亀を模したメロンパン 捲簾&那托&悟空 甘い香ばしい匂いがしたから、辿ってみた。 そして行き着いたのは、よく知る子供のような大人の自室。 そっと扉を開けてみると、部屋の主が此方を向いて。 「おう、お前らか。さっすが、いい鼻してんなぁ」 からから笑う捲簾に、入っていい? と言葉にせずに視線のみで問い掛けてみる。 捲簾は嫌な顔など一つせず、手招きして入室を許した。 金蝉の部屋は生活観など感じさせず、天蓬の部屋は本でぐちゃぐちゃ。 それらに反して、捲簾の部屋は、生活観で溢れていた。 ベッドの横には捲簾の部屋から持ってきたのか、それとも下界のどこかで入手したのか、雑誌やら漫画やら。 テーブルの上は綺麗に整えられているが、其処に鎮座した灰皿には数本分の揉み消された煙草。 部屋の角には冷蔵庫(中身は殆ど酒)、棚の上にはオーブンなんて代物まである。 友人二人の部屋とは程遠い雰囲気の部屋に、那托はきょろきょろ見回し、悟空は匂いのもとへと駆け寄った。 スイッチの入ったオーブンの中、香ばしい匂いが悟空の鼻腔を擽る。 「ケン兄ちゃん、これ何?」 「菓子パン」 「…あんたが作ったのか?」 「おうよ」 那托の言葉に、捲簾が笑う。 つくづく、見た目を裏切る男だと思う。 悟空にとってはいつもの事で、待ち遠しそうにオーブンの中を覗き込んでいる。 「お前ら、食うか?」 「食べるー!」 「だよな」 捲簾の問い掛けは、明らかに判っていてのものだった。 思った通りの反応を返す悟空に、捲簾は楽しそうに笑う。 悟空が食べるというなら、勿論、那托も一緒に食べる。 捲簾が意外に料理が上手いのは那托も知っているし、悟空と一緒に食べるのなら尚更美味しいに決まっている。 那托だって子供な訳で、食べることを楽しみに思っているのは間違いないのだ。 折角の楽しいお菓子タイムを逃す手はない。 ピピ、とオーブンが音を鳴らす。 捲簾がオーブンの蓋を開けると、出来立てのパンの匂いが部屋一杯に広がる。 「悟空、涎出てるぞ」 「……あ」 「きたねぇなぁ」 半開きになった悟空の口から出ている涎。 苦笑した那托だったが、自分の口の中もすっかり濡れている。 ────オーブンから取り出されたパンは、奇妙な形をしていた。 饅頭のように丸くふっくらしていて、上部に格子状の溝。 前後に一つずつ、左右に二つずつの小さな丸いパンがくっついている。 「ケン兄ちゃん、これ何?」 先刻と寸分変わらぬ質問を受けて、捲簾はパンを皿に置きながら答える。 「メロンパンって言うんだよ」 「メロン?」 「つっても、メロンが入ってる訳じゃないんだけどな。ま、講釈は後で天蓬にでも聞けよ」 「変な形のパンなんだな……」 「ああ、形は俺が勝手にくっつけただけ。面白いかと思ってさ」 何が面白いのだろう、と悟空と那托は顔を見合わせる。 捲簾は皿の上に乗ったメロンパンに、最後の仕上げ、と言って冷蔵庫から何かを取り出した。 細いチューブのそれは、押し出すと練りチョコレートが出てくる代物だ。 何をするのかと悟空と那托が揃って見ていると、パンにくっついている丸い小さなパンの一つに、小さな点をつけた。 「ほら、何かに見えて来ねぇか?」 捲簾は殊更楽しそうに、メロンパンを二人に見せながら問う。 小さな点が二つ付けられた丸い小さなパンを前に置いて。 格子状の大きなメロンパンの左右に、小さな丸いパン、後ろについたパンは少し長細い。 じっと見つめていると、なんだかチョコレートの点が、何か生き物の目のように見えてきた。 二人とも動物にはあまり詳しくはなかったが、悟空は何処かで見たような気がして、思い出そうと試みる。 知識の源となるのは、天蓬の部屋で読んだ本ぐらいのもので、程無く答えに行き着く。 「カメ!」 「カメ?」 「正解♪」 くしゃくしゃと捲簾に頭を撫でられ、悟空は嬉しそうに目を細める。 言われれば確かにそうだと、那托もしげしげとパンを眺めて呟いた。 そうだそうだとはしゃぐ子供達が可愛くて、作って良かったと捲簾は思った。 (可愛い10のお題/5.亀を模したメロンパン) どんどん家庭的になっていく当サイトの捲簾(笑)。 特技に家事全般って書いてあったしね。お菓子くらいちょいちょいと作れそうな感じ。 お題元 Cosmos |