質問攻め やはりと言おうか、最初に殴りこんで来たのは、観世音菩薩の甥であった。 殴り込むと言うと物騒だが、勢いはそれに負けずとも劣らなかったので、語弊はないと観世音菩薩は語る。 丁度悟空に忠告した直後の事だった。 周りの制止も宥める声も聞かずに、事務所に着くなり、彼は社長室へとやって来た。 伯母譲りの口の悪さと覇気で、周囲を完全に圧倒させて。 「おいクソババァ、どういう事だ!!!」 荒々しい足音は聞こえていたので、観世音菩薩は微動だにしなかったが、 変わりに彼の溺愛する養い子が思いっきり肩を跳ねさせて、眼をまん丸にして己の保護者を見た。 悟空の保護者────金蝉の目は、完全に血走っていた。 養い子が幼い頃に何某か派手な悪戯を仕出かしても、此処まで怒り心頭になった事はないだろう。 だがしかし。 子供のした事については(意外と)寛容なこの甥は、一転、子供の身に関わる事となると敏感で非常に過保護であった。 悟空が幼い頃は門限もきっちり決めて守らせていたし、芸能界に入ってからは、その過保護っぷりは更に増した。 本人に言えば口では否定するが、彼の言動は過保護でなければ、過干渉だと称される程で、 この事務所に籍を置いている芸能人達の間ではそりゃもう有名だった。 「どーいうもこーいうも、見たまんまって事だろ」 他に言う事もなく、あっさりと告げてやれば、青筋が一本増える。 金蝉が本気で怒っていることを重々感じている悟空が、ずりずりと後ずさりしている。 さっきまで固まって見ていた雑誌に顔を隠して、縮こまっていた。 その養い子に、金蝉の目が向いた。 途端、びくぅっと悟空の体が大袈裟な程に飛び上がった。 「悟空!!」 「ごごごごごめん金蝉っ!」 どもりまくって出てきた、養い子の謝罪の言葉。 殴られるのを庇うように(実際、そうしているのだろう。金蝉の拳が握られている)、頭を抱えて社長机の陰に隠れる。 「テメェ、また焔なんぞと飲みに行きやがって!」 「だ、だって、久しぶりだったから……それにオレ、酒は飲んでないしっ」 「悟浄も八戒もいねぇ所で参加するなっつってんだろうが!」 「だから酒は飲んでないよ!」 「飲み事態に軽々しく参加するなって言ってんだ!」 「そんなじゃねえもん〜!!」 ごつん、と大きな音がして、殴ることねーじゃんか!! と甲高い声。 事務所の社長室で親子喧嘩すんなよなー。 目の前で始まった喧騒を眺めつつ、観世音菩薩は思う。 「ねーちゃ〜ん!!」 飛びついて来た悟空を受け止めて、大地色の髪をくしゃくしゃと撫でてやる。 オレの所為じゃないもん、と呟く悟空に、そうだな、と言えば、だよねだよねと味方を求める声が続いた。 刺すような視線に目を向ければ、思い切り此方を睨んでいる甥がいる。 その一瞬の沈黙の隙を狙ったように、開けっ放しのドアを叩き壊すような音。 「おい猿……なんなんだ、これは……」 「うえっ! 三蔵!?」 雑誌の見開きページを見せながら現れたのは、玄奘三蔵。 この事務所に籍を置く、悟空・悟浄に並ぶ人気ミュージシャンだ。 悟空にとっては直属の先輩に当たる。 悟空と同じく多忙を極める彼は、現在、全国ツアーの真っ最中である筈だった。 「な、なんで三蔵ここにいんの? ツアーじゃないの!?」 「ンな事よりこれだ! テメェ、あれ程危機感持てっつっただろうが!」 「ごめんってばぁ〜!」 「立場を考えろって何度言ったら判る!? 表にマスコミ連中が来てやがったぞ!」 「え、嘘っ! なんでそんな話広がってんの!?」 「だから立場を弁えろって言ったんだろうが、このバカ猿!」 ステレオ状態で怒鳴られて、悟空は半泣きになって観世音菩薩に縋り付く。 そんな様子を、開けっ放しの出入り口から見ている人物が、四人。 悟浄とマネージャーの八戒、金蝉の友人であり悟空の兄代わりの役目を自負している天蓬と捲簾だ。 「……入れそうにねえな」 「…僕も、この事について聞きに来たんですけどね」 「あと表のマスコミどうにかしねーと、他の奴等が入れねえんだけどって言いに来たんだけど」 「こりゃ聞こえちゃいませんねー」 ──────しみじみ呟かれる声は、目の前の喧騒に見事に飲み込まれるのだった。 三蔵、多分ツアー先で雑誌見つけて、飛行機で素っ飛んで帰ったんだと思います。 ……後でちゃんとツアー先に戻りますが(プロですからね)。 一応、金蝉達も芸能関係の仕事してる設定です。 金蝉がクラシック系のサウンドプロデューサー、捲簾がタレント(歌もバラエティもなんでもOK。子供向け番組も出来る)、 天蓬がデザインプロデューサー(事務所所属タレントの広告とか担当)。 捲簾は裏方も表もマルチに出来るので、自分のしたい事してたら、段々TV露出が増えてタレントになっちゃったと。 質問責めと言うか、専ら悟空が責められてる形になってしまいましたι お題元 凸凹シンメトリー |