Feeling love









キミとの距離はどれ位かな


周りに気取られてたら、攫ってかれる











他の誰より早く





キミとの距離を縮めたい













だから誰もが先を争う















木々の枝の隙間から差し込む陽光。
流れゆく風が心地良くて、昼寝には丁度良いだろう。

けれど、彼はそんな面持ちでは無かった。


(……何故俺は此処にいるっ!!)


頭を抱えて座り込んでいる紅孩児。

敵である三蔵一向との決着をつける為、悟空と闘う事を決めて。
久方ぶりにその少年の前に姿を現して。
いざ闘おうとすると、相手はやる気など何処にも無くて。
いつもは喜んで突っかかってくるのに。

何故だか、「遊ぼう」等と誘われた。

上機嫌ににこにこ笑って、腕を引っ張られた。
遠巻きに保護者である連中が言い合いするのが見えた。


そしてそのまま、此処にいる。



自分を此処に先導した敵はと言えば。
少し遠方で、無邪気に白い小竜と戯れている。

その笑顔になんだか邪魔をする気力も無くなって。
倒すべき少年を目の前に、こうやって座り込んでいる。





(俺は…闘いに来たんじゃ無かったか……?)





全くその通りである。


向こうも自分の事を敵だと判っている筈だ。
…遊び相手だと思ってるような気もするが。



「紅孩児も遊ぼうぜ!」
「……遠慮しておく…」



手を振る悟空にそれだけ返した。
自分の妹もあれ位騒がしいなと思った。

喧嘩っ早いし、じっとしてられないし、背格好の割によく食べるし、小動物のように動き回る。




悟空が傍に駆け寄る。

此処で敵意を向けられるとは思わないのだろうか。
紅孩児の瞳に映る少年は、敵には見えなかった。
親しい友人に久々に逢って、はしゃぐ子供のようである。

かく言う紅孩児も、先頭意識は既に頭から抜けていた。



「な、あっちにキレーな花咲いてたよ!」
「それで、俺にどうしろと」
「一緒に見に行こうって言ってんの!」



そう言ってまた紅孩児の腕を引っ張った。
細身の割に、悟空は力が強い。
振り払えない事も無いのだが……

甘んじて受け入れてしまった。




(……俺は……何しに来たんだ…?)




その疑問に答えてくれる人物は、いなかった。
















「逢いたかったぞ、孫悟空っ!!!!」


響き渡った声に、悟空と紅孩児は顔を上げた。
其処にいたのは、闘神焔太子。

以前完敗を期した紅孩児は、敵意を剥き出しにした。


「貴様ぁぁぁっっ!!」


紅孩児の手に炎が巻き起こる。
が、それが最後まで発動される事は無く。


いたはずの人物は、紅孩児の視界には居なかった。
気付けば、悟空に抱きついていたのである。
…何時の間に。



「焔…くるしーんだけど……」
「いいだろう、別に♪」



白竜が抗議の声を跳ね上げていた。
それを意に介す事もなく、焔は悟空に頬擦りする。





(……こんな奴に負けたのかっ!!)





怒りに震える紅孩児。

この怒りは、不甲斐無いと言う自分への物か。
目の前で間抜け面を曝す物への物なのか。
それは判らない。


「それにしても、何故お前が居る」


焔が紅孩児に向っていった。
最初から居たのに、問い掛けが遅すぎる。



「こいつに連れてこられただけだ!」
「だって暇だったんだもん」
「それで敵に遊ぼうと言うか、普通っ!!」
「言わない?」
「言う訳があるか!!」



突っ込みどころが多過ぎる。
紅孩児は今日何度目か判らない溜息を吐いた。


愛する母の為に、闘いに身を投じた。
その中で己を見失う事もあった。

悟空と逢って、その強さに驚愕して、もっと強くと。
焔と逢って完敗を期し、更に強くあらねばと。
母だけでなく、妹や配下も護らねば。



そうやって何度となく闘ってきたと言うのに。




(こんな間抜けな連中にっっ!!)




紅孩児が無言で打ち震える間にも。
焔は金瞳の少年に抱きついたまま離れない。

悟空は若干困ったような表情をしていた。



「ね〜、離れてよ〜」
「昔はお前から抱きついていたのにな」
「…そんなのオレ覚えてないもん」



この二人も敵同士だった筈。
それなのに、この雰囲気はなんなんだ!!

傍らで騒いでいた筈の白竜も、呆れ返ってもう何も言わない。
この光景が日常的に続いているのだろうか。


「なぁ焔、花飾り作れる?」
「ああ。作りたいのか?」
「花キレーだからさ。な、教えて!」


花畑の真ん中で、敵同士が三人+一匹。
なんだか紅孩児もどうでもよくなって来た。
一人ムキになっているのが、バカバカしく思えるのだ。

悟空と焔は、仲良く花飾り作りにいそしんでいる。



ちらりと白竜に視線を向けた。





「……お前も大変なようだな」





白竜が一鳴き。




それを聞いた直後、本当になんでもどうでも良くなった紅孩児だった。



















優しく教える焔は、始終幸せそうで。
花飾りに夢中になる悟空は、幼い子供のようで。

本当に何でも、どうでもいい気がした。



悟空が白竜に花飾りを首に下げた。
白竜が一鳴きすると、悟空は嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ると、白竜もまた嬉しそうに鳴く。


「焔にもあげるな、花飾り! …形変だけど」
「ありがたく受け取るさ、お前が作った物なら」


涼しい顔してさらっと言う焔。
悟空はなんでもない事のようにまた笑った。


紅孩児は一人、明後日の方向を向いていた。

白竜が三人の頭上を飛び回る。
いい加減こいつも、敵味方がどうでもよくなったようだ。



くい、と悟空が紅孩児の髪を引っ張る。
他に気付かせ方が無いのかと思いつつ振り返った。

満面の笑みを見せる悟空。
その手には、また形のイビツな花飾り。
紅孩児がまさか、と思う前に、首に掛けられた。


「けっこー似合うな、皆」


悟空は嬉しそうに言った。
紅孩児が知る限り、最高の笑顔を向けて。


「……お前は、いいのか?」


何を聞いているんだと思いつつ。
悟空は別にいいと首を横に振った。


しかしその悟空に、焔が花飾りを掛ける。


「お前だけ無し、というのもな」
「……焔が作ったの?」
「ああ。駄目か?」


悟空は勢いよく首を横に振った。















荒道をジープが走っていく。
紅孩児はそれを、飛竜の上から見下ろしていた。

浅黒い肌に掛けられた、花飾り。
帰ったら妹達に何を言われるだろうか。
それでも別に構わないと思った。



焔はあれからしばらくして、帰っていった。
口喧しい部下が居る、とだけ言って。


紅孩児は三蔵達が来るまで、悟空の傍にいた。
焔同様帰っても良かった。
だが悟空が一人じゃ嫌だからと引き止めたのだ。

何故だか振り払う事が出来なかった。


そして陽光が橙色に変わる頃。
ようやく保護者達は、子供を迎えに来た。
見付かると煩いからと、紅孩児は一足早く退散して。







そして、今に至る。


ジープの進行方向へと、飛竜が羽ばたく。
彼らの姿は、すぐに見えなくなった。



紅孩児の脳裏に過ぎる、無邪気に笑う金瞳の少年。
敵でありながら、今日は拳を交える事すらしなかった。

不思議とそれに違和感は無くて。








「……たまには、いいか………こんな日も」









首に掛けられた花飾りを、握って。

















…次は、いつ逢える?

約束なんてしなかったら、こっちから逢いに行く








その時、少しは距離を縮めよう








その時また、キミは今日みたいに笑ってくれるか?












FIN.

後書き