Rain NoiSe










降り続く雨音から逃げるように

けれど響く音は何処までも煩くて






傍らで笑う子供の存在は救いでもあり────

────………奈落へ引き摺り堕とす鎖でもある























現実と言うのは、何処までも虚構なものだ。

響き渡る雨音のみが鮮明で。
他は全て、朧がかかったようにはっきりしない。


ただの雨。
そう言ってしまえば、終わり。

────だけど、そう出来ない。



脳裏に甦る、紅い光景。
崩れ落ちる、失いたくなかったもの。
守りきれなかった、守りたかったもの。

忘れる事など、赦されない。
他の誰かが赦しても、己自身が。




だから、全てを赦すように笑う子供の存在が。

酷く、気に障る─────……














重なり合う躯。
漏れる呼吸は艶を含んでいて。

繋がったままの、二人。




「……っあ……は…」




幼さを残したままの唇から漏れた、声。

組み敷く男に縋り付いて。
迫り来る快楽から、逃れようとでも言うのか。
けれど、この子供は決して逃げない。


それが────三蔵にとっては、腹立たしくて。




「あっ……う、ふぁ…っ……!」




細い肩をベッドシーツに縫い付けて。
脚を限界まで開かせ、秘部を曝し。
深く打ち付けた剣。

逃げる事無く、悟空はそれを甘んじて受ける。
抵抗することなど、何一つ無く。


三蔵が不意に漏らした舌打ちが聞こえたのか。
悟空の金瞳が、うっすらと覗いた。

交じり合う金瞳と紫闇。




「……三蔵…?」




確かめるように呼ばれた名。
答えを返す事は、しなかった。

ずるり、と禊を引き抜けば。
悟空の躯がふるりと震え、縋り付いて来た。
が、その躯をまだベッドへ押し付ける。




「はっ……う、あ……!」




絡みつき、締め付ける悟空の内壁。
それでも、全てを引き抜くと。
悟空の躯が、ぐったりシーツの上に投げ出される。

三蔵は悟空の脚を押し上げる。
伸縮を繰り返す秘所がに、ゆっくりと舌を這わした。




雨の日。
三蔵はいつも、部屋に閉じ篭る。
その間は、誰も傍に近寄らない。

寺院にいた間も、旅に出てからも。
それは変わらない────筈だった。


だが、いつからだろうか。
深夜、悟空が部屋に訪れるようになった。

どんなに拒絶しても、部屋に戻らない。
すぐ隣には来ずに、それでも近くにいる。
そして、全てを包み込むように微笑う。


けれど時折、それが嘲りのように思えて。
悟空がそんな奴ではないと知っていても。



赦せなかった。









最初に抱いたのは、いつだったろうか。
長安を発って、最初の雨の日だっただろうか。
それとも、つい最近だったか。

響き渡る雨音に、記憶が上手く浮上しない。
ただ、はっきりと甦るのは。




「……あっ、んぁ、ひっ……あ、はっ…」
「さっきヤったばっかなのに、もう欲しいのか?」




今と同じ、組み敷いた肢体と。
雨音に混じって聞こえる、喘ぎ声。

拒否を示さない、細い腕。




「あぅ、ん……っは、やぁんっ…」




卑猥な音が響いて。
零れ出る、白濁の液。

舌で掬い取り、脚を上げたままの体勢で、強引に口付けた。


口付けた矢先に、舌を絡めて。
その途端に悟空の口内に流れる、苦い液体。




「んっ……ふ…ぅん………」
「テメェが出したもんだ……美味いだろ?」
「……っ………」




ゆっくりと唇を離せば。
名残惜しげに、銀糸が光る。

こくん、と悟空の喉がなった。
美味いなんて、言える訳も無く。
苦い。




「続けるぞ」




低い声音と、短い言葉。
悟空は頷く事はしない代わりに。
拒否すら、示さなかった。

拒否されて、止めるのかと言われれば、恐らく否。
けれど、ただされるがままにしているのを見ると。
酷く、腹が立って仕方がなかった。


理不尽で身勝手な感情だと、判っている。

けれど、悟空が暴れる事もしないから。
酷く煩い、雨音の中で、悟空が拒否しないから。
歯止めが利かなくなる。

いっそ、殺してしまおうかとも思う程に。




「さ…んぞ……あ、ふぁっ…!」




悟空の脚を押し広げたまま、胸の果実を摘む。
それだけで、過敏に反応する躯。

そうしたのは、他でもない三蔵で。




「はっ……ひぁ…!」




頬が赤いのは、周知の所為なのか。
強すぎる快楽の所為なのか。
もっと別の理由なのかは、判らない。

抗うこともせずに、抱かれ続けて。
なのにこいつは、笑いかけてくる。


開きっぱなしの口から、だらしなく漏れた唾液。
露にされた秘所は、既に濡れそぼっていて。
金瞳に浮かぶ涙の意味は、考えなかった。

雨音が無くなれば、少しは楽になる?
どうせまた、降る日が来るのに?




「あぁあああっ!!!」




怒張した雄で、一気に貫いた。
喘ぎではない叫びが、部屋に響いた。

けれど、それもその時だけで。




「あっ、あ……ふ、んあぁ……っ…あ…」




二度目の挿入に、痛みはなかった。
一度目でさえ、あったかどうか。
慣らされた躯は、それを教えない。




「さんぞ……あ、は……んん……」




それなのに、見上げる瞳は、光を宿す。
それが腹立たしいのだと、判っているのだろうか。




「ムカつくんだよっ……!!」




いつまでも、正気なのが。
男に抱かれて、貫かれて。
それでも、狂わずにいるのが。

律動を早めれば、先刻以上に声は漏れる。
卑猥な音が、雨音を縫って鼓膜に届く。




「あ、あぁっ! は、ひ、あぁんっ! ふぁ……ん…!」




ぐちゅ、ずぷ、ずるっ。

嬌声とほぼ同時に聞こえる、音。
次第に、悟空の方から求めてくる。




「ん……さんぞ……あ…あぁあっ!!」
「喋んな、鳴いてろ」




昼間なら、きっと拗ねた顔で反論してくる言葉。
なのに、雨の日の夜は、酷く従順で。

煩いよりも、その方がいい。
けれど、今は苛立ちを煽るだけ。
きっと首に手をかけても、抵抗しない。


抱かれて、貫かれて、穢されて。
従って、求めて。




「んっ……っは…あ、あうぅ……」




悟空の腰を掴んで、引き寄せる。
深く繋がった状態から、更に深く。

その熱の衝撃に、悟空が達した。




「早ぇんだよ、テメェは」
「ん、ぁ……あ、やっ! ひぁっ! ぁあんっ!」




三蔵の雄は、未だに悟空のナカにいて。
掴んだままだった悟空の腰を、強く揺らした。

やがて腰を開放し、左足を下ろさせた。
右足は上げたままだ。
悟空の躯を、横向きにして。




「この方が奥までいけるだろ」
「……あ……あぁっ!」




三蔵の凶器が、根元まで挿入る。
達したばかりの躯は、敏感で。




「さんぞ……さんぞぉ……っ! あ……!」




何度も繰り返し、名を呼ばれて。
快楽から震える、躯を抑え付けて。

白濁の液が白のベッドーシーツを汚す。
けれどそんな以前から、シーツはぐしゃぐしゃで。




「ん、ふぁ…! あ、やっぁん…!」




悟空の内壁が、三蔵を締め付ける。
更に奥へと、まるで誘い込むように。




「あ……も、イっちゃ…………!!!」




悟空の言葉が終わらないうちに。
蜜液が三蔵の腹へと撒き散らされる。

その少し後に、三蔵も達した。
悟空のナカに、己自身を深く埋めたままで。
全ての精液を注ぎ込む。




「────……悟空…」




小さな声で、呼んだ。
今日呼んだのは、多分、これが初めて。

単に自分の記憶に無いだけかも知れない。
けれど、悟空が僅かに驚いた顔をしたから。
多分、これが初めてなんだと思う。




「……なに?」




一糸纏わないまま、繋がりあったまま。
悟空が見上げてきた。




「なんでテメェは、大人しく抱かれる?」




自分から抱いておいて、よく言う。
頭の中で、そんな事を言う自分がいた。

だって悟空は拒否しない。
いつも部屋に入ってきて、大人しくして。
三蔵の腕を、振り払う事はしない。

きっと嫌じゃない筈が無いのに。




「さんぞ………」




名を呼ぶ声が、雨に紛れる。

煩い。
煩い。
煩い。
煩い。

声が聞こえなくなる。
雨音が、煩く響き渡るから。




「………ね、三蔵…」




聞こえた声は、掠れていた。

それでも、声聞こえてきた。
煩い雨音の中で、しっかりと。




「まだ……雨、聞こえる?」




悟空の問いに、言葉を返す事はしなかった。
その意味は判らない筈は無いだろう。

そして呟いた、悟空の言葉。




「────もう一回、しよ?」




嘲りではなく、微笑んで。

雨音が聞こえる限り、終わらないと知っている。
包み込むように、誘って。
何処かで鳴る警鈴は、遠過ぎた。





─────痛みも闇も無い奈落に、底はあるのだろうか。






















雨が煩い

そんな中、笑う子供の存在に苛立つ









傍らで笑う子供の存在は鎖でもあり────


────……奈落から引き上げる救いでもある










FIN.


後書。

梅雨なので、一本ぐらいは雨ネタ書かないと…
と思って、6月ラストにようやくアップです。


この三蔵は鬼畜なのかチョロなのか(話の雰囲気ぶち壊し)。
実は鬼畜エロ目指してたんですが、限界のようです……
またストーリー重視に流れてるしー!!(爆)

雨だし、最初は八戒で書こうと思ってました。
悟空総受なのに八空比率が低いよ、このサイト……
でも、八戒さんはまだ次の機会に(八空好きの方すいません!)。


雨降ってるのに空晴れてる日ってなんなんだろ(独り言)。



2003/06/30