カタチニナイオクリモノ



一頻り荒い呼吸を繰り返した後、悟空はもぞ、と躯を捩った。
すると穿たれたままの三蔵の雄がぴくっと反応し、内壁を擦る。



「っん……!」
「…動くな、バカ猿」
「じゃっ、抜いて、よ…ぉっ……」



うー、と涙で滲んだ目で見上げれば、また大きくなる三蔵の雄。



「も、バカっ!!」
「てめぇにバカ呼ばわりされる筋合いはねぇよ」
「だって……ひゃ、うっ!」



ぐっと腰を引き寄せられれば、擦れる内壁と雄に当然悟空は感じてしまう。

悟空の文句を封じ込めようとするように、三蔵は再び律動を始める。
三蔵よりもまだ呼吸が整っていなかった悟空は、酸素を求めるように繰り返し口を開閉させた。
その合間に漏れる喘ぎ声を隠したくても、見下ろす三蔵の瞳がそれを赦さない。


達した直後で敏感になった躯は、僅かに三蔵が身動ぎするだけの刺激にも反応する。
出したばかりである筈なのに悟空の雄は三度目の勃起を始めていた。



「あっ、あうっ、あんっ!やっ、あっあっ!」
「悟空……っ」
「ひゃ、あんっ!だめ、さんぞっ…あ、ふぅ、んっ」



突き上げられる度に、内部で吐き出された熱が掻き混ぜられて卑猥な音を立てる。


三蔵が背中にチリッとした痛みを感じ、眉根を寄せた。
羞恥と快楽の強さに耐え切れなくなった悟空の、ささやかな抵抗。

それに腹が立った訳ではなかったが、意趣返しに両足を肩に乗せて持ち上げる。
小さな躯は柔らかく、多少の無茶では痛みを伴わないのを利用して、三蔵は悟空の躯をくの字に折り曲げる。
そうすると悟空からも繋がった箇所が見えて、悟空は“見られている”“見ている”という感覚に息を詰まらせた。


意識しての事ではないとは言え、息を詰まらせれば内壁が締まる。
まざまざと感じさせられる三蔵の雄の形と、目の前に迫る結合部。

本来受け入れる筈ではない、吐き出す為だけの其処からは、濃い白濁の液がこぽりと溢れ出していた。
天を突き出している己の中心部からもまた白濁は溢れ、穴から漏れるそれを混じって絡み合う。
眼前の光景があまりにも卑猥で、背徳的に見えた。



「や、あ…三蔵、だめぇ…や、めてぇ……」
「駄目、なんて聞くかよ」
「だ、って…だってぇ……恥ずかし……」



片手で目元を覆う悟空だが、指の隙間からは相変わらず卑猥な光景が覗いていた。



「も、なんで…いじ、わるぃよ、お……っあうっ!」



結合部を目の前に見せたまま、三蔵は律動を始める。
抽出を繰り返すそれを、悟空は見たくないと思いながらも見てしまっていた。



「さんぞぉ…あっ、んあぅ、も、死ぬぅ…!恥ずかし、くて…んっ…死んじゃうよぉ…っ!」
「いいじゃねえか、腹上死。河童じゃねえが、お前とだったら俺は構わねぇが?」
「んなっ…あんっ!旅、どうす…ぁっあんっ!」
「あ?余計な事を今考えるなよ………」
「だってっ……ひゃっあん!あんっ、ぅ、だめっふあぁっ!」



ウィークポイントを的確に突き始めた三蔵に、悟空は思わず縋りついた。



「やっ、だめっああっ!あんっ!あ、んはっ!はぁ、うっ!」



先刻と同じように、三蔵は悟空の腰を掴むと、自分の律動に合わせて揺さぶった。
上から全体重をかけてプレスするように突かれ、悟空は最奥を何度も穿たれる。

開きっぱなしの口端から唾液が漏れて、三蔵はゆったりとそれを舌で舐め上げて行く。
涙に濡れた瞳のすぐ上を舌でなぞれば、ふるっと小さな躯が震えた。
肩を掴んだ小さな手に僅かに力が篭る。


三蔵は悟空の頬を両手で包むと、深く深く口付けた。
そのまま律動を早めれば、上ずった声と呼吸がキスの隙間から漏れて聞こえる。

トロトロに解けた悟空の内壁は、最早痛みなど感じさせることはない。
追い上げられ、突き上げる三蔵も同様に高みへ追いやろうと締め付けていく。



「んっんっ、ぅんっ…んぅ……んんっ……!」
「っは……悟空…ん……」
「…ん、んぅっ!ん、さんぞ、あ、はんっ!ふぅっ…!」



酸素不足の所為だろう。
熱に浮かされているだけでなく、悟空の瞳がぼんやりとしたものになる。

それでもしがみ付く手の力は、当たり前の事のように緩むことはない。
角度を変えて口付けては咥内を蹂躙する三蔵の舌に、拙いながらも絡んで応える悟空の舌。
秘部からは引っ切り無しに水音が聞こえ、二人の鼓膜さえ犯していく。


口付けを止めてゆっくりと解放すれば、てらりと光る銀の糸が名残のように引かれる。
解放したというのに悟空はもっと欲しがるように、三蔵に見せて舌を出す。
ぴちゃ、とその舌をなぞると悟空は光悦とした笑みを浮かべた。

その笑みが、その表情が、常の幼いものとは一線を隔したものであるからこそ、惹かれる。
もっと自分の見ていない顔があるんじゃないか、と三蔵に思わせるから。



「……見せろよ、悟空」



囁くと、悟空はよく聞き取れなかったのか、不思議そうな顔で三蔵を見上げる。




「全部、持っていっていいんだろ」




悟空の耳元で囁く三蔵の声音は低く、情交の深さを物語る。
そして、まだ離してやるつもりはないのだと言うことも。



「さ、んぞ……」
「お前がプレゼントなんだろ?」












昨日探すことが出来なかったからと、夜中にこっそり、悟浄を伴って宿を抜け出していった悟空。
夜間の外出は三蔵と八戒によって口酸っぱく禁止されていたにも関わらず、だ。

最初は勝手な外出に腹を立てた三蔵だったが、理由を聞いて────否、その前から既に怒る気は失せていた。
一晩外を好きに歩いて満足していただろうと思っていたら、部屋に連れ帰るまでに子供のように泣き出した。
頭の隅で悟浄が何か吹き込んだのかとも思ったが、どうにもそれは宛が外れた気がした。


部屋に連れ帰って、それまで以上に泣き出した悟空を宥めて数十分。




今日が、自分の生まれた日であると悟空に言われて思い出した。




師がいた頃から、三蔵にとって今日と言う日が別段これと言って特別であった訳ではない。
それでも亡き師や唯一気の知れていた師範代の男が今日と言う日を喜ぶ事を無碍にする事はなかった。
その頃まだ三蔵が幼かったという事もあるが、悪くはないと思う日は確かにあった。

師が逝ってから二度とそんな日が来ることはないだろう、と思っていた。
今日と言う日に限らず、二度と来ないものだと。


それを打ち壊したのが、悟空だった。
何が切っ掛けだったかは忘れたが、今日と言う日が三蔵の誕生日だと教えてやった。
以来、今日と言う日を悟空は本人以上に待ち侘びていたものだった。

当日になればプレゼントだと言って、花や形の綺麗な小石、自分で描いた下手くそな絵を渡しに来た。
その姿にやはり子供だなという呆れと一緒に、
ささやかながら幸せというものを感じるようになるまで時間はかからず、いつしか毎年の風景となった。



今年は旅の最中で、日頃の日付感覚も酷く曖昧になっていた。
昨日になって思い出した悟空は、昨日中に三蔵に渡せるものを探しておきたかったのだろう。
しかし口酸っぱく外出禁止を告げられた為、叶わなかった。
買い物は悟浄と八戒が二人で済ませてしまい、一人で外に出てバレれば何を言われるか。

だからと言って昼間より危険な夜に一人外出しようとした事は赦されないが、
贈れる物が見つけられなかったと泣きじゃくる子供を叱る気には、なれなかった。


もともと、些細な贈り物をするのが精一杯だった悟空だ。
八戒の買い物の手伝いをして、寺院にいた頃よりも幾らか小遣いは増えているだろうが、やはりたかが知れたもの。
それで悟空の買えそうなものなんて、やはりお菓子や三蔵愛用の煙草が一つ程度。

寺院にいた頃からそれは判っていた三蔵だ。
妥協しようとしなかった悟空が何も渡せるものがない、と言うのも無理はないと判った。



それでも悟空が、どうしても祝いたい、と言うから。




それならお前がなれ、と三蔵が言って。
悟空がそれに応えたから。












「全部あげるってお前が言ったんだろ」



少し前に自分が言ったこと。
改めて三蔵に聞かされて、悟空は顔を真っ赤にする。



「言…った……けど……」
「じゃあ大人しくなってろ」
「…でもっ…ん…っ!やっぱ、激しいっ…あ…っ!」



言葉が終わる前に再開される律動。


自分で応えたのだと言っても、やはり激しい揺さぶりは辛いものがある。
だが今それを言った所で、目の前の恋人が解放してくれる訳もない。

─────それに。



嬉しいと思うのは、確かで。



ぐち、じゅぷ、と聞こえる音。
激しく上からプレスをかけられて、悟空は呼吸を圧迫される。
それでもキスが降れば心地良くて、うっとりと目を細める。

自分で言った台詞を、向けた当人に繰り返し言われてしまえばぐうの音も出ない。
何より口では嫌だ、駄目だと言っても、結局は拒めないのだ。



「やっは、あっ!あん、あうっ!ひ、はぁっ…あぁっん!」
「そう、やって…全部見せろよ…悟空……」
「はぅっ、あんっあっ、あぁ!ふ、かいよぉっ…!」



悟空の頬に手を添えて、固定して。
三蔵は真っ直ぐに悟空を見つめ、逸らすことを赦さない。



「目を閉じるな。全部だ…全部見せろ」
「あっう……!あんっ!はぁっ、は…はぁあっ…!」
「全部曝け出せ、俺だけに……」



囁く三蔵の声が、悟空の鼓膜を性感帯の一つに変えていく。
舌で嬲られている訳でもないのに、耳から脳まで犯されていくような気がする。

隠れることを赦されなくなった金晴眼は、己を組み敷く男のみを其処に映し出す。
その向こうの天井が明るくなっていることなんて、もう欠片も気にならなかった。
窓から差し込む陽光がどれだけ強くなっているかなんて、どうでも良い。


悟空の濡れた金色の瞳に映り込んだ自分の姿に、三蔵は確かに満足感を覚えていた。
その金に輝く二つの宝石さえも、自分だけのものに出来たような気がしたから。

今この時、互いの瞳に映り込んでいるのは、それぞれの目の前の存在でしかない。
神経細胞全てを目の前の存在だけに傾けて、周りなんてもう見えない。
否、見えないなんてものじゃない、認識さえする事はなかった。



「イく時の顔、見せろよ」
「もっ…何回、も、見た…じゃんっ……!」
「何度だって見たいんだよ」



何度だって見てきたその顔が、見るたび些細だけれど違うとは言わない。



「今日は俺の言う事聞いてろ」
「っは、う…あんっ!あぅっ、あっ、あ、はぁあんっ!だ、めぇっ!」



いつも聞いてるよ、という文句は、悟空の口から出る事はなかった。
言おうと思って口を開けば、タイミングを見計らったように突き上げてくる。
結果、悟空の喉から出てくるのは妖艶な声ばかり。


飲み込みきれなかった悟空の唾液を舐め取って、それに感じた悟空が強請るように舌を覗かせる。
其処に三蔵が己の舌を絡ませれば、どちらともなく深い口付けを交わした。

止まない律動に悟空の熱ははちきれんばかりになり、その内部でも三蔵の雄は更に張り詰めていく。
内壁の締め付けを擦り掻い潜りながら、三蔵は奥へ奥へと進む。
留まる事を赦さない突き上げに、悟空は絶対にいつかこれで自分は殺される、と頭の隅で思う。

そうしたら、また締め付けた。



「あっああん!」
「つっ……ったく…何考えてやがんだ、淫乱猿」
「はぅ、んっ!あ、あ、そこ、だめぇえっ…!」



最奥を穿ちながら、三蔵は片手で悟空の勃起した幼い雄を刺激する。
油断していた前からの刺激に悟空は声をあげ、子供がいやいやをするように頭を振った。

余計な事を考えたお仕置きとでも言うように、三蔵は悟空の尿道に指を差し込んだ。
外側を扱かれるのとも、後ろからのものとも違う圧迫に、悟空はびくりと跳ねて目を見開く。



「そ、それはっいやぁっ!だめ、おねがっ……あぁっん!」
「そういやぁ、昨晩の仕置きも兼ねてんだったな……」



昨晩、勝手に宿を抜け出した悟空。
悟浄が一緒だったなんて言い訳は最初から不可。
その躾のし直しをしなければ、と三蔵は思い立つ。

楽しそうに薄らと笑む三蔵の笑みは、なんともサディスティックなもの。
悟空からしてみれば死刑判決に似ていて。



「も、もういいじゃんっ!これ以上、は、オレっ……ひぁあ!」



ぐり、と尿道に差し込まれた指が内部を擦る。
悟空はぎゅっと強く目を閉じ、圧迫感に耐えようとするが、感じるそれは並大抵のものではなく。




「やっ、死ぬぅ…!死んじゃうよぉっ、さんぞぉお……!」




理性だの本能だの、そういう次元の問題じゃない。
このまま頭のネジの二本や三本は吹っ飛んでいきそうだった。

けれど、三蔵は笑って。






「言っただろう?お前相手なら、腹上死したっていいってな」





このまま、繋がり合ったまま。
一番奥まで繋がったまま。

逝ってしまったっていい。









「貰ってやるよ。お前の躯も心も、命も全部」














その身に宿す、想いと一緒に。




































全部、全部持ってって




心も体も気持ちも全部













此処で生きてる理由も全部
















FIN.




後書き