“シアワセ”の方程式





振り返るや否や、江流は自分よりもまだ幾らか大きな悟空の躯を押し倒した。
ベッドのスプリングが抗議するように悲鳴を上げたが、無視して悟空に口付ける。

同意を得る前に交わしたキスは、子供がしたとは思えない程濃厚だった。
それよりもまた更に深いキスをして、目の前の金糸は震えながら先刻と同じように江流にしがみつく。
怯えた小動物のような年上の幼馴染に苦笑して、江流は自分の指と悟空の指を絡めた。


息苦しさに悶えるように、悟空の呼吸が少しずつ艶を孕んでいく。
酸素不足と羞恥心から紅くなっていく目の前の顔に、江流は己の熱が煽られるのを感じていた。
このまま行けば、間違いなく引き返すことは出来なくなってしまう事も。



「ん…ぅ……んはっ…ん……っ」
「ん……っ……く……」
「…ぅう…ん……!」



ぴちゃ、ぴちゃ、と卑猥な音が響く。
逃げようと退く悟空の舌を追い駆けて絡め取り、さっきよりも更に咥内を蹂躙する。

悟空の躯から力が抜けていくのを確認して、唇を解放した。
その時になって初めて、無意識であろうけれど、悟空の舌が江流を追い駆けた。
銀糸を引いて見上げてきたいつも無邪気な幼馴染から、壮絶な色気。


─────何度も夢に見た、顔だった。



「……悟空……」
「…っあ……!」



寝巻きのシャツの下に手を入れて、滑らかな肌の上を滑らせる。
年上なのに悟空の体温はいつも暖かかったから、湯冷めもあって江流の手は冷たく感じられるだろう。

ぴくん、と悟空の躯が跳ねたのを江流は見逃さない。



「…ん…っあ…!は、や……あっ…!」



首筋に舌を這わせながら、江流は悟空の夜着を脱がしていく。
寝る前だったから当たり前だが、シャツ一枚しか着ていない悟空の肌は、呆気なく曝け出された。

左手で腰のラインを撫でて、右手で胸の果実を摘む。
びくん、と悟空の躯が仰け反った。



「ま、待って…江流……っ」
「あ……?」



突然の制止の声に、江流は眉根を潜める。
コリコリと乳首を弄るのを止めないまま顔をあげると、悟空が真っ赤な顔で江流を見下ろしていた。



「な、んで……お、オレが、下…な、感じ……?」
「自然の摂理」
「なっ……ひぁっ!?」



抗議を遮って、悟空の口から裏返った声が上がる。
江流が指で弄るのとは反対側の乳首に舌を這わせた為だ。
片方を爪先で抓られ、片方は舌で転がされて悟空はふるふると身を震わせる。



「あっ…あぁっ、やっ……あぅ…!」
「そんな声出して、どうやってお前が俺に突っ込むんだよ」
「んんっ!」



江流の言葉に悟空は顔を紅くして、言葉が出ない代わりに江流の金糸を引っ張る。
意外とそれが痛かったから、江流は舐めていた乳首をちゅう、と音がするほど強く吸った。



「だ、ダメっ!あぁああんっ!」



女のような声に、悟空自身が一番羞恥を感じているのは判っていた。
けれど塞ごうとする手を押さえつけて、そのまま乳首をちゅうちゅうと吸い上げる。

性的な事に興味の薄い悟空は、学校で得た知識はあっても行為に及んだ事はなかった。
性的快感を得たのもこれが初めてで、思っていた以上の刺激に声を抑えることが出来ない。
腕を掴まえる力は意外と強く、まして力の抜けた自分の躯はろくに言う事を聞いてくれない。



「こうりゅっ…や、あっ!いやぁ……!」
「乳首、固くなってる……」
「…っは…あ……!んぁぅっ、ダメ、ダメぇっ……!」



未知の感覚に怯えるように暴れようとしても、拘束する手が許さない。
悟空は抗う術など知らず、初めてにしては強い刺激に喘いだ。


江流は悟空の腕を一纏めにして、左手だけでもって封じ込む。
それから自由になった右手で悟空の下肢に触れ、うっそりと笑んだ。

其処は窮屈そうにズボンを押し上げ、薄い布地越しに形が判る程には固くなっていた。



「悟空、勃ってる」
「え…あっ!」
「気持ちいいんだろ?じゃなきゃ此処までならねえよな…」



ズボンと下着を一緒に取り払えば、勃起した悟空の雄が顔を出す。



「や、あ……こうりゅ…やだぁ……」



昔は一緒に風呂に入っていたから、見られて恥ずかしい、なんて今更かもしれない。
けれど江流は昔のように、それを邪気のない目で見ることはもう出来なかった。
秘部を大気に晒されて羞恥心に悶え、真っ赤な顔で見上げてくる悟空の顔にさえ欲情する。

乳首をペロリと舐めながら、江流は悟空の雄に躊躇いもなく触れた。



「やっ!だ、ダメだよ!そんなとこ触っちゃ…!」
「バカ言え。取り合えず、一回出した方が楽だろ」



乳首への刺激で勃起したソレは、それなりの硬度になって張り詰めている。


指で輪を作ると、江流は悟空の雄を扱き出した。
他人のものをするなんて江流も当然初めてで、少々荒っぽい扱き方になる。



「ダメっ、やぁっ!あっ、はっ、江流、やだっ…!出ちゃうよぉっ……!」



ビクビクと開かされた脚を震わせて、悟空は江流に訴える。
その顔さえも江流の雄にはかなりクるもので、江流は更に激しい手付きで悟空の雄を扱きあげる。

トロトロと先走りの液が悟空の先端から漏れていく。



「やっ、いやっ、あああっ!やめてってばぁっ…あぁあああっ!!」



どぴゅっ、と白濁が悟空の先端から飛び出した。
直後にかくりと悟空の躯が弛緩する。


江流は愛しい人の蜜液に汚れた手のひらを見て、其処に飛び散ったモノを舐め取った。
悟空は激しかった刺激の上、達した直後で頭がぼんやりしているらしく、その様子をぼうっと眺めている。

見上げる金瞳が熱に浮かされているのが判る。
そうしたのが自分だと思うと、江流は満たされていく自分を感じていた。



「江、流……」
「……まだ終わらないぞ」



夢現のように名を呼ぶ悟空に、触れるだけの口付けを落とす。
今までのキスと違って優しい感触のそれに、悟空はふんわりと笑みを浮かべた。

情事の最中に酷く不似合いな笑みは、けれどやはり何処か熱を孕む。
江流が何度もキスを落とせば、途中から悟空の方から口付けをするようになった。
それを甘んじながら、江流は悟空の脚を更に開かせ、腰を浮かせる。


形のいい尻を撫でると、ふるりと悟空の腰が震える。
達したばかりで敏感になっている躯は、それだけでも反応してくれる。

尻を撫でて、太股を撫でて、少しずつ悟空の秘部に近付いていく。
悟空もそれが本能的に感じられたのか、江流にしがみ付いてふるふると震えていた。



「………あっ……!」



指先が悟空の後ろの穴に触れた。



「このまま、は……痛ぇよな……」
「ヤ…痛いの、ヤだ……っ!」
「判ってるよ」



言いながら、江流は自分の指を舐める。
その光景が酷く煽情的で、悟空は熱の篭った瞳でそれをじっと見つめていた。

悟空の痴態に江流が煽られるように、江流の雄としての姿に悟空も煽られていた。
互いが、その事に気付いているかは定かではなかったけれど。


唾液に濡れた指を、もう一度悟空の秘部に宛がう。



「うぁっ……!」
「く……っ」



くちゅ、と音を立てて指が悟空の穴に侵入していく。
排泄器官でしかない其処は狭く固く、江流の指を拒むように締め付けてくる。
痛みに顔を歪めながら、江流はそのまま突き進んだ。



「あ、いっ…!痛い…っ江流……っ!」
「……悪い……やっぱ、無理だ…」
「ああぁっ!」



一本目が入りきらない間から、二本目を強引に挿入させる。
悟空の顔が痛みに歪んだけれど、江流は止める事ができなかった。


切羽詰っていたのは、どちらかといえば江流の方だったと言っていい。
何度となく夢に見た躯が目の前にあるのだ、若い性はそう簡単に留まってはくれない。
既に江流の雄は悟空の痴態によって張り詰め、早く悟空の内部に入りたがっていた。

大事にしてやりたい、傷つけないで、怖がらせないようにしたいとは思う。
けれど、若く激しい熱はそれよりも自分の欲を優先させてしまった。



「こうりゅ、こうりゅうっ!や、あっ!あぅうっ!ん、っく、ひぃっ……!」
「我慢しろ……そのうち、またヨくなるから」
「無理…無理ぃっ……!い、たぁっ……!」



強引に内部を広げられ、悟空は痛みに耐えかねて泣き出した。
それにさえ煽られてしまうから、最低だ、と江流は一人ごちる。

それでも止められないから、本当に最低だ、と。


自分の下肢を緩めれば、今までにない程に勃起した自分自身の雄。



「後で、よくなるから……」



言い聞かせるように囁きながら、江流は悟空の秘部から指を引き抜く。
ちゅぷっと音がして抜ける直前に締め付けたのが判り、拒んでいないのだと。
それが自分の都合のいい勝手な解釈だとは、思っている。


腕の拘束を外すと、悟空は痛みから解放された所為かぐったりとベッドに沈み込む。
艶を孕んだ呼吸は変わらなくて、薄く上下する胸に江流はちゅっと口付けた。

そのまま悟空の呼吸が整うのを待たずに、江流は悟空の秘部に己の雄を宛がった。



「え……」



中学一年生になって数ヶ月だというのに、江流の雄は大きい。
指とは比べ物にならない太さを持つそれに、悟空がぎくりと身を固くした。

待って、と制止の声が入るよりも早く、江流は腰を推し進める。





「いっ……あぁああああっ!!!」





それは完全な悲鳴。
もしも父が家にいたら飛んできただろう程の。


強引に侵入を果たした悟空の内部は、夢で感じていたものよりも、ずっと熱く絡みついて来る。
慣れないのだから当然締め付けはかなり痛かったが、それよりも江流の雄の本能が強く働く。

夢のように、何度も夢で掻き抱いたように。
そう簡単ではないけれど、それでも何度も本能が江流を突き動かすのだ。
そのまま、何もかもを貪り尽くしてしまえと。



「悟空の…初めて、貰った……っ」



悟空の脚を抱え上げ、胸に着く程に躯を折り曲げる。
そのまま押し進んでいけば、悟空が引き攣った声を上げ、ぬるりと滑る液体が零れた。
裂けた、と判った。



「江流、痛いっ…痛いの、やだって……!」
「判ってる……」
「だ、ったら……!」
「途中ヤメなんか、出来るか…っ!」
「────ぃっ!!」



ズ、ズ、と最奥目指して律動を開始させる。
折り曲げた躯の上から、プレスするように悟空のナカを突き上げていく。



「いや…痛いっ……!も、やぁっ…江流、きらいっ……!」
「ウソ、つけ……」
「ウソつき、はっ…江流、だろ…っ!」



痛いのは嫌だ、と言ったら、判ってる、と言ってくれた。
だからもう少し考慮してくれるものだとばかり思っていたのに。

涙目で睨まれても、江流にはまったく効果はない。
寧ろそれで余計に煽ってしまうなんて悟空は判っていないから、江流は性質が悪いと小さくした打ちした。


痛いのは悟空だけではなく、強引に押し入った江流も同じこと。
碌に慣らされていない秘部の締め付けは相当なもので、息が出来なくなると思う。
けれど見上げてくる幼馴染の顔と、締め付けよりも熱の甘美な誘いに抗えない。



「うっあっ、やっ…!っく、ぅぅっ…んっ!」
「……多分、この辺り…っく……」
「何、が……─────あぅっ!?」



江流の小さな呟きが聞き取れず、聞き返そうとした直前、悟空の躯に電流に似たものが走る。
それは江流の雄が悟空のある一点を突いた所為だ。

前立腺だ。


痛がる悲鳴とは違う声をあげた悟空に、江流は薄らと笑む。
突然駆けた違う感覚に目を白黒させている悟空にキスを落とし、今度は其処ばかり攻める。



「あっやっ!あんっ!な、何……ぁあんっ!」
「言ったろ……また、気持ちよくなる…って……」



言いながら、江流は痛みで萎えていた悟空の雄に触れる。



「ふぅ、んん!んぁ、あっあっあっ!や、江流っ…あぁっ!」
「学校で習っただろ?前立腺」
「や、や…ひぃあっ!やだ、江流…っワケ判んない…っ!」



頭がスパークするような感覚に、悟空は頭を振る。
ぱさぱさと大地色の髪が音を立てて、江流は空いていた手でそれを撫でた。

あやすように悟空にキスを落としながら、律動は続けたまま。
前部に触れると其処はまた勃ち始めていて、江流はそれを前と同じく荒々しい手付きで扱き始めた。



「んっあっんくっ!江流…ヤ、そこやだっ…ひぁあっ!」



痛みだけでは耐えられない、と躯が判断したのだろうか。
悟空は、確実に快楽を追い始めていた。



「腰、揺れてる……」
「あぁっ、あっ!あん、っは、ふぅっ…!んっく、や、いやぁ……」



秘部に埋め込んだ江流の雄からも、先走りの蜜が零れ出している。
それが潤滑油の役目となって、少しずつ、悟空を襲う痛みも緩和していった。

悟空はゆらゆらと腰を揺らして、無意識なのだろう、自分のイイ所に誘い込もうとしているようだった。
だから江流はそれの動きに合わせて、悟空の躯を突き上げ、雄を扱く。
悟空の雄は再び硬度を増し、張り詰めていた。



「ダメ、江流、ダメっ…!も、もう……っ!」
「ああ……俺も、いい加減……限界…っ……」



自分よりも小さな江流に縋りつく悟空は、その時始めて、江流が切羽詰っているのを知った。
己の痛みやら快楽やらに振り回されて気付かなかったが、江流の表情はいつものクールさなど欠片もない。
眉根を寄せて突き上げる体躯は熱く、見つめる紫闇は完全な雄の色を抱いていた。

激しい熱に浮かされているのは、自分だけではない。
それを知ると、無性に嬉しくなって、内部を強く締め付けてしまった。



「っう……!」
「ん…ごめ……っ」



呻いた江流にはっとなって、悟空は慌てて謝った。
江流からの返事はなかったが、紫闇がこちらを向いていたから、少し前のように不安にはならない。


突き上げと、前部を扱く手が一層激しくなった。



「こうりゅっ…江流っ!もう、我慢、できなっ……!」
「いいぜ、イけよ…っ」
「ヤ……一緒っ、一緒、が、いいぃっ……!」



縋る悟空の手に、江流の手が捕まえる。
口付けて、それが応と言っているのが判った。






「んっあっ、あぁっ!あぁああああぁぁっ!!!」





達して声を上げた悟空の内部に、江流も熱い迸りを吐き出した。






















──────若いって、怖いかも知れない。



未だ収まりきらぬ熱にぼんやりしながら、悟空はそう思った。

無理もない。
何せ江流は一度二度では止まらず、悟空が一度意識を飛ばすまで行為を続けたのだ。
ようやく手に入った存在を何度も確かめるように掻き抱くから、悟空も拒めなかったのだが。


そんなに続けていたから、お互いに後始末をする気力すらない。


ベッドシーツだけは替えがあったから、江流が取り替えた。
冷たいまっさらなそれに顔を押し付けると、火照りが緩和されるような気がした。

それも、傍らの存在を思い出すと再び湧き上がってしまったりしたけれど。



悟空は今、寝転がったままで自分よりも小さな江流の腕に抱かれ、彼の胸に顔を押し付けていた。




「……おじさんになんて言おう……」
「……あ?」



ぽつり、呟くと江流が視線を落としてきた。



「だって……息子と、こんな……」
「…別に何も言わないと思うけどな。お前の方が問題じゃねえか」



基本的に放任主義な光明は、驚くことさえしないのではないか。
何もかも見透かされているような気がするから、江流はそう思う。

だから寧ろ問題なのは悟空の父親、金蝉の方だ。
厳格な雰囲気を持っているくせに、確かに厳しい時は厳しいのだが、その実とても過保護で子煩悩だ。
大事な大事な一人息子が隣家の幼馴染に処女を奪われたなんて、知ったら怒り狂うに決まっている。


でも。



「別に、もうどうでもいいだろ」



落ち着いてきた頭でそう考えると、そんな答えに行き着いた。
悟空はそれに瞠目して、なんで、と問い返す。



「周りが何言ったって関係あるか。引き返す気はねぇよ」
「……江流……」
「当然、お前も道連れだ」



放してなんかやらない、と深い紫闇に見つめられて、囚われる。
そのキレイなアメジストに、ずっとずっと惹かれていたのだから。

瞼の上にキスが落ちて、くすぐったかった。



「勘当されたら、うちに来い。そんで、お前は俺の嫁になれ」




前方の言葉は、最初からあり得ないと判っているのだろう。
金蝉は江流の事を非難する事はあるかも知れないが、悟空を捨てることはしない。


けれど、それよりも悟空は二の句に驚いた。
見上げる瞳は自信満々で、生意気な子供らしさが其処にある。
背中に回された腕の力が強くなったのが判った。

すぐ其処で聞こえてくる心音を聞きながら、次の瞬間、悟空は笑った。
クスクスとした笑い声に、何が可笑しいのかと江流が悟空の髪を引っ張る。



「なんでもない、なんでもないよ」
「嘘吐け。だったらなんで笑ってんだ」
「なんでもないって…いたたっ」
「もう一回するか」
「それは死ぬ!」



さらりと吐かれた危険な言葉に、悟空は慌てて首を横に振る。



しばらく、その問答は続けられたが、悟空は結局答えなかった。
そして業を煮やした江流が、何度目か知れない行為に突入するまで後十分。









告げられた口説き文句がずっと幼い時に言ったものだと、覚えているのは悟空だけ。




























白い月明かりに浮かぶあなたの姿

まだ少し遠くて立ち尽くす僕はまるで


迷子の子供のように淋しい






ああ その暖かい胸で


凍えそうな僕を抱いて











さび付いたこの現実も、あなたとなら乗り越えて行けると心から思ってるから















FIN.




後書き