晴れ渡る空の下



無邪気な笑い声が二つ、近付いて来る。
その事に気付いて、捲簾は閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた。



桜の花弁が、蒼い空の中を泳いでいる。
青色と桜色が重なり合って鮮やかに見える景色が、捲簾は気に入っていた。

桜を眺めて飲む酒と言うのは、不思議なもので、単純に杯を傾けているだけの時に比べ、ずっと美味く感じられる。
筈なのだが、これがヒヒジジイ───上層部のお偉方の事だ───が催した宴会となると、酒は不味くなるし、桜の色も褪せて見える。
どうせ飲むなら美味い酒、同じ見るなら色鮮やかな花が良い、と捲簾は思う。


背を預けていた木の幹から体を起こし、捲簾は寝床にしていた木の枝から落ちないように姿勢を整えた。
枝から足を下ろして下方を見ると、二人の子供が桜の絨毯の上で遊んでいる。



「これ全部持って帰れないかな?」
「全部は流石に無理だろ。籠も持ってないのにさ」
「籠…籠かぁ。籠あったら全部…」
「だから無理だって。そんなに欲張るなよ」
「だってさぁ。どうせなら一杯で埋めたいじゃん」
「全部持って帰らなくたって、あれ位の部屋なら埋まるだろ」



子供達は、頭上で自分達を見下ろす男の存在には気付いていない。
二人は桜の絨毯の上に座って、拾っては投げてふわふわと舞う桜の花弁に夢中になっている。



「でもさ、一番の問題は、どうやってバレないように持って行くかじゃないか?見付かったら台無しだろ」
「ねーちゃんの所に書類持って行く時とか……」
「十分くらいで戻ってくるじゃん、そんなの」
「むぅ……じゃあ天ちゃんとかケン兄ちゃんに頼んで引きつけて置いて貰うとか」



どうやら子供達は、何某か良からぬ計画を立てているらしい。
けれども、聞いている限りだと、物を壊したりと言う可能性は低そうだ。
計画の中心人物にとっては、とても大変な思いをする羽目になりそうだが。

子供達の可愛い計画に誘ってくれると言うなら、是非とも参加させてほしい。
後から保護者の怒りを買うのは目に見えているが、そうと判っていても、捲簾は子供達の悪戯に加わりたかった。



「効率良くしないとバレるよな」
「花びら、先に部屋の前まで持って行こうか」
「なんで部屋の前なんだよ……出入りする時にバレるじゃん」
「あ、そっか。じゃあ部屋の外……駄目だ、二階なんだった」
「うー」



どうやら、計画に大きな問題が浮上しているようだ。

捲簾は、降りて彼らの計画相談に参加しようかと思ったが、結局止めた。
宙ぶらりんにしていた足を枝の上に戻して、幹に背中を預ける。
眼を開けた時と同じ姿勢にになって、捲簾は花弁の舞う青空を見上げた。



「隠せる所って何処かあるのか?」
「なくはないと思うけど。探せば。空き部屋とかさ」



蒼い青い空の下で、子供二人の悪戯計画は続いて行く。
いつものように元気に走り回る様子のない、賑やかだけれど大人しい気配が、なんだか少し不思議だった。

あと少し経ったら、子供達はいつものように駆け回るのだろうか。
それとも、悪戯計画の根本的見直しをする為に、ターゲットの周辺について探りに行くのかも知れない。
或いは─────温かな日差しの中で、夢の世界へ旅立つのかも。


捲簾は、しばらく青空をのんびりと見上げた後、目を閉じた。



(平和だねぇ)



無邪気な子供が二人、青空の下で、可愛い悪戯の計画をしている。
その声を聞きながら、のんびりゆっくり、昼寝の続き。

それ位には、平穏な時間。



(悪くは、ねえよな)





寧ろ、気に入っている。

無邪気に計画を組み立てていく声を聞きながら、捲簾の意識は青空へと溶けて行った。






いつもなら直ぐに飛び降りてちょっかい出しに行く捲簾ですが、今回はのんびりまったり。

悟空と那托は、「金蝉の部屋ってなんにもなくてさっぷーけいだから桜で一杯にしてあげよう!」計画を相談中。
本当にやって後で仲良く怒られると良いと思いますw