黄泉の狂奏








ばらばらにちらばる花びら


雫は紅






欠けた月よ廻れ



永遠の恋を写し────



















───終った。
終ったんだ、あれで。


『お前に、倒されたんだ』


……負けたまま、終った。
絶対勝つつもりだった。
なのにまた……負けたまま、終った。



『感謝しろよ……

孫…悟空………──』





「勝ち逃げは……ないだろ……」




終った。
終ったんだ。
だから、もう。



勝つことなんか出来ない。





「猿、まだあのままなのか?」




悟浄の問い掛けに、答える人物はいない。

三蔵はいつも通り煙草を吸う。
八戒は何事も無かったかのようで。
悟浄も、もう終ったんだからと、それで済ませられる訳ではないけれど。


ただ、悟空だけは。
あの日以来、様子が可笑しくて。

───闘神が、姿を消したあの日から。





「……大丈夫ですよ」




不意に八戒が漏らす。





「…大丈夫ってなぁ、まだあのままなんだろ?」
「多少ショックが強かっただけですよ」




あの子は、優しいから。


言って、ジープを撫でる。

その表情は、何かを危惧しているようで。
何が大丈夫なんだか、と悟浄は思う。

ちらりと三蔵に視線を向けた。
やはり変わる事無く、紫煙を吸っている。




───静かな時間が流れていく。

時計の針が、規則的に音を鳴らす。
それを煩わしいと思うのは、誰だろうか。
いつもなら、こんな小さな音は耳に入らない。
いつも子供が、騒ぐから。

(……居心地ワリィ…)

悟浄の言葉は、表には出なかった。
けれど、本当に居心地が悪い。
いつもより静かなだけだというのに、こんなにも。



三人の脳裏に浮かぶのは。
いつも見た、あの子供の笑顔ではなかった。






















痛みがある。
ただ自分の中を蝕む痛みが。
痣、が。


悟空はぼんやりとしていた。
今何時だろう、と思っても、どうでもいいや、と投げてしまって。
あれからどれ位経ったかな、と思えば、思考は闇に沈む。

膝を抱えて、動く事はしない。

(痛い……な……)

そんなことを考えた。
何が痛いんだっけ、とも思った。
ただ、何かが痛い。


…何処が痛いんだろう。
腕?
脚?
肩?
頭?
胸?

……何処だって構やしない。
ただ、痛いんだ。




















あの時、最後に見た、あの微笑。
どうしてあんな風に笑ったんだろう。
笑って逝かれるのは……嫌いなのに。



最後まで、敵であって欲しかった。
始めてあったあの日から、最後まで。


あんな笑顔を自分に向けたりするから───


最後の、最後で。



(ずるいよなぁ……)



泣きたい位、そう思う。
いつだって、彼は自分に笑いかけていた。
翳りの残る、優しい瞳で。


だから、敵だと思えなかった。

どんなに三蔵の命を奪おうとしても。
どんなに自分に言いかけても。





ドアの軋む音。
けれど悟空の意識は戻らない。

いつも輝いていた瞳の色は、霞んでいるようで。



誰かに、思い切り引っ張られた。





「寝惚けてんじゃねぇよ」




ベッドに横たえられて。

それと同時に、低い声で告げられる。
それが誰よりよく知る、太陽の声だと。
それすら思い出すのに、時間がかかった。





「……さんぞ……」
「呆けてんじゃねぇ」




冷たい視線が刺さる。
けれど悟空は、身動ぎもしない。


三蔵に組み敷かれたままで。見上げた視線の先にある、顔。

それが───『彼』に似ていて。





──…敵だと思えなかったのは。
この所為でも、あるかも知れない。





「んっ……」




深く、深く口付けられて。
呼吸さえ、奪われるように。
侵入してくる舌が、自分のものと絡められて。

ただ従順に、応えていって。


ほんの少し瞳を開ければ。
眩いほどの金糸と。
深く吸い込まれそうな紫闇。




与えられる熱は、身体を侵食する。

いっそこのまま。

身体を這う熱に、灰と化していけたら。




















狂い咲いた夜に


眠れぬ魂の旋律……







闇に浮かぶ花は


せめてもの餞───……





「ん…ぁ………」




漏れる熱の含んだ声。
朦朧とかかった意識も、呼び戻されて。





「さぁ…んぞ……」
「……いつまでそうやってる気だ」




首筋に噛み付いて。





「だ…ぁって……」




反論しようとする唇を塞いで。



三蔵の手が、悟空の秘所へと伸びる。
下着の上からソレを握ってやれば。
小さな身体が僅かに跳ねた。





「やっ、あ……」




既に其処は立ち始めていて。
悟空の身体が震え始める。

それでも時折、意識は遠く。
それが、三蔵を苛立たせて行く。

足を担ぎ上げて、三蔵はそこに自分の身体を割り込ませる。





「やっ、やだっ…」
「黙ってろ」




手馴れたように下着を取り去る。
秘所に何かねっとりとしたものが這う。
悟空の背にぞくりとしたものが流れ。

秘部は三蔵の唾液で塗らされる。





「あはっ…ん、ふぁん……っ」




引っ切り無しに漏れる熱を含む声。

ぴちゃぴちゃという音が、悟空の耳に届く。
顔を真っ赤にして。
拒否の為に三蔵の身体を、そこから退かせようとしても。
腕に力はなく。





「感じてんなら、そのままにしていろ」
「あっ…う!」




吐息が秘所に当たって。
それさえも、性感帯をくすぐる。


頬を羞恥に染める悟空。
その感情を煽るように、三蔵は秘部を丹念に舐める。
拒否を示す悟空の腕に力は無く。

唇から漏れる言葉は、少しずつ喘ぎが増えていく。





「……っあ…んぁっ…は……」
「そうだ……声上げてろ」
「やっ…イヤぁ……」




既に秘所から、蜜は零れ。
白いシーツが白濁の液に濡らされていく。





「やだっ…はなしてぇ……」




ふるふると震えて。
大地色の髪が揺れる。
脅える声は、子供のもので。


それでも。





「感じといて言う台詞じゃねぇな」




金糸を持つ綺麗な男は、止めようとしない。
寧ろ震える少年を面白そうに見つめて。





「ひぁっ! は、あうぅっ…!!」




指が一本、差し込まれる。

ぐりぐりと中を弄られて。
それでも、三蔵の唾液で散々慣らされた所為か。
悟空の口から、痛みを訴える言葉は無い。

金色の瞳には熱が浮かび。
漏れる言葉には艶が交じり。
身体はもっと、と奥まで欲しがる。





「んっあ…や…はぁん……っ」




けれど。
僅かに残った、理性の灯火。

小さな身体を掻き抱く男の姿が。
子供にとっては、残酷で。

……消えかけた意識が、引き戻される瞬間。
瞳の奥に蘇るのは、悲しい目で見つめる青年。
最後に、笑って逝った彼。



───痛い。





「ああぁっっ!!!」




突然の悟空の叫び。

荒く呼吸を繰り返す悟空に、三蔵は顔を上げる。
決して快楽の波による声ではない。

差し込まれていた指を引き抜く。
その一瞬、身体はヒクついた。
しかし、それ以上の反応はない。





「……っぜぇ…ぜ……っは……」




必死に酸素を取り込んで。
けれどそれでも足りないと言うように。
過呼吸に陥る悟空を、三蔵はただ見下ろす。


見開かれた金瞳が映すのは、一体なんなのか。
その予想がつくのが、三蔵は苛付いた。


見下ろしていた三蔵だが。
虚空を見る悟空に苛立ち、舌打ちを漏らした。

感情のまま、悟空の腰を掴んだ。
ずぐ、と三蔵の凶器が深く刺し込む。
子供は一瞬息を詰まらせる。
それでもまた、必死に呼吸をして。





「……いつまで…そうやってやがる……──っ!!」




身体は正直に反応しても。
悟空は、三蔵を見ていない。





「はっ……う、んぅ…っあう……」




激しく打ち付けると、次第に声は喘ぎへと変わり。
何を求めるのか、掌が虚を彷徨う。
強くその手を握り締め。
全てを奪うように、口付けた。

深く深く、繋がったままで。
気付けば、悟空の肉壁は三蔵を放すまいと締め付けて。


入れ違う───幼い心と、身体。

欲しがる身体とは逆に。
全てを拒否する瞳。
何もかもいらない、と。





「んう…う…う、あ……っ」




自分に抱かれ、深く繋がれ。
それなのに、悟空の心は此処にない。
既にない魂を追い続けて。

……まだ子供だった悟空には、辛すぎた。
意図的でないにしろ、例え敵だとしても。
殺したくなかった相手を、自分の手で殺した。

それが、何を護る為であったとしても。





「あん…ん、ふぁ……や、ぁ……」




既に快楽の限界は超えていて。
最後に、最奥まで貫いて。
子供は果てる。




闇に記憶と意識を投げ出して。
全て忘れるように。





───この行為に意味は無い。

眠る悟空を見つめ、胸のうちに呟く。




目覚めればきっと、子供は全て覚えていない。
だからこの行為に意味は無い。


あるとしたら。
それは三蔵の身勝手な想い。

己以外を憂う事は、許さないと。
失った悲しみを抱くには、相手が違う。
どんなに悟空が憎めなかったとしても。

奴は敵だったのだ。
行く手を阻み、刃を向けたその日から。


どんなに憎めなかったとしても。













最後の笑みは。
一体誰に向けられたものだったのか。





そして。


───辿り付いた、終わり。










FIN.

後書

怒られても当然な程遅くなりました。
裏500HITリクの小説です。

『悟空総受け』
『シリアス風味』
以上でした。

総受けとの事でしたが、三空になってしまいました……
遅くなった上、本当にすいません…(汗)



壊れかけた悟空ちゃん書いてごめんなさいι