絶対的捕食者




「駄目なんじゃなかったか?」
「ああぁっ!ぅん、イィ、ぃいよお……っ!」



駄目だというから止めたんだがな、と。
三蔵の言葉に、返事らしい返事はなかった。

激しい律動に弄ばれて、悟空はそれどころではなかった。
ギリギリまで引き抜いて、一気に最奥を突く、それを繰り返されている。
躯が折り曲げられるぐらいに腰を浮かされ、繋がった部分は恐らく悟空からも見えているだろう。



「っや、あ…やめちゃいやぁ……」
「最初からそう言えばいいんだ、よっ」
「あぅんっ!」



ずぐん、と怒張した己の雄を、三蔵は悟空の中へと穿った。



「ふ、ぅあ……ああん!は、ひ、あはっ……」
「限界みてぇだな……」



三蔵の言葉に、悟空はこくこくと頷く。

自由にされている両手でベッドシーツを掴み、躯を仰け反らせる。
長い大地色の髪が散らばって、顔立ちの幼さに不似合いな妖艶さが醸し出される。



「一回それ系の店で働いてみるか?それなりに稼げるだろ」



三蔵の言っている意味が、何処まで悟空に伝わって理解されているかは判らない。
それでも自分が何処か遠くに置いていかれ、其処でこの行為を知らぬ誰かにされると思ったのだろう。
悟空は小さく首を横に振り、三蔵に縋り付いた。

三蔵じゃなきゃ嫌だ、と。
消え入りそうな声で、悟空は確かに呟いた。



「当たり前だ、本気にするな馬鹿」
「っあ……!は、ぅんん……!」
「それとも、本気にして欲しかったか」
「や…、いや、いやぁ……っああ!」
「するなっつってんだろ」



悟空が言われた事を本気にするのは、いつもの事だ。
だからこんな言葉の戯れも、していて飽きないのだ。




「お前に触れていいのは、俺だけだ」




それは、逆も然り。

悟空を蹂躙していいのは、支配するのは、三蔵だけ。
三蔵に触れていいのは、その肢体を絡めてもいいのは、悟空だけ。


悟空にとっての世界は、それだけで十分過ぎる程に満たされる。



「判ってるな?」
「……あ、っは…あぁ…ん…」



喘ぎ声を黙らせるように、三蔵は深く口付け、舌を絡める。
互いにそうやって距離を近づける度に、繋がりが深くなって行く。

ごぷ、と繋がり合った隙間から蜜液が溢れ出した。



「俺以外にヤられたら、犯し殺してやる」
「っはっ、あっ、あっ、はぅっ」
「感じたりなんぞしたら、楽には殺してやらねぇぞ」
「ひ、は、ふぁあっ!ああっ、あっん、あひっ…」



悟空の細い喉に噛み付きながら、三蔵は呟く。
まるで肉食動物が兎を捕食しているような錯覚に陥る。

鎖骨から喉へとゆっくりと舐めあげ、所々で歯を立てる。
悟空はその感覚に背筋を震わせて、光悦とした表情を浮かべた。
喰われると言う恐怖感さえも、一種の快楽への入り口となっている。




「此処を見るのも」




脚を広げさせ、奥を突いて、場所を示す。





「此処に触れるのも」





躯を弄って手を滑らせ、胸の果実を摘む。




「お前の此処を食い尽くすのも……」




唇の形をなぞって、舐める。
ひくん、と悟空の躯が震えた。












「俺だけだ」










いっそ本当に食い尽くしてしまえたら、どんなに心地良いだろうと三蔵は思う。
目の前でまるで生贄のように差し出される、この四肢を食い尽くしてしまえたら。

けれど喰ってしまえばそれは一度きりになるから、面白くない。
何度も何度も繰り返して貪るのが良い。
一生傍に置いて、鎖で繋いで、縛り付けて、放さないのが良い。



「さ、んぞ…さんぞぉ……」
「なんだ」
「あっ、…あん、さんぞぉ…」



まるで親を呼んでいる子供のようだ。
聞こえている事を示すように金鈷に口付けると、熱の篭った瞳が向けられる。



「あ、のね…っん…」



おずおずと口を開く悟空に構わず、三蔵は律動を止めない。



「さ、んぞ、はね……」
「あ?」



卑猥な水音に混じって、途切れ途切れの悟空の声。
漏れる呼吸は熱を孕み、益々三蔵の雄を煽る。

悟空の呟く声は、睦言めいた音ではない。
子供が甘えているようで、情事の場面には酷く不似合いだ。
そのアンバランスさが堪らない。



「っあ……!」
「続きは?」
「あっあっ…ま、待って、ぇ…」
「却下。このまま言え」



激しい律動に意識を奪われて、悟空は言葉が紡げない。
それでも三蔵は、悟空が言うまで止めない。

伝えたい言葉はあるのだろう。
三蔵もそれを聞き流すつもりはない。
だが快楽に翻弄されながら、必死に伝えようとする姿がいじらしくて愛おしかった。



「う、ん…あっ……は、はぅっ…!」



言おうとして口を開けば、快楽による喘ぎ声が漏れる。
促すように唇を舐めると、悟空は一度、唾を飲んだ。



「さ、んぞぉ、はぁ……っは…」
「ああ」
「ず、と……ずっと…」



其処まで聞いて、三蔵は言葉を遮って口付ける。

悟空がこうやって切り出す時に言う言葉は、大体決まっている。
もう何度も何度も聞いたから、時折幻聴のように聞こえてくる事もある。


呼吸さえも奪うように、深く深く。
舌を絡めると、悟空は拙いながらにそれに応えようとする。
見た目の幼さの懸命さとは反比例して、悟空は貪欲に三蔵を貪ろうとしている。

そんな悟空の腰を掴んで固定し、抜き差しを繰り返す。
悟空は悶えるように首を振って、更に三蔵を受け入れる。



「…………っは…あぁっ!」



唇を解放すると、酸素を吸う前に喘ぎ声。



「だ、め…もうっ……がま…でき、ないぃ…っ…!」
「こっちはまだ足りないんだけどな」
「っあ…ぅ、あはぁっ…!」
「まぁいい」



言うなり三蔵は、己も絶頂目指して腰を動かす。
悟空の躯が一際強く震えて、促されるままに射精を果たした。

力をなくした躯を抑えたままで、三蔵も絶頂を迎える。
内部に己の熱を全て吐き出すと、その快楽に悟空の身が打ち震えた。



「さ、んぞ、の……」
「ああ」
「……好きぃ……」
「どっちが?」
「…どっち、も……」



良いながら悟空は、三蔵にキスを強請る。
この瞬間、悟空は実に幸せそうな顔をしている。

それに応えて口付ければ、三蔵の口元も自然と緩む。



「ずっと、ね……」
「判ってる」
「うん……」



ぼんやりとした表情ではあるけれど、瞳の奥の光は確かに残っている。
其処に映りこんでいるのは、目の前の金糸を持つ男だけ。
他の何者を映す事はない。

その事に優越を感じている。
他の何かを見つめることなど、あってはならないのだから。




「ねぇ、三蔵……」




三蔵の頬に両手を添えて、悟空は囁く。






「……もっと………」










奥まで先に食い尽くされるのは、どちらだろうか。



















腕の中に閉じ込めて


ただ一人だけを映して







何処かで誰かが言っていた、不確かな永遠など

信じては、いけない












だから捕食を繰り返し、繰り返し何度も食い続ける

永遠ではなく、常に繰り返して












FIN.




後書き