スキャンダルの真実






結局、アレってなんだったんだ?
そう聞いていたのは、一年前にライバル事務所から観世音菩薩の事務所に異例の移籍をした那托だった。





那托は、赤ん坊の頃から写真誌に出ていて、若干4歳で子役デビューし、天才子役と謳われた。
悟空と逢ったのはお互いが高校二年生の時で、互いに親友であると公言して憚らない。
事務所同士は方向性の違いが明らかであった事から、世間の方も何かと競い合わせるような風潮があったのだが、
当人達はそんな大人の事情など何処吹く風で、公私共に仲良くやっている。

不況の煽りで那托の所属していた事務所が続けられない事を知ると、観世音菩薩は那托を自事務所に引き取った。
マスコミからはあれこれ憶測が飛び、相手事務所が潰れたのは観世音菩薩の差し金ではないかと言う話まで広がったが、
彼女はやはりそんなものは跳ね除けて、友達同士は一緒にいた方が楽しいだろうと笑って言っただけだった。


ライバル事務所のタレントが、そう簡単に新しい事務所に馴染めるのか。
そんな心配は、那托の元々悪戯っ子の人懐こい気質で杞憂に終わった。
悟空と仲が良い事も手伝って、彼はあっと言う間に新しい現場に馴染んだのである。

以前はドラマばかりで、バラエティには番宣VTR程度しか顔出ししなかった那托だが、今ではバラエティに出ずっぱりだ。
特に悟空と一緒に出演する番組は、元気っ子二人が評判を呼び、高視聴率をキープしている。
那托の方向転換を示した観世音菩薩は、勝算や戦略などはあったんですか? と問うマスコミに対して、
そういう事は関係なく、本人達が一番楽しめる形を示してやっただけだと言った。

事実、那托はバラエティに出ている時の那托は、ドラマの時とは違った印象になり、ギャップが更なる人気を呼んだ。
悟空と一緒にいる時は益々楽しそうに笑うから、最近は二人一緒に出演する機会も増えている。



────なので、現場で一緒にいる時間は、おのずと増えることになる。





二ヶ月のドラマ撮影を終えて、久しぶりに二人一緒にバラエティ番組に出演した。
その収録の休憩時間中、先の那托の問いが降って来たのである。






「……アレってどれ?」





バラエティのノリに散々乗って騒いだので、喉が渇いていた。
用意されていたミネラルウォーターを飲みながら問い返すと、ほら、アレ、と那托は言って、





「一月前の週刊誌、スゲーの載ってたじゃん」
「うえ〜……那托もアレ見たのか?」
「出番待ちの時に暇だったからさ、車に置いてあったの、ちょっとな。もーびっくりしたぜ」
「オレが一番びっくりしたよ!」






確かに載った、凄いのが。
関係各社から怒濤の質問の嵐に遭った事は、まだ悟空の記憶に鮮明に残っている。






「写真に載ってたのって焔だろ?」
「うん」






焔のバンドのライブには、那托も何度か行った事がある。
しかし、事務所が厳しかった所為もあって、飲み会などには参加した事がなかった。

ドラマの打ち上げでさえ──これは年齢も関係するが──参加経験がない。
行っても挨拶一つと、一時間程度が良い所で、誰より先に帰る事もあった。


だから那托は、飲み会がどういうものなのか、よく判らないと言う。





「ああいう事すんの? 飲みって」
「罰ゲームでする事あるよ。王様ゲームとかで。悟浄はよくやる」
「ああ、女優と堂々とキス出来るんだぜーとか言ってたな。じゃ、アレも?」





那托の言葉に、悟空は首を横に振る。





「ゲームはしてない。でも焔、酒入ってたからさ」
「焔って酔うの? あんまりそんなイメージねえけど」
「普段は酔わないと思うけどなー。どうだろ」





何度か飲み会には参加したが、悟空は焔が酔った所を見た事がない。
もしかしたら、酔った風に見えないだけで、酔っ払っているのかも知れないけれど。





「そんで、アレはなんだったんだ?」
「んー………挨拶?」





少し考えて口にした答えに、はぁ? と間抜けな声が那托から漏れた。






「アレが挨拶ぅ?」
「なんか昔から、オレにはああなんだ。もう癖なのかなー」
「……そんなの、外国じゃあるまいし」
「でもそうなんだもん」






テーブルに用意されていたポテトチップに手を伸ばす。
同じく、那托も手を伸ばした。






「天ちゃんやケン兄ちゃんも時々するよ」
「それは見た事あるけどさ」
「それと一緒」
「……一緒かぁ?」






なんか違う気がするけどな、と。
那托の呟きには、悟空は首を傾げるしかない。



元々は、二人で遊んでいる時に、悟空が転んで怪我をして、泣き止まなかった事から始まったのだ。
テレビで洋画でも見たのか、泣いている赤子に親がキスをして、そうしたら赤子が泣き止んだ。
その真似をしてキスをして以来、何かあると焔は悟空に口付けた。
気付いた時には悟空にはそれが当たり前の行為になっていたから、不思議に思う事もなかった。

でも、確かにいい加減に、直して貰った方が良いかも知れない。
くすぐったいから嫌いではないのだけれど、あれが原因で焔と金蝉は益々仲が悪くなっているのだ。
第一、自分も小さな子供ではないのだし。


あの騒ぎで、焔と金蝉は更に剣呑になり、悟空は騒ぎが沈静化するまでの間、ライブハウスに入れなくなった。
焔もマスコミに騒がれている間は、他のバンドに迷惑がかかるので、予定していたライブも自粛しているらしい。






「でも、マスコミってスゲーな」
「なんで?」






ぽつりと呟いた那托に、悟空はまた首を傾げて問う。







「だって罰ゲームかも知れないのに、わざわざ週刊誌にでっかく載せるんだぜ」







オマケに、芸能ニュースでも随分取り上げて、騒がれて。
勿論、一部はありえない話だとコメンテーターが言っていたが、それでも中々収まらなかった。
滅多にメディアが介入出来ない人気アイドルのプライベートが流出したのだから、当たり前と言えば当たり前だ。

騒ぎそのものは、社長の観世音菩薩と、事務所代表とも言える影響力を持つ三蔵の、鶴の一声で静まって行った。
しかしメディアが一時諦めても、世間一般の注目は中々変わらない訳で、此処一ヶ月、焔と悟空は逢っていない。








「芸能人って大変だな」
「今更言うなよ」












悟空の言葉に、那托は呆れた言葉を漏らしつつ、全くだ、と頷くのだった。















肩透かしの真相で申し訳ない。
でもうちのサイトのオチとしてはこんなもんで(苦笑)。

那托は悟空よりも焔の気持ちに感付いてはいるけど、興味が薄いので、はっきりとは判ってません。
保護者や幼馴染って言うにしては、ちょっと変な感じするよなーという程度で。
兄さん、パラレルでも報われなくってゴメンよ……。
でもかなり出張ったんだから許してくれι


那托の前事務所、多分社長は天帝か李塔天。



お題元 凸凹シンメトリー