二人、連れ添って
金蝉&天蓬






天蓬の部屋で読書をしていた最中だった。
子供は朝から元気に外に繰り出していて、今日は傍にはいなかった。

けれども、声が聞こえればそちらへ目をやる癖がついた。




きゃらきゃらと聞こえた声の出所は、部屋主が煙草を吸う為に開け放っていた窓の向こう。
その窓辺に立った部屋主は、何やら楽しそうな空気を纏っていた。







「天蓬」
「はい?」






数少ない旧知の友人の名を呼んでみれば、振り返らずに返事。

一体何をそんなに熱心に見ているのか。
いや、そんな事は窓の向こうから聞こえてくる声だけで十分過ぎるほどに判る。
そして、だからこそ自分も気になってしまうのだと。


本を閉じて窓辺に近付けば、より一層はっきりと耳に届いてくる、かしましい声。



金蝉の接近を感じて振り返った天蓬は、面白そうに笑っていた。






「お父さんですねぇ」






天蓬の台詞に、眉間に皺を寄せた。

天蓬と言い捲簾と言い、挙句の果てには観世音菩薩までも。
どうしてこうも、子供と自分の関係性を“親子”にしようとするのだろう。


天蓬の横で外界に目を向ける。
其処に広がっているのは、変化することのない青空と、散らない桜。
舞う花弁はいつか地に落ちて土に還るけれど、それが絶える事はない。

見慣れた光景だ─────少なくとも、金蝉にとっては。




其処に、見慣れたけれど、今までなかった光景がある。








「可愛いですよね」








舞い踊る桜の花びらの中、手を繋いで歩く子供が二人。

ふわふわ不明瞭な軌道を描いて降る花弁に、時々追い駆けるように手を伸ばしながら、二人は歩く。
それこそ太陽のような笑顔を浮かべて、傍らの“友達”と嬉しそうに手を繋いで。



晴れ渡る抜けるような蒼い空も、舞い散る桜も、絶えない花弁に彩られた景色も。
落ちた花弁で覆われた淡色の地面も、少し向こうに見える池も、何もかも変わってはいない。
仮に其処に隣にいる友人や、子供のような軍大将がいたとしても、それは何も変わらないだろう。



なのに、どうしてだろうか。










「あ、金蝉と天ちゃんだー!」
「おーい! たまにはお前等も外に出ろよー!」










こちらを見つけた子供達が、手を繋いだまま、手を振ってくる。
天蓬がひらひらと応えるように手を振れば、また太陽のような笑顔。



一頻り此方に向かって手を向かって手を振って、気が済んだのだろう。
那托があっちに行こう、と何処かを指差して悟空に声をかける。
それに悟空が頷くと、嬉しそうに繋いだ手を引いて歩き出した。


ふと、最近耳慣れた軍大将の怒鳴る声が聞こえた。
また悪戯をされたのだろう。
今日こそは許さねぇ、なんて言っているが、どうせそれもポーズだ。
あの子供のような大人が、溺愛している子供二人を叱るなんて出来る訳がない。

やべぇ逃げろと子供二人が駆け出して、案の定、子供のような軍大将が二人を追い駆けて金蝉達の視界に入る。
今日は一体何をされたのだか。







───────二人、連れ添って。
─────その手を、しっかりと握り締めて。












駆け抜けていく子供達を、愛しいと、思う。














(可愛い10のお題/3.二人、連れ添って)


たまには保護者視点。
皆、子供達には甘いのです。



お題元 Cosmos