五つ星とはこのことよ! 捲簾が怪我をした。 いつものように、捕物の最中の事である。 部下を庇って左腕に刃を受け、それを右手で掴んで力任せに武器を奪い取った。 派手に出血したにも関わらず、そのまま下手人を縛につけ、手当てをしたのはそれから一刻後、帰り路に寄った天蓬の診療所だ。 一応止血程度に応急処置はしていたが、その頃には両手は血塗れで、当て布も真っ赤になっており、見事に天蓬の不興を買った。 左腕も右手も然程深い傷ではなかったが、何せ出血が多かった。 手当てまでに時間が経ち過ぎていた事もあり、念の為、暫くの間両腕共に使用禁止にされた。 大袈裟だと捲簾は言ったが、医者の言う事は聞くものだと天蓬にゴリ押しされる事となる。 包帯を巻いて帰れば、案の定、養い子に泣かれてしまった。 弟からは「学習能力ねぇのかよ」と言われる始末である。 泣きじゃくって心配してくれる子供を宥めて、莫迦だ莫迦だと素直でないけれど気にしてくれる弟に苦笑して。 それが、昨晩の話だ。 目が覚めると味噌汁の匂いがして、どうした事かと不思議に思った。 食事を作るのはいつも捲簾の役目で、捲簾が目覚めなければ朝餉の香りもない筈だ。 長屋の隣家のものではない、明らかに我が家の土間の方からそれは漂ってきた。 幼馴染から散々言われたので、左腕と右手に負担をかけないように、腹筋の力だけで起き上がる。 辺りを見回してみると、弟の姿はなく、常ならくっついて眠っている筈の子供もいない。 これは寝坊でもしてしまったかと格子窓の向こうを見遣ると、まだ卯の下刻(午前7:40〜)頃だった。 子供はともかく、弟が起きるには早い時間だ。 頭を掻きながら立ち上がり、寝所と居間を隔てる扉を開ける。 すると。 「悟浄、ケン兄ちゃん起きた」 「……おー」 囲炉裏に鍋を置いて温めながら、悟空と悟浄が其処にいた。 悟空ははっきりぱっちりとした目をしていたが、悟浄の方はまだ眠たそうにしている。 「何してんだ、お前ら……」 「何って、飯だよ飯。作ってたんだよ」 「ケン兄ちゃん、怪我してるから」 捲簾が捕物の最中に怪我をするのは、よくある事だ。 だがそれでも家事は一人で滞りなくこなしていたし、朝晩の飯を作るのにだって不自由しない。 起きられないような大怪我をした時ならともかく。 悟浄は勿論、悟空もそれを判っているだろう、今までずっとそうして来たのだから。 それが突然どうしたのかと、捲簾は困惑気味に弟と養い子を見つめていた。 半ば呆然としている捲簾に構わず、悟空が捲簾の寝巻きの裾を引っ張る。 「早く食べよ」 悟空の台詞に我に返り、悟空を傍らに囲炉裏の傍に腰を下ろす。 すると、横から握り飯の乗った皿を差し出された。 見遣れば悟浄が無言でそれを突き出していて、ああ俺の分かと皿を受け取った。 「ケン兄ちゃん、ケンちゃん」 「ん?」 「それね、オレが握ったんだよ」 言われて握り飯を見れば、俵型とも言い難い、歪な形をしている。 それが子供らしい頑張りを滲ませているようで、捲簾はくしゃくしゃと悟空の頭を撫でた。 と言う事は、味噌汁は悟浄か。 思って悟浄へと視線を向けると、判りやすく眉間に皺を寄せている。 きっと朝早くから悟空に起こされて、作ってくれと頼まれたに違いない。 握り飯の中身は、何もない。 白飯だけで作られている。 味噌汁は飲んでみれば少し辛くて、豆腐の形も随分崩れていて。 でも。 「ケン兄ちゃん、うまい?」 一生の中でこれを越える味はないなと、思った。 (漢数字5題/5.五つ星とはこのことよ!) 家族の愛情、家庭の味。 それに勝るものはない。 お題元 Cage |