目覚め 三蔵×悟空 起きて一番に目にした金糸に、悟空は嬉しくなった。 寝起きの眠たさなんてあっという間に飛んでいく位に。 疲れて帰って来たのだろう。 夜着に着替えることもしないまま、三蔵は眠っていた。 端整な顔立ちをそっと覗き込むと、少しだけ疲労の色があるように見える。 白磁のような肌の血色がいつも以上に悪いように思うのは、気の所為なら良いのだけれど。 でも朝一番にこの人の顔を見れたのは、悟空にとってとても良い日の始まりのようだった。 昨日の夜は一人で寝たから、尚更嬉しくて仕方がない。 起こさないように細心の注意を払って、悟空はベッドから降りる。 気配に敏感な三蔵だから、なるべく音など立てないように、そうっと。 シーツの擦れる衣擦れの音さえも気をつけて。 春先の少しひんやりとした床に、悟空はぷるるっと仔犬のように身震いした。 またそっと、足音を立てないように注意を払い、窓辺に歩み寄る。 鍵を外して外界へ通じるそれを開け放つと、小鳥のさえずりが聞こえてきた。 吹き抜けた風が心地良くて、悟空はぐっと背伸びする。 「……ん────っ……」 さんさんと零れる太陽の光。 空は何処までも晴れ渡り、蒼く、澄んでいる。 「………」 「あ、三蔵」 聞こえた衣擦れの音に振り返ると、三蔵がのっそりと起き上がっていた。 窓から差し込む光が目に痛いのか、手で目元を覆って俯いている。 疲れているなら、確かにこの日の明るさは少々堪えるか。 悟空にとっては心地良い朝だが、三蔵にとっては仕事明け。 目覚めの清々しさを味わうよりも、惰眠を貪っていたい所だろう。 でも、空気の入れ替えぐらいは。 そう思い、悟空は窓を開けたまま、ぺたぺたと足音を立てて三蔵の下に駆け寄る。 「おはよう、三蔵」 「………………………ああ………」 たっぷり間を置いての返事。 これにも、悟空は気を良くした。 寝起の悪い三蔵に朝の挨拶をしても、返事がないのは毎度の話。 それが今日はこうして返ってきたのだから、やっぱり悟空にとっては今日は良い朝だ。 ベッドの下方に溜まっていたかけ布団を手繰り寄せる。 三蔵はそれをぼんやりと目で追っていたが、恐らく、意識はまだ半分程しか覚醒していまい。 折角気持ちよく晴れているのだから、たまには一緒に外に出かけたいとは思う。 でも、大好きな保護者が疲れているのだから、やっぱり休んで欲しい。 一緒にいる事が出来れば、それで自分は嬉しいから。 がりがりと後頭部を掻く三蔵の姿を、寺の坊主たちが見たらどんな反応をするだろう。 “三蔵法師”であるからか、やけに神格化して見ている者は幾らでもいる。 悟空にしてみれば、そんな人達の方が正直不思議だ。 こんな鬼畜生臭坊主の何処が……と。 確かに綺麗だし、頭もいいし、でも無愛想だしなぁ、というのが悟空の印象だ。 それは昔から変わらない。 でも、お疲れ様なのは確かだし。 「まだ寝てていいよ、三蔵」 「………………」 布団をかけてやりながら言うと、紫闇がこちらを見た。 いつもの強い光ではない、揺らめく瞳の色。 憂いのある揺らぎに、悟空は一瞬見とれてしまう。 ……やっぱり、きれい。 そう思った時、ぐっと腕を捕まれ、引き寄せられる。 そして触れた、唇。 ──────交わっていたのは、ほんの一瞬だけ。 掴まれた腕はすぐに解放されて、紫闇は再び瞼に隠れ。 触れるだけだった唇は、あっさりと離れていく。 硬直した悟空をそのままに、三蔵はかくりと二度寝に落ちる。 「………………!!!……」 一人残された悟空は、口元を抑えてふるふると震え。 「………………っさんぞーのバカ──────ッッ!!!」 真っ赤な顔で叫んだ言葉は、一番聞かせたい者に全く届いていなかった。 (一日で10のお題/1.目覚め) 気持ちよい朝、目覚めの一発。 寝起きの良い人、悪い人。 我が道行く三蔵様。 せめてちゃんと起きてからにして欲しかった悟空。 お題元 Cosmos |