The false world





「あっああぁっ!焔ぁああ………!!!」




悩ましい声をあげ、悟空は肉壁を押し広げていく熱に身悶える。
大きく広げられた脚の間で、幼い悟空の熱も伝染したかのように再び勃起した。

ゆっくりと確実に埋め込まれていく禊に、悟空は身を震わせて声を上げた。
あられもない姿で啼く悟空の痴態に焔は昏い笑みを浮かべ、目尻に浮かんだ雫を舐め取る。
首に絡んできた腕にキスを強請っていると知って、焔は悟空の思うままに口付けてやる。



「んっ、あ、っは……んん……!」
「キスは……苦しいから嫌なんじゃなかったか…?」
「ぅ、んっ……む……長い、のが…や……んぅう…」



角度を変えながら何度となく口付ける悟空の頭を撫でてやる。



「なぁ、悟空……」
「ぅ……?」
「苦しいと、よく締まると知っているか?」
「ふぇ……?っん………!」



突然の焔の言葉に、悟空はきょとんとした顔をした。
その際に悟空からのキスが途切れたのを期に、今度は焔から口付ける。



「…ぅ……んん……っ!」



悟空からの子供のような口付けと違って、焔は濃厚なキスを続ける。
時折唇を離されるものの、それは一瞬程度のものしかなく、悟空が息を吸うような暇は与えられなかった。

酸素を取り込めずに息苦しそうに唸る悟空に構わず、焔は雄を推し進めていく。
肉壁の抵抗が強くなっていくことに薄らと笑みを浮かべれば、それが悟空に見えたらしい。



「ちょっ…や、んぅんっ!ん、ふぅっ…む、ぅ…!」



焔の滅多に見ない悪戯心に気付いて、悟空は焔の肩を押し退けようとする。
子供に見えて強い力を持つ悟空だったが、それはいつも焔に対してだけ通用しないのだ。

どうにか押し退けようとする悟空の手を掴んで、ベッドに縫い止める。
僅かな揺れの所為で擦れる内部に、悟空は短い声を上げた。



「ん、ぅぅうっ!ふ、む、ぅんっ…むぐ……あ、んんっ…!」
「っん……く……!」
「はっ、ん……!うぅんっ!」



きゅう、と締め付けられる感覚に、焔の秀麗な顔が僅かに歪む。

このまま窒息してしまうまで放してくれないんじゃないかと悟空は思った。
それなのに下肢の壁を押し広げていく禊は突き進み、最も太い部分は既に悟空のナカへと収まり切っていた。
締め付けを振り解くように、焔の雄は悟空の躯を突き上げていく。


そうして、焔の男根が全て悟空の内部に納まった。
焔は其処までしてようやく悟空の唇を解放する。



「─────っふ、はっ……!あ、あぁっ…!ふ、か……あ…!」
「俺が塞いでいたのは口だけだぞ。鼻で息をすれば此処まで苦しくはならないと思うが?」
「あっあ…!」



不器用な悟空に小さく笑みを漏らしながら、焔は悟空の耳朶を甘噛みする。



「ほら、まだ締まってるぞ……」
「ん、ぅーっ……!」



肉壁を押し広げ、其処に収まった焔の雄は固く熱くなっている。
悟空はそれに己の躯を焼き切られるのではないかと思った。

ありもしない事を考えて、それでも悟空も焔の熱に高められていく。
しばらく振りの己を貫く禊に身を震わせながら、悟空は小さな子供が甘えるように焔に縋りついた。
ゾクゾクと全身を駆け上る痛みと同等の快感に逆らい難いものを覚えながら。



「あ、ぅ、っは……うぅっ!熱っ…おっきぃ……よぉ……!」
「……欲しかったんだろう、これが……」



言いながら首筋を舐めると、悟空はひくっと仰け反って白い喉を露にした。
紅い華の咲く其処に、また新しい華が咲いて散って痕を残す。





「これで終わるとは、まさか思っていないだろう?」





言って見下ろすオッドアイに、悟空は金縛りにかかったように固まった。

耳元から聞こえる焔の声は低くよく通り、悟空の脳神経さえも犯していく。
理性ある人間としての働きを放棄した思考回路は、最早焔の思いのままに動く。



「っん…ぅ…んんっ……!」



始まった律動に応え喘ぐ姿に、焔の雄がまた更に張り詰めていく。



「あ、あっ、ああっ…ひゃっ、んっ、あっく……あぁっ…!」



飲み込みきれなかった唾液が口端から零れ落ちる。
それを動物の親が子供にするようにあやすように舐めて、そのままキスを交わした。



「んっ、うっ…んはぁんっ……はぅ、ふぅうんっ……」



焔は悟空の脚を限界まで開かせると、背中に腕を廻して抱き上げた。
抵抗することを知らない悟空の躯はそのまま焔の腕に囲われ、重力に従う。
落ちる躯にあわせて焔が腰を浮かすと、更に奥へと繋がりあう。



「あっあぁああんっ!焔っ、焔ぁあっ!あっ、ひゃっ、あぁん!」
「悟空…悟空っ……く……っ」



呼び合いながら律動を続け、焔は片手で悟空の雄を扱いてやる。
貫かれるのと同時に前部に愛撫を与えられて、悟空は崩れ落ちそうになる躯を焔にしがみつく事でどうにか支えた。

次第に悟空も、焔の突き上げるリズムに合わせて腰を揺らし始める。
細腰を揺らめかせて啼き喘ぐ悟空の姿は妖艶で、日頃の幼い姿とは一線を隔している。
それを知っているのが自分だけだと思うと、焔は己の底知れぬ独占欲が満たされる気がした。


けれど、それでも全てが満たされない自分がいることも判っている。
その原因も、何もかも。



「なぁ、悟空………」



だから、何度も確かめずにはいられない。
悟空が求めるのが誰なのか、悟空が欲するものがなんなのか。



「ほ、むら…焔…っ!は、あぁっ!ん、ぅ…イ、く…イっちゃうよぉ…っ!」
「悟空、聞いているか?」
「はんっ、はっ、ひ…!いあっ…ああっ…!」



問いかけても、今のままでまともな返事が返ってくることはない。
悟空は自ら腰を揺らし、己の一番感じる部分へ焔を誘い込もうとしている。

快楽に陥落した悟空の痴態をこのまま眺めるのも悪くはないだろう。
けれど、それよりも焔はどうしても確かめたい事があった。


……そろそろ、潮時だと判っているから。



律動を止め、悟空の腰を掴んで制すると、悟空は虚ろな瞳で焔を見上げた。
既に限界まで張り詰めているというのに、どうして此処で止めてしまうのかと。

けれど、いつも繰り返し問いかけるから覚えたのだろう。
悟空はふるふると小さく躯を震わせながら、焔からの問い掛けを待つ。





聞きたい事は、一つだけ。








「お前は、何を望んでいる?」








求めているのがなんなのか、欲しているものがなんなのか。


偽りで塗り固められたその地盤は、いつ崩れるかも知れない脆いもの。
脆いのも当然の話だ、それは虚偽で出来たものでしかないのだから。

だからふとした瞬間の歪みは瞬く間に広がるものだと、焔は判っていた。
それでも繋ぎ止めずにはいられなかった、この魂を欲しいと思う気持ちは抑えられなかった。
永遠に等しい刻を待ち続けたのだから、もうこれ以上待つことなんて出来ないのだと。



行為の度に─────否、ふとした瞬間に焔はいつも問いかける。
初めての問い掛けではないのだから、今では躊躇わずに悟空からの応えは同じものとなった。
その言葉を聞けば、束の間と言えど安堵することが出来るから。


けれど、初めて。
焔の問い掛けに、悟空は逡巡するように視線を彷徨わせた。

それを見た瞬間に、焔の心がざわりとさんざめく。



「─────………悟空」
「んあっ……!」



言いよどむ悟空を咎めるように、その内部を抉る。

悟空は焔に縋りつき、呼吸を整えようとする。
つい先程まで熱に浮かされていた瞳に僅かな理性の光が戻っていた。


悟空は恐る恐る、まるで怒られるのを怖がる子供のように焔を見上げる。



「……言いたい事があるのなら言えばいい。その方がお前も安心するだろう?」



素直で隠し事が出来ない悟空の事だ。
このまま黙って溜め込んでいれば、辛くなるのは悟空の方だと判った。

そして、そんな優しい言葉を吐き出す傍らで。
満たされかけていた己の一部が再び枯渇していくのを感じている。



「ん…う、ん………」



安心させるように微笑んで見せれば、悟空の口元が少し緩む。
張り詰めた緊張が僅かに解れたのだと、焔にも判った。



「あ、のね……焔…怒んないで、ね……?」
「ああ」



怒るなんて事はない、と焔は思った。
もしも怒るのなら、それはきっと自分ではなく悟空の方だ、とも。



「あのね…なんか、ね……変なの……変……」



縋り付きながら小さな声でぽつぽつと語る悟空の肩を抱く。
その手が震えていることに、この小さな優しい魂が気付かなければいいと思う。

脆い地盤を作りながら、その脆さに一番恐れを抱いているのは自分だ。
いつかこうなる事は予測できていたのに、いつの日かこの瞬間が来る事は判っていた筈なのに、
それでも焔はこの脆い地盤にしがみ付く以外に方法がなかった。


見上げる悟空の瞳が揺れていた。
それに心を揺さぶられる自分が、いる。



「好き、だよ…焔のこと……焔が一番、好きだよ……」
「……知っている。俺もお前以外にない」
「うん…好きだよ、好きなんだよ………」



一つ覚えのように繰り返すのは、それが悟空にとって何よりの真実であるから。
本心なんだと判って欲しいから、悟空はこうやって繰り返す。

でも。




「でも、ね……」




漏れた逆接続詞に、悟空を抱く腕に力が篭る。


続く言葉を聞くのが怖かった。
その先にあるものがなんなのか判るから。

何もかも判っているつもりで、この道を選んだ、けれど。









「誰かが、呼んでる。戻って来いって、ずっと呼んでる」









その“誰か”が誰であるかなんて、厭と言うほど知っている。
知りたくもなかったのに、それでも焔にはその答えが厭が応にも判ってしまう。

当然だ。
ずっとこの存在を追い続けてきたのだから。
その傍らに“誰が”いたかなんて、ずっと昔から知っている。


見上げる悟空の瞳は正体不明のものに怯えているようだった。
けれども呼ぶ聲が誰のものなのか、本能的に悟っているような気がした。



ずるい、と思った。



自分はこんなにも焦がれ続けて、捻じ曲げてようやく手に入れたのに。
何故あの光は、手を伸ばすだけで容易く手に入れることが出来るのだろう。

永遠にも等しい刻の中で待ち続け、見つけた時には二度と交わらない線の上に互いの位置は置かれていた。
こういうのを人間達は神の悪戯とでも言うのか、と自嘲が漏れたのを覚えている。
それならば、半分とは言え神の意義を持つ己は何を恨めばいいのか、と。


どうして届くのだろう。
“あれ”が呼ぶ聲は、どうしてこんなにも離れているのに届くのだろう。
記憶と共に、想いも捻じ曲げて封じ込んでやったのに。

“絆”で済ませるには強過ぎる繋がり。
まるで他の誰にも入り込ませないように。




「………焔………」




縋りついてくる小さな躯を、折れるのではないかと想うほどに強い力で抱き締める。
其処から逃げたりしないように、離れるなんて出来ないように。



「焔…なんか、オレ…変……んんっ!」



不安げに見上げる瞳を見たくなくて、焔は誤魔化すように悟空の秘部を突き上げた。
そのまま再開された激しい律動に、悟空は為す術もなく声を上げる。

その声で、消えてしまえばいいと思った。
頼りない地盤を崩そうとするものなど、全て消えてしまえばいいと。



「あっああっ!焔っ…あっひゃぁんっ!や、あぁあっ!!」



十分知り尽くした悟空の内部。
弱い部分ばかりを集中して攻めれば、悟空はあられもない声を上げて善がり狂う。



「焔っ…焔あぁっ!や、ん、あぁあっ!ほむ、怒って…っひぁん!」
「別に……怒ってないさ」
「で、も……あうっ!其処はっ……や、あぁっ!出るうっ…!!」



互いの腹の間で擦れる悟空の幼い雄は、ずっと張り詰めたままだ。
集中的に敏感な場所を突いて抉られれば、耐え切れなくなるのは当たり前の事で。



「出ちゃうっ…!焔、出ちゃうぅっ!もう、ダメ…怒んないでぇっ…!」
「言っただろう、怒っていないと」
「でも、でもぉっ…!ふぁっ…ああぁっ!」



悟空の腰を掴んで前後に揺さぶり、それにあわせて突き上げる。
されるがままに喘ぐ悟空の痴態をその目に焼き付けるように、焔はじっと見つめていた。


怒りは、確かにあった。
けれどそれは、決して悟空に矛先を向けることはない。

“絆”と呼ぶ雁字搦めの鎖に絡められた、悟空の心と躯。
その先端を捕まえたまま開放しようとしない金糸の男に、その憤りは全て向けられる。



「あっああっああぁんっ!もう、もうっ…焔、ダメ…!出ちゃっ……!」
「ああ……いいぞ、悟空…っ……」



尚激しくなる律動に悟空が限界を訴えれば、焔の表情も僅かに苦悶の色が過ぎる。




ズ、と一つ大きく突き上げたと同時に、小さな躯が跳ねて。






「あ、あ、あぁあ──────っ!!」

「く、ぅ……うぅ…っ……!」









──────手放せる訳がないと、思った。





































何度となく行為を繰り返し、いつしか悟空は意識を飛ばした。
男の欲に塗れて染まった躯を清めて、焔は悟空を抱き締めたまま、ただベッドヘッドに背を預けていた。

窓の向こうに見えるのは四角く切り取られた空だけで、其処から光が差し込んだ。
気紛れにそちらに目をやれば、網膜を焼くのではないかと思うほどに強い陽光。
一瞬、それを打ち壊したくなった。


出来もしない事を思った原因は、他でもない。





(───────返さない)





腕の中の存在を強く抱き締めながら思う。


返さない、手放さない。
繰り返し胸中だけで呟いた。
誰が手放してやるものかと。

永い刻を待ち続けて、またその日々に戻るなんて出来る訳がない。
ようやく手に入れることが出来たこの存在を、また手放すなんて出来る訳がない。




(お前は、もう十分だろう)




遥か遠い日、子供の傍にいたのは不機嫌な金糸の太陽。
そして今再び子供の傍にいる筈なのは、また同じ金糸の太陽の下。

そうしてずっと一緒にいるのに、今もまだ繋ぐ鎖を手放そうとしない。
自分はずっと待ち続けて焦がれて、ようやく手に入れることが出来たと言うのに。


どうして、あの男は。



腕の中で身動ぎする小さな躯。
抱き締める力が強過ぎたのか、抗議のように幼さを残す手が焔の手を掴む。

それだけでも、焔にとっては永い刻の中で願い続けた瞬間だった。
この温かな手が自分に伸ばされることを、自分の伸ばした手が小さな躯を捉まえられる日を。
捻じ曲げて、嘘で固めて、駄々を捏ねる子供のように躍起になってやっと手に入ったのに。





それなのに、また連れて行くというのなら。




僅かな名残を覚えながら、そっと悟空をベッドに横たえる。
丈夫と言ってもまだ発展途上の躯が体調を崩したりしないように、几帳面に布団をかけてやる。

着替えを終えてちらりと見遣れば、焔の匂いの残るベッドシーツを握る悟空の寝顔。
温もりがなくなったのが淋しいのか、仔犬のような声を上げるのを可愛いと思った。


……………ずっと、それが欲しかった。



なのに、金糸の男は今も悟空を呼んでいる。

恐らく、彼は呼び続けるだろう。
その腕に再び子供を抱き続けるまでは。


金糸の男の下に悟空が戻るという事は、本来の軸に戻るということ。
強引に捻じ曲げて歪まされた真実は偽りという正体を現し、子供は在るべき場所に帰る。

そうして、光を持ち得ぬ自分はまた独りになる。



そんな真実ならば、自分には必要ない。
望んだものが何も手に入らないまま、捕まえたものもまた手放さなければならないと言うのなら。





嘘で固めた真実が、“嘘”でなくなればいいのだから。
例えそれが間違った道だと言われても、そうしなければ望む光が消えてしまうというのなら。








「行ってくるよ、悟空」










“真実”など、躊躇わずに葬ろう。




─────そうする事で、君を繋ぎ止める事が出来るなら。





























閉じ込めて

何も知らないままでいられるように




目を閉じて

他の誰も見ないままでいられるように




耳を塞いで

君を呼ぶ知らない聲なんてないのだから









僕が望むのは君だけだから









君は何処にも行かないで













FIN.




後書き