Enemy!














いつまで経っても平行線

甘んじているのは、あの子が気付いていないから












それまで他の奴には触らせない

掠めることすら、万死に値することだ


































がごっ!!!





不穏な音が山中に響き渡る。
悟空が何事かと視線を向けてみれば。

妖怪のわき腹に後ろ回し蹴りを食らわした八戒の姿。


苦悶の表情を浮かべ、倒れる妖怪に反し。
八戒はいつもの完璧な笑顔のままで。
一瞬、悟空はそれに恐怖を感じ、固まってしまった。





――――がすっ!!!





そして今度は、悟空の真後ろから。
首だけ後ろに向けていたので、正確には前か。
そこから、音が聞こえた。

向き直ると、吹っ飛ぶ妖怪がいて。
その陰から、脚を上げた悟浄。
どうやら、蹴り上げたようである。



「余所見してんじゃねーよ、猿」
「お……おうっ」



悟空は如意棒を強く握り直した。
横から突っ込んできた妖怪を凪ぎ飛ばす。





――――ガウンガウンガウンガウン!!!





一瞬の間隔も無く、4発の銃声。
悟空が悟浄と揃って、音の方向へ視線を向けると。
硝煙を残す小銃を構えた、三蔵の姿。

先ほど凪ぎ飛ばした妖怪へと、目を遣ると。
眉間に1発、胸に2発、腹に1発。
弾丸を浴びた妖怪が息絶えていた。



「……遣りすぎじゃ……」
「いや、自業自得だろ」



哀れな妖怪を見下ろしながら、呟いた悟空に。
悟浄は至極当然とした顔で言った。


二人の左右から襲い掛かる妖怪たち。
悟空が如意棒を横一線に振るう。

それまで素手だった悟浄が、錫杖を握って。
大きく振りかぶると、鎖の音が響く。
先についた鎌が、妖怪の身体を両断する。




「はい、二人とも退いてくださいね!」




少し離れた場所からの八戒の声。
悟空と悟浄は、同時にそこから飛び退く。

気孔が妖怪たちを飲み込んでいく。



「あれって、もう死んでんじゃ無かった?」



飲み込まれていく妖怪たちを見れば。
どれも先刻、悟浄が両断した奴らで。



「念の為だって」
「体が二つに切れてんじゃ、念の為も何も無いんじゃ…」



暢気に話をしている悟空と悟浄。
が、殺気には敏感だ。

後方から刃を構え、走ってくる一匹の妖怪。
悟空が如意棒を強く握った瞬間。
悟浄の頬を何かが掠め、妖怪の額を貫いた。




「……………くぉら、この生臭坊主!!」




呆気に取られる悟空の隣で。
悟浄は中指を立てて、三蔵に怒鳴る。



「敵とそうでない奴の区別も付かねーのかよ!!」
「貴様が敵でないと認めた覚えはないな」
「掠ったんだぞ! 謝罪ぐらいしやがれ!!」
「お前に当てるつもりはなかった。避けないテメェが悪い」



弾丸を装填する三蔵は、しれっとした顔。
それが尚、悟浄の怒りを煽る。


複数の妖怪たちを挟んでの、二人の言い合い。
妖怪たちまで闘気を殺がれつつある。

そんな中を、真っ直ぐ歩いてくるのが一名。
通行の邪魔になる妖怪は投げ飛ばして。
その人物は、呆然とする悟空の横に立った。



「お怪我はありませんか?」
「…は……八戒……」



紳士のように語り掛けてくる八戒。
だが、悟空は未だに呆然としたまま。

そんな悟空の頭を、優しく撫でる。



「ダメですよ、悟浄と一緒にいては」
「………へ?」
「どさくさ紛れに何されるか判りませんから」



にっこり☆笑顔の八戒。
悟空は返す言葉が見つからない。


八戒の手が、悟空の肩を抱き寄せる。
悟空はその手に、不思議そうな視線を向けた。

見上げれば、この場にアンバランスな微笑み。



「さ、向こうに行ってましょう」
「え? ちょ、二人は??」
「放っておいても大丈夫ですよ」



そのまま八戒は歩き出す。
悟空も方を抱かれたままなので、引き摺られ気味で。






「ちょっと待て、八戒テメェっ!!!!」


「勝手に拉致ってんじゃねえよ!!!!」






怒髪天を突いて振り返る悟浄。
周囲の妖怪を蹴散らし、歩み寄ってくる三蔵。

八戒が小さく舌打ちを漏らした。
が、すぐにいつもの笑顔になる。



「人聞きの悪い。安全な所に連れて行こうと思っただけですよ」
「それが拉致だっつーんだよ!!!」
「悟浄、辞書引いた方がいいですよ」
「さっさとその手を離せ!!!」



ぐいっと三蔵が悟空の腕を引っ張る。
その拍子に、八戒の手が離れた。

そして今度は、悟空は三蔵の腕の中へ。
小さな身体は、すっぽりと納まる。



「貴方もその手を離して欲しいものですね」
「俺の勝手だ」
「そりゃ不公平じゃねえ?」






(……今って、戦闘中じゃなかったっけ……?)






悟空、それは声に出して言うべきだ。
言ってもきっと無駄だろうけど(爆)。


それまで傍観していた妖怪が一人。
はっと我に帰り、刃を構える。
そう、今なら絶好のチャンスだと。

倒すべき奴らは、すっかり内輪もめ中(いつもの事)。
今なら、誰か一人だけでも。






「うおぁぁああ!!!」






雄叫びに気付いた悟空が、真っ先に構える。
が、妖怪が彼の射程距離に入るよりも早く。





「黙れ!!」

「取り込み中だ!!」

「邪魔なんですよ!!」





銃声がして。
妖怪の身体が切られて。
挙句、気孔がそれを消し去る。

悟空はただ、構えたままの姿勢で。
ぽかんと口を開けて突っ立っていた。


妖怪たちはといえば。
三蔵たちの気迫に、一瞬怯んだものの。
一人が我に帰ったので、他の者も続いた。

咆哮を張り上げ、刃を振りかざして。
数十の妖怪たちが、四人に突っ込んでくる。



「皆、喧嘩してる場合じゃないだろ!!」
「いえ、とっても重要な事なので」
「そうそう。こいつらどうせ雑魚だし」
「暇人の相手をする気は無いな」
「だからってオレ一人にやらせるなよ!!」



構えているのは、悟空一人。
三蔵たちはまだ揉めている。

が、悟空の言った一言に。







「じゃ、こいつら全部片付けてから続きな!!」







悟浄が錫杖を振るった。
































誰が敵で、誰が味方か。
そもそも彼らに、味方という概念があるのか。

一瞬でも隙を見せれば、銃弾とか、鎌とか、気孔とか。
縦横無尽に飛び交っていく。
ただ悟空にだけは、それは向けられない。





「三蔵! こっちに飛んできたんですけど!」
「ああ、悪かったな。間違えた」
「そー言う八戒さん、さっき俺当たりそうだったんだけど」
「ただの余波ですよ。残念でしたね、当たらなくて」
「おいクソ河童、こっち向けんな下手糞」





悟空は自分の担当区域を片付けつつ。
大人三人を、汗を流しつつ眺めていた。

内輪もめやらはいつもの事だが、これは遣りすぎだと。


多少のことで彼らは死なない。
妖怪に切りつけられた程度、なんともないだろう。

しかし、今悟空は物凄――――く不安である。
下手な妖怪達より危険だと判る。
今の三蔵・悟浄・八戒の気迫は。



(腹減ってんのかな……って、怖過ぎんだけど)



迫る妖怪を殴り飛ばしながら、悟空は思う。

突然、背中に重みが乗った。
肩越しに振り返れば、悟浄がいて。



「危ねえ危ねえ」
「……さっきから皆、何してんの?」
「何って、雑魚片付けてんだよ」
「じゃ、なんで喧嘩してんだよ」



しかもいつもの悟空と悟浄のようなじゃれ合いでなく。
本気の、殺気を含んているのである。


悟空の言葉に、悟浄が何事か言おうとした直前。





―――――ゴキッ!!!!





どう考えても、穏やかでない音。
この状態で、穏やかな音がする方が可笑しいが。
そうでなくても、今の音の発信元は……



「ご……悟浄……? ……三蔵?」



音の発信元は悟浄の脇腹。
そして原因は、三蔵。

今、思い切り彼の横腹に拳を当てなかったか?



「これと一緒にいんじゃねえよ」
「だって、悟浄が勝手に……」



オレの所に来たんだ、と言う前に。
頭上から聞こえた奇声。

悟空と三蔵、我に帰った悟浄が上を見上げる。


刀を高々と振り上げた妖怪がいて。
速い動きで、刃を振り落とした。

咄嗟に三人とも後方へと飛び退く。
が、妖怪は体勢を立て直すのが早かった。
地に降りた反動で、今度は悟空に襲い掛かる。




「―――う……わっ!!」




振り下ろされる、切れ味のよさそうな刀。
避けきれないと踏んで、悟空は顔の前で腕を交差させる。
刃の切っ先が、悟空の腕を掠めた。

細い線を描いて、鮮血が飛び散る。





「なんて事するんですかっ!!!」





怒号と共に、気孔の塊が妖怪にぶつかる。
短い悲鳴をあげて、妖怪は絶命。

怒号の主は、勿論八戒だった。



八戒が悟空の傍に駆け寄る。
悟浄も近くの妖怪を蹴り飛ばし、走ってきた。
三蔵はいつの間にか、既に悟空の隣にいて。

悟空の腕の傷は、浅いものだった。
血もさほど出ていないから、すぐ止まる。



―――が。
それでこの三人が、黙っている訳も無く。




「悟空、大丈夫ですか?」
「う、うん。って、そんな心配しなくても」
「いーや、大事な小猿ちゃんに何かあったら堪んねーのよ」
「ガキ扱いすんじゃねーよ!」
「いいから、ガキで怪我人は大人しくしてな」




三蔵が周囲の妖怪たちを睨む。
妖怪たちが上ずった声を上げ、後ずさりする。

銃を構えた姿が、いつも以上に恐ろしい。


悟空を囲む形で、三人が立ち上がる。
剣呑な瞳が、妖怪たちに向けられて。

先刻までの闘気も何処へやら。
妖怪たちは逃げ腰になっている。
しかし、八戒の見せた笑みに固まった。






「逃げられると思ってるんですか?」






つまり、逃がすつもりは無いと言う事。




「悟空の肌に傷をつけておいて、逃げられると?」
「悪ぃけど、温厚な俺でも今回はそんな気はねえからな」
「っつーか、殺ス。」




鈍く銀に光る銃を握る三蔵。
錫杖を肩に担ぎ、不適に口元を緩める悟浄。
いつもの笑顔のまま、気孔を溜める八戒。

その三人の後ろで、悟空が地面に座り込んでいる。


妖怪の一匹が、短い悲鳴を上げた。
それを合図に、後方の妖怪たちが背を向ける。





「逃がさねえっつってんだよ!!!」





こちらも、悟浄の言葉を引き金にして。
数分後には、おそらくそこは地獄絵図と化すだろう。






呆然と座る悟空の元に、白竜が降りた。
その小さな重みを感じながら、呟く。







「………どっちが酷いか判んねーよ………」













――――それでも、西への旅は続く。

























傷付けるのも

触れる事さえ許さない









そういう奴は、万回死んで出直して来い!!!

















FIN.



後書き