汗とジュースの匂い



二人同時によーい、ドン。
勢いよく駆け出して、あっと言う間に校門は遥か彼方。




「うおぉぉぉっっ!!」
「だああぁぁぁぁっっ!!」




雄叫びの如く声を上げながら、全力疾走する少年が二人。

追い越して行く景色の中で、擦れ違う級友達が指差して笑う。
ああまたか、と。


彼らが高校に上がった年から、週に一度、繰り返されるこの光景。
学校から一番近いコンビニまで、距離にして約500メートル。
校門から其処まで全力疾走で競争して、負けたらジュース一本の驕りと言うルール。
勝負は毎回、一進一退を繰り返し、タッチの差で勝者が変わる。

小さなコンパスを一所懸命に動かす二人の姿は、今となっては高校近辺ではすっかり定着した。
生徒の中にはどっちが勝つか賭けをする者もいて、ちょっとしたアトラクション扱いだ。




「ぜってー負けねぇ!」
「こっちの台詞だ!」




大地色の髪と、銀色の髪が風になびく。
緩めたネクタイが流れて踊る。


角を曲がって、後100メートル。
ラストスパートと、走る速度を上げたのは、二人同時。

50、40、30……ゴールと定めた看板の柱に手を伸ばし、




「オレの勝ち!!」




ゼロコンマ数秒の差で、勝利したのは銀髪の少年────那托。




「っだー! くそー!!」




僅かに遅れて柱に取り縋ったのは、大地色の髪の少年────悟空。


悔しげに唸る悟空を前に、那托が得意げに胸を張る。




「今日も悟空のオゴリだな!」
「くっそー……次は絶対勝ってやる!」




Vサインをする親友に、悟空はぎりぎりと悔しげに歯を噛んで決意する。
それを受けた那托は、やれるもんならやってみろ、と益々得意げな顔をして見せた。


コンビニの出入口横にある自動販売機に向かいながら、悟空はポケットから財布を取り出す。
取り出した小銭を投入口に入れて、自販機の前を那托に譲った。
那托は暫く商品を眺めた後、パックのリンゴジュースのボタンを押した。

悟空は続けて小銭を投入口に入れ、オレンジジュースのボタンを選ぶ。
がこんと音が鳴って、目当てのものが取出し口の中に転がり出てくる。


全力疾走で温まった体の熱を逃がすように、額からじわじわと汗の玉が浮かんできた。
それを拭い、差し込んだストローの先端を口に含んで、ちゅーっと吸い上げる。




「……っはー。勝利の味っていいな」
「ちくしょー、嫌味だぞ!」
「悔しかったら勝ってみろよ」




パックジュースを片手ににやりと笑う親友を、この野郎、と悟空は鞄を振り上げて追い回すのだった。





高校生未成年コンビ!
相変わらず趣味に走ってすみません!

(ハナウタ
青春5題 / 01.汗とジュースの匂い)