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締め付ける秘所に、雀呂は光悦とした表情を浮かべていた。

まさか此処まで、極上のものだとは思っていなかった。
貪れば貪るほど、悟空は鳴き喘ぎ、幼い躯は快楽に溺れていく。
何年も寝かせたワインを飲むより、この少年を貪り尽くしていく方がずっと気分が良い。


あの三蔵一行に寵愛された、純真無垢で穢れを知らない少年の躯。
まさかこんな所で失われるなど、きっと誰も思ってもみないのだろう。



……ああ、そうだ。



ふと、ちょっとした余興を思い立った雀呂だ。


この骨だらけの紅く暗い世界は、雀呂が作り出した幻術世界。
雀呂が言葉にし、相手が耳にした言葉は、それがなんであれ目の当たりに起こる事になる。

雀呂はこの世界の主で、この世界の創造者。
世界は創造者の意のままに動き、自然界さえ雀呂に服従する。
無論、それは脳が作り出した幻に過ぎないのだけれど。


幻であっても、きっとこれは気分が良い。




「やっ、あっ!あぁっ!あっ、はっ、あんっ!」
「少年、少し面白いことに付き合わないか?」
「な、ぁ!んぁっはっ、あ…ふ、ぅ…!」




奥を突き続けながら、耳元で囁いた。
息が吹きかかるのさえ、今の悟空には強い快楽になる。


まだ零れてはいないけれど、金色の瞳は透明な雫で濡れていた。

この表情がどんな風に変わっていくのか、想像しただけでも、下半身に熱が篭る。
体内でまたしても大きく膨らみあがったそれに、悟空は目を見開いた。



「何、お前はそのままでいれば良い」
「ひぃあっ……!」
「一先ず、その拘束は必要ないな。もう消えたぞ」



悟空の腰を掴んで揺さぶりながら、雀呂は言った。
途端に悟空の躯を拘束していた冷たい手が消える。
あちこちから聞こえていた低い呻き声も、それと一緒になくなってしまった。

しかし、悟空が雀呂から逃げる事は出来なかった。
動こうとすれば下部を突き上げる衝撃に浚われ、何より慣れない快感に溺れた躯にはまともな力なんて入らない。



「その代わり……」



片手で悟空の顎を捉えて上向かせる。
徐々に快楽に奪われつつある瞳の光に、あと一押しだと雀呂は確信した。

最初に思った、この光を艶めかしい色で染め上げること。
純真無垢な少年の躯を穢し、金の瞳を綺麗な涙で濡らすこと。
少年が自分の手の中に完全に落ちてくるまで、あと僅か。







「ほら、お前の大事な仲間がこっちを見ているぞ」






悟空が大きな金瞳を、更に零れるのではないかと思う程に開かせた。
まるで信じられないものを見るようにじっと雀呂を見た後、おそるおそる、後ろへと首を巡らせる。




「………あ……………」





骨の頭の山。
その中で、立ち尽くしている影が三つ。



此処は雀呂の作った幻術世界で、真実であるのは、自分と雀呂だけ。
それ以外は、先刻まで悟空を拘束していた冷たい腕だって全部、彼の言葉と自分の頭が作り出した幻術。
“ない”と思えばそれはこの世界の何処にも存在していない。

だけれど、僅かでも“いる”と思ってしまったら、それは其処に存在するのだ。
中身のない空虚なものであっても、視覚する程度には出来上がってしまう。


此処にいて欲しくないと思っていても。





「やだあっ!!」





雀呂の方を押して退けようとする悟空だが、まともな力なんて其処にない。



其処にいないのは判っている。
あれは、大好きな人達なんかじゃない。
綺麗な翡翠も、燃えるみたいな紅も、太陽に煌く金糸も、其処にはない。

だけど、同じ形をしたものがあって、ずっとこっちを見ている。


誰にも見られたくないのに。



「どうだ?面白いだろう?」
「やっ、あっ!いや、あぁっ!離せぇっ…!」



ずっと我慢していた涙が、頬を伝って地面に落ちた。


貫いたままで、悟空の躯が反転された。
頭を地面につけて、膝を立たされ、まるで貫かれて喜んでいるようだ。

悟空は地面に爪を立てて、額を擦り付けて唇を噛んだ。
最奥に熱で叩き突かれるたびに声が出そうになるけれど、手で口を覆い隠す。
幾ら目の前にいるのが幻だと思っても、無様に声を上げるなんて嫌だ。



「んっう、むぅっ……!」
「何を耐える事があるのだ、少年よ。俺様に此処までされて、お前は幸運なんだぞ」
「ふううっ…!む、や……ぅ……んんっ!!」
「此処まで俺に愛された奴は、いまだ嘗ていないのだからな」



此処までエグい事やったのも初めてなのか。
勿論、それを悟空が知る事はないし、聞けるような状態でもないのだけど。

嬉しくもない事を褒められて、噛んだ唇の端から血が流れた。



「ふむ……そうやって耐える様もまたイイが……」
「ん……ぅ、あっ!」
「やはりイイ声を聞かせて欲しいものだな」



悟空の躯を起き上がらせると、口隠す手を外させ、後ろ手に纏めてしまう。
それから雀呂は、空いた手で悟空の口の中に指を入れた。
強引に口を開かされては、漏れる声を隠す事は出来ない。




「あっ、あっ…あぁ…!や……やめ……ぇ…!」




悟空の言葉を聞かぬまま、雀呂は細い腰を引き寄せる。
浅い所から一気に奥まで貫かれて、悟空は弓形に背中を逸らした。




「や、だっ…!や…!な、なんか出るぅ……!」
「ほう、早いものだな」
「ひっいあっ!あはっ…!」




ずぷん、ぐちゅ、ずりゅっ。

初めての行為を激しくされて、悟空が耐えられる訳がない。
また二、三度躯を痙攣させると、勢いよく蜜液が地面に向かって放たれた。




「はっあっ!ああっ!もう、や、むりぃっ…!はなしてえ……!」




それにも関わらず、雀呂は更に悟空のナカを攻め立てる。
達したばかりで敏感になった躯は、先程の何倍もの強い快楽を悟空の躯に感じさせる。

喘いで開きっぱなしになった口の端に、血に交じって飲み込みきれなかった唾液が零れ落ちた。
金色の瞳が不意に前を向けば、いて欲しくない彼等が其処にいて、また涙が零れる。
下肢はドロドロに溶け出して、悟空の意志に反して、蹂躙する雀呂の雄を離そうとしなかった。


放ったばかりだと言うのに、悟空の雄はまた主張し始めている。
若い躯には、あまりにもこの快楽は強過ぎると言うものだ。



「ひっぐ…ぅ……あ……!!」
「さぁ、奴らに見せ付けてやろうではないか。俺達の愛をな」



雀呂は悟空の上半身を起こし、そのまま自分に向かって引いた。
抗うまでもなく悟空はそれに従い、その場に座った雀呂の上に腰を落としてしまう。




「あ─────っ!!!」




自身の体重とその勢いも加わって、またしても奥へと一気に貫かれた。


背面座位になって、悟空は雀呂に背中を預ける姿勢になる。
後ろから伸びた手が悟空の足を割り開き、白濁に濡れた秘部を曝け出した。

二人の前には、彼等がいる。
虚ろな彼等の瞳には何も映ってはいないのだろうけれど、悟空はやはり見られているような気がした。



「やだ、やっ…見るな…見んなあぁぁ……!」
「何を恥ずかしがっている?」
「だって…だって……あぁっん!!」



ぐちゅ、と貫かれた部分が音を立てる。



「見ない、で、おねが……あっ!んふっ、あっ!あぁっ!」
「見せ付けてやると言っただろう?」
「ぅぁんっ!やめ、やだぁ…!もう、許して……!」



何に対して許しを請うているのか、悟空にさえ判らなかった。
ただこの拷問のような責め苦から逃れたくて、無我夢中で懇願するしかない。

だがそうやって懇願する姿は、雀呂の支配に置かれるだけ。
泣き出した少年を見下ろす雀呂の瞳は最早尋常なものではなかった。


く、と雀呂の表情にも僅かだが苦悶が見え隠れするようになった。
絶頂が近い────けれども、やはり悟空には判らないのだ。
それを促す為に激しく揺さぶられたのでは、もう何も考えられない。


雀呂は悟空の顎を捉えて、真っ直ぐ前へと固定させた。
彼等の影が見えるように。

悟空は彼等の影を見たくなくて、ぎゅっと強く眼を閉じた。
だがそれでも“其処にいる”感覚だけは拭い去れなくて、涙が零れる。




「さぁ、少年……最後に思い切り、俺の愛を注いでやろう」




光栄に思え。
二度目の台詞だ。


じゅぷ、ずぷ、ずっ、ぷつっ。

響く卑猥な音に、悟空は喘ぎ声を漏らすだけ。
また蜜が漏れ始め、ただただ開放されることだけを願って待つ。



「あっやっ…いやっあ…!あぁっ…!はっあんっあっ!」
「やはり可愛いな。俺が見初めただけの事はあるものだ」
「もう、や…やめて……ぇ…あぁあっ……!!」
「ああ、もう終わりだ。これをお前に注いでやったらな……」



体内を抉るものから、何かが漏れていた。
熱を含んだそれは、益々悟空の思考を奪っていく。

どろり、と悟空の幼い剣から蜜が溢れた。





「もう…あ……やぁああ──────っ!!!」





吐き出すと同時に、注ぎ込まれたもの。

そして悟空は、意識を手放した。












































「─────ぅ……猿……悟空っ!」





呼ぶ声に、ゆっくりと意識が浮上する。

目を開ければ眩しい光が下りてきて、目を細めた。
すると光を遮るように影になって覗き込んできたのは、燃えるみたいに真っ赤な紅。


……悟浄だ。



「やっと起きやがったな、このバカ猿」



呆れたように呟く悟浄だったが、見下ろしてくる瞳の色は優しかった。

のろのろと起き上がるとあちこちが痛んで、顔を顰める。
目敏くそれを見つけた悟浄に大丈夫かと聞かれて、悟空は小さく頷いた。



「どんだけ探したと思ってんだよ」
「……え?」
「遠くに行くなって八戒が言ってただろうが」



言われて辺りを見回せば、見覚えのない場所だった。
僅かに記憶から浮上した印のつけた木を探してみるが、何処にも見当たらない。
それ所か、自分はこんな場所を歩いただろうかとさえ思う。

記憶にある風景は、木漏れ日もない薄暗い木々の中で、何時の間にか川さえ見えなくなっていた。
なのに今目の前にあるのは、一転して、自分が迷うまでずっと歩いていた場所と大差ない光景になっている。


夢でも、見たのだろうか。



……あんな性質の悪い夢を。





「おい、悟空?」




思い出した途端に、血の気が引いた。

あんな事を現実にされただなんて、思いたくもない。
夢でも見たくないけれど、せめて夢だと思わないと気が狂いそうだった。


常と様子の違う悟空を見て、悟浄は小さく息を漏らした。
言葉をかけないままで頭を撫でてやると、小さな肩が僅かに跳ねた。
それに眉を顰めつつも、気付かない振りをしてくしゃくしゃと少し乱暴に掻き撫でる。



「じゃ、帰るぞ。あいつら今すっげー殺気立ってんだから、急がねえと」
「ん……ちょっと、待って」



立ち上がった悟浄に続いて、悟空も緩慢な動作で立とうとする。
しかし。





「………あ…?」





中途半端な姿勢から進めなくなった悟空に、悟浄は溜息を吐く。
全く手間のかかる奴だな、と軽口を叩きながら。



「変な寝方してやがるから、そういう事になるんだぜ」
「な……オレは別に」
「ほら、負ぶってやるから暴れんじゃねぇよ」



言いながらすぐ前で屈む悟浄に、悟空は文句の口を噤む。
広い背中に体重を預けると、悟浄は重さなど感じないようにあっさりと立ち上がった。

じっとしてろよ、と言いながら、悟浄は歩き出す。





なんだか、酷く疲れた気がする。
何故かなんて知らないけれど。






背中に縋り付く存在が漏らす声を、悟浄は気付かないふりをした。





























笑いかけてくるその瞳は



例えば泣いたらどんな風に光るんだ?







いつも真っ直ぐ見つめるその瞳は



例えば泣いたらどんな風に揺らぐんだ?










それでもまだまだ、暴き足りない















FIN.




後書き