EDEN of EDEN 天使って いるの? 「天使?」 食堂でそれぞれ食後の一服をしていた時、悟空が唐突に聞いてきた。 質問の真意が判らず、三人は悟空を見る。 「……いるの?」 ただそれだけを聞いてくる悟空。 悟浄は半ば憮然として、煙草を灰皿に潰した。 「……頭打ったかオマエ」 「違やい!!」 悟浄の台詞にいきりたったように、悟空は返した。 「だってそーとしか考えられねぇじゃねえか」 悟浄の台詞に、ますます悟空は頭に来たようで。 あまり騒動にならないうちに、八戒が二人を制した。 「それにしても、どうしたんですか? 突然」 八戒の台詞に、悟空は少し思い出すようにして、 「八戒の本」 その答えに、八戒は首を傾げた。 天使だとかの類の本を、自分は持っていただろうか。 「それに書いてあったの。天使がどーとかって色々」 「おい八戒、そんなもん持ってたのか?」 悟浄が聞いてくるが、八戒に思い当たる節はない。 「ありましたかね……そんな堅苦しそうなジャンル」 考える八戒に、悟空が言う。 「なんかずっと西のほうのこと書いてあるヤツ」 「思い当たりませんけど……」 そう言う八戒に、悟空はでもあったと言う。 まあ無ければ悟空がそういうものに興味を持つことは無いだろうが。 しばらくの沈黙を破ったのは、悟空だった。 「ねえ、皆はどー思う?」 食堂のテーブルに乗り上げて、悟空は三蔵らを見る。 「天使の有無について、ですか」 どうなんでしょうねと八戒がつぶやく矢先で、悟浄が席を立つ。 火を点けたばかりの筈の煙草を灰皿に擦り潰した。 「俺そういう話パ―――ス。とっとと部屋で寝かせて貰うわ」 言いながら席から離れようとする悟浄を、悟空は慌てて引き留める。 「ちょっと待ってよ、悟浄!!」 呼び止められた悟浄は、仕方なさそうに振り返る。 「あんだよ」 こういう話はなんとなくしたくないから離れようとしたのだが、悟空に呼び止められたら仕方無い。 悟空は真剣な瞳で悟浄を見る。 「いるかいないかだけ!」 「はあ?」 「悟浄はいると思う? いないと思う? 言うだけ言ってって!」 悟浄は少し面倒くさそうに、悟空を肩ごしに見る。 「だァからそういう話は俺ァパスだって言ってんだろ」 しかしそこまで言って、自分を見る真っ直ぐとした金瞳にバツが悪そうに頭を掻く。 何処か笑っているような表情で、悟空の頭をくしゃくしゃと撫でる。 そのまま振り返って、悟浄は背を向けた。 「―――――いるんじゃねえの」 食堂を出ていった悟浄を呆然と眺めていた悟空は、しばらく虚を突かれたような顔をしていた。 「嘘ぉ…」 ようやく出てきた台詞はそんなものだった。 まだ悟浄の台詞の余韻が残っているようだ。 「オレ、悟浄、絶対いないって言うと思った」 八戒と三蔵に向き直って、悟空は漏らした。 八戒は少しうなって、悟空の頭を撫でる。 「でも気持ち判りますね、僕は」 悟空は意味が判らないと言った表情で八戒を見た。 けれど頭はすぐ別のことを考えだしたらしく、 「じゃ八戒は? 八戒はどう思う?」 天使の有無を再度問いてくる。 「僕は――――」 じっと悟空を見て八戒は慈しむように目を細める。 その優しい笑顔に悟空もつられて笑いながら、少し小首を傾げた。 「いると思いますよ」 だって。 「だって見えますから すぐそこに」 八戒の言葉に、悟空はただ目の前の彼を見る それに構わず、八戒は席を立つ。 「じゃ、僕ももう上がりますから」 部屋に戻ることを告げた八戒に、三蔵は、ああ、とだけ返事をした。 その場を離れる八戒を、悟空は悟浄の時同様に呼び止める。 「八戒!」 呼ばれ、八戒は振り向いた。 「………いるの? ここに」 そんな悟空に、八戒は笑う。 「ええ… 綺麗な羽根を広げて、無邪気に笑いかけてくれる―― 可愛い天使がね」 「ふ――――ん」 三蔵と同じ二人部屋に戻り、悟空はベッドに寝転がってぼーっとしていた。 八戒が持っていた本に書いてあった天使の姿を思い出す。 そして悟浄と八戒の返答の意味。 けれど。 「よく判んね…」 ふと漏れた悟空の言葉に、三蔵は読んでいた新聞紙を、ため息を吐きながらたたんだ。 「無い知恵絞って考えても、無駄なだけだろうが」 その言葉に悟空はカチンときた。 「なんだよ、俺真剣なのにッ」 「フン」 悟空は頬を膨らませて三蔵を心持ちにらんだ。 だがそれはすぐに消える 「……三蔵は?」 少しばかり不意だった悟空の問いに、三蔵は視線をそちらに向ける。 悟空はベッドに座って、両手をついて四つん這いの格好になる。 「三蔵はいると思う? ……天使」 じっと見つめる悟空に対し、三蔵は短く嘆息した。 「興味ねえ」 「興味とかじゃなくて―――」 反論しようとした悟空は言葉を詰まらせる。 先刻と変わってまっすぐに自分を見る紫闇に、途端にドキッとする。 「お前、意味判ってるか?」 三蔵のその言葉に、悟空は何がといった表情。 「あいつらが何故肯定したかだ」 まっすぐに見つめる紫闇に戸惑いながら、悟空はうつむき気味で、 「知らないよ、そんなの。意味判んないし」 悟空はふいと視線を逸らす。 三蔵は悟空に歩み寄り、小さな体を抱き寄せる。 「お前はどうなんだ? さっきから俺たちに聞いてばかりだが、お前自身はどうなんだ?」 三蔵の言葉に、悟空はきょとんとして頭の上にある三蔵を見上げる。 三蔵は悟空の耳に口元を寄せ、息がかかるほど近くでつぶやく。 「天使の存在を」 悟空はうつむく。 「…………」 ぎゅっと三蔵の服を握る。 「判んない」 ぽつりと小さな声で答える悟空を、三蔵は強く抱きしめた。 「いると思うか」 「…判んない」 「なら、いないと思うか」 「……判んない」 ただ同じ答を繰り返す悟空が、どこか寂しそうで。 きっと信じたいのだろう、けれど信じられない。 泣きそうな瞳を向ける悟空をあやすように撫でる。 「想像上のものか実際に存在するかは俺も知らん。もともとそういうもんに興味は無いからな」 少しずつ落ち着いてきた悟空の髪を優しく撫でる。 胸に顔を埋める悟空の、ふわふわした感触が愛しい。 「だがな」 三蔵の短い台詞に悟空が顔を上げると、いつになく優しい紫闇にぶつかった。 「俺もあいつらと同意見だな」 不本意だがと短くつぶやく。 「…いるの?」 「さぁな」 さらっと言われた台詞に、悟空はそれじゃ判んないとわめく。 膨れ面の悟空に、三蔵はバカ面、と苦笑を小さく漏らして。 三蔵は悟空の柔らかい唇に、そっと触れるだけのキスを落とす。 一瞬何が起きたか判らず呆然とした悟空だったが、キスされたのだと気付くと真っ赤になった。 そんな反応に可愛いなと思う。 「いるかいないか聞かれても、俺の知ったことじゃねえ……」 悟空の金瞳と、三蔵の紫闇が深く交わる。 三蔵が幼い身体を強く抱きしめる。 「けど」 天使の有無を問う悟空だけど、三蔵は思う。 「いいんじゃねえか、居たって。 それがどんなバカでもな」 だって天使はここにいる 純白の羽根の Raphael 天使って いるのかな いても いいよな FIN 後書き |