浮かれ 三蔵&悟空 久しぶりに一緒に街に連れてきた貰えたことが嬉しくて、ついつい気分が浮ついてしまう。 だって仕方がない、前に一緒に外に出たのはいつだろうと考えたら、随分前のことだったのだ。 それもその時は仕事で、今回はそんな事はなくて、つまり完全なプライベートと言う事だ。 ……寺院を出る前に誰かが三蔵を呼び止めていた気がするけれど、三蔵が気にしていないから、悟空も気にしなかった。 地面を踏む足が軽い。 今なら空だって飛べるんじゃないかと思う。 とんと地面を蹴ればそんな訳もなかったのけど、気分的にはそれ位だったのだ。 後ろを歩く三蔵が、はっきりとした溜息を吐く。 それが呆れから来るものだとはなんとなく感じたが、悟空は気にしなかった。 ─────大きな通りの隣、一つ細い路地に滑り込む。 細いと言ってもそこそこ広く、道に沿って果物や野菜、金物や衣類などを扱った店が並んでいた。 その中の一つ、果物屋に悟空は走った。 「三蔵、こっちこっち!」 声高に呼べば、三蔵はまた一つ溜息を吐いて、近付いた。 悟空の声が店の奥まで響いたのだろう。 店の奥の戸が開いて、人の良さそうな顔をした老婆が姿を見せた。 悟空は積まれた林檎の中から、一つ、見事な紅を手に取った。 「な、これ買って!」 「………」 「すっげー美味そう! な、いいだろ?」 別に腹が減っている訳ではなかったけれど、見つけたら食べたくなった。 綺麗な紅玉は、一度手に取ってしまうと、手放してしまうのが本当に勿体無い。 良いものを選んだねと褒められて、悟空は益々嬉しくなった。 三蔵の法衣をぐいぐいと引っ張って、強請ってみる。 老婆はにこにこと人の良い笑みで、目の前の子供と青年の遣り取りを眺めていた。 数分程そんな遣り取りが続いて、結局、三蔵は林檎を買った。 一つだけのつもりだったのだが、老婆の方がサービスをくれて、一個分の代金で二個の紅玉を渡してくれた。 明るい声で礼を言うと、良い子だねぇ、と頭を撫でられた。 齧るとしゃりと言う音がして、甘酸っぱい果汁が溢れてくる。 新鮮そのものの美味しさだった。 「三蔵、はい!」 食べさしであったが、差し出すと受け取られた。 齧った横を齧られて、すぐに返される。 すぐに齧り付いた。 一緒に街に出て。 一緒に歩いて。 一緒に林檎を齧って。 もう空なんて目じゃない。 その向こうまで、飛んで行けそうだった。 (一日で10のお題/8.浮かれ) 尻尾があったら全開で振られてることでしょう(笑)。 お題元 Cosmos |