together night 一分一秒だっていい 一緒に過ごしたいだけなんだ 鈴の音がそう広くない部屋に響く。 その部屋の主には断りもなく流れる音。 だがその主は今は不在で。 部屋にいるのは、小柄な一人の少年だけ。 ふわふわとした髪は絡まっていて。 潤んだ瞳は、必至に雫を零さないようにと。 声を上げれば喚いてしまうから、口を力一杯噤む。 浮かんでくるのは、大好きな金色。 思い出したお陰で、ますます泣きそうになる。 頭を振って、脳裏から追い出そうとしても。 染み付いたソレは、出て行ってくれない。 ───子供の我儘なんだと、知っている。 三蔵、くりすますやろ! 『ああ?』 悟浄と八戒が言ってたんだ。 くりすますってお祭りがあるって! 『……だからどうした』 やろーよ、くりすます! 『……発音もなってねぇほど知らないのにか』 二人に教えて貰ったよ。 木になんか光るものつけて、ケーキ食べるんでしょ。 『……バカらしい。却下だ』 えーっ、いいじゃん、やろうよ。 『そのクリスマスは今月25日。俺は仕事がある』 休めばいいじゃん。 『説法だ。サボれるもんならサボるがな』 ……ダメなの? 『何度も言うが、駄目とか言う前に無理なんだよ』 ……どうしても? 『───…………』 『無理だ』 それは仕方が無いんだと。 子供の自分も、判っていて。 三日前に仕事で出て行った三蔵。 いつも以上に駄々を捏ねた。 結局彼に叱られ、今に至るのだけれど。 数時間前に友人が来た。 いつもの悟浄と八戒の二人。 悟空もその時は嬉々としていたけど。 クリスマスプレゼントだと渡された袋。 八戒が作った縫いぐるみが入っていた。 三蔵と悟空の縫いぐるみ。 嬉しくてはしゃぎ廻った後に。 急に淋しくなった。 漏れた言葉は無意識なもの。 祝ってくれる二人に、悪気があって言ったんじゃない。 けれど、思った。 「……三蔵も、一緒だったら良かったのに」 悟浄と八戒と自分と、三蔵と。 四人一緒だったら、もっと楽しかった。 窓辺に飾られた小さな鈴。 開け放たれた窓から風が入り込む度に。 小さな鈴が音を鳴らす。 二人が来た時、八戒が飾った。 これ位の雰囲気出しは必要だと。 悟空はソレが珍しくて。 風が吹くたびに鳴る鈴を、見上げていた。 少し空けられた窓から入り込む風は、冷たくて。 寒くなかったわけじゃないけど。 響く鈴の音が綺麗だから。 今はその音を、たった一人で聞いている。 鳴るたびに思う。 『三蔵も一緒だったら良かったのに』 八戒が家から持ってきたケーキを食べて。 渡された縫いぐるみを抱き締めて。 お子様だと悟浄に揶揄われて。 楽しかった。 嬉しかった。 面白かった。 ───でも、彼がいない。 それだけで、何かが足りなくて。 悟浄と八戒も、察せないほど鈍いわけじゃなく。 一度顔を合わせて苦笑いして。 『ほら、クッキーも焼いてきたんですよ』 『ケーキも食い終わってねぇのに出すか?』 聞かない振りをしてくれた。 気を悪くしたって可笑しくないのに。 三蔵がいたら。 三蔵がいたら───…… 悟空が思うのは、そればかりで。 彼らが寺院を去って、どれ位の時間が経つのだろう。 思いながらも、時計を見るのが億劫だった。 だからずっと俯いて、膝を抱えているだけ。 無遠慮に響く鈴の音は、昏い部屋に響き渡る。 「……やっぱ…帰んないかな……」 三蔵は遠出の仕事で、三日前に出て行った。 もしかしたら今日までに帰るかも知れないと。 そんな思いは、淡い期待で終わりそうだ。 それは今に始まった事ではないけれど。 今年最後のお祭りぐらい。 一緒にいたいと思うのに。 「バカ面晒してんじゃねーよ」 自分以外、誰もいなかった筈の場所に。 ずっと俯いていた自分の心に。 滑り込んでくるのは、いつもこの声。 「…さんぞぉ………」 悟空は思う。 今自分は、どんな顔をしているんだろうと。 ぽん、と頭の上に手を置かれる。 「……まだ時間はあるな」 「……ふぇ?」 三蔵が何を言っているのか判らず。 悟空はきょとんと彼を見上げる。 仕方がないと言わんばかりの表情で。 「やるんだろ……クリスマス」 見れば、まだ日付は変わっていなくて。 あと数十分もすれば、明日になってしまうけど。 まだ時間はある。 「今年最後の祭りにぐらい、付き合ってやるよ」 柄でもないけど。 嬉しそうに笑うのを見ていたら、どうでも良くなった。 ───後日、三蔵と悟空の寝室に。 二人の縫いぐるみが寄り添うように置かれていた。 FIN. FIN. 後書き |