humanbeings crazy









着せ替え人形されただけでなく、今日はあれこれと堅苦しい話を聞かされた。
成人を前にする最後の聖誕祭に向けての心構えだとか、中身があるようなないような、そんな話。
隣に一緒にいてくれた捲簾は堂々と欠伸をして、頭の固い執事長から怒鳴られていた。

悟空も聞いていたのは最初の出だしぐらいで(それも30分は続いた気がする)、もう何を言われたかなんて欠片も残っていない。
とにかく早くこの詰まらない時間が終わらないだろうかと思っていたぐらいで。


終わってようやく解放されて、最初に向かったのはやはり此処────暗い暗い地下牢。
蝋燭の頼りない明りしか存在しない、けれど何より大好きな場所。





金糸のケモノがいる、冷たい牢。




本当は駆けて行きたいのだけど、まだ腰が痛い。
だから壁伝いにゆっくり行くことしか出来なくて、それがもどかしかった。

早くあの金糸に触れたい、触れて欲しい。
湧き上がる熱を誤魔化すことなんて出来なくて、悟空は自分の体を抱き締めた。
思考回路を全部奪っていかれて、悟空の瞳の理性の光が薄れていく。



誰も知らない、金糸のケモノ。
自分だけが知っている、金糸のケモノ。


ケモノの手は普段は少し冷たいけれど、行為を始めると熱くなる。
少し乱暴なきらいがあるけれど、決してそれは痛めつける手段にはならない。
少し厚めの唇は、重なると直ぐに悟空の力を全て奪い去ってしまう。

それを知っているのは自分だけ。
他の誰も、金糸のケモノがそんな風に触れるなんて知らない。


そう思ったら、少しだけ、高揚するのが判った。



………名前は、知らない。
前に一度聞いたけれど、教えて貰えないまま、行為に流されてしまったから。

きっとそれが最後の砦なんだろうと思う。
自分は名前を教えたけれど、ケモノは今までに一度だって悟空の名前を呼んだ事はなかった。
呼んだらきっと辛うじて保たれていた均衡が全て崩れ去ってしまうと彼は知っているのだ。


でも、悟空はそれでも構わないから名前を呼んで欲しかった。
教えてくれたら一生忘れることなんてないだろうし、絶対に墓まで持っていく。
ケモノが持っているものなら、ケモノを指し示すものなら、なんでも。

今教えて欲しいといったら、今度は教えてくれるだろうか。
ケモノも自分と同じだったら、きっと教えてくれると思うのだけど。



その瞬間に全てが壊れてしまったって、構わない。





最後の角を曲がったら、いつもと同じように金糸のケモノは格子に背中を向けていた。
そしてゆっくり振り返り、金瞳と紫闇が交錯する。

駆け出したかったけれど出来なかったら、悟空はゆっくりと格子に近付いた。


昨日と何も変わらずに格子に手をかけると、ケモノの手がそれと重なった。
見上げれば深い紫闇に射抜かれて、悟空は見えない鎖に絡み取られるのを感じていた。
その瞳に見つめられるのが心地良くて、悟空はうっとりと光悦した表情を浮かべる。

また、ケモノもその金瞳が自分に向けられるのが何よりの悦びだった。
顎を捉えて口付ければ、覚束無いけれど応えようとする下を捕らえ、更に深く交わる。



「あ……っは…ん…ぅ……」



口付けたまま、ケモノの手が悟空の下肢に触れた。
その手に悟空は股間を押し付けて、緩い刺激に酔う。



「ふぅんっ……ん、んん…ぅ……」
「ん………」
「っ…あ……ん……!」



布越しに穴を指先で刺激される。
グリグリと押し付けられるそれに、悟空は躯を震わせて喘ぐ。

唇を解放されても呼吸を整える間もなく、ケモノは悟空の足を抱え上げた。
ズボンのベルトを外されてずらされ、勃ち上がった幼い肉棒が顔を出す。
ひんやりと冷えた外気に晒されて、熱を持った悟空の体は寒さに震えた。



「キスだけで勃たせてんのか」



昨晩あれだけ激しい情交をしたのに、悟空の若い躯は疲れなど知らぬようだ。
男を覚えた躯は与えられる刺激に従順で、ケモノに暴かれることを厭わない。
もっと淫猥な躯にしてやろうかと囁けば、未知のものに怯えるどころか、悟空の躯は悦ぶように戦慄いた。


最初は痛がっていた行為も、続けていく内に痛みよりも快楽が勝るようになり。
痛みで萎えていた幼い肉剣は後ろからの刺激だけでも達するようになった。

まるでオーダーメイドのように仕上がっていく甘美な躯を、ケモノは差し出されるたびに貪り尽くす。


悟空もまた、ケモノに言われるがままに快楽を得る事に覚えれていく。
その場に彼がいなくても、きっと今は思い出すだけで躯は快楽を思い出すだろう。

ケモノがどんな手付きで触れてくるのか、自分の何処をどんな風に突き上げてくるのか。
躯に覚え込まされた熱は何よりも鮮やかで、けれど誰にも知られてはいけない。
理性と背徳感の狭間で得る止め処ない快楽に勝るものなど何もなかった。


そう、例えばきっと、それが父であるとしても。



「余計な事考えてんじゃねえよ。そんな暇ねぇって判ってんだろうが…」
「────っあ……!!」



長くて綺麗な指を秘部に突き立てられ、悟空は目を見開いた。



「昨日のモンは残ってるか……?」
「…っは…あ!だ、だめ……!かき、まわさな……」
「確認だ」
「んぁっはぁあん!」



ぐちゅり、と音がして、ケモノの指が悟空の内部を掻き回した。
そのまま続けて掻き回されて、悟空の躯がびくびくと跳ねる。



「あっああっ!あん、っはっう…!」
「緩んだままだな……あれだけヤったんだから仕方ねえか」



喘ぐ悟空の非難の声など気にせず、ケモノはぐちゅぎちゅと内部を掻き分けていく。
昨日の情事の色を幾らか未だに残したままの悟空の秘部は、それを甘んじて受け入れていた。

しかし向かい合ったままの格好では、どうなっているのか触診しか出来ない。
別にそれだけでも悟空の喘ぐ顔が見えるのでケモノも構わなかった。
が、止めて欲しいと哀願するその顔に刺激されるのは、サディスティックな部分で。



「判り難いな……」



言うなり指を引き抜いて、ケモノは悟空に背を向けさせた。

途端に冷えた熱に、悟空は物足りなさを感じて肩越しに振り返る。
すると、ギラついた光を宿した紫闇に囚われた。





「下全部脱いで、四つん這いになってケツ向けろ」





憮然とした態度のまま告げられて、悟空は頷いた。

少しでも理性が残っているなら、まともな思考回路が残っているならば、異常だと判るだろうに。
いや、判っていても悟空はきっと拒絶する事はなかっただろう。
この金糸のケモノに対して“逆らう”という言葉など無駄なものでしかない。


ズボンも下着も脱ぐと、悟空は言われるまま、四つん這いになった。
昨日の晩の情事の時と同じ姿勢に、悟空は昨晩の熱を思い出して頬を紅く染めた。

つぷん、と指が差し込まれる。



「っあ…ん……あぁっ!!」



二本目が差し込まれたと思ったら、左右に引っ張られて穴を広げられた。



「あ…や…っひ、あ!あんっ…は、あぁ…っ!」



広げられた穴の中に指が侵入して行く。
奥に残ったままの昨晩の残骸に、ケモノが笑ったのが空気の振動で判った。

掻き回されて、悟空は掴むところなどない床に爪を立てた。
昨日の情交の名残を残したままと実感させられて、羞恥と快楽が同時に迫る。
どちらに流されきる事も出来ずに、悟空は身悶えた。



「今日一日、このままだった訳か」
「うっん……あぁっ!は、あひっ……や、ぁあん!」
「何してたのか知らねぇが、よく我慢できたもんだな、コレで」



溢れるほどに注ぎ込まれ、それを残したままで疲労感に促されるまま眠って。
風呂には入ったけれど未だに一人で処理が出来ない悟空は、内部にそれを残したままだった。

日中に詰まらなかったあの時間、時折下腹部に違和感を感じていたのはこれだったのだろう。
こんな事に時間を使うぐらいなら、金糸のケモノの傍にいる方が良い。
そう思った瞬間に蘇った熱を思い出して、悟空はかぁっと紅くなった。



我慢していた訳じゃない。
本当は、ずっとずっとこうしていたい位だった。



それを言おうとしても、抜き差しをする指に遮られる。
口を開けば漏れるのはあられもない喘ぎ声ばかりで、ケモノはそれを見下ろして満足そうに笑う。

格子の向こう側で笑うその顔を、もっと近くで見れたら良いのに。
四つん這いのまま肩越しに金糸のケモノを見上げながら思う。


ぐちゅぐちゅと掻き回された秘部から、昨日の名残が溢れてきた。
ケモノが指を抜けば隙間から零れていき、太股を流れて床に落ちる。



「…あ、あぁ…っ……ん…っはっ、あっ……!」



掻き出そうと何度となく内壁を擦られ、悟空の足がピクピクと震えた。

もう名残なんてそのままで良いから、突き立てて欲しい。
浅ましいそんな考えが過ぎって、悟空は金糸のケモノに手を伸ばす。



「……なんだ」



ちゃんとそれを判ってくれて、金糸のケモノは眉根を寄せて尋ねた。



「……も…欲し……欲しいよぉ……」
「処理中だ、我慢しろ」
「む、りぃ……ね、いれ、てよぉ…」



素っ気無くされても、悟空は引き下がらない。

のろのろと上半身を起き上がらせると、腰を引いてケモノの手から逃れた。
その瞬間にちゅぷっと入っていた指が抜けていって、悟空は身を震わせる。


格子の縋りながら足を開けば、既に限界まで膨張した幼い雄が天を突いていた。
自ら秘部を晒して強請る子供に三蔵はクッと笑い、顎を捉えて唇をゆっくりと舌でなぞり舐った。

その時、チャラ、と金属音が悟空とケモノの鼓膜に届く。
音の発信源は悟空の右耳で、其処にはいつも付けていない金のイヤリングがあった。
他にもブレスレットやチョーカー等、普段は悟空自身あまり好きではないアクセサリが蝋燭の灯りに照らされていた。



「……なんだ、こいつは」
「…え……?」



揺れるイヤリングを手にして言っても、悟空には見えないからなんの事か判らない。
何故かそれに苛立ちを感じて、ケモノは力任せにイヤリングを引っ張った。

短い悲鳴の後、それは三蔵の手の中に収まった。



「これは、なんだって聞いてんだ。答えろ」
「────や、んっ!」



空いている手で悟空の肉棒を掴んで、ケモノは詰め寄った。
急に強い力で戒められて、悟空は躯を跳ねさせ、震えながらケモノの手の中のものを見た。



「……あ…ん、はっ……そ、…それ…は……っ…」
「言え」
「言、う、言う、から…離し、て……」
「言ったらな」
「ひ、あ……っ!あ、あ、っんはっ……!」



そのまま悟空の中心を扱く。
イヤリングを突きつけるように見せれば、悟空は必死で言葉を紡ごうとした。



「それ…っ、こんど、の…まつりで……つけ、る、って……あっ!だ、だから…っはぁっ……!」



控える聖誕祭の日の服装の一つが、ようやく今日決まった。
着せ替え人形の時に着せられた服は終わった時に脱いだけれど、アクセサリはそのままにされた。
滅多にしないイヤリングが痛くて外したかったのだけど、慣れる為にと言われて。

普段はつけないアクセサリを身につけているのは、全部その所為。
外してしまうと頭の固い執事長とかが煩いから、そのままにしていた。


それをどうにか話した終えた時には、悟空は既に臨界点を越していた。
焦点の合わない瞳でケモノを見上げ、解放して欲しいと熱の籠った瞳で訴える。

けれど、ケモノが悟空を解放する事はなかった。





「………気に入らねえな」




短く呟くと、ケモノはじっと睨むように手の中のイヤリングに視線を落とした。

それから戒められてイケずに悶えている悟空を見下ろし、口角を上げる。
暴れる熱を放出できずに半ば放心していた悟空が気づいた時には、もう遅かった。



「あ……やっ!な、なに、して……!」



ぎち、と何か固いものに戒められるのを感じて見下ろせば、円形のイヤリングが悟空の肉棒を閉ざしていた。



「今日はこのままヤってやる。イカせねぇから、覚悟しとけ」
「そ、んな……あぁんっ!!」



予告もなく、ケモノの雄が悟空を貫いた。
それだけでイキそうだったというのに、戒められた所為で熱が逆流してくる。
悟空は両方の熱に流されて、声にならない声を上げた。

ケモノはまた今日も格子越しに悟空の腰を掴んで、がくがくと揺さぶった。
昨日に比べれば大人しい突き上げだが、既に昂ぶっていた悟空の躯には責め苦のようであった。



「やっあっ!イ、くぅ…イカせてぇ……!」
「却下。こんなもんつけてきてんだからな……」
「な、なんで、怒って……あぁっ!は、あ、あぁ…!」



限界まで我慢させられた事はあったけれど、こんな風に扱われたことはなかった。
戒めるリングを外そうとしても、伸びた腕がそれを捕らえて許してくれない。



「や、いやっ……あ…!はぁあんっ!出ちゃう、で、出させてよぉ!あ、あんっあっ!」



何度懇願しても、ケモノは聞き入れてくれなかった。

揺さぶり、突き上げ、その上で更に射精を促すように悟空の肉剣を刺激する。
その癖、決してイかせてくれる事はなく、自分の熱ばかりを悟空の体内に吐き出した。








それでも、何処かで幸福を感じる自分がいる事を、悟空は知っていた。
































重い躯を引き摺って、どうにか地下から上がることが出来た。
長い廊下の窓から、星空が見える。
地下に入ったのはまだ夕方だったのに、どうやら日付はとうに変わっていたらしい。



最終的にはやっぱり優しかった。
だから悟空はうっとりとした表情で、その星空を見上げていたのだ。

躯が悲鳴を上げていない訳がない、辛くなかった訳がない。
けれど悟空はそれを補って余りあるほど、あの金糸のケモノに囚われていた。


だから今日もいつもと同じように、“明日も来るね”と言った。
返事はなかったけれど聞こえているだろうと思ったから、そのまま地上に上がってきた。

本当は、地上に戻るのだって嫌だ。
暗くて狭くて冷たい場所は昔から苦手だったけれど、きっと金糸のケモノと一緒なら平気だと思う。
だからずっとあそこにいたいのだけど、暗闇に紛れた金糸が帰れと言っているようだったから……


そして朝が来て、また此処に来たら、あのケモノは抱き締めてくれる。
それだけで今は満足だった。




しかし、それは一つの声に打ち壊される。





「─────悟空」




びくん、と不自然なほどに自分が肩を跳ねさせたのが判った。


血の気が引いていく。
でも、振り返らなかったらもっと不自然になる。

けれど振り返るよりも先に、肩を引っ張られて声の主がすぐ間近にいたのだと知った。



父親、だった。





「話がある。来い」
























何もかも壊すことが出来たら











お前は俺だけのものになるのだろうか


















FIN.




後書き