four-leafs










年相応とは言えないかも知れないけど

遊び盛り、育ち盛りは仕方ない
















保護者の声はそっちのけ。






























「なんだよ、三蔵のバカ、ハゲ、鬼畜坊主!」





顔を真っ赤にしながら歩く少年が一人。
その口からは、常日頃以上の罵倒が零れ出て。
それを諌める人物は、この場にいない。



数時間前の事だ。
山の中腹辺りで、一行は一時の休息を取った。
走行し続け、ジープも疲労を出していたからだ。

その折、いつも通りに悟浄と悟空が騒ぎ始めた。
相変わらずの口喧嘩から、取っ組み合いになるまで。
勿論、そう時間はかからなかった。


そして当然、三蔵の激が飛ぶ。



怒られてばかりも嫌だから、大人しくした。
けれど、それも長続きする筈が無い。

今度は三蔵に「構って」とまとわりついて。


元来、三蔵は気が短いものだから。
ハリセンと怒鳴り声が、同時に飛んできて。


悟浄も知らぬ間に昼寝をしていて。
八戒はジープの傍で、持っていた本を読んでいた。
暇そうなのは、三蔵一人だったから。

何より、三蔵に構って欲しかったから。
けれど、そんな願いは聞き届けられないまま。



彼も折角の休息時間を潰す気にはならなかったのだろう。




それでもまとわりついてくる悟空に。
ハリセンを放り出して、拳骨をかまされた。










遊んで欲しかっただけなのに。

…そうしていじけて、一人山奥へと歩いて。
悪口を叩きながら、今に至る。




「遊んでって言っただけじゃんかよー」




今日は朝からずっと平和で。
西からの刺客も、すっかり影を潜めていて。

身体のあちこちが鈍っているし。
持て余したエネルギーは蓄積するし。
けれど一人で遊ぶような気にもならなくて。



「………ケチ」



悟浄のようにじゃれ合いなんか無くても。
少しでも、構ってくれてもいいのに。

それだけで、大分気持ちは楽になるのに。



「……紅孩児とか来ないかな」



敵同士である筈なのだが。
時折、その事項が頭から抜け落ちる。

悟空の頭の中では、彼は『喧嘩仲間』と認識されているようだ。



傍にあった木の根元に座る。

何処からか鳥の囁きが聞こえてくる。
そんな時間が嫌いだという訳ではないけれど。
今は、持て余すエネルギーを発散したい。


ちらりと周囲を見渡してみれば。
生い茂る緑ばかりが金瞳に映されて。

どうやら、三蔵たちからかなり離れてしまったようだ。



「………どうせ寝てるんだろうな」



追い駆けてきてなんかくれない。
面倒臭そうに迎えに来る事はあるけれど。
追い駆けては来ない。

それはいつも、自分ばかりがしている事。



「……そんなの、つまんない」



ぽつりと呟いた言葉は、風の音に消えて。


悟空は、空を見上げてみる。
木の枝の隙間から、眩しい光が差し込んで。

――――と、思ったら、突然それが翳る。











「ひっさしぶりだな、バカ猿――――っ!!!!」













軽快な声とともに、頭上から。
悟空の上へと全体重をかけて何かがダイブして。

多分、木の上にいたんだと思う。
浅黒い肌と、橙色の髪の色の少女。
右頬に走る、二本の線。



「り………李厘っ!!??」
「おうっ! 李厘ちゃんだよー♪」



悟空の身体の上へ圧し掛かる少女。
それは他でもない、女版悟空こと。

紅孩児の妹である、李厘だった。



「なんでお前がいるんだよ!?」
「だって向こうにいても退屈なんだよ」



悟空の至極まともな疑問に対して。
李厘はそれだけ言うと、抜け出してきた、と。
なんとも楽しそうな顔をしながら告げた。

李厘の言う向こう、とは西域・天竺国の事だろう。



「そんで、此処で昼寝してたんだよ」
「木の上で?」
「そしたら、お前が来たからさ」
「だからって降って来るなよ!!」
「そういう事は気にしなくていいじゃん!」
「っつーかいつまで人の上に乗っかってんだよ!!」



木の上から李厘が降ってきて、数分。
李厘はまだ悟空の上に乗っていた。

それでも悟空の言葉に、仕方ないなと言いつつ退く。


ようやく身体の上の重みが退いてくれて。
すると李厘は、悟空の隣に腰を落ち着ける。



「……何してんだよ」
「お前こそ何してんだ? ハゲ、今日は一緒じゃないの?」



珍しいな、と言われて。
悟空は李厘から目をそらし、俯いて。
なんでもないよ、と言うけれど。



「喧嘩でもしたのか?」
「……あんなじゃ喧嘩になんないよ」
「じゃあなんなんだよー」



李厘が繰り返し聞いてくるけれど。
悟空は答える気にならない。

胡座をかいたまま、俯いて。
自分が今、どんな顔をしているかは知らない。
ただ、情けない顔なんだろうなと他人事のように思う。


覗き込んでくる李厘の顔が、なんだか心配そうで。
こいつでもこんな顔をするんだな、と。
関係無さそうな事を考えていたら。

突然腕を掴まれて、引っ張られて。
李厘がそのまま走り出すから、悟空も同じように。



「ど、何処行くんだよ!?」
「何処でもいいじゃん! オイラ暇なんだ!」
「だからどうしろってんだよ!?」
「オイラと遊べって事!!」



半分以上は命令形で。
けれど、元気付けようとしていると。






「ぱーっとしちゃえば、考え事しなくて済むじゃん!」







ごくごく、単純な思考回路でも。
うじうじ考え込むのは、自分には合わないんだから。










































悟空と李厘は、一緒にあちこち動き回って。
悟空が何かしら、疑心を抱く筈も無く。

言ったり来たりと繰り返しながら、駆け回る。



「悟空、クローバー見つけたよ!」
「マジ!? 四葉ある?」
「三つ葉ばっかりだなー」
「探してみよ、あるかも!」



敵同士の自覚があるか、無いか。
多分、今は無いだろう。

お互いの頭からは、敵であるという事項は抜け落ちて。
時折、取っ組み合いのようなじゃれ合いもあって。
その様相は、まるきり小動物だった。


しかも、どちらも保護者が不在だから。
咎める者など、いない訳で。



「見つかんないなー」
「んー………」



クローバーが生い茂る場所で。
悟空と李厘は四つん這いになって探し回っていた。

突然、李厘が悟空に問う。



「四葉の見つけたら、お前どうすんだ?」
「どうって……」
「オイラはお兄ちゃんにあげるんだ」
「紅孩児に?」



悟空の鸚鵡返しに、李厘が頷いて。



「お兄ちゃん、危なっかしいからさ」
「お前が言うかぁ〜?」
「だって一人で無茶する事あるもん」



言われて、確かに、と悟空は思う。
何か無理をしているような節は、時々見えて。
それなのに、気丈に振舞っていて。


けれどきっと、李厘や八百鼡や独角の前なら。
その気丈さは時折、無くなるのかも知れない。





「クローバーって、幸せ呼ぶって言うから」





紅孩児の負担が、少しでもなくなって。
幸せを抱いてくれたら、嬉しいから。

そしたら、自分も嬉しいんだと。



「李厘って……ホント、紅孩児のこと好きだな」
「悟空だってハゲ三蔵のこと大好き〜って言うじゃん」
「でも三蔵、紅孩児みたいに優しくないし」



悟空が拗ねたような表情をすると。
李厘がにや付きながら、覗き込んできて。









「でも、好きなんだろ」









李厘のストレートな言葉に。
悟空は知らず、顔を真っ赤にしてしまって。
図星じゃん、と悪戯っぽく笑われた。

どんなに素っ気無くされたって。
容赦なく殴られたり、怒鳴られたりしたって。



「好きならいいじゃん、あいつ照れてるだけなんだよ」



常なら、「お前がそういう事言う?」とか。
そんな疑問を抱いたのだろうけど。

今は、その言葉がなんだか嬉しくて。



「オレ、三蔵に四葉の持ってく」
「あ、認めたな?」
「当たり前じゃん、ずっと前から好きなんだから」



悟空が笑いながらそう言うと。
李厘の視線が、地面に置いた悟空の手元に向けられて。





「あった――――っ!!!」






李厘の張り上げた声に。
悟空が慌てて、手を退かせると。

其処に芽吹いていた、二つの四葉の幸せ。



「こんなとこあったの!?」
「なんで気付かないんだよ、バカ猿ー!!」
「猿って言うな! 見えなかったんだよ!」



言い合いしつつも、二人の手は四葉に伸ばされて。
緩い力で、茎を折る。

二人が自然、顔を合わせて。
どちらともなく、笑い出してしまう。



「お兄ちゃんにあげよっと」
「オレ、三蔵にあげる」



受け取ってくれなくても、自分が持っている。
大好きな人の幸せを願いながら。






















手にしたクローバーを潰さないように。
二人は肩を並べて、木の根元に座っていた。

どちらとも、瞳を閉じていて。
おそらく、眠っているのだろう。
そんな二人に歩み寄ってくる、二つの足音。



「起きろ、このバカども!!!」
「人の妹まで殴るなっ!!!」



パァンという高い音が響いて。
悟空と李厘は、頭を抑えながら瞳を開ける。

立っていたのは、互いの保護者。
その後ろには、八戒と悟浄、八百鼡と独角。



「さんぞぉ……」
「おにーちゃん……」



悟空と李厘が涙目になっていると。
紅孩児が二人の頭を撫でた。



「帰るぞ、李厘。十分遊んだんだろう」
「んー……遊んだけど……」



遊び盛りの悟空と李厘には、足りない。
お互い顔を合わせて、どうしようかと。





「てめぇら、敵同士だって自覚ないのか…」





遠巻きに見ていた悟浄が呟いた。
けれどそう言う悟浄だって、それは同じ事。
独角と並んで立つ光景が、あまりにも自然だ。



「人の事言えませんよ、悟浄」
「……お前もな」



八戒の隣に立っている八百鼡。
似たもの同士と言われる所為だろうか。
違和感は何処にも無かった。

ただ、三蔵と紅孩児だけは。
この光景に、聊か頭を痛めているようだが。


悟空の頭を三蔵が軽く叩いて。
李厘の髪を、紅孩児がくしゃと撫でる。

お互いの保護者が、背を向けて反対方向に歩き出して。
悟空も李厘も、慌てて立ち上がる。
置いて行かれないように、追い駆けて。





「ちゃんと渡せよー!!」





李厘の声に、悟空が振り向くと。
何の事かと問う紅孩児たちに背を向けて。
悟空に大きく手を振る李厘がそこにいた。





「李厘も忘れるなよ!!」





ジープに乗り込む三人に背を向けて。
悟空も李厘へと手を振った。
















――――手の中には、小さな幸せの息吹。






























駆け回って、遊び回って

年相応とはいかないかも知れないけど
育ち盛り、遊び盛りは仕方ない









怒られるって判っていても


せっかくだから遊ぼうよ
















FIN.



後書き