ご飯 八戒×悟空 食べ盛りの子供は、朝一番でもよく食べる。 そりゃもう気持ちが良い程の食べっぷりだ。 悟浄はよく悟空の事を“欠食児童”と言うが、確かにそれは的を射ている。 寺院で出る食事が悟空の腹を満たすとは思えないし、何せ成長期。 目の前にあれば幾らでも食べて、際限なく胃袋に入って行くだろう事が窺える。 そんなにも食べて貰えれば、作っている方だって気持ちが良い。 しかも美味い美味いと笑顔で食べてくれるのだから、これを喜ばぬ訳がないのだ。 そして、今日も。 「八戒、おかわりっ!」 「はいはい」 差し出された茶碗を受け取り、白米を山盛りに盛る。 またそれを勢いよく胃に流し込む子供に、八戒は笑みを浮かべていた。 その隣では、子供と対照的に、一向に箸が進まない同居人。 「悟浄、食わねえの?」 「あー……いや、食うぜ…一応」 悟空が不思議そうに問えば、その人物はうんざりした様子で答えた。 美味そうに食べられれば、見ている側の食欲を押す事もあるだろう。 しかし、それにも限度があるのだ────量の限度が。 一般成人男子が朝一番に食べる量を考えると、悟空はとっくに許容量オーバー。 男三人しかいない筈の朝食に、多めに炊いた米は、既に四分の三が悟空の腹の中。 食べ盛りの成長期である事を考えても、悟空の食事量は半端ではない。 そうして喋っている間も、悟空の箸はしっかり進んでいた。 「美味いよ、八戒の飯」 それは悟空に言われなくても、悟浄だって重々判っている。 八戒の料理の腕はプロ並だ。 しかも悟空がいるとなれば、更に力が入る。 今日の朝食は、常の男二人で取るものよりも、何倍も手が込んでいるに違いない。 だが、悟浄の箸は進まなかった。 「いらないんなら無理しなくていいですよ。悟空、これも食べちゃって下さい」 「いや、ちょ……」 「いいの!? やったー!」 さっとお椀を取った八戒は、それを悟空の前に置く。 制止しようとする悟浄の声など全く聞こえていない。 悟空も取り分が増えたのを無邪気に喜んでいる。 悟空が諸手を挙げて喜ぶので、悟浄はそれを取り返すのを諦めた。 「ったく、毎回毎回すげー量だぜ……」 「悟空、これも食べますか?」 呆れる悟浄を完全に無視し、八戒は新たな料理を悟空の前に置く。 悟空は笑顔でそれに齧りつき、あっという間に平らげて行った。 今度、三蔵に食費だけでも出してもらおう、とこっそり悟浄は決意する。 預かる度にこの調子では、此方が破綻してしまう。 八戒が悟空を甘やかして次々に料理を作るから、尚更。 そろそろ食後のコーヒーでも催促しようか、と悟浄が頭を持ち上げた、その時。 「悟空、ついでますよ」 「ん?」 「此処です」 ─────ぺろり、子供の頬を撫でた舌。 「あ、八戒オレのご飯取ったー!」 いやいや、突っ込むところは其処じゃない。 とんでもない同居人の行動と、子供のズレた発言に、悟浄はがっくりと肩を落とした。 なんだか悔しいので、後で子供の保護者にチクってやる事にした。 (一日で10のお題/2.ご飯) 色気より食い気。 ほっぺた舐められた事より、取られたご飯(笑)。 八戒さん、家主の存在完璧無視です… お題元 Cosmos |