みんながキミと


昨夜ずっと降り続いていた雨は、明け方になるとすっかり晴れ渡っていた。
雨が降っている間感じていたじめっぽさも、もうない。

雨が上がったのを聞いた悟空は、別室の飼い主のもとへ一目散に駆けだした。



「三蔵っ、外晴れてる! 雨上がったよ!」



バタバタと走って部屋まで来て、言葉とともに扉を勢い良く開けた。

煙草を吸っていたらしく、嗅ぎなれたマリボロの匂いがする。
随分前から吸っていたのか、部屋が少し白く見えた。



「……で?」
「え?」
「雨が上がって晴れて、それがなんなんだ?」



三蔵のあまりにも素っ気ない口振りに、悟空はしょぼんとする。



「何って…別に…三蔵に早く晴れたって伝えたかっただけだよ……」



怒られるという雰囲気の所為か、悟空は少し、うつむき加減でつぶやいた。



「何故、伝えようと思ったんだ?」



あくまでそんな態度を取る三蔵。悟空は上目使いで告げる。



「だって三蔵、雨の日はいつも黙ったままだもん」
「だからどうした」



もともと口数は少ない。

けれど、だから余計に悟空は思う。
誰より先に、三蔵の声を聞き分けるから。



「早く三蔵と、色んな話したい」





雨の日は三蔵は、自分を見てくれない。
姿が在って、目線が自分に向けられても、ココロはいつもそこにはなくて。

雨が上がったら、少しは自分の話を聞いてくれる。
雨が上がったら、三蔵は自分を見てくれる。
だから雨が上がったら、誰より先に伝えたい。





「……理由になんない?」



おそるおそる聞いてくる悟空。
そんな悟空の頭を撫でて、三蔵は小さく笑った。

悟空の顔に、自分の顔を近づける。



「悟空…―――」
「さ…んぞ……」



もう少し。

しかし突然背後から、聞きなれた嫌な声。



「はい、そこでストップ!!」
「三蔵、抜け駆けはなしだぜ〜?」



パンパンと手を叩いて告げる八戒と、茶化すような悟浄の台詞に、三蔵の眉間に皺が寄る。

あくまで笑顔で、八戒は密着していた二人を引きはがした。
その行動に、三蔵の眉間の皺が一本増える。



そんな三蔵には目もくれず、悟浄と八戒は、足早に悟空に近寄った。



「悟空、大丈夫ですか? 何か変な事されませんでしたか?」
「へ?」
「んな無防備だと狼に食われるぞ」



それはアンタじゃないか? 悟浄さん。



「貴様等いい加減にしやがれ!!」


ガウン!!!



「うおっ、危ねーな! この鬼畜生臭坊主!!」



間一髪で避けた悟浄に、三蔵は追い打ちをかけて連射する。
なんで俺ばっかり! とココロの中で悟浄は絶叫した。

ちなみに八戒はと言えば。



「危ないですねえ、まったく。ねえ悟空?」
「う…うん……」



銃弾から守る為と称して、ちゃっかり悟空を抱きしめてたりする。
悟空もいつにない三蔵の剣幕に、怖がりながら八戒にしがみつく。


三蔵がキレるのも当たり前だ。
だって折角の二人きりの朝を、ゆっくり過ごそうと思ったのだから

しかしそれなら、八戒や悟浄だって同じ事。
愛しい子猿と曙の明星を過ごしたかったのに鬼畜坊主に負けてしまった。
それなら邪魔の十や二十したくもなる。





けれど。





「八戒、オレ腹減ったあ」
「あらら…じゃあ朝ご飯にしましょうか」
「ちょい待て、八戒ッ! 抜け駆け禁止だぜ!」
「カード持ってんのは俺だ」



そのまま三人は、あわや不毛なバトルかと思ったが、




「ねえ」




振り返ったそこには、空腹を恥ずかしそうに訴えて。
笑顔で。








「早く行こ?」











羽根が舞うように。






そんなふうに笑われたら、受け入れてしまう。

この子は判っていないだろうけど。










他の何より大事






傍にいたい







誰もがキミを
      好きだから







愛してるから
















FIN.




後書き