甘味の行方










らしくない

それ位自分でもよく判っている




それでもふとした時に思い出す


いつも以上の間抜け面を

僅かに顔を赤くしながら言った台詞を









『はいっ、三蔵、大好きだかんね!』

























きょとん、とした顔の悟空と目が合った。
なに? と悟空が聞いてくる前に、こちらの方から目を逸らした。
煙草を取り出し、なんでもない風を装って。

悟空は不思議そうに首を傾げたものの、何も言わず。
揶愉って来た悟浄へと意識を向けた。


じゃれ合う悟空と悟浄。
それを八戒が宥めに割り入った。

自分はそれを遠巻きに眺めているだけだ。


いつもと何も変わらない、当たり前に繰り返されている風景。

悟浄が悟空を揶愉い、悟空がそれにムキになって掴み掛かり、悟浄がそれに悪乗りして、喧嘩になったところでやっと八戒が二人を宥める。


何も変わったことなどない。
何も特に普段と違うことなどない。

強いて言うなら、自分が袂の小銃に手を伸ばさない事か。




それとも。

この風景に、苛立っている事か。











朝からずっと気分が憂鬱だった。
それが誰の所為かと問われれば、誰の所為でもないような気もするし、無邪気に笑う子供の所為のような気もする。

それ以外で言えば、袂に隠してある己らしからぬ物と。
いつもなら気にしない、今日という日。


一月前に何もなければ、こうも鬱にならないて済んだ。
いつものように騒がしい一日で終わった。

なのに、一月前の出来事のお陰で、それが出来ない。
その気になれば忘れてしまえるかも知れないが。
そう思う度に、脳裏にちらつくものがある。


けれど原因の当人は全く覚えていないのか。
はたまた気付いていないのか、何も知らないのか。
いつものように悟浄と騒いでいるだけだ。

放って置けば、このまま時間は流れていくだろうに。
それでも、思い出すものは。






一ヶ月前。


赤い顔をして渡って、チョコを渡してきた子供の顔。














─────唐突に差し出されたものに、思考が止まった。

目の前で笑っている子供の行動は、いつも突飛だ。
それは8年間も傍に置いていたから判っている。

けれど行動の奥にあるものまでは読み取れない。




「…………で?」




意図を探る為にそんな言葉を告げてみれば。
今度は悟空の方が、不思議そうな顔を見せた。




「なんなんだ、その手にもってる包みは」




三蔵に向かって差し出されたもの。
丁度手のひらサイズの平たい箱。
しかもご丁寧にラッピングされ、リボンまでも。

この子供は一体何が言いたいのか。
またあの二人が妙な入れ知恵でもしたのか。


思考を巡らせる三蔵だったが、答えは出ない。
悟空の返事を待ってみれば。




「大好きだから、三蔵にあげる」




というものが返ってきた。


悟空は上機嫌に笑っていて。
差し出される物を持っている腕は、三蔵が受け取るまでおそらく下ろされる事はないだろう。

取り敢えず話を進めよう。
そう思いながら、三蔵は仕方なく箱を受け取った。


それからこれはなんだ、と聞けば。




「バレンタインのチョコ!」




景気のいい台詞に、また悟空を見てみれば。
さっきよりも嬉しそうな顔をしていて。
ほんのりと頬は桜色に染まっている。

返された台詞のお陰で、大体の意図は判ったが。
確か、今までこんな事はなかった筈だ。




「悟浄が今日はそーいう日なんだって」




ああ、やっぱりあの河童か。




「で、八戒が手作りの方が心が篭りますよって」




つまり、これは悟空の手作りチョコな訳か。

三蔵はあまり甘い物が好きではない。
和菓子なら食べるが、洋菓子は遠慮する方だ。




「あ、それビターチョコだから!」




甘いチョコなんかいらない、と。
そう言われる前にと、悟空は慌てて言った。

お願いだから受け取ってくれと金瞳が訴える。


三蔵は、選択肢を間違えたことに気付いた。
受け取るなんて事をしなければ良かったのだと。
いらないと突っ返してから、話を進めれば。

けれども、もう受け取ってしまった。
予防線を張られてしまったので、返却も出来ない。


そして、悟浄が悟空に入れ知恵したと言う事は。
凡そにして、余計なことも言っているのだろう。

面倒を増やした河童は、明日朝一で瞬殺する事に決めた。
それとよりも目下問題なのは、目の前にあるものだ。
甘ったるい中身の箱と、自分を見つめて来る子供。



その上、見つめて来る金色の瞳は。

頑張ったんだから今食べて、と言わんばかりだった。



どうにも、目の前の子供に甘い自分がいる。
だから甘え癖がいつまで経っても抜けないのだろうか。

仕方なしに丁寧に結ばれたリボンを解いて。
続いてまた仕方なしに箱の蓋を浮かせると。
そう大きくはない、甘味物。


どうしたものかとしばし動きが止まったが。
見つめて来る瞳に、選択肢は既になく。
ため息を吐いて、手にとって。

噛んで砕けば、すぐに口の中で溶けた。
案の定、甘い。




「どう?」
「……甘い」
「えー…」




残念そうな顔をして、悟空はそんな声を漏らす。

今ならチョコを突っ返す事も出来るだろう。
あとはお前が食べろ、とそれだけ言って。





けれど、何故か。


自分はそれから数分間、甘さと格闘する羽目になった。





─────それが、一月前。

バレンタインの日に、嬉しそうにチョコを渡した悟空。
心成しか頬を染めて、嬉しそうに笑っていた。


悟浄の入れ知恵と言うから、聞いたものだと思っていた。
一月後に控える、お返しなんて面倒臭い行事を。

放って置いても良かったが、煩くなるのも面倒で。
言い出してきたら、さっさと渡そうと思っていたのだが。
予想は外れ、見る限りではどうも知らないらしかった。


結果、渡すタイミングも判らずに。
何せ移動中は四六時中他二名もいるから御免被る。

ついでに言えば、自分らしくもないし。
最大の理由としては、羞恥心以外の何者でもない。
なんで俺が、と思わずにはいられない。


渡せば、理由なくともきっと喜ぶだろうけど。
どうしても、それが出来なかった。





そしてそのまま、時間は過ぎて。

月が昇り始めた頃には、町の宿についていた。

















深夜、どうしたものかと寝台の上で窓の外を眺めていた。
机の上には、今日ずっと持っていた己に不似合いな包み。

さっさと渡してしまおうと何度も思った。
面倒臭いから捨ててしまおうかと何度も考えた。
けれど結局、どちらも選択出来ずにいる。


今日一日の気温は、至って春めいたものだった。
中身はほとんど原型を留めていないだろう。
更に生憎、今日の安宿に冷蔵庫なる高価なものはなかった。

明日になれば見るも無残な姿になっているだろう。
今もかなり酷いと思われるが。


ちらりと机の上のものを見て。
彼の部屋まで持って行って渡すのは面倒だし。
かと言ってこのままでいるのは本当に自分が馬鹿みたいで。

今夜、あの子供が来たら渡そう。
そういう事にして、また窓の外に目をやると。




「三蔵、起きてる?」




返事もせずに部屋の扉を開けてみれば。
枕を抱えて涙ぐんで、こちらを見上げる子供がいて。

また妙な夢でも見たのか。
大方そんな所だろう。




「ったく、いつまでガキなんだ、テメェは……」
「だってぇ〜……」




溜息を吐きながら、悟空を部屋に入れてやれば。
子供のように泣きじゃくって三蔵に抱きついてきた。
こればかりは幼い頃からどうにも変わらない。

まるで仔犬が擦り寄っているように見えて。
頭を撫でてやれば、ますますくっついて来る。




「ねー………」
「あ?」
「……一緒………」




何を言わんとしているかは判っているから。
離れようとしないのを無理矢理引き剥がして。
その手を引っ張って、寝台へと戻っていく。

背中の方でほっとしたような空気が生まれる。
それからまたくっついて離れなくなった。


正直言って、歩きにくい。
が、もう面倒なので離すこともしないことにした。


ベッドに横になっても、悟空は愚図るばかりだ。
どんな夢を見たのか知らないが、今日は一段と酷いらしい。
悟空を落ち着けなければ、自分も眠れないだろう。

事実、先刻から頭に響いてくる聲がある。
意識して呼んでいる訳ではないので、タチが悪くて。




「いつまで泣いてやがんだ、お前は……」
「だってぇ…うぇっ……ふぇええ…」




くしゃくしゃと頭を撫でてやって。
あやすように額に口付けてやれば。
余計に泣かれてしまう。

いつもならこれで、きょとんとした間抜け面を見るのだが。




「ふぇえええ〜〜……」




悟空に振り回されるのは、この8年間で慣れた事だが。
扱いの方は、どうにも慣れないものだった。

泣き止むまで突き合わされるのは正直疲れるものだ。




「おい、鼻水つけんじゃねぇよ」
「うぁ……っく、ごめ……ふぇえ…」




いつも以上に優しい声で、三蔵は悟空を宥めてやる。


片手で悟空の顎を掴んで上向かせて。
唇に口付けてやると、息苦しさから悟空は瞼を閉じて。
深くなる口付けに、ピチャ、という音が響く。

ゆっくりと解放してやけば、銀糸が光る。
ぼんやりと開かれた金色の瞳は熱っぽくなっている。




「さぁんぞ………」




名を呼ばれた直後に、もう一度口付けて。
次に首筋、鎖骨に舌を這わした。
ヒク、と悟空の体が震える。

薄手のシャツの下へと手を偲ばせる。
触れた胸の果実は既に硬く立っていた。




「上がこうなら……下はどうなってんだろうな」
「う……ふえ…ん……」




悟空の足を割り開いて、そこに三蔵が圧し掛かって。
見下ろした悟空の目尻には、涙が浮かんでいる。
それが快楽によるものか、夢の所為かは判らない。

が、確かに悟空は流されつつあった。
甘えるように伸ばされた手は、三蔵の金糸を掴む。




「んっ……あ……ふぅっ…あ……っ」




チュ、と音を立てて乳首を吸い上げれば。
小柄な体が小刻みに震えている。




「やっ……は、あっ、あっ……」




緩やかな愛撫に、悟空は焦れているようで。
縋りついて来る姿が愛しい。




「さんぞぉ……ふぇっ……」
「いつまでもガキみてぇに愚図ってんじゃねぇよ……」
「んっ…ふ……むぅ……あっ!」




下肢に膝皿を押し付けると、高い声が上がる。
そのまま擦りつけて、押し付けて。

いつの間にか、悟空がその動きに合わせて股間を擦りつける。


そのまま口付ければ、甘い嬌声は飲み込まれて。
口内を縦横無尽に荒らすと、息苦しい声を喉で鳴らす。
解放する事もせず、それどころか後頭部を押さえつける。

離してくれと言わんばかりに金糸を引っ張られる。
けれど、涙に濡れた赤い顔を見てしまえば。


もっと。

泣かしてみたくて。
壊してみたくて。


その顔が悪いんだと、勝手に結論付ける。



唇を離すと、悟空は必死になって酸素を取り込んで。
薄い胸板がはっきりと上下しているのが判る。


ふと、三蔵は机の上のものを思い出した。
そう言えば、来たら渡してやろうと思っていたのだ。
すっかり忘れてしまっていたが。

息を乱している悟空をちらりと見てから。
ベッドから降りて、机の上に置いた包みを開ける。




「さんぞぉ……?」




放置されたのかと不安になったのか。
おそるおそると言ったふうでこちらを見詰めている。




「口開けろ」
「? ……うん」




憮然とした三蔵の言葉に、悟空は素直に従う。
ぱか、と口を開けているのは鳥の雛のようで。
どうしても、小動物に見えてしまう。

それから前置きもなく、口内に指を入れると。
悟空が瞳を開いて、離れようとする。


が。




「舐めろ」




そう言うと、悟空は一瞬きょとんとした顔をして。
けれども言われるまま、舌を動かした。




「……ぅ…?」




気付いたのだろう。
其処からは一心に三蔵の指先を舐めている。

気まぐれに抜いてみせようとすれば。
無意識だろう、後を追うように舌が覗いて。
また口に含んで、音を立ててまで舐め取ろうとする。




「いつまでやってんだ」
「だぁってぇ……」




見ていて悪い光景ではない。
それでも意地悪く言うと、しょぼくれた仔犬のような顔。




「今の、なに?」
「どうだった?」
「どうって……なんか、甘かった」




もう一回、とでも言うように三蔵の服裾を小さな手が掴み。
ク、と喉の奥で笑うと、どう取ったのか、悟空が赤面する。

おもむろに顎を摘んで上向かせて。
なんの前触れもなく口付ければ驚いたような瞳が近くにある。
当然ながら、三蔵の口内には甘味が広がった。




「こんなもんよく食ってられるな、お前は……」
「ふえ? なにぃ……?」




いまいちよく判らないらしい。

そんな悟空に、机の上の箱を放り投げると。
悟空は慌てて、それをキャッチする。


箱の中身は、茶色いトロリと溶け込んだもの。




「………???」




くん、と悟空がにおいをかぐと。




「チョコ?」




確認するようにこちらを見てくる悟空だったが。
三蔵はベッドに座り、悟空と目を合わせない。

なんで? と言ってきた悟空だったが。
面倒になって、三蔵は教えるのを止めた。
気紛れだとだけ言うと、腑に落ちずとも追求は無かった。

ただ嬉しそうに、背中に温もりが当たり。




「……続き、やるぞ」




ベッドにもう一度押し倒した。




「あ、や、あぁっ!」




深く繋がり合えば、後は何も考える事はない。

速い動きに、悟空はついていく事が出来ずに。
三蔵の成すがまま、快楽の波に流されている。


最初は、声が漏れるのを恥かしがっていた悟空だが。
口を手で抑えようとして、逆に三蔵に掴まれて。
いつの間にか、その手は三蔵の背中へと回されている。

激しい突き上げに、さっきから三蔵の背も痛む。
多分、明日の朝にははっきりと爪痕が出来ているだろう。




「や、はや、いぃっ…んぁっ、あっ、あっ!」
「何言ってやがる……今更だろうが」
「あ、だめっ…あっん、はっふぁっ…!」




内部の肉は三蔵の雄へとしっかりと絡み付き。
抜こうとすれば、離すまいと締め付けて。
中へと突くと、驚くほどすんなりと迎え入れる。

そして、よくよく見てみれば。
悟空の秘所から漏れているのは、白い液だけではなくて。


流れ出ているのは、溶けきった甘いチョコレート。


潤滑油代わりとなっているそれは、更に雄を誘い込み。
痛みなどなく、快楽だけを呼び込んで。




「もっ…ダメ、さんぞ……っ…!」
「もう少し入れてみるか? これ……」
「や、だ、って……ばぁ…あぁん!」




繋がりあったまま、チョコを秘部に塗りつけて。
動かせば、雄と一緒に茶色い液体が出入りする。




「あっ、ああ…! やぅ、そこ、だめっ……!」




掠った箇所に、悟空の体が震えた。
其処がイイ所だというのは、よく知っていた。

一度剣を抜くと、悟空が不思議そうに見上げてきた。
が、三蔵が指をチョコレート塗れにして見せると。
真っ赤な顔をして、腰が逃げを打った。


が、当然ながら逃れられる筈もなく。




「やっ、ああ!!」




チョコレートに塗れた指が、悟空の秘所へと埋め込まれる。
そのまま掻き回し、イイ所をを中心に突付く。

たったそれだけで、悟空の体は面白いほどに反応を返す。




「だめ、だめぇっ…や…! お、かしく…な……はぁんっ!」




解放されようともがく足が宙を蹴る。
仰け反った喉に唇を寄せて口付け、痕を残す。




「はちきれそうだぞ、ここ」
「あっん! や、さわっちゃ…やぁぁん!」
「もう挿入れてもいいだろ」




指を引き抜いて、三蔵は怒張した自身を宛がう。
大きく育ったそれを見て、悟空はまた逃げようとするが。
その腰を掴んで、強く引き寄せた。

当然、そのまま怒張した雄は悟空へと侵入して。
三蔵は悟空の呼吸が整うのも待たず、性急に動き出す。




「あっあ! んぁ、はぁあんっ! いや、だめ、あぁっ!」
「駄目じゃねぇだろ……さっきから欲しがってたろうが」
「やめてぇ……あぁっ……ひゃぁん!!」




言って、大きく突き上げてやれば。
呆気なく、悟空は果てて。

三蔵も、その熱い中へと己の欲望を吐き出した。



















口移しで舐めさせたチョコ。
繋がりあったまま、さっきからそれを繰り返している。

三蔵は甘い洋菓子は好きじゃない。
けれど、悟空は美味しいものならなんでも好きで。
子供舌なのだろう、甘いものは大得意だ。




「でも、なんで急にチョコ?」
「……気紛れだって言っただろうが」
「む〜………」




三蔵が真面目に応えてくれる筈が無い。
判っていても、悟空は気になるらしい。

不満そうな顔をしていた悟空だったが。




「やっ!?」




前触れもなく、己の中を支配する雄が動いて。




「あまり煩いと、もう一回泣かすぞ」
「やっ、あ、それは……っあん!」
「っつーか、もういっそのこと寝んでいい」
「ちょっと待……ひゃぁ!」




悟空の言う事など、全く無視する三蔵の頬が。
いつになく朱を帯びているのには、悟空は気付かなかった。






















らしくない

それ位自分でもよく判っている



それでもふとした時に思い出す

いつも以上の間抜け面を
僅かに顔を赤くしながら言った台詞を







そして考えるからキリがない


嬉しそうに笑う、お前の顔を思い浮かべたりするから

………こんなことをしてるんだと













FIN.


後書。
参萬打企画にて、鈴さんより頂いたリクエストです!

『三蔵が悟空から貰ったバレンタインのお返しでチョコを上げる』というもので、Hアリでしたvv

すいません、リクにないチョコプレイまでしてしまいました(汗)


甘く甘くで頑張ろうと思ったんですが、どうでしょう?
裏は久しぶりに書きましたが、非常に楽しかったです(爆)

リクして頂いたのが二週間も前です……
お待たせしてすいませんっ!
リクは待たせないのが心情なのに(一時溜めてたけど(爆死))…


鈴さん、嬉しいリクをありがとうございます!

(日本語おかしくてすいません。
そしてぶっちゃけ、チョコプレイ楽しかったです
ああもう、こんな己は滅せよだ!!)



2005/02/27