喉が枯れて



イガイガする。
喉を摩りながらそう言った悟空に、大丈夫か?と那托は問い掛けた。




「風邪か?」
「んー、どうだろ」




万年健康優良児の悟空が早々風邪を引くとは、那托も思っていない。
しかし、万が一と言うのはあるもので、疲れている時にうっかりウィルスを拾ってしまう可能性も捨てきれない。

だが悟空は首を傾げるだけで、別にだるいとかはないんだけどな、と呟いた。
その呟きも、常のような通りの良いボーイソプラノではなく、ノイズがかかったように不明瞭だ。




「じゃあ……あ、ひょっとして三時間目の音楽の所為じゃないか?」




今日の音楽の授業は、全員での合唱が行われた。

音楽の授業の合唱など、真面目にやっている生徒の傍ら、手を抜いて歌ってすらいない生徒も疎らにいる。
その中で悟空は───真面目な気質と言う訳ではないが───きちんと大きな声で歌っていた。
しかし、歌唱の歌い方など、理屈で学んではいても、実際にはまともに体現出来ていなかったりする訳で。




「あー、それかも」
「変な声の出し方したんだな」
「うん、多分」




普通にしていても悟空の声は十分通るが、変に力んでしまった所為か、反って負担になったらしい。
大きな声を出すのは得意、と張り切ったのが、空回りしてしまったようだ。




「風邪じゃないなら、大丈夫そうだな」
「大丈夫じゃないって。喉ザラザラする」
「イガイガじゃねえの?」
「それもする」




顔を顰めて喉を摩る悟空の言葉に、那托は一つ溜息。
世話が焼けるなあ、などと呟きながら、那托は机の横にかけている鞄を漁った。
取り出したのは、鮮やかなオレンジ色をした箱パッケージ。




「ほら、喉飴。今の内に食っとけよ」
「……うえー……」
「なんだ、その反応」




判り易く苦い顔をした悟空に、那托も眉間に皺を寄せる。




「だってさあ、喉飴ってスースーするじゃん」
「そりゃ喉飴だからな」
「あれ苦手なんだよ……」
「あー、なんか判る気もする」




特に最近の喉飴は、爽快感や口臭ケアとして。キシリトールやミントが配合されているものも多い。
それが喉に良いのだと言われても、悟空はああいった類がてんで受け付けられなかった。

しかし、折角の親友の好意を無下にするのも申し訳ない。
悟空は渋い顔をしつつも、一個、と言って右手を差し出した。
那托が紙パッケージから袋を取出し、悟空の手の上に飴を転がす。




「味、オレンジ?」
「うん。割と食べ易い方だと思うけど」




ぽい、と悟空は飴を口の中に放り込んだ。
ころころと舌で転がして間もなく、舌の表面がスースーとした感覚に襲われる。




「……まずぃ」
「我慢、我慢」




イガイガするのも嫌なんだろ、と言われて、悟空は唇を尖らせた。




喉飴って、噛み砕いたら効果ないのかな。
そんな事を考えながら、悟空は舌の上のスースー感を必死で我慢した。






スースー感が嫌いなのは私です。なもんでキシリトールやミントが配合された飴が食べれません。
近所のスーパーに売ってる飴がそんなのばっかで俺涙目。

(ハナウタ
青春5題 / 03.喉が枯れて)