撮られちゃった! 人気が出れば、それに比例してスキャンダルも目に付くようになる。 それを是非とも写真に収めようと、所謂パパラッチと呼ばれる者も。 パシャリと音がして振り返ると、カメラを構えた見知らぬ男の姿。 きょとんとしてそれを見ていると、もう一度パシャリと言う音と、フラッシュの光。 目の前が閃光に包まれて、網膜の痛みに悟空が顔を覆っていると、男がくるりと背を向ける。 痛む眼を擦りながら目を開けると、カメラの男は既に遠い位置にあった。 が、その男の逃亡は阻止される。 「待て、コラ」 逃げようとした男の腕を捕まえたのは、悟浄。 「うちの相方に妙な真似すんの止めてくんね?」 「………悟浄、それ何?」 脅すようにカメラの男に凄む悟浄に、悟空は駆け寄って問い掛ける。 その言葉を聞いた悟浄は、呆れたと判る長い溜め息を吐く。 「お前なぁ……見て判んだろ、パパラッチだよ」 「……あー」 そっか、これがそうなんだ。 悟空の認識はその程度のものだった。 気楽と言うか暢気と言うか、全く事の重大さを把握していない悟空に、悟浄はまた溜め息。 芸能人になって既に数年が経ち、人気が出て随分経つようになったというのに、悟空は全く変わらない。 だからこそ悟空と言う少年が魅力的なのだろうが、相棒として、悟浄は毎日神経が磨り減る思いだ。 悟浄はパパラッチのカメラを取り上げると、フィルムを取り出す。 「わりーけど、これ没収ね。行くぞ、悟空」 「ん? うん」 「今日のリハ遅刻したら、八戒に何言われるか判ったもんじゃねえんだからよ」 「そりゃ悟浄が何度も遅刻するからじゃん。この間、ゲネでも遅刻したし」 カメラを物珍しそうに見ていた悟空だったが、悟浄に呼ばれて顔を上げる。 物的証拠を差し押さえられて項垂れているパパラッチに、そのカメラを返して、悟浄を追い駆けた。 「あーあ、また引越ししなきゃ」 「だな。いや、いっそホテルとかの方が楽かも知れねぇな」 取り上げたフィルムを手の中で弄びながら、悟浄は同調した。 下半期に入ってから、何度引越ししたのか、既に二人とも判らない。 こうして写真に納められて週刊誌にでも載せられると、次の日にはマンション下にファンが集まっている。 応援してくれるのは嬉しいのだが、自宅に突入されるのは色々と困る。 特に悟空には妙なファン───と言うか、マニアかオタクのような者までいて、危ない目にもあったことがあるのだ。 事務所の方からも気を付けるように、何度となく言われた。 今住んでいるマンションは、景色も良いし、部屋も広くて、二人とも気に入っていた。 それとも近々お別れになるのだと思うと、悟空は気分が落ち込んでしまう。 「スタジオ言ったら八戒に言おうぜ。次の物件探し」 「うー……もう面倒臭いー……」 「あんまり続くようなら、事務所からも根回しして貰う必要がありそうだな…」 あまり使いたくない手だが、仕方があるまい。 ファンの応援はありがたくても、行き過ぎると此方としても迷惑でしかないのだ。 ファンとの間に起こり兼ねない問題を避ける為、自宅の公開は許可されていない。 しかし、何処かの新聞社等に所属している者はともかく、フリーのカメラマン達にその言い分は通用しない。 こうなれば撮られる事は致し方ないとしても、新聞・雑誌掲載だけはなんとしても食い止めねばなるまい。 毎回毎回、こんな事の繰り返し。 プライベートも全く落ち着けなくて、悟空も悟浄も、いい加減に辟易していた。 そう話している間にも、信号に立ち止まり背後の気配を探ってみれば。 「………あー、面倒くせぇ」 「走る?」 「目立つだろ」 「いいじゃん、競争!」 「はぁ〜?」 「逃げるとか撒くとかじゃなくて、競争!」 うんざりとした表情の悟浄に、悟空は殊更声を明るくして言う。 悟空の額をコツンと小突いて、悟浄は今日は駄目、と告げた。 走りたかったのだろう。 剥れた表情になった相棒の頭を、悟浄はぐしゃぐしゃに掻き撫ぜた。 人ごみの向こうで、カメラのシャッターを押す音が聞こえる。 無邪気な笑顔を無粋なレンズに映させるのが勿体無くて、やっぱり走るか、と思って。 信号が変わると、未だ幼い手を引いて駆け出した。 (スキャンダルで5のお題 / 1.撮られちゃった!) 悟空総受けで芸能パラレル。 悟空と悟浄は、二人でアイドルユニットやってます(キン○みたいな感じの)。 ファンが自宅前で待ち伏せするとか、今の時代じゃやらない気もする… *ゲネ : Generalprobe(ゲネラルプローペ)/ドイツ語 初日公演や演奏会の間近に舞台上で行う最後の全体リハーサル、通し稽古の事。 日本のみ略称で「ゲネプロ」「ゲネ」「GP」とも言う。 お題元 凸凹シンメトリー |