remind of 後編












出逢わなければ良かったなんて
そんな事思ったらいけない

誰かに重ねたりなんかしちゃいけない
まして、それが『誰か』さえも判らないのに






それでも……また、刹那に重なるヴィジョンがある




「やっ……あ……!」




身体を繋げ合ったまま、キスをする。

小さな身体が、快楽に震えて。
それでも口付けに応えようとする。


一週間近く野宿が続いて。
ようやく辿り着いた街で、宿を取り。
まだ日も高いうちから、貪り合って。

一週間という時間は、やけに長くて。
溜まった欲求は、既に我慢の限界だった。




「っは、あ、んぁっ! んん……!」
「まだ奥まで入るな…」
「あ、待……あぁんっ!!」




腰に手を添えられ、引き寄せられて。

既に深く深く突き刺さっていた、三蔵の雄。
更に奥へと、悟空の躯を貫いた。















力なく投げ出された悟空の四肢。
三蔵は、その木目細かい肌に丹念にキスを落とす。

その表情に、微かな愉悦の色がある。


───部屋の窓から入り込む、月明かり。

宿に入ったのは、いつ頃だったかと悟空は考えた。
昼前に着いて、昼食を取って。
部屋に戻って、直に行為を始めたと思う。

窓から見える月は、既に高い位置にある。




「余裕だな」




不意に聞こえた声に、意識が戻る。
自分を組み敷いたままの、金糸の男へと。




「足りねえなら、続けてやるぞ」




三蔵はシニカルな笑みを浮かべながら言った。


三蔵の言葉に、悟空はゆるゆると首を横に振った。
言外に限界だ、と告げれば、無理強いはされない。

三蔵が精神的に落ち着いている間は。




「だったら、明日だな」




どうやら、解放はして貰えないようだ。
判りきっている事ではあったけれど。
疲労した躯は、休息を欲している。

そんな悟空に、三蔵は深く口付ける。
舌を絡め取られ、貪られ────




「──────!?」




一瞬、悟空の視界がブレた。
目を見開いて、目の前の金糸を見つめる。
いぶかしんだ三蔵が、悟空を見下ろした。

その姿がまた、霞んで、戻る。


月明かりに反射する金糸。
誰より好きな、三蔵のその色。
これと同じものなんて、見た事は無い。

………その筈なのに。




「…………あ……」




漏れ出でた声は、意味を成さないもの。
けれど、何故だろう。
心臓の鼓動が早くて、その奥が痛い。

胸元へ手繰り寄せたシーツを、強く握り締めた。


おずおずと悟空は手を伸ばす。
三蔵の金糸に、まだ細身の指が絡まる。
金糸をほんの少し、緩い力で掴んだ。

何処か、意識に朧がかかっていて。
一体、自分は何をしているのかと思う。



でも、彼は決して「止めろ」と言わなかったから……────?



途端に腕を捕まれ、ベッドシーツに縫い付けられた。
朦朧としていた意識が、現実へと還る。

見上げる先には、鮮やかな金色。
紫闇がじっと、自分を見下ろしている。
その紫闇が心なしか、憤っているように見えて。




「いい度胸じゃねえか」




三蔵の声が、悟空の鼓膜に届く。
何を言っているのかと、見上げていたら。




「今何を考えた?」
「え?」
「俺を見て、一体何を考えていた?」
「───な、に…?」




三蔵の質問の意味が判らない。
ただ、怒りがある事だけは判る。
それでも悟空には、その理由が判らなくて。

それが一層、三蔵の怒りを煽っていた。


噛み付くように口付けられて。
なんの準備もなく、下肢を貫かれた。




「────っっ!!」




声にならない叫びが上がる。
下肢に痛みが走り、何かヌルリとしたものが零れた。

裂けたかもしれない。
けれど、三蔵はそんな事には構わずに。
悟空をベッドに押さえつけ、行為を再開する。




「あっあっ! や、さんぞぉおっ!」
「何を考えてたか知らねえが……」
「ん、ぅ、あぁあっ! ひぁ…っああっ!」
「テメェは俺だけ見てればいいんだよ!」




────あの人は、いつも優しかったのに。














四日ぐらい前…だったと思う。

野宿の時、薪を拾いに行けと言われた。
悟空は悟浄と連れたって、野営場を後にした。


最初はふざけあいながら一緒にいたのだが。
ふと、薪を拾うのに集中している間に。
案の定、悟空は悟浄とはぐれてしまった。

目印も何も無い、森の中だった。
方向感覚も狂わされてしまいそうで。

悟浄なら、まだ戻っていけるだろう。
自分が歩いた場所ぐらい、確認しているだろうから。
けれど、悟空一人ではそうは行かない。


逸れるまで、何処をどう歩いたのか。
それさえも、曖昧な記憶すらなかった。













迷子は動くな、が鉄則。
以前、街で悟浄と買出し中に言われた。

子供扱いされて、その時は憤ったものだが。
実際、迂闊に動けないものだ。
取り敢えず、現状を把握しようと適当な木の根元に座った。

空を見上げ、星や月で方角を確認し様とした。
しかし、鬱蒼とした木々は空を隠し。
前後左右は、ただ暗闇が口を開けていた。


持っていた薪を地面に置き、溜息を吐いた。
─────その時だ。




「一人か? 孫悟空」




その声を聞いた途端、警鈴がなった。
姿を見る間も無く、如意棒を握る。
周囲に眼を配らせ、気配を探る。

そして聞こえた、戒めの鎖の音。


現れたのは、神───焔。

憮然と立ち尽くす姿は、威圧感があった。
既に何度か、相対しているものの。
勝てた試しは、一度としてなかった。




「なんの用だよ!?」




敵意を隠すことも無く、言った。
如意棒を握る手に、自然と力が篭る。
けれど、焔は刀を握る事すらしない。

なんだか馬鹿にされているようで腹が立つ。
地面を蹴り、如意棒を振り上げた。




「うらああぁっ!!」




────空を切る。

そして腕に添えられた、形のいい手。
目線を上げれば、すぐ近くにある、焔の顔。




「俺はお前を傷付けるつもりはない」




ぐ、と悟空の躯が引き寄せられた。
気付けば、焔の腕の中で。




「俺は、お前を愛している」




悟空の瞳が、大きく開く。

その言葉の意味を、よく知っていた。
時に優しく、そして残酷な言葉だと。




「ずっとお前を愛している。500年前のあの時から……」




焔の言う『刻』が、悟空には判らない。
けれど、判らなくたって良かった。
自分の知る筈のものだとしても、判らなくて構わなかった。

もう、自分にはいるのだから。
他の誰より大切な、太陽が。




「お前にそんな事言われたって、知らねえよ」
「…そうだろうな、お前は昔からそうだった」




愛しげに見つめる瞳が、悲しそうで。
その意味がよく判らない。

ただ自分の想いが、届かないというだけではないようで。




「お前は昔から……あいつしか見ていない」




同じ光を追い求め。
同じ光を呼び続け。
そして同じ光にだけ手を伸ばす。

俺では届かない、と呟いて……



─────同じ?

焔の言葉に、一瞬思考が停止した。




「出来るなら、俺が救ってやりたかった……」




抱き締める腕に、力は入っていないのに。
どうして、振り解けないのだろう。

この腕は、彼のものとは違うのに。


焔、と名前を呼ぼうとしたら。
深いキスに、それを阻まれてしまった。
唾液の混ざる音がする。

どうして、突き放せないのだろう。
抱き締める腕も、この唇も違うのに。




「………っは……ぁ……ん…」




一度解放され、また口付けられる。




「…っふ……ぅん……」
「…………悟空……」




悟空の躯から力が抜けて。
ようやく、腕の中から解放される。
その場に力なく座り込んでしまう。

焔の手が、悟空の顎を捕らえて。




「同じなら……いっそ出逢わなければ良かったかもな……」




チク、とした痛みに、我に帰る。
見れば、三蔵が首根に顔を埋めていて。

生ぬるい感触が、其処を滑る。
三蔵の舌だと理解するのに、少し時間が掛かった。




「余所見とは随分余裕があるじゃねえか」
「違────やぁんっ!!」




不穏な色を浮かべた紫闇に気付いて。
慌てて違うと言おうとして、阻まれる。
下肢を襲った、痛みと快楽に。

真っ白なシーツに、赤いシミが作られて。
また、白濁の液がドロリと零れる。




「っは…あ…っは……や……」
「嫌じゃねえだろ」
「あぁっ!」




三蔵の雄が、悟空の前立腺を刺激する。


無論、それを三蔵が見逃す筈もなく。
其処を集中して責めると、悟空の幼い性は膨れ上がり。
一刻も早く放出を求めている。




「やっあっ、あ! あぁあっ!」




痛みの所為か、快楽の所為か。
悟空の大きな瞳から、涙が零れる。

それを三蔵が、舌で救い上げる。
そのまま目蓋の上を舐め上げて。
ビク、と悟空の躯が震えた。




「さ…んぞ……っ……!」
「もっと呼べ」
「…さぁんぞ……あ…ん、ぞぉ……っ!」




三蔵の言葉通り、悟空は何度も呼んで。
その都度、三蔵の表情に愉悦が浮かび。

躯を繋げたまま、どちらともなく口付ける。




「っん……は…ぁ……」




銀糸を引いて、唇が離れる。
悟空の金瞳に、熱が篭る。

離れる金糸に、悟空は手を伸ばした。




「………ん……ぜ……」




ぎゅ、と悟空の腕が、三蔵の首に絡められる。
そのまま悟空から、三蔵へと口付けて。

だが。




「─────誰だ」




引き剥がされ、ベッドに押さえ付けられて。
深い紫闇が、悟空を締め付ける。
逃げる事など許さないと、言外に告げて。

けれど、悟空にはやはり判らなくて。
何故、三蔵は怒っているのだろうと。




「言え、誰だ? そいつは」
「……え…な……?」
「誰だと聞いてるんだ」




三蔵の問いにも、悟空は不思議そうな顔をするだけ。

三蔵があからさまに舌打ちした。
もういい、と小さく呟いて。
グチュ、と卑猥な音が部屋に響いた。




「────っあぁっ!」




逃げを打つ腰を掴み、引き寄せて。
三蔵の雄が、悟空の最奥に到達する。

そのまま間を与えず、律動する。




「だめ、あ、んっぅ、あぁっ」




次第に悟空の方から、腰を摺り寄せるようになる。




「んぁ、はぁっ、あぁんっ! ん、ぁん、ふぁあっ…!」




トロリ……と蜜液がシーツに零れる。




「あ、や、あぁっ、あぁあっ!!」
「もっと腰振れよ」
「ふぁっあ、さんぞ……も、だめっ…!」
「ああ……」




薄ぼんやりと、金瞳を覗かせると。
その瞳に映るのは、たった一人の男だけ。
眩い金糸を持った、唯一無二のこの男だけ。

他に誰かが見える筈なんかない。
そう、彼しかいない筈なのに────?




「だめっ、さんぞ…っ……!」




解放を求める躯を、抱き締められて。
無意識のうちに、悟空の手が金糸を掴む。




「────………あ────!!」




気だるさの残る躯を、無理矢理起こした。

傍らでは、三蔵が煙草に火を点けて。
紫煙がゆったりと、空気に溶けていく。




「寝てろ」
「…眠くない」




低い声音に、短く返す。
窓から差し込む月明かりが、金糸に反射する。
その光を綺麗だと思ったのは、一体何度目だろう。

三蔵が煙草を灰皿へと押し付けて。
その手を、悟空の顔へと伸ばす。




「………三蔵?」




呼びかけの返事はなく。
形のいい手が、悟空の前髪をなぞった。

その掌が、気持ち良くて。
悟空は何もせず、されるがまま甘受する。

自分の手よりも、幾分大きな手。
拾われた時から、ずっとそうだった。

多分、追い付く事はない。




「三蔵、手ぇおっきいな……」
「あぁ?」




悟空の言葉に、三蔵が手を止める。

その手に、悟空が自分の掌を当てる。
確かに、三蔵の方が幾分大きくて。

三蔵が悟空の手を握り、引き寄せる。




「昔はまだチビだったがな」
「そうなの?」
「8年前の話だ。どうせお前はチビだがな」




三蔵の言葉に、悟空は頬を膨らませる。
しかし、丸い頬にあやすように口付けられて。
悟空の表情が、知らず緩んだ。

少なからず、三蔵の口元も緩む。




「もう寝ろ」




ぽす、と躯を抱き込まれて。
悟空の額が、三蔵の肩に当たり。
そう長くはない金糸が、悟空の首筋に触れた。

見上げれば、淡い月明かりに光る金糸。
深く冷たさを称える紫闇が、見下ろしていた。



────そして蘇る、ヴィジョン。



いつだったか、こんな風に抱き締められて。
何度も頭を撫でて貰った事がある気がする。
もっとこの手を、大きく感じた頃に。

長い金糸と紫闇を持った、誰かに。
この人ではない、別の人に。


この人意外、知らないのに。
金糸と紫闇を持つ者を、この人意外知らないのに。




(────あれ……?)




見上げた先には、見慣れた彼がいるだけで。
長い金糸など、其処にはない。

けれど、彼意外にこの色を持った人は知らない。




「何ボーッとしてやがる」
「えっ? あ、わ??」




気付けば、またシーツに縫い付けられていた。




「誰を見てんだから知らねえが」




耳元で低い声で囁かれて。
ゾク、と悟空の躯が震えた。




「お前は俺だけ見てりゃいいんだ」
「…うん……」
「どうせ他人を見る暇なんざねえんだからな……」




綺麗な金糸が、視界の隅で煌いた。












何度も躯を求め合って。
時折、何かが記憶の中を横切るけれど。
思い出せないまま、それは埋もれて行く。

ただ、その瞬間。
ほんの一瞬だけ、泣きそうになって。


よく判らなかった。

焔が言った言葉の意味も。
三蔵が何度も苛立つ理由も。
過ぎる霞んだ記憶の影も。

ただ、自分は三蔵の事が好きで。
別にそれに、理由なんていらなくて。


けれど何度も、記憶の淵から浮かび上がり。
そして何度も、記憶の海へと沈むから。



───あの金糸が誰かなんて、今は判らないけれど。

………忘れちゃいけない事だけ、漠然と感じている。




















重なるヴィジョンはすぐに消え
ふとした瞬間に蘇る





誰かに重ねたりなんかしちゃいけない

だって貴方は、貴方でしかない
他に貴方がいるわけない






でも………────ホラまた、違う貴方が見える
















FIN.

後書。
1500HITリク・ようやく終了!
一月半(ひょっとして二ヶ月!?)お待たせしてしまいましたι

しかもこの長さは何!?
三部に分けるのも中途半端……
後半がかなり長くなってしまいました(汗)。


『三蔵に金蝉を重ねている悟空』
『昔から悟空に想いを寄せている焔』
と言う事でした(そのまま抜粋させて頂きました)。

かなり難しい話になってしまったのですが…あわわ(汗)ι
綾さん、如何でしたでしょうか?




2003/09/20