空を指差す君
那托&悟空








「あれ、ケーキに見える」







隣に寝転がった友達が急にそんな事を言うから、那托は顔を顰めた。

なんの話だ? とばかりに隣に視線をやれば、天を指差す悟空がいる。
その指し示す先を見極めようとしてみても、あるのは青空ばかり。





「……何が何に見えるって?」





上半身を起こして問う。
悟空はちらりと那托を見た後、また空に目を向けた。
そしてやはり、空を指差す。

何が言いたいのか、那托にはいまいち判らない。
なんなんだ、と思いながら、今度は起き上がったまま、座った姿勢で空を仰ぐ。





「ケーキ、プリン、あっちは……クリームパン!」
「…だから、何が?」





天を示す指先は、時折ふらふら揺れている。
何かの形をなぞっているようだった。

真似をしてみれば判るだろうかと思ったが、何を指差しているのか全く見当がつかない。
何を示しているのか判らないのに、真似なんてしようがない。


暇を持て余した那托は、立てた膝に頬杖をついて暇を持て余す。
其処でようやく、悟空は友人の様子に気付いたらしかった。
然程に面白いものがあったとは、那托には到底思えないのだが。






「那托もやれば?」
「……だからさぁ……」





相変わらず、微妙にコミュニケーション不全。
周りを全く気にしない悟空らしいといえば、らしいか。


気になるものがあったら、悟空の視野はそれだけに限定されてしまうのだ。
那托もそういう事がない訳ではないが、頻度は悟空の方が断然多い。
そして些細なものに心奪われることも、専ら悟空の方が多いことだった。



呆れた表情の那托に、悟空はきょとんとして首を傾げる。
悪気がないのもよく判っているので、まぁいいか、と那托は思う。





「今、何やってたんだ? ケーキに見えるだの、プリンだの…」
「だって見えるんだもん。あれ」





そう言って、悟空はまた空を指差した。
那托は少し眉根を寄せて、それに従い空を見上げる。



其処にあるのは、晴れ渡った青空と、真っ白な雲。









「…………ひょっとして、雲のことか?」

「うん!」








問うてみれば、今度は眩しい笑顔。



───また不思議なことをする。

示す対象を理解されて嬉しそうに笑う悟空に、那托は頭の隅で思う。
前にも影の形が動物に見えるとか、そんな事を言っていた。
あれは軍大将だか、変わり者の元帥に教えてもらったのだったか。

今回は誰に何を教えてもらったのだろう。


頬杖をついたままで悟空の顔を眺めていると、悟空はまた空を見上げた。






「変な形も一杯あんの」
「……俺には、どれも一緒に見えるけど」
「えー!? オレは全部違って見えるよ」






那托の言葉に、悟空はそんな筈はないとでも言いたいのか。
絶対違うって、と言いながら悟空は那托の手を取る。

何を、と言うよりも先に、悟空は那托の手で雲の形をなぞり始めた。
てんで統一性も何もない、不可思議な形をした空に浮かぶ白の形。
那托と悟空で見える視点は微妙にズレているから、那托から見る自分の指は、真上の雲からかなり反れていたけれど。





「で、こーなって……あ、カメだカメ!」
「……何処がカメだよ…?」
「だから、此処が頭で…こっちが甲羅。ここの…モコモコしてんのか、甲羅の模様」





言われて見れば、そんな風にも見えてくるから不思議なものだ。

一通りを説明すると、また別の雲をなぞり出す。






「あ、これさっきのプリンだ」






悟空がそういうので、那托もこれは自分でなぞってみる。
那托が自分で手を動かしだしたのに気付いて、悟空の手が離れていった。
そしてさっきと同じように、自分も雲をなぞり出す。


悟空がプリンだと言った雲の形は、確かにプリンに見えた。
ご丁寧に平皿に乗っていて、天辺の丸い形はサクランボか。

────気付いたら、なんだか無性に面白いような気がしてきた。






「これステーキみたい」
「えー…? 魚だろ、どっちかって言うと」
「そうかなー……」
「あ、これエビだ!」
「どれどれ?」






また草の上にころりと二人、寝転んで。
目の前に広がる青空を指差し、浮かぶ白の形をなぞる。













刻一刻と変わる空。



浮かぶ夢は、僕等の中でどんな形になるのだろう。
















(可愛い10のお題/2.空を指差す君)


空を指差して形をなぞる。
未だに私はやります。
ドラゴンっぽいのを見つけると嬉しい。


那托は、子供らしい子供時代を過ごせなかったと思う。
同じ年の友達なんていなかったし、遊び方も教えて貰えなかった気がする。

子供の遊びは時々意味不明(笑)。



お題元 Cosmos