冗談言って互いに傷付く オールキャラ 「那托なんかキライ」 「悟空なんかキライだ」 仲良く遊んでいた子供二人が、よく通る声で突然そんな事を言い出すものだから。 天蓬に紹介された本を呼んでいた金蝉と、煙草を吹かしていた捲簾は瞠目して振り返った。 さっきまで、子供達はとても仲良く遊んでいた。 見ていて微笑ましくなるぐらい、仔犬同士がじゃれあっているかのように。 普段は中々一緒に遊べないから、こんな時こそ、それはそれは嬉しそうに。 それでそうして、あんな台詞が出てくるのだろうか。 ケンカでもしたのかと思ったが、悟空も那托も、怒る時は盛大に怒る。 きゃんきゃん高い声で、まるで小型犬が威嚇しあっているような声で。 だから子供二人がケンカを始めたら、その周囲にいる大人達はすぐに気付ける筈だ。 だと言うのに、どうして、普段なら絶対に言わないような台詞が出てくるのか。 ……振り返ってみて、金蝉と捲簾は同時に納得した。 向かい合ってイーッだのベーッだのしている子供二人。 それを見下ろして楽しそうに笑っている、変わり者の西方軍第一小隊元帥。 「……おい天蓬」 「はい?」 「…お前、チビ達に何吹き込んだんだ?」 天蓬の知識は幅広い。 専門的な事から、どうでも良い下らない事まで、様々だ。 そのどうでも良い知識を、よく子供達に披露して見せている。 それはいい、それは一向に構わない、子供達も喜ぶから。 しかし、教育上宜しくない事まで教えてしまうのには、辟易している。 ……主に悟空の父親役が板についた、金蝉が。 「貴様……」 「やですね、そんな変な事じゃありませんよ」 早々に怒りの筋を見せている金蝉に、天蓬は平静として言う。 「下界には面白い行事があるんですよーって、それを教えてあげただけです」 下界には、一日、嘘を吐いてよい日がある。 勿論、あまりにも度を越して人を傷つけることは駄目だけれど、可愛い嘘なら許される。 最初から嘘だと判るような嘘なのだから、冗談で笑って流すのが決まりだ。 中には本気で騙されたりする人もいるけれど、真実を聞いたら、今日はそんな日なのだからと許すのがしきたり。 ────なんだか色々と端折られた感はあるが、話を聞いて金蝉と捲簾もまた納得する。 普段からお互いに、大好き大好き、と言って憚らない子供達の仲である。 そんな話を聞いた後なら尚更、キライ、なんて言葉を言っても嘘だと判る。 ちょっとした遊び感覚で、子供達は先の言葉を相手に向かって言ったのだ。 子供達はなんだか楽しそうに、相手の事をキライ、キライ、と言っている。 最初から嘘だと分かり合ってて言っているのだから、微笑ましいものだ。 ……と、思って見ていたのだが。 「………………」 「………………」 途端に悟空と那托は黙り込み、キライキライと言い続けた相手、言われた相手を見つめる。 急に訪れた静けさに、今度はどうしたんだと、金蝉、捲簾、天蓬が目を向けた。 子供達の事だから、早々に飽きてしまったのか、とも思った。 しかし、事態はそんな簡単な事ではなく。 「ふぇ………」 「…う………」 じわり、金と藤の色をした瞳に、大粒の涙が浮かび上がる。 それを見た大人達は、多いに慌てた。 「おおおおおおい、おい、悟空っ、那托!?」 「どうしたんです!? 悟空、那托、ちょっと……」 「おい、お前達、急になんだ!?」 大の大人が三人、揃いも揃って、子供二人の突然の変調に大慌てだ。 此処に観世音菩薩がいたら、仕方のない奴等だなと呆れ果てたに違いない。 そして終日まで、慌てまくった三人の様子を逐一言って揶揄って来るに決まっている。 だが今此処に彼女の存在はないし、いた所で実質誰も気に留めなかっただろう。 彼等の頭の中は、目の前で泣きじゃくる子供達で一杯なのだから。 大人達の様子など子供達は一切知らず、先に悟空が声を上げて泣き始めた。 「うぇえぇえええ……!」 「う…ふ……うぇ………」 つられたように、那托の目からも大粒の雫が零れ落ちた。 「うえっ、ひくっ、いっ、うそ、うそだもっ…きらいじゃないもん、だいすきだもん!」 「う……うー……お、おれ、だってっ…おれだって! きらいなもんかーっ!!」 その場に突っ立って声を上げて泣き始めた子供達に、ようやく大人達は事態を把握した。 きらい、きらいと。 嘘だと知っていたって、言うもんじゃない。 だって大好きなんだから。 「お前の所為だからな、天蓬」 「俺もそう思う」 「…………すみませんでした」 (可愛い10のお題/4.冗談言って互いに傷つく) お互い判りきった嘘を言い合う子って可愛いなー。 その後、判っててもちゃんと「ごめんね」って言い合う子って可愛いなー。 ハイ、私の趣味を詰め込みました。 お題元 Cosmos |