もう届かない



先生が突然の腹痛で保健室に運ばれる、と言う事件の後、体育の授業は殆ど自習同然になった。
そんな訳だから、体育館の中は随分と賑やかだ。
それぞれ勝手にコートを決めて、ドッジボールにバドミントンにと、殆どレクリエーションタイムである。

悟空と那托も暫くバドミントンに興じていたのだが、段々とその遊び方が本来のものとは違う方向に傾いて来た。
順調にラリーが続く中、悟空が一度高くシャトルを打ち上げたのを期に、ならば此方も、と那托もシャトルを狙って高く打ち上げるようになった。




「そー……れっ!」
「おー…っと、っと、ていっ!」




カァン、カァン、とテンポ良く刻まれるラリーの音。

高く跳ねあがる程、落ちて来た時に返す力も強くなり、シャトルは更なる高みへ昇る。
恐らくこの遣り取りは、どちらかがシャトルを拾い損ねるまで延々と続くだろう。




「よっしょ」
「おっ」
「うりゃっ」
「おお、あぶねっ」




危うく取りこぼしそうになった那托だったが、滑り込む形で拾う。
それによって一度高みから落ちたシャトルを、悟空が気合い一発、




「うりゃあっ!」




掛け声と共に強く打ち上げれば、シャトルが更に高く高く跳ねあがり───────




「………あれ」
「ん?」




宙で標的物を見失って、悟空と那托は天井を見上げたままで首を傾げた。
二人それぞれ駆け寄って目を凝らしてみるが、どれだけ待っても、シャトルは落ちて来る気配がない。

……こういう事は、体育館で行われるボール授業等に置いては、時折見られる光景で。




「あー、引っ掛かっちゃった」
「ちょっと調子に乗り過ぎたなー」




やってしまった、と天井を見上げながら呟く二人。
調子に乗ってしまった後の結末なんて、大抵こんなものである。

幸い、シャトルは昇ってしまった一つではないから、用具倉庫に取りに行けば替えはあるので、取りに行けと怒られる事もあるまい。
体育館の天井には、今昇ったシャトルの他にも、バレーボールやバスケットボールが格子の間に挟まっている。
ああいうものは、夏休みや冬休みの間に体育館を清掃しに来る業者に任せておけば良い。


悟空と那托は、用具倉庫に行ってシャトルを持ち出した。
箱の中に詰められたシャトルは、まだまだ沢山ある。

元の位置まで戻った所で、悟空がシャトルとラケットを構えた。




「よし、二戦目!」
「負けねえぞ!」




カァン、と甲高い音が響いて、ラリーが再開される。






………二人が再び天井を見上げるまで、あと五分。








調子に乗っちゃう男子高校生は可愛いと思う。
三蔵辺りは「学習能力ねえのか」って呆れるだろうけど。

(ハナウタ
青春5題 / 04.もう届かない)