mingle mind








掛け違えて

履き違えて

擦れ違って


それに気付かないまま離れて行って









─────嫌われるのが、恐かった


























悟浄と別れて、それぞれの部屋に帰る。
悟浄は八戒と同じ部屋へ。
悟空は三蔵がいるだろう部屋へ。

それまでの道のりは、ほんの数メートル程度。
なのに、やけに長いように感じられて。


部屋の前まで来て、悟空は立ち止まる。
ドアノブを握ろうとした手が、途中で止まった。

寺院にいた頃は、遠慮無しに開け放っていた。
三蔵に怒られると判っていても、懲りずに。
一枚板の向こうに、太陽がいるのが嬉しかったから。






いつからこんなに、痛くなったんだろう。


────……いつから……



















軽く力をいれて、板を押せば。
呆気なく、少し軋んだ音を立てて開いて。

光を遮断し、閉鎖的なその部屋の中。
僅かながら陽光は零れているが、それでも十分ではなく。
薄暗い部屋の中、彼はいた。




「煙草吸うなら、窓開けてよ」




彼の手の中にあった、一本の煙草。
まだ火は点いていなかったけれど。
吸うつもりなら、と言葉を告げた。

返事は、なかった。
それは、そんなに珍しい事ではないけど。




「…なんか言えよ」




沈黙の帳が嫌で、そんな事を言った。

彼が必要以上に喋らないのは知っている。
それでも、沈黙は決して心地良いものでは無かったから。


買ってきた荷物をテーブルに置いた。
ようやく、両手が重みから解放される。

けれど、居心地の悪さは変わらない。


こんなに、嫌なものだっただろうか。

寺院にいた頃は、ただ傍にいたかった。
三蔵は仕事が忙しくて、自分に構う暇など無い。
けれど、一緒にいたいと思ったから。

煩くしないと公約し、執務室に置いて貰った。
それだけで、酷く嬉しかったと言うのに。



────……この匂いの所為?



煙草の匂いに交じった、嫌いな匂い。
悟浄に教えて貰った匂い。

三蔵の匂いじゃない。
悟空の知ってる匂いは、煙草の匂い。
これじゃない。




「いっつも何処行ってんの?」




顔を合わせないまま、問う。

返事は聞こえて来ないままで。
煙草に火を点ける為のライターの音がした。


悟空は勢いよく振り返り、三蔵に歩み寄る。
距離らしい距離は無いのに、早足で。
それに気付かない三蔵ではないだろうに、反応は無い。

それが、益々悟空の胸の内を煽って。
悟空は素早く、煙草を取り上げた。




「……返せ」
「やだ」
「…殺されてぇか、猿」
「それも嫌だ」




深く、鋭い紫闇を向けられても。
悟空はそれを真っ直ぐに見返した。

火の点いたままの煙草を、握り締める。

僅かに肉の漕げる匂いがした。
ジュ……という音が、静かな室内に響く。

三蔵が小さく舌打ちを漏らす。




「馬鹿か、テメェは」




煙草を握っていた手を引っ張られて。
三蔵の後ろにあったベッドに座らされる。
握っていた手を開けば、明らかな火傷。

その間、悟空は何も言わなかった。
代わりに、じっと三蔵を睨みつけて。


距離が近くなって、尚はっきりとする。

もともと五感は人一倍強い方で。
先刻までだって嫌と言うほど嗅いでいたのに。
こんなに近くなったら────





『────この匂い、嫌いだ』





何度も導き出した、同じ答え。
三蔵を見る金瞳に、力が篭る。

それを見て、目の前の彼はどう思ったのだろうか。




「────猿が生意気な面してんじゃねえよ」




三蔵が小さく呟いた途端。
急に、視界がぐるりと弧を描いた。

背中に当たった、柔らかな感触。
それがベッドシーツだと気付いた直後に。
綺麗な金糸が、世界を覆う。



呼吸が出来ない。

……なんで?
…どうして?


何かが、自分の中に入り込んで。
何かが、自分の中を荒らす。

何かが、全部を支配して行った。




締め切ったカーテンの隙間から漏れる、光。
そこだけ切り取られたように明るくて。
手を伸ばしてみるけど、届かない。

もう少しで、届きそうな場所で。
一人の男に、それを妨げられてしまう。




「そんなもんに焦がれてんじゃねえよ」




細い四肢をベッドに縫い付けて。
衣を剥いで、露になった肌に唇を寄せる。
その度、幼さを残す身体は僅かな反応を返す。

首の根元を吸い上げられて。
悟空はベッドシーツを強く握り込んだ。




「嫌なら暴れりゃいいだろう」




嘲笑うように、耳元で囁かれる。
それだけなのに、躯が震える。

そしてまた、三蔵は嘲笑うのだ。



胸の果実に、三蔵が唇を寄せて。
生温い何かが、這って行った。




「っは………ぁ……っ」




殺していた声が漏れた途端に。
三蔵は口元に笑みを浮かべて、また同じように舐める。

正直な躯は、ビクッと跳ねて反応を見せる。




「や、やっ……あっ! やだ、さんぞ……」




右側の果実を舐められて。
左側の果実を、指で抓られる。

僅かな痛みもある筈なのに。
それよりも、甘い嬌声が口をついて出る。




「や…いやぁ……っ…ひ、ぁんっ!」




カリ、と爪が当たり。
ピチャ、と濡れた音が聞こえた。




「やめ……三蔵……や…ぁ…」
「だったら逃げりゃあいいだろうが」




三蔵の言葉に、悟空は口を噤んだ。



逃げる────三蔵を拒否する。

そんな事は、何があっても出来なくて。
大嫌いな匂いだってするのに、拒絶出来ない。

この太陽から離れたら、自分はどうすればいい?
三蔵の傍しか、自分の居場所なんて無いのに。
それをなくしたら、次は何処に行けばいい?


だから、三蔵は言うのだ。
「逃げればいい」と。




「や、あ、ひぁんっ!! ぁあっ!」




拒絶を示さない悟空を、尚支配して。
拒絶を示さないから、逃げろと言う。


剥き出しの下肢に、三蔵の綺麗な手が添えられて。
悟空は涙を浮かべて、彼を見つめる。
これ以上は、何もしないで欲しいから。

けれど、そんな願いは聞き届けられずに。
一本の長い指が、ナカへと入っていく。




「あ、やっ! いやぁっ……!!」
「ちっ…狭いな……まあ予想はしてたが」
「ひぁっ! あぅうっ……ん! うぁっ!」




強引に二本目の指が入る。
その二本の指で、秘所を押し広げて。

ぐちゅ、ちゅぷ、と卑猥な音が耳に届く。
耳を覆ってしまいたいのに、それが出来ない。
射抜く紫闇が、それを許してくれないから。


その音さえも、快楽を引き出す材料になる。




「いやっ、や……あ……っ!!」
「嫌がってるようには見えんな……こっちは正直だ」
「ひぁんっ! やだ、やだぁあっ!」




掻き回されて、白濁の液が零れ落ちる。
言葉は拒絶を示すのに、躯は求めていて。
そんな自分が、酷く穢れたイキモノのようで。




「あ、やっ……も…いやぁ……っ!」
「ここをこんなにして置いても、言える台詞か?」
「や、あ、んぁっ……あう……っは…ぁ……」
「ほらな。やっぱ欲しいんだろ?」




下肢を嬲られると同時に、喉に口付けられて。
その途端に、拒絶は嬌声に変わってしまう。

たった一瞬の、残酷な優しい愛撫だけで。
痛みは無くなり、快楽が残る。

指が引き抜かれる。
その一瞬、内壁が指に絡みついて。




「がっつくな。もっとイイもんくれてやる」




足を押し広げられて、秘部を曝す。
達しないまま、そこは蜜液を絶えず零して。
ヒクヒクと伸縮を繰り返し、求める。

三蔵は、寛げた己の凶器をあてがった。
逃げを打つ腰を、掴んで引き寄せる。




「あぁあああっ!!!」




そのまま、深く貫いた。


本来、排泄機関であり、受け入れる場所ではないそこ。
未だ幼い悟空に、そういった知識がある訳も無くて。
当然、刺し貫かれるなど初めてだ。

白濁の液に濡れ、血が流れた。


容赦なく、腰を打ち付けていく。
既に悟空の躯に力は入っていなかった。

ただ為すがまま、同じ性を受け入れる。




「あ、あっ! や、ふぁっ…あん!」




零れる紅い液体が、潤滑油になる。
そして、悟空を襲う快楽も強くなっていく。

喘ぐ姿は、常日頃の姿とは一変して。
熱に浮かされた金瞳は、男を惑わす。
更に深く、壊したい程の欲求を抱かせて。




「……素質があるかもな」
「え…? ───あ、うっ! あぁんっ!!」




言葉を発すことなど許さないとでも言うのか。
問い出そうとした口を、躯を貫く事で遮った。




「あ、あっ、んぁあぅ……ふっぁ…!」




絶え間なく零れる嬌声。

ベッドのスプリングが悲鳴を上げている。
けれど、それすら悟空の声に掻き消されて。




「やっあ、あぁっ! ひぁ…!」




早い律動に、悟空の声は擦れて行く。
それでも、一度強く禊を打ち込まれてしまえば。
途端、叫ぶように甘い声が上がる。

開きっ放しの口から、飲み込めなかった唾液が零れて。
それを三蔵は舐めとって、口付ける。




「んっ、ぅ……っふ、ぅん……」




奥深くまで進入していく舌と。
最奥へと徐々に近付きつつある肉剣。



─────漂った香りに、理性が甦る。




「やだぁっ!!!」




突然叫んだ悟空に、三蔵は動きを止めた。

先刻までシーツの波に投げ出されていた、細みの腕。
組しかれ貫かれ、為すがままだったその躯。
それが拙い抵抗を示す。




「やだ……やだぁ…こんなの………」
「何が嫌なんだよ。突っ込まれて悦んで置いて」
「…違う…こんな……違う、やだ……」




金瞳から零れる涙が、頬を伝う。
三蔵の胸に添えられた手は、押し退けようとする表れか。
生憎ながら、それに力は入っていなかったけれど。




「………やだぁ…………」




繰り返される言葉は、はっきりと聞き取れた。


一度行為を止めれば、徐々に頭は冷えてくる。
見下ろす悟空は、既に泣きじゃくっていて。
自分がどんな行為を強要したかが見えてくる。

ごく単純な答えが出て来る。
ただ、酷い事をしたのだという事が。




「……何が嫌なんだ」




先刻とは別の意味を含んで、問う。
悟空が、恐る恐ると言うように顔を上げた。




「───……におい…」




返ってきた答えに、三蔵は眉根を寄せた。
その表情に、悟空が肩を震わせた。

答えの先を瞳だけで促す。
それでも、引き攣った喉は中々音を出さない。
しばらくは沈黙が支配していた。




「三蔵の……においじゃ……ない…」




いつものマルボロの匂いがしなくて。
悟空の大嫌いな匂いだけがする。


三蔵も、思い当たる節を見つけた。
自分の体に染み付いた、香水の匂い。
それが子供は嫌だと言うのだ。

それは三蔵自身も同じようなものだ。
こんな匂い、好き好んで付ける訳が無い。




「このにおい…きらい………! 三蔵のにおいじゃない…!」




そんな匂いを纏わせて、触れないでと。
慟哭に近い声が、三蔵の耳に届く。

悟空が幼い頃から知っている匂いは。
毎日吸っている、煙草───マルボロの匂い。
それが、三蔵の匂い。




「お前……理由はそれだけか」




見下ろしたまま、組み敷いたままで。
三蔵は小さな声で、そう問い出す。

匂いが嫌なんだと、悟空は言う。
この行為の意味する所など知らないだろうに。
それなのに、恐いとも何も言わずに。

ただ、三蔵の匂いがしないのが嫌なんだと。




「これの意味なんざ知らんだろうが……嫌じゃねえのか?」




悟空が小さくかぶりを振った。




「………何故だ?」
「────……三蔵、だから……」




帰ってきた答えは、至極短絡的だった。


───いつもこれだ。
悟空は盲目的に、三蔵を慕う。

三蔵が言うのなら、それが正しいんだと。
三蔵がする事なら、間違っていないと。
全ての基準は、『三蔵』なのだ。




「………バカ猿が………」




三蔵だから嫌じゃない。
三蔵だから恐くない。

三蔵だから……────




「一度、教え直した方が良さそうだな」




この子供の一番近い場所で。
誰か一番、危険なのか。

小さな躯を抱き締めて、触れるだけの口付けを与えた。






全く違う情交の後で。
悟空はあっさりと、意識を手放してしまった。
けれど、首に回された腕は、外されないまま。

あれだけ酷い抱き方をしたのに。
二度目の情交は、悟空は抵抗しなかった。
むしろ、求めてきたようで─────



それが危険だと判っていたから、突き放していたのに。




「………匂いが嫌……か」




まだその香りは、残っているのだろうか。
─────それならば。




「お前が消してみるんだな」




掛け違えて

履き違えて

擦れ違って


失いかけていた、大事なモノ







それでも誤魔化せなかったあの想い

────たった一つ、「あなたが好き」という想い


嘘じゃないから、他の誰かを見たりしないで













FIN.


後書。

彩さんより、壱萬打企画にてリクv
遅くなった上に、長くてごめんなさいm(_ _;)m↓
前後・数えて30超えるのに、前半エロなし……スイマセンι


『鬼畜エロ有』
『冷たい三蔵に脅える悟空』
『三蔵の女遊び発覚、その時悟空は!?』

(↑そのまま引用させて頂きましたι)
前半に微妙に浄空混ぜたりなんかして……(汗)

本編中に書きませんでした(爆)が、三蔵は何も知らない悟空に行為を強要しないために、女の所に行っていたと(結局ミモフタモなくなってしまいましたが)。
これを三蔵に言わせようとしたら、話が終わりそうに無くて。
すいません、補足説明みたいになってしまって…。


2003/07/28