急に人気者







「幼馴染と聞き及んでおりますが」
「実際のところは?」
「ライブに悟空さんがよくいらっしゃるそうですが」
「あなたが直々に招待する事もあるとか…」






どういう関係なのですかと問われても、幼馴染であるとしか答えは無い。
それがテレビ用のコメントではないかと勘繰られる事は、否定はしないが、かと言って肯定も出来ないのだ。

自分があの幼馴染へと抱く感情は、確かに、単なる幼馴染に向けるものではなかった。
しかし相手はそれを知らず、相関図に印される文字は間違いなく“幼馴染”以外の何者でもあるまい。
ならばどういう関係なのですかと言う問いかけには、幼馴染であるとしか言える筈もない。




向けられるカメラやらマイクやらに対して、必要最低限だけの答えを示しながら、焔は進んだ。








(しかし、マスコミも大概暇人だな)







週刊誌を見せられたのは、つい昨日の事だ。
バンドのメンバーである是音から、「面白いモンが載ってるぜ」と、あのにやついた笑いと共に。

見た瞬間は固まったが、その後は呆れが来た。



あれは複数のバンドが集まる合同ライブの後の打ち上げで、其処に来ていた悟空も誘った時の事。

人気アイドルとして名を知られた悟空に、パパラッチがついていないとは思っていなかったが、何せ久しぶりに顔を合わせたのだ。
テレビ越しならよく顔を見るが、何せ悟空は売れっ子のアイドルタレント、インディーズバンドの焔よりも当然多忙を極める身。
たまにゆっくり話が出来る時間があるなら、焔は何よりもその時間を大切にした。

想いを寄せているとは言え、焔はそれを悟空に伝えるつもりはなかったし、悟空は相変わらず色恋沙汰にはてんで疎くて鈍い。
だから飲みに誘ったのも、単純に久しぶりに話がしたかったからであって、下心は───恐らくだけども───なかった。


大体、あれは酒の席なのだから、例えば罰ゲームだと言っても通るだろうに。
それを一々写真に撮って、あまつさえ大々的に雑誌に載せるメディアの気が知れない。







(大方、殆どが悟空狙いなんだろうが)






業界ではそれなりに名が響いている焔であるが、一般にはまだ知られていない身だ。
マスコミ達がこぞって手に入れようとしているのは、焔に関する事ではなく、人気アイドルの裏の顔。


売れ始めた当初から、悟空と、彼とユニットを組む相方の悟浄は、メディアの不必要なまでの介入を一切拒否している。
プライベートを明かさぬ彼らの存在は、パパラッチ──特にフリーとして活動している者──にとっては格好の餌だった。
しかし探れど探れど、目ぼしいものは見付からないし、悟浄の女性遍歴は今更となり、悟空の方はそんな陰もないと来た。
早い話、ネタが切れたと言う事だ。

結果、とにかく悟空のプライベートならなんでも良いと思い切ったか。
男同士の戯れなど、飲みの席では珍しくも無いだろうに、此処ぞとばかりにクローズアップして。
おまけにそれに見事に食いつき騒ぐメディアに、焔は呆れるしかない。







(……別になんと言われようと、俺は大して構いはしないのだが)







期せずして名が一般に売れたお陰で、先月発売のCDの売れ行きは好調。
売名行為だと騒ぐ輩もいるが、焔は自らメディアに情報を売ったつもりもないのだから、気にするつもりはない。
寧ろ、こっちも被害者だ。

周りになんと言われようと、焔は気にした事がない。
唯一気にかかるのが悟空の意見であって、他の事は焔にとって立て板に水の心中であった。
ファンからは諸々の手紙や悲鳴があるが、それさえ悟空の事で脳の大半を占める焔にとっては、今更何をという気分だ。
自分達の音を聞く気が失せたのなら去れば良いし、それでも聞くと言うなら、その人々に対して応えるだけだ。


焔は事務所に所属していない。
故に、なんと言われようとそれは自分で片付けるし、周りの意見も然程大きく動く事は無い。
大抵は周囲が勝手に騒いで勝手に沈静化するからだ。



しかし、大手事務所に所属し、人気を博する悟空は違う。
特に悟浄と違って滅多に騒がれないものだから、今回の騒動は一筋縄では終わるまい。
あまりに派手に騒がれるようなら、暫くの間、芸能活動も自粛しなければならない可能性も出てくる。

今頃は事務所からライブの立ち入り禁止も告げられているだろうし、最悪、ライブに関わらず逢う事すら禁じられるかも知れない。
──────逢えなくなる事だけは、耐えられない。








(取り合えずは、保護者に謝罪か)







普段は周囲に対して無関心な癖に、子供に関してだけは口煩い男を思い出す。
この騒ぎの中で、逢った瞬間に拳が飛んでくる可能性も考えられるが、かと言って無視する訳にも行くまい。
弁解の一つでもさせて貰えなければ、本当に顔を見せてもらえなくなってしまう───保護者によって。


フルフェイスのヘルメットを被る。
狭くなった視界の中でも、カメラのフラッシュは鬱陶しいほどに炊かれていた。

バイクのキーを入れて、エンジンを噴かせる。










さて、なんと言い訳したものか。

パパラッチなんかより、よっぽど手強い面々を思い出しながら、焔はバイクを発進させた。











最初はお題3で書いてたのですが、段々内容がこっち寄りになったので、変更しました。

この焔兄さんはメジャーになる気があるのかな。なさそうだな……
バンドメンバーはやっぱり是音(ドラム)、紫鳶(シンセ)で、後は打ち込みしてるんじゃないかな。
ついでに兄さんはギターもやってればいい。

バイク乗ってる焔兄さんは格好良いと思います(内容と関係ねー)。



お題元 凸凹シンメトリー