屋根の上の小鳥
那托&悟空







屋根の上に小鳥が巣を作っていた。
それを見つけた時、あいつに見せてやろうと一番に思った。








廊下の手摺に登り、柱へ。
するすると危なげなく登っていく子供達を咎める者はいない。
それでも見付かれば大目玉を食らうことは間違いないから、一応、周りにも気を配る。

柱は遠目に見ると、円柱型で掴まる場所などないように見えるが、
その実触れてみると結構でこぼことしていて、滑り止めの役割を果たし、子供達の手助けをしていた。
それを知っていた訳ではないが、これは子供達にとって都合が良い。
屋根のすぐ間近まで到着するのは、苦ではなかった。


よいしょっと一声勢いをつけて、那托は屋根の外側へ。
足場をしっかりと確保してから、落ちないように気をつけて、柱にしがみ付いている悟空に手を伸ばす。
悟空も一つ勢いをつけ、手を伸ばし、那托の手を掴まえた。

ぐっと那托が引っ張り上げる。
悟空も柱を蹴って、那托の力に沿って屋根上に辿り着いた。





「なぁ、何処にあんの?」
「こっちだ、こっち」





わくわくと問う悟空に、那托はその手を引いて屋根の上を走る。
怖いもの知らずの子供達にとって、屋根の上とは、中々危険地帯とは認識されないのである。
……保護者が見たら絶句するのは間違いない。




那托に手を引かれる悟空は、今から楽しみで仕方がなかった。




良いもの見せてやる、と那托に言われたのは、昨日の事。
昨日偶然会うことが出来たのも嬉しかったのだが、そう言われては心躍らずにはいられない。

出来る事なら、その瞬間にでも見に行きたかったのだが、時間が既に遅くなっていて、
仕方なく予定は一日ズレ込んで─────でも、それもやっぱり嬉しかった。
二日続けて会えるなんて、滅多にない事だったからだ。


そして今日の正午を過ぎた頃、那托は悟空を迎えに行き、こうして此処に辿り着いた。



那托の言う“良いもの”がなんなのか、悟空は聞いていない。
何度か尋ねてみたものの、見るまでのお楽しみ、と那托は楽しそうに言う。

それがもう直ぐ見られるのだ。
うきうきするのも無理はない。





「あそこにあるんだ」
「あそこ?」





言って那托が指差したのは、登った場所とは正反対の屋根の端。
大きく成長した樹の枝に覆われた其処は、ひっそりと何かを隠そうとしているように見えた。

あそこに、何があるのだろう。
首を傾げる悟空の手を那托がまた引いて、其処に近付いていく。
悟空はクエスチョンマーク一杯になりながら、素直にそれについて行った。


小さな茂みの間近に来ると、那托は歩調を緩めた。
肩越しに悟空を振り返ると、人差し指を立て、「しーっ…」と促す。

しかし両の手足に鎖のついた枷のある悟空だ。
足を動かせば鎖の金属音が嫌でも鳴ってしまう。
せめて腕は鳴らすまいと、腕を不用意に振らないように気をつける。




那托がそっと茂みを掻き分ける。
悟空はその横で、那托が目当てのものを見つけるのを待った。







「あった」






“良いもの”を見つけた那托の声は、とても控えめなもの。
静かに、と言っていたし────悟空もなるべく音を立てないよう、そっと覗き込む。


ピィピィ、可愛い鳴き声が子供二人を出迎えた。






「────小鳥の巣!」
「うん」






樹の枝に守られた屋根の上で、木漏れ日に包まれた小さな小鳥の巣。
その中に小さな雛が4羽。






「この間見た時はまだ卵だったんだけど、孵ってたんだな」
「へーっ……すっげー元気だな」






腹を空かせているのか、それとも突然の訪問者に驚いているのか。
雛達は親を呼ぶようにピィピィ鳴いていたが、しばらくすると飽きたのか、鳴くのを止めた。
代わりにじっと覗き込む訪問者達に興味が湧いたらしく、小首を傾げてじっと二人を見つめて来る。

悟空と那托は、じっとそれを見つめていた。
何をするでもなく、ただじっと、時間の感覚すらも忘れて。



ひゅうっと風を切る音がして、顔を上げると二羽の小鳥が頭上を旋回していた。
どうやら、両親の帰還らしい。



悟空と那托を観察していた雛達も親の存在に気付き、空を見上げてピィピィ鳴き出す。
風をもう一度切って、親鳥は雛達の待つ巣へと降り立った。
見守る子供達が危害を加えないと知っているかのように。

餌をせがむ雛達に、二羽の小鳥は順々に餌を与えていく。


取ってきた餌を与え終わると、また二羽の小鳥は飛び立っていく。






「あ、一匹寝てる」
「ホントだ」





親が飛び立ったのを見送ってから、一羽の雛が巣の中で丸くなっていた。







「腹一杯になったのかな?」
「……お前みたい」






那托の言葉に、悟空は唇を尖らせる。
でも、腹一杯になったら眠くなってしまうのは本当だから仕方がない。

拗ねた表情になった悟空に、那托はクスクス笑い出す。
なんとなく腹が立つので頬を抓ってやった。



最初に来た時のように、巣をそっと樹の中に隠す。


心地良い風が吹き抜けて、悟空は欠伸を漏らした。
伝染して、那托も欠伸。

屋根から下りるのが面倒臭くなって、那托はすとんとその場に腰を下ろす。
悟空もその横に座って、ぐっと背伸び。












ピィピィ可愛い鳴き声は、もう聞こえてこなかった。













(可愛い10のお題/1.屋根の上の小鳥)


うちの看板息子二人(え)。
キミ達が我が家の小鳥です。

後で金蝉が悟空を探しに来て、天蓬と捲簾も巻き込む。
そんでもって屋根の上にいるのを捲簾が見つけて回収。
パパからしこたま怒られる(笑)。



お題元 Cosmos