惑い子の闇夜









「あなたの傍にいたいから」




その言葉に甘えていた自分がいた

今気付いても、もう後戻りは出来なくて





誰か、教えて欲しい

これは、間違いではないのだと───………


















卑猥な音だけが部屋に響いて。
艶を含んだ、熱を持つ呼吸が繰り返される。

紫闇と金色が、何度目か知れず交錯した。


何か言葉を欲しがっている、大きな太陽のような金瞳。
それでも何も言わずに、身体を推し進めた。

金瞳は少し、傷ついたような色をしたけれど。
それ以上は何もせずに。
また、嬌声を上げた。


もともと細かった腕は。
以前にも増して、細くなった気がする。
健康的に焼けていた肌は、白くなっていて。
顔色はなんだか、青白くも見えた。


そして囁かれる言葉。




「三蔵の傍にいたいから……────」
「……なんとかしてくれよ…────」




悟浄が小さく呟いた。

ジープが不安そうに悟浄の肩の上に下りる。
けれど彼は、なんの反応も示さなくて。


白い壁に背を預けて。
目元を手で覆い尽くして、何も見ないように。
本当は耳も塞いでしまいたいのだろうけど。

いや…削ぎ落としてしまいたいのだろうけれど。


八戒は何も言わないで。
暗い闇が覆い尽くしている、外を見る。
その表情に、一切の感情は無かった。

押し殺しているような。
吐露すべきではないのだと。




「このままで…良い訳ねぇんだ………」




隣室から聞こえてくる声。
あの少年のものだと判ってしまうから。

“彼”に抱かれているのだと。




「いつから……こうなってしまったんでしょうね……」




八戒が呟いた。




「知るかよ!!」




悟浄が叫ぶ。
その紅の瞳に、僅かな雫が浮かんだ。

柄でもない、という事すらしない。
誤魔化すように目元を覆うだけ。


ジープが鳴いた。
まるで、泣くようにして。



悟浄の想いも、八戒の想いも。
あの綺麗な少年には届かない。
だって彼は。


“彼”しか見ていないのだから。
















ベッドの上で、絡み付く躯。

小柄な躯を、何度も突き上げる。
その度、少年は離すまいと締め付けてきて。
艶の篭った声を上げる。




「やっ、は……ひぁ……んっ!」




既に下腹部は白濁の液に汚されていて。
シーツの波は乱れきっていた。

喉本に噛み付いてみれば。
素直に、躯は反応を返してくる。





そう育てたのは三蔵自身で────……

───……そうしたのは、悟空が拒まなかったら。





悟空が、望んだから。




「さんぞ……もっとぉ……」




欲しがる時、悟空は自分で躯を開く。




「まだだ、我慢しろ」
「やだぁ……あ、うっ!」
「我慢しろって言ってんだ」




ギリギリまで引き抜いて。
一気に、最奥まで貫いて。

悲鳴をあげる躯を、ベッドに押し付けて。




「あふっ! あ、ひぁん、んぅっ…!」




何度も抱いた体だから。
初めの頃のように、痛みを伴う事は無い。

ただ、快楽だけを拾い集めて。


三蔵が悟空の髪を掴んで、強引に頭を上向かせる。
開きっぱなしになっていた唇に、噛み付くように口付けた。
舌を差し入れると、ゆっくりとそれに答えてくる。

唇を解放してやれば。
鈍く銀に光る糸が、名残惜しげに引いて。




「いや…っ、あ、はぁっ…!!」
「イヤ、じゃねぇだろうが」




逃げを打つ腰を引き寄せて。
もう一度己の下に組み敷いて、強く肩を押さえつける。

悟空の肩に、三蔵の爪が食い込む。
躯中につけられた赤い華は、新しいものか古いものか。
それは三蔵にも、悟空にも判らなかった。

いつからこんな関係になったのか。
そんな意識さえ、今では希薄だから。




「ふぁっ、ああっ! や、おと、おといやっ……!!」
「塞ぐんじゃねぇ。聞いてろ」




強い紫闇で射抜けば。
悟空は素直に、その言葉に従うのだ。




「顔も隠すな。瞳を閉じるな。声を抑えるな」




強い口調で。
強い紫闇で。

そうすることで、悟空は雁字搦めになる。

けれどそれは、悟空自身が、望んだ事。
三蔵自身が、望んだ事。

いつか交わした言葉の為に。




「さぁ…ん……ぞ……」




本来なら排泄器官である場所も。
今では、すんなりと三蔵の凶器を受け入れる。




「あっ! あう、んぁ、はぁあっ!!」
「そうだ……そうやって声上げてろ」




隣の二人に聞こえても。
知らぬ誰かの耳に届いても。

こうしていれば、悟空は自分を求めるから。




「だめ…っ、でちゃうぅ……っ!!」
「駄目だ。まだイくな」
「む…り……ひぁああんっ!!」




悟空の言葉通り。
達した悟空は、白濁の液を吐き出した。


三蔵が小さく舌打ちする。
最奥に打ち付けると、悟空の躯は跳ねて。
イった筈の小さな剣は、既に立ち上がって。




「俺の言う事、聞くんだろう」
「……ご…めんなさ……ぁあっ!!」
「謝って済むと思ってんのか?」




ぬぷ、と音が聞こえた。
悟空の顔が羞恥で染まるけれど。
快楽の波のほうが、よほど激しくて。




「ひ…はぁあっ! あ、もっとぉ…もっとおくぅっ……!!」




底の見えない、奈落に堕ちていく。

無意識なのか、最後には悟空は欲しがる。

奥に奥にと、自分で腰を振って。
そうするように、自分が躾た。
自分だけの色に、染まるようにと。




「もっと……! さんぞぉ……っ!!」




名前を呼ぶのは、悟空の癖。

昔はその呼ぶ声に答えてやったけど。
今は何も言わずに、行為を激しくする。


悟空が頭を振り乱す。
大地色の髪が、ぱさりと音を立てた。

旅を始めた頃よりも、少し伸びたかも知れない。
明日の朝になったら、切り落とす。
今の姿のままでいるように。



言葉を交わした、あの頃のままで。




悟空の欲望は、既に張り裂けんばかりに膨張して。
もう一度その躯を、内臓に達するまで貫いた。




「あぁっ!! あ、はぁっ……さんぞ……ひぁあんっ!」




限界を知らせるように。
三蔵の躯に縋る、小さな腕。

どくん、と悟空の躯が跳ね上がる。




「イケよ……」




低い声で囁くと。
悟空は先刻よりも多い量を吐き出した。
そして三蔵も、悟空のナカに、そのまま。

零れ落ちるほどの液を注ぎ込んだ。













隣室からの声が聞こえなくなる。

けれど悟浄は、顔を覆ったまま。
焼きついているのだ……悟空の笑い顔が、脳裏に。
そして同時に、熱を含んだままの声が、耳を離れないから。




「何処で…こんなになっちまったんだよ……」
「そんなの……誰にも判りませんよ…」




悟浄の救いを求めるような声に。
八戒はただ、冷たい言葉を投げかける。

それしか出来ないから。




「ばかやろぉ………」




それは、何も出来なかった自分たちなのか。
あの少年を堕とした、金糸の青年へか。



自ら翳を纏う道を選んだ、輝りを宿した少年へか────












死んだように、躯を投げ出して眠る悟空を。
三蔵は強く、抱き締めていた。



連日の強行軍のたび、隙が増えていく。
そうして、手を差し伸べていく日が増える。


それでいいと思っている。
それで良かったのだと思っている。

だってそうして、悟空は自分に縛られる。
だってそうして、自分は悟空に縋られる。
互いを求める関係が続く。


あの日、悟空は言ったから。
「三蔵だけを見ていたい」と。
だから、自分だけを見るように。




そして、これでいいのだと。

何度も自分に言い聞かせている。















誰か、証を下さい

これで間違っていないのだと




望むのは、この子供が傍にいること

望むのは、この子供の傍にいること




誰か、教えてください



己の想いの為に………これで間違っていないのだと───












FIN.


後書
間違ってはいないけど、間違った道を選んだ二人。
なんだか矛盾した言葉とかが好きな私。


とゆーか、痛ぁっ!!
とにかくエロ目指してみたら、こんな事に……
甘いエロを書こうとしないのか、私は……

これ書いている間のBGM。
アニメ『X』のEDテーマ【secret sorrow】でした。
綺麗なんだけど、哀しい曲なんです……