

 とは言え、年齢と言う決して小さくはないアドバンテージがクラウドにある事は事実。
そうでなくとも、今回の喧嘩の原因はクラウドなのだから、折れる、歩み寄るのであれば、クラウドの方だと言うセシルの判断は正しい。

 だが、それはそれとして、喧嘩をした相手の自室に入ると言うのは、中々に度胸が要る。
口論だけでなく、取っ組み合いの喧嘩までしたのだから無理もない。
しかし、今を逃せば益々謝り辛くなるのも明白なので、クラウドは一つ大きな深呼吸をしてから、スコールの部屋の扉をノックした。


「スコール」


 呼びかけながら三回、扉を打ってみるが、返事はない。
いない───訳ではないだろう、とクラウドは考える。
臍を曲げたままで、自分達を心配しているであろう仲間達の前に行ける程、スコールの神経は強くない。

 しばらく中からの反応を待っていたクラウドだったが、やがて諦めた。
入るぞ、と一応の断りを入れてから、ドアノブを回してみる。
抵抗なく扉が開いた事にホッとしつつ、開け切ってみると、中は暗かった。
電気もつけず、カーテンも閉め切っているが、まだ日が高いお陰で、家具のシルエットは見えている。
想像通り、部屋の主はベッドの上で布団を被って丸くなっていた。


「……スコール」
「………」


 もう一度呼んでみるが、やはり返事はない。
頭の隅で構えていた、出て行け、と言う言葉はなかったので、クラウドは中に入って静かにドアを閉めた。

 ベッドに片足を乗せると、きしり、と音がする。
ピクッと布団の塊が反応したのが見えた。
振り払われる可能性を考えつつ、布団の端を摘まんでそっと捲ると、


「……なんだよ」


 体は此方に背を向けたまま、視線だけを覗き込む男に寄越して、スコールは不機嫌な声で言った。
その頬には白いガーゼが貼られている。
殴ったんだったか、と自分の行いを思い出して、クラウドの表情が曇った。
それを視界の端で捉えたのだろう、不満げな蒼灰色がクラウドを見上げて睨む。


「……何しに来たんだ、あんた」
「…詫びに来た」
「………」


 目的をはっきりと口にすると、スコールの眉間の皺が深くなる。
そんなスコールの頬に手を添えて、クラウドは傷の走る額に己の額を押し付けた。


「悪かった」
「……何が」
「殴った事もそうだが、……不機嫌になっていた事、か。お前の責任じゃないのに、お前の所為にして、勝手に拗ねていた。悪かった」


 重なる謝罪の言葉に、スコールの眉間の皺はまた深くなって行く。
反面、彼の表情は弱ったものになっており、睨んでいた瞳は向かう場所を迷ってうろうろと彷徨う。

 困惑顔のスコールの髪を撫でていると、もぞ、と布団の中で体が身動ぎする。
スコールはクラウドへと体を向き直らせ、おずおずと手を伸ばした。
白い指がクラウドの蟀谷を掠めて、ぴりりとした小さな痛みが走る。
そう言えば引っ掻かれた、と沸騰していた頃の記憶が蘇ったが、今はもう怒る気にはならない。
それよりも、気まずそうな表情で引っ掻き跡を柔らかく摩る少年が愛しい。

 二人はしばらくの間、互いの顔に残った傷跡に触れていた。
スコールの頬のガーゼの下は、どんな色になっているだろう。
大した事がなければ良いが、と自分のした事を後悔していると、


「……あんた、」
「ん?」
「……なんで不機嫌だったんだ?」


 小さな声で問うスコールに、クラウドは一瞬口を噤んだ。
仲間であり、恋人であり、対等な相手だと思っているが、それでもやはり自分の方が年上であると言う矜持の所為か、自分の稚拙さを説明するのには抵抗があった。
しかし、見上げる蒼の瞳には頼りない光が揺れている。
言わねばスコールはまたスコールを怒らせるかも知れないし、繊細な彼を不安にさせてしまうかも知れない。

 自分のプライドと、恋人の心の安寧。
どちらを取るかなど、考えるまでもなく答えが出る。


「……下らない嫉妬をしたんだ。此処しばらく、いつもジタンやバッツと一緒にいるようだから、放ったらかしにされているような気分になって。お前の所為じゃないのにな」
「………」
「久しぶりに待機も一緒になって、嬉しい筈だったんだが、お前はいつもと変わらないように見えて。それも悔しかったのかも知れないな。俺ばかりがお前を求めているようで、偶にはお前の方から誘って欲しいと思った。……それで、あんな事を言った」


 すまない、と告げるクラウドに、スコールの蟀谷を撫でる手が停まる。
離した手が何かを探るように握り開きを繰り返して、もう一度クラウドの顔へと伸ばされた。
その指先が頬を撫でたかと思うと、 ───ぎゅうっ、とクラウドの頬肉が摘ままれる。


「……スコール」
「なんだ」
「…痛いんだが」
「痛くしてる」


 ガンブレードと言う特殊な形状の剣を扱う影響なのか、スコールの指は案外と力が籠るように鍛えられている。
特に引き金を引く人差し指や、ハンマーを下ろす親指は、指全体のしなやかな印象に反して、中々逞しい。
その二本で頬肉を摘ままれていると、中々痛い。

 これも勝手に嫉妬した罰か、と甘んじて受け止めていると、10秒としない内にスコールの指は解けた。
ほんのりと赤みを残した頬をクラウドが摩っていると、スコールが起き上がり、ぽすん、とクラウドの胸に顔を埋めた。


「……あんたばっかり、じゃ、ない」


 俺だって、待ってた。
あんたが触ってくれるのを。

 くぐもった声で呟かれた言葉を、クラウドは辛うじて聞き取った。
目を瞠るクラウドを知らないまま、スコールの手がクラウドの服を緩く握る。
力が入らないのは、照れだろうか。
それでも、彼が自分を求めているのが判って、クラウドは俄かに嬉しくなかった。

 細身の背中に腕を回して抱き締めると、嫌がるようにスコールは微かに身動ぎしたが、逃げる事はなかった。
収まりの良い場所を見付けると、スコールもクラウドの背中へと腕を回す。
脳茶色の髪を撫でれば、蒼灰色がそっと此方を見上げ、クラウドは誘われるように傷の走る額にキスをした。


「……良いか?」


 小さな声で問うクラウドに、スコールは何がとは聞かなかった。
頬が僅かに赤らみ、蒼の瞳が少しの間彷徨ったが、抱き締め合う腕は緩まない。
それを返答と受け取って、クラウドはスコールをベッドへと押し倒した。

 ジタンとバッツに自室へと連れて来られてから着替えたのだろう、ゆったりとしたラフなシャツの裾をたくし上げる。
横腹に薄らと青痣が浮いているのを見て、クラウドは眉根を寄せた。
自分が拵えたものであるが、落ち着いて見ると中々痛々しいものになっている。


「……クラウド?」


 腹を見詰めて沈黙しているクラウドに、スコールが首を傾げて名を呼ぶ。
クラウドはそれには答えないまま、色の変わっている横腹に顔を近付けた。
ふ、と触れるだけの口付けをすると、ピクッとスコールの体が反応を返す。


「…痛むか?」
「……別に」


 スコールの曖昧な答えに、クラウドは上目で彼の表情を伺い見た。
スコールは顔を赤らめ、クラウドの顔を見ないようにしている。
痛い訳ではないらしい、とクラウドは密かに安堵しつつ、もう一度同じ場所に唇を寄せた。

 ちゅ、と音を立ててキスをして、動物が傷痕を労わるように、舌を這わす。
ゆっくりと皮膚をなぞっていく生暖かい感触に、スコールはきゅっと口を噤んでふるふると体を震わせた。


「ん…クラウド……」
「……ん?」
「…くす、ぐった…い……っ」


 つう、と脇腹を下から上へと撫で舐めれば、スコールは悶えるように身を捩る。
いつもよりも反応が顕著に見えるのは、気の所為か。
痛みはないが、神経はまだ鋭敏になっているのかも知れない。

 何度も舐めた脇腹を、今度は手で撫でて、そのまま上へと滑らせていく。
たくし上げたシャツの中へと侵入し、戦士と言うには案外と薄い胸を弄っていると、はぁ、とスコールの口から熱の籠った吐息が漏れた。
肉の少ない胸板を揉みながら、逸り始めた呼吸を零しているスコールの顔に近付くと、蒼灰色と碧眼がぶつかる。
スコールの腕がそろそろとクラウドの首に回され、クラウドは委ねられるままにスコールの唇にキスをした。


「ん……」
「…んっ……ふ…う……っ」


 クラウドの指先が胸の頂に触れて、ピクン、とスコールの肩が跳ねた。
柔らかく摘まんで擦るように先端を刺激すると、唇の中で押し殺した喘ぎが零れているのが判る。
彷徨う舌を絡め取ってやれば、スコールの体が火照りを増して赤らんだのが見えた。


「んっ…んっ……!」


 徐々に固くなって行く蕾の感触を感じながら、クラウドは更にスコールの劣情を引き出さんと、絡めた舌に唾液を塗した。
ぬらりと艶めかしいものが咥内を支配するのが判って、スコールはいやいやと頭を振る。
が、クラウドは解放する事はせず、角度を変えて一層口付けを深め、ちゅく、ちゅぷ、と音を立てながら、スコールの咥内を弄る。

 クラウドの体の下で、スコールの体がもぞもぞと落ち着きなく動いている。
体を挟んだ両足が、むずがるようにベッドシーツを何度も滑った。

 スコールの瞳がぼんやりと力を失くし始めたのを見て、クラウドはスコールの唇を解放する。
糸を引きながら離れる熱に、スコールが寂しそうな表情を浮かべた。
慰めに下唇を形をなぞって舐めてやると、熟れた蒼色がうっとりと細められる。


「服、脱ぐか」
「……あんたも……」
「ああ」


 誘う言葉に頷いて、クラウドは先ず自分の服を脱ぎ捨てた。
それからスコールのシャツも脱がせ、下着ごとズボンも下ろす。
露わになった白い肌の中に、ぽつぽつと赤と青が滲んでいるのを見て、大分激しい喧嘩をしたのだと、思い出す───それはクラウドだけではなかった。

 クラウドの首と肩の間に残った鬱血の痕に、スコールの指が触れる。
こんな所殴ったか、と沸騰していた時の曖昧な記憶を振り返りつつ、スコールは触れるか触れないかの微妙さで、痕を摩る。


「……あんたとこんな喧嘩したの、初めてだな」
「そうだな」


 スコールの言葉に、クラウドはくすりと笑って頷いた。

 考えてみれば、喧嘩らしい喧嘩自体が、初めての事だったように思う。
些細な意見の行き違いは儘ある事であったが、他の仲間の迷惑にもなり得ると言うブレーキもありつつ、元より弁舌が立つとは言い難い両者は、長く口論する事がない。
特にスコールはそれが顕著で、理屈と感情が相反する場合も多く、自分の感情そのものに行き詰まりを感じると、沈黙してしまう。
其処から先はクラウドがスコールの胸中を察し、先ずは自分をクールダウンさせ、言葉を選びながらスコールを宥める。
最後は互いの意見を取り込んだ上で、可能な限りの中立的な結論を出す事が多い為、問答無用の掴み合いになる事はない。

 闘争の世界で過ごしているのだから、怪我をした恋人と言うのは見慣れたものであったが、自分の手で傷を負った───それも特訓とは違う───恋人を見るのは、これが初めての事だった。
自分の大人げなさや、酷い事をした事を再認識して、あまり気分の良いものではない。
それを誤魔化すように、また恋人への詫びの気持ちも込めて、クラウドはスコールの体に残った痕に触れて行く。


「……ん…クラウド……」
「痛むか」


 身を捩るスコールにクラウドが尋ねると、スコールは小さく首を横に振った。
脇腹の時と同じで、くすぐったいのだろう。
しかし、久しぶりに触れ合っていると言う喜びもあるのか、身を捩りはしても、止めろとは言わなかった。

 肌をぴったりと密着させて、微かに震えている太腿の内側を撫でながら、胸の蕾に頭を寄せる。
ぷくっと膨らんだそれを口に食むと、「あっ……!」と小さく高い声が上がった。
柔らかく歯を立ててやれば、ピクッ、ピクッ、と細身の体が戦慄く。


「ふ…ぅ……っ」


 反射的に逃げを打とうとする腰に腕を回して捕まえる。
代わりに足の爪先が何度もシーツの波を蹴っていたが、拙い抗議などクラウドは意に介さなかった。
その反応が恥ずかしがっているだけだと言う事も判っているから、遠慮なく行為を進めていく。

 すっかり色付いた乳首を強く吸ってやれば、ビクッ、と若い躯が跳ねた。
太腿を撫でていた手を尻へと回し、やわやわと揉むと、クラウドの体の下で、初心な色をした中心部が頭を持ち上げ始めた。


「…っ、は……あっ…そこ……っ」


 クラウドの指が谷間を撫でて秘部に触れると、スコールは顔を真っ赤にして肩を縮こまらせる。
久しぶりに触れられる高揚なのか、ヒクヒクと伸縮を繰り返している其処に、指先を埋めた。


「ふあ……っ!」


 異物感と一緒に襲う官能の合図に、スコールは喉を逸らして喘ぐ。
クラウドは乳首を舐めながら、ゆっくりと指を奥へと進めて行った。


「あ、あ……んん……っ」


 スコールは唇を噛み、手の甲で口元を隠し、喘ぎ声を殺す。
しかし、埋めた指がくりゅっと内部を引っ掻くと、


「あぁっ……!」


 ビクッ、ビクッ、と四肢を戦慄かせて、スコールは声を上げた。
そのままクラウドが指を動かしていると、小刻みに逸る呼吸の中に、甘い声が何度も混じる。


「あっ、は…やっ…!クラ、んっ、ウド……っ!」


 シーツを握り離しを繰り返し、縋るものを求めて彷徨うスコールの手。
やがてその手は、胸へと愛撫を続けるクラウドの頭に辿り着いて、掻き抱くように後頭部に指が押し付けられる。
もっと、と強請られているような気分になって、クラウドは啜る力を強くした。
散々愛撫されて敏感になっている乳首を、ぢゅうっ、と思い切り吸われて、スコールは堪らず背筋を弓形に撓らせる。


「ふぅうんっ…!」
「っは、」
「あっ……!あぁ…、んっ…!」


 乳首を解放され、唇を離された瞬間、クラウドの熱い吐息と外気の温度差を感じ取って、スコールは腹の奥で熱が高まるのを感じた。
じわじわと広がっていく熱の中、秘部を弄っていた指がまた奥へと侵入して行く。

 秘部は嬉しそうに、クラウドの指を締め付けていた。
少し進む度に、媚肉が絡み付いて、もっと奥へと誘おうとする。
それを焦らすように、殊更にゆっくりとした速度で侵入を深めつつ、時折悪戯に中を掻き回してやった。
不意打ちに与えられる刺激に、スコールは何度も体を跳ねさせ、見詰めるクラウドを愉しませる。


「あっ、やっ…クラウ、ド……ひぅっ…!」
「どんどん中が熱くなって来るな……」
「や…あ……んっ、あっ……!」


 真っ赤な顔でふるふると首を横に振るスコールであったが、クラウドは構わずにスコールの中を掻き回し、更に熱を煽って行く。
くちゅ、くちゅ、といやらしい音がスコールの秘部から零れていた。


「あ…う…っ、はう……っ!」
「もう少し奥まで入るか」
「や……あぁっ…!」


 これ以上は、とスコールが涙を浮かべた瞳で訴えるが、クラウドは止まらなかった。
大剣を握る太い指が根本まで入り、スコールの内部の半分から先まで辿り着いた。
しかし、其処はスコールにとって最ももどかしい場所だ。


「や、や……クラウド……っ、あっ、そこ…は……っ!」
「うん?」
「ふ、あ…ああ……っ!う、動かすな…んんっ!」


 指を曲げ、締め付ける肉壁を引っ掻くように指先で擦られて、スコールの下半身はビクッビクッと何度も跳ねる。
クラウドの腹の下で、スコールの雄が涙を零し始めていた。
少し刺激を与えれば達してしまいそうなスコールの気配を感じ取り、クラウドの唇がうっそりと笑みを据える。


「イきそうか?スコール」
「………っ!」


 耳元で囁けば、低い声音とかかる吐息で、ぶるりとスコールの体が震えた。
はくはくと音にならない喘ぎ声を繰り返している唇を塞ぎ、足を大きく左右に開かせる。
此処から先を想像したのか、秘部がきゅうっと狭くなって、咥えた指を締め付けた。

 スコールの耳の奥で、ちゅぷ、じゅぷ、と淫音が響く。
自分の口の中で鳴っている音だと理解すると、またスコールの躯は熱くなった。

 駄々を捏ねて絡み付く熱の感触を味わいながら、クラウドは指を引き抜いた。
抜ける瞬間、引っ掛かる入口の快感を感じて、スコールの喉奥から官能の声が漏れる。
そのままクラウドは、欲しがる証にヒクヒクと戦慄いている蜜壺に、反り返った雄を宛がった。


「あ、ふ…っ!」
「……入れるぞ」
「ふあ……、あ、あぁあ……っ!」


 先端が穴を開き、徐々に深度を増して行く熱の感触に、スコールは全身を震わせながら受け入れる。
一番太い部分が入った瞬間、スコールの躯がビクッ、ビクンッ、と跳ねて、勢いよく先走りが吹いた。
クラウドは腹にかかった粘液の感触に笑みを浮かべつつ、締め付けの中で自身の暴発を抑えながら、最奥を目指す。


「ん、う…クラウド……っ、大き、い……っ!」
「お前が、締め付けて来てるんだ……っ」
「や、あ……!んっ、ふぅん……っ!」


 クラウドの言葉に、スコールは涙を浮かべて首を横に振る。
だが、言葉とは裏腹に、スコールの躯はクラウドを強く締め付け、もっともっとと奥へ誘い込もうとしている。
体に貼られたガーゼや、浮かび上がる鬱血の痕との色の差で、スコールの躯がどれ程火照り赤くなっているのかが常よりもよく判る。
とことんまで雄の本能を無自覚に刺激するスコールに、全く性質が悪い、とクラウドはこっそりと唇を噛んで、笑みを浮かべる。
それを視界の端で捉えたか、スコールは短い呼気を零しながら、不思議そうにクラウドを見上げ、


「クラ、ウド……?」


 どうした、と問うように首を傾げるスコールの幼い仕草に、なんでもない、とクラウドは言った。
そんなクラウドに、納得の行かない顔でもう一度訪ねようとするスコールだったが、


「あっ、やっ、深……んんぅっ!」


 ぐいっと足を大きく広げられたかとおもうと、ずぷぷっ、と太いものが一気に根本まで押し込まれた。
太く固いそれが最奥を突き、スコールは喉を逸らして天井を仰ぐ。


「あ…あ……っ」
「…っは……悪いな…キツかったか?」
「あ、う……ば、か……くらう、ど……っ」


 油断していた所を一気に攻め落とされて、スコールは頭の中がチカチカと白熱に見舞われていた。
涙を浮かべながら、蕩けた顔でなけなしの気力で睨むスコールであったが、


「は、あっ!あっ、んぁ…っ!」


 クラウドが律動を始めると、それも直ぐに官能に流されて消える。
細い腰を両手で掴んで固定され、突き上げられるままに体を揺さぶられ、快感を享受するスコール。
持ち上げられた足の先が、律動に合わせてぷらぷらと揺れていた。


「あっ、あっ、あっ…!んっ、そこ、やだ……っ」
「此処か?」
「ひぅんっ!」


 嫌だと言った場所は、スコールの弱点だ。
判っているから、クラウドは何度も其処を突き上げる。


「や、やだって、あっ、言って……んっ!」
「でも、お前の此処は、気持ち良い……」
「あう、う……っ」


 囁かれるクラウドの言葉に、スコールの顔が益々赤くなる。
スコールは沸騰しそうな程に真っ赤になった顔を、クラウドの首にしがみついて隠した。

 全身で縋るように捕まる恋人に、可愛い奴だ、とクラウドは笑みを零す。
持ち上げたまま遊ばせていた足を撫でると、求められている事を察したのか、甘えたかったのか、クラウドの腰に両足が絡み付く。
クラウドもスコールの躯の上にすっかり覆い被さって、大きな腰の動きでスコールの中を突き上げた。


「クラ、あっ、クラウド、やっ、激し、」
「久しぶり、だからな…っ!」
「ふっ、あっ、あうっ…!ひ、んっ、ああぁ…っ!」


 奥の壁を何度も連続して突き上げられ、スコールの躯は限界に近付いていた。
ずんっ、と穿たれる度に、我慢できなくなった蜜がぴゅくっ、ぴゅくっと噴くように絞り出されてしまう。
クラウドの首に回された腕に力が籠り、指先の爪がクラウドの首の後ろに立てられた。
皮膚を剥がんばかりの強い力で引っ掻かれるのを感じながら、クラウドは攻めの激しさを緩める事なく、自身も高みへと昇り詰めていく。

 二人の呼吸は激しさを増して行き、暗がりの部屋の中には、濃厚な性の匂いが充満している。
それに劣情を煽られて、クラウドは自分の限界を感じつつあった。
スコールはそれ以前から既に極めつつあり、最後の一押しがあれば、決壊してしまうのは目に見えている。

 クラウドは、汗でガーゼの剥がれ始めたスコールの頬を撫でて、唇を重ねた。
舌を絡めて外へと誘い出し、混ぜ合わせた唾液ごと音を立てて啜ってやると、スコールの躯がビクンッ、ビクンッ!と一際大きく跳ね、


「んふっ、ふぅうんんっ!」
「う……っ、くううっ!」
「んんぅううっ!」


 絶頂を迎えたスコールの躯は、それまでの比ではない程に熱く燃え、秘部に埋めたクラウドの雄を目一杯締め付ける。
肉壁が全身で雄を締め付けるものだから、クラウドは息を詰めたまま、自身も絶頂へと上り詰めた。
果てを迎えたばかりのスコールの胎内に、どくどくと熱の奔流が注ぎ込まれ、スコールはクラウドに縋りついたまま、四肢を強張らせてそれを甘受する。

 流れ込んでくる男の劣情を受け止めながら、スコールの躯はビクッ、ビクッ、と痙攣を続ける。
その動きに連動するように、彼の胎内も大きく脈を打って蠢き、クラウドの雄を刺激した。


「っは…はあ……っ、スコール……っ!」
「あ…うぅ……っ、んん……っ」


 耳元にかかる吐息の感触に、スコールは腹の中が疼くのを感じた。
それは一度生まれると、自分の手で慰める事は出来ない。
スコールはクラウドの首に回した腕に力を籠め、全身で覆い被さる男にしがみついた。
クラウドもそんなスコールを抱き締める。

 ベッドの軋む音が再開され、甘い声が再び零れ始めた。




 何度も繋がり合った後、二人は一度眠った。
体力を使い果たしたスコールは直ぐに夢に旅立ち、その寝顔を見ている内に、クラウドの時間は経たずに寝落ちた。
それから目覚めたのは夕方も過ぎた頃である。
セシルがそれとなく気を利かせたのか、その日一日、スコールの部屋を仲間達が訪れる事はなかった。
ジタンとバッツも含めて、だ。
後でセシルには礼を言わなければ、と思いつつ、クラウドはまだ眠っているスコールの頬を撫でた。


「…スコール」


 小さな声で呼んでやると、眠りが浅いタイミングだったのか、直ぐに長い睫毛が震えた。
ゆっくりと瞼が持ち上げられ、ぼんやりとした蒼の瞳がクラウドを見る。


「……クラウド……」
「おはよう。と言っても、そろそろ夜だが」


 言いながら、どうりで腹も減る、と空っぽの胃袋を自覚する。

 裸身で寝ていたので、先ずは着替えなければならない。
クラウドは脱いだ時に放り捨てていた服を拾い、スコールの分を本人に渡す。


「もう飯も出来ているだろう。降りて食おう。皆も気にしているだろうから、顔は見せて置かないとな」
「……そう、だな……」


 クラウドと派手な喧嘩をし、ジタンとバッツに心配をかけた事を思い出したのだろう。
スコールは少しばつの悪い表情を浮かべながら、まだ寝惚けの抜けない目許を擦る。

 クラウドは服の裏表を確認しようとしたのだが、陽が落ちたお陰で、部屋の中は随分と暗い。
碌に判らないな、とクラウドは部屋の電気を点けるべく腰を上げた。


「電気点けるぞ、スコール」
「……ああ」


 部屋の壁にあるスイッチを押すと、ぱちん、と言う音と共に、天井の明かりが煌々と灯る。
暗闇に慣れていた目には些か強い光に、スコールが眉間に皺を寄せた。

 何度か瞼を開閉させて、スコールはようやく光に目を慣らす。
その頃には眠気も大分晴れており、意識もクリアになった。
改めて、着替えなければ、と思い出し、自分のシャツを広げようとした所で、ベッド端に座ったクラウドに気付いて、視線が其方へと向く。
筋肉の付いた背中の中央付近に浮かぶ、変色した肌を見て、スコールは眉根を寄せた。


「……クラウド」
「ん?」
「……悪かった」
「……?」


 小さく呟き、俯いて明後日の方向を向いてしまったスコールに、クラウドはきょとんと首を傾げる。
何かあるのか、と背中に手を当ててから、セシルが其処に氷嚢を当てていた事を思い出した。
そう言えば、蹴りを貰った気がする。
喉元を過ぎた事とクラウドはすっかり忘れていた事であったが、背中に残った痕を見て、スコールがばつの悪さに気まずくなった事は理解できた。

 クラウドはくすりと笑って、スコールへと腕を伸ばす。
縮こまるように竦められている肩を引き寄せて、後ろから抱き締めた。
抵抗するようにスコールの足がばたばたと動いたが、腕の檻が離れない事を悟ると、程無く大人しくなる。


「おい……」


 着替えられない、とスコールが赤い顔でクラウドを睨む。
その頬に唇を当てて、クラウドは小さく笑んだ。


「背中の事なら、気にするな。もう何ともないから」
「……」
「だから、これからも気にせずに、抱き着いてくれると嬉しいな」


 クラウドの言葉に、最中に目一杯抱き着いていた事を、今になって自覚したのだろう。
スコールの顔に益々赤みが差して、抱き締める男の腕から逃げようと、じたばたと暴れ出す。
こう言う顔が見れるのは俺だけだな、とこっそりと優越を感じながら、クラウドはもう一度スコールの頬にキスをした。




『ケンカしたクラスコの仲直りエッチ』のリクエストを頂きました。

二人が殴り合いする程のケンカって中々なさそうですね。其処まで発展する前にクラウドが折れるか、スコールが会話を強制終了させそう。
その分、拗れたら(主にスコールが気まずさで逃げ回る事で)長引きそうなので、早い内に仲直りしてイチャイチャしてれば良いと思います。