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嫌なのは、その事じゃなくて


もっと別の、大事なことが嫌だから














嬉しくない訳じゃないけど、逢えなくなるよりマシだから
































ちくん、と痛みが走って。
悟空の身体が、小さく震えた。

悟空の首筋に咲いた、赤い華。
他の箇所にも、その花は花弁を散らせて。
幾つもの華が、血色のいい肌に残された。




「ちょっ……ぁ…、ちょっと、焔…っ!」




自分に覆い被さる男に、悟空は腕を突っぱねた。
それをされた焔の方は、むっとした顔をして。
折角、いい雰囲気だったと言うのに。

些か機嫌を損ねた顔で見下ろされた悟空だが。
悟空の方も、それで引き下がる筈もなく。



「跡はつけるなっ!!」
「嫌だ。」
「子供か、お前はっ!」



悟空の声を他所に、焔はまた、その肌に口付けた。



「バレるから……っ…」
「肌を見せなきゃいいだろう」
「やだ………って、ば…!」



どうにか抵抗しようとする悟空だが。
些細なものでは、簡単に抑えられて。

また一つ、綺麗な華がそこに咲いた。


別段、悟空もその行為が嫌な訳じゃなく。
ただ、これが誰かに見つかったらと思うと。
増してそれが、共にいる三人だったら、尚更。

自分と焔の関係は、当然ながら秘密。
まだバレていない(と、思う)。
でも、この華が見つかったりしたら。





「やめろってば!!」





顔を真っ赤にして、悟空は叫んだ。


その怒号に近い声に、焔は行為を一時止める。
が、やはりそれは一時と言うだけで。
すぐに、また再会されてしまった。

その上、焔は静かに、とまで呟いて。



「誰の所為で、でかい声出してると思ってんだよ!」



尚も行為を推し進めようとする焔を。
悟空はなんとか、押し返そうとするが。

途端に彼の腕の中に閉じ込められて。
一瞬、呆けたその隙に、また。
首筋にまた、赤い華が咲いてしまう。



「いい加減に………っ!」



しろ、と言う前に。
深い口付けて、塞がれてしまった。

あまりの身勝手ぶりに、流石に悟空も頭に来て。
開放されたと同時に、その腕の中から抜け出した。



「逃げる事はないだろう」
「誰の所為だ、誰の! やだって言ってんのに!」
「それは見つかるのが嫌だからだろ?」



だったら、見つからなければいい、と。
至極当然の言葉とも言えない事も無いが。

悟空は一人で風呂に入らない。
と言うより、八戒や悟浄がいつも一緒に入ろうとする。
ちゃんと身体を洗おうとしないのが原因らしい。

だから、こんな痕があったりしたら。



「俺は別に、見られて構わないけどな」
「バレたらどうするんだよ!」



焔の言葉に、悟空はまた声を荒げた。


バレたらも何も、多分もうバレている。
焔はそう思うのだが、悟空は隠しているつもりらしく。
それは言わないで置く事にした。

けれど、それが理由というのも癪なもので。
だって悟空は自分のものだと言うのに。
それを奴らに見せつける事も出来ないのだから。



「あ〜……こんな一杯……」
「一週間もすれば消えると思うが?」
「一週間も!? バレるよ、そんなの! 焔のバカ!!」
「……そこまで言うか?」



悟空はそそくさと服を着直している。



「とにかく、痕消えるまで俺の前に出て来んな!」
「………無理だな」
「自信満々に言うな、そんな事!!」



悟空が強気な金瞳を向けてきた。
そうやって見られるのは、嫌じゃない。
真っ直ぐ見つめてくれるのだから。

けれど、その瞳が暗に告げている事は。
「さっさと帰れ」と言う事だった。



「……消えるまで、顔見せんな!」
「だから無理だと言っているだろう」
「ワガママ言うな! 我慢しろ!」



毛を逆立てた猫のような悟空に、焔はこっそり笑う。

しかし、目敏くそれを見つけられて。
また一層、彼の機嫌を損ねてしまったようだ。




「か・え・れ!」
「あんまり怒ると、可愛い顔が台無しだぞ」
「帰れっつーの!」




さっきから悟空は、ずっと膨れ面だ。





「帰れ! で、来んな!!」





完璧に怒りの頂点に達してしまったらしい。
このままだと、本当に一週間逢えない。
顔を合わせても、笑いかけて貰えない。

それはこっちとしても辛いもので。



「なら、本当に来ないぞ?」
「いいよ! 来んなっつってんじゃん!」
「早めに撤回した方が良いと思うが?」



言ってみても、悟空は一貫していて。
それも、あと数秒で崩れると思うが。







「じゃあ一週間、お前は我慢できるのか?」







さっきから、悟空は何度も言っている。
少なくとも一週間は、顔を見せるなと。
それまで、我慢できるのか。


一週間、ずっと。
逢う事もなく、声も聞かずに。

こんなに互いの事を想っているのに。
離れる事すら、嫌なのに。
逢わないなんて、出来るのか。



やはり、悟空は黙り込んでしまって。
焔はそんな少年を引き寄せて。
また、自分の腕の中に閉じ込めてしまう。

そのまま口付けようとしたら。
行き成り、ダーク色の髪を引っ張られた。




「………なんだ?」
「今日はもうダメ」
「今日は、って事は、明日になればいいのか?」
「……変な理屈こくな」




拗ねたような顔をしてそう言う悟空だが。
来てはいけないとは言われなかった。



「……明日の夜。皆と一緒じゃなかったら」



やはり、隠すつもりの悟空に。
焔は、何故そんなに隠したがるのかと思う。

気恥ずかしさと言うものもあるだろう。
ある一つの、後ろめたさと言うものも。
それでも、他に何か理由がありそうで。




「何故、知られたくないんだ?」




その質問の答えは、ごく当然もものではなく。
悟空がどうして、嫌がるのか。
彼の想いの中から、聞きたいから。

悟空は、焔に抱き締められたまま。
彼の胸に顔を埋め、小さく呟いた。











「――――バレたら、逢えなくなりそうだもん」














三蔵は焔を毛嫌いしているし(当然と言えば当然)。
八戒は今以上にガードが固くなる(一人部屋になれなくなる)。
悟浄はどうか知らないが、良い顔をする筈がなく。

誰もいない時にだけ、逢えるという現状だから。



「…蚊に刺されたってのも、無茶な言い訳だし」



悟空がぽつりと漏らした言葉に。
焔は、思わず笑ってしまった。

先刻までの、どこか儚い空気は何処へやら。
いつもの、幼さを残した少年がそこにいて。
笑われた事に、頬を膨らませていた。



「いいじゃないか、その言い訳で」
「ぜーったい怪しまれる!」



当然ともいえる反論ではあるのだが。



「お前が言うなら、信じてくれるだろう」
「…絶対有り得ねぇ…」



悟空が隠そうとするなら、多分。
奴らは深く追求しては来ないと思う。
と言うか、出来ないだろう。

悟空が焔と逢う事で、いつも通りでいられるから。
その平行線を壊す事は、今の彼らには出来ない。




「だから、またすぐ来るからな」
「もー……勝手にしろよ…」




ダメって言っても来るんだろ、と。
そう告げた唇を、塞いで。










……隣の部屋では、悟浄が頭を抱えているのだった。
勿論、二人の知る由の無い事ではあったが。

























逢えなくなるのが嫌だから

嫌じゃないけど、拒否してしまう


逢えなくなるよりマシだから









でも、そっちはいつも気にしてなくて


たまにオレまで、どうでもいいかと思んだ
















FIN.



後書き