love no stop










閉じ込めて、離さずに




この腕の中で囲ってしまえばいい














……お前もそれを望んでるだろう?

































カーテンの隙間から光が差し込む。
その光に当てられ、三蔵は目を覚ました。

起き上がり、長い前髪を掻き揚げる。
その隣で、小さな身体がもぞもぞ擦り寄った。
誰かなんて確認するまでもない。


昨晩、どちらともなく情事にもつれ込んだ。
そして互いを求め合い、貧欲に欲し。
行為の余韻を残したまま、眠りについた。

見れば、悟空は衣服を纏っておらず。
三蔵とて、上半身は裸だった。




(……あいつら、まだ寝てるだろうな)




二人の旅連れを思い出し、考える。

関係は既に知られていた。
だが、見られたくないのだ。
傍らで無防備に眠る、悟空の姿を。


視線を傍らの悟空へと移す。

シーツに隠されていない、まだ細身のある肩。
健康的に日焼けした肌は、よく怪我をする割に木目細く。
爛々とした金瞳は、今は穏やかに伏せられている。



(……まだ起きねえな)



考えながら、三蔵は悟空の肩にキスを落とす。
そのまま舌を這わせ、首筋へ。
少し吸い上げると、紅い華がそこに咲く。

悟空が少し身動ぎした。
しかし、目蓋は閉じられたままだ。



(お前は警戒心が無さ過ぎるんだよ)



声に出さず、呟いて。
今度は鎖骨に、紅い華を咲かせる。

寝惚けているのか、悟空が手を伸ばす。
それを掴んで、唇を寄せた。


自身の手よりも、幾らか小さな手。
これで誰よりも馬鹿力なのだから驚きだ。

だがそれも、三蔵の前では無力なもの。
本気になれば、殴り飛ばす事も出来るだろうが。
悟空が決して、そう出来ないのを三蔵は知っている。





――――その手を握り、口付ける。







「………んっ……」




僅かな触感を、ようやく拾い上げたらしく。
金瞳がぼんやりと色を見せた。



「……さんぞ……?」
「なんだ?」
「……何してるの?」



眠気が取れず、焦点の合わない瞳で。
悟空は不思議そうに、三蔵を見上げている。



「見て判んねえか?」



言って、悟空と視線がぶつかり。
直後、細い手首に唇を寄せて。
ほんの少し強く、吸い上げた。

ピク、と悟空の手が震えて。
悟空の睡魔は、一気に吹き飛んでしまったようだ。




「なっ、何してんの、三蔵!」
「だから見ての通りだろうが」
「なっ、あ……ぅ…」




にやりと笑いながら言ってやれば。
悟空の顔は、沸騰したように赤くなる。



「ちょ、やっ……」
「今さら恥ずかしがる事でもねえだろ」
「だって……だって」
「夜の事考えりゃ軽いもんだろうが」



三蔵の言葉に、悟空はまた赤くなる。


自分の手を握る三蔵から、逃れようとする。

しかし、それが叶う筈も無く。
逆に三蔵が悟空の腕を引き寄せて。
その小柄な身体を、腕の中に閉じ込めた。


悟空の顔を、胸板に押し付けると。
大地色の髪から、心地良い香りがする。




「さ……さんぞ……」
「なんだ?」
「……あの…えっと……」




見上げる悟空と、視線を合わせると。
羞恥から、悟空は顔を背けてしまい。
紡ぐ言葉も、上手く見つからないらしい。

耳まで赤くになっている所か。
抱き締める身体も、心なしか紅潮しているようだった。



「こっち向け、悟空」
「やっ……ちょ、やだってば…」



恥ずかしいから顔見れない、と。

悟空の、恐らく無意識の言葉が零れ。
見られていないのを良い事に、三蔵は笑う。







「いいから向けっつってんだ」







いつもの整然とした声で囁いた。


おずおずと悟空が振り向くと。
やはり、その顔は真っ赤になっていた。

上向いた悟空の唇に、優しく口付ける。



「……なんか、やだな…」
「あ?」
「だって…オレばっか恥ずかしいんだもん……」



意地悪、と悟空が小さく呟いた。

普段は周囲の目線なんて気にしないのに。
こういう時、悟空はやけに敏感になる。


それが面白かった。


く、と三蔵が喉で笑うと。
悟空は目敏く、それを見つけたようだ。



「…笑うな」
「ガキ」
「ガキじゃない」



三蔵の胸に、顔を押し付けて。
悟空の肌が触れた部分が、熱かった。

その温もりに心地良さを覚えながら。
三蔵はその身体を左腕で囲い。
右手でツ……と背筋をなぞった。





「っひゃ!?」





悟空が大袈裟なほど反応を返す。
抱き締められたまま、背を仰け反らせて。

三蔵の視界に映った、綺麗な喉。
今度は其処に舌を這わせて。
悟空の身体がビクビクと震え始める。



「だめ…や……さ…んぞ……っ」



逃げを打つ身体を、腕一本で捕らえる。



「ま…ガキはしねえな、こんな事は」
「っあ……や……ん…!」



悟空の喉に、三蔵の息がかかり。
それだけで、幼い身体は反応を返す。
そう教え込んだのは、他でもない三蔵だ。

悟空の呼吸に、熱が篭り始め。
金色の瞳も、少しずつ艶を灯す。


けれど、最後の理性だけは頑固なもので。



「だめ…さんぞ……っ」
「構やしねえだろ、どうせ今日また泊まるんだ」
「はっか…いとか……来る……っ!」
「放って置け、気にする必要は無い」



憮然とした態度で、三蔵は行為を進める。
しかし、悟空の方も流される訳には行かなくて。


緩い愛撫に、身体を震わせる悟空。
いい加減、三蔵も焦れて来て。

悟空の顎を捕らえ、上向かせ。
突然の事に驚いたらしい、幼い表情。
その唇に、自分の唇を押し付けた。



「…っん……ぅ…! ん……っ」



侵入を拒もうとする歯茎をなぞり。
ほんの少し、隙間が開いて。
逃す事無く、三蔵は舌を差し入れた。

逃げようとする悟空の舌を絡め取り。
離れようとする身体を、強く抱き締める。


そっと解放すれば、悟空の金瞳は既に熱に浮かされていた。




「ガキだな………」




反論の声は無い。
いや、上げられないのだろう。


悟空は、三蔵に力なくその身を預けて。
もうされるがままとなっている。

愛撫にも正直に反応を返し。
時折「やだ」と小さく呟きはするけれど。
三蔵がそれを、聞き入れる訳も無かった。



「さんぞ……や……」
「知らねえな……」



抱き締める腕に力を込めて。
逃げる事は許さないと、言外に告げる。

もっとも、既に逃げる気など無いだろうが。


悟空の太股をゆっくりと撫で上げる。
ヒクン、と悟空の身体が揺れた。
耳たぶを軽く噛むと、甘い声が漏れる。

昨晩、あれだけ貪りあったのに。
まだ足りないと、貪欲な程に欲している自分に、三蔵は笑う。





そして悟空も、結局は逃げたりなどしないのだ。






悟空の手が、三蔵の首に回される。
どちらともなく、唇を重ねて。
少しずつ、その口付けが深くなる。

何もかも奪うように、与えるように。
全てをひっくるめて、求める。



「お前が誘ってきたんだからな」
「…最初にしたの…三蔵じゃん……」
「いいや、お前だ。んなカッコで俺の横にいるからだ」
「……すっげー…勝手……」



悪態を吐きながら、身体は離れる事はなく。
三蔵の腕の中で、悟空はその身を委ねる。
与えられる優しい温もりに、悟空はまるで夢見心地で。

同じように三蔵も、意識は現実から遠かった。


コンコン、と。
扉を叩く、無粋な音が聞こえた。

悟空の意識が、僅かに現実へと返る。
そして三蔵の眉間に皺が寄った。
誰が来たかなんて、気配で判った。




「…さんぞ、ね……」
「……ほっとけ」
「でも……」



「俺よりあいつらが大事か?」




見下ろして、悟空にそう問えば。
躊躇う事無く、悟空は首を横に振る。







「……さんぞーが、いちばん好き……」


「上等だ」












抱き締めあう身体が離れるには、まだ時間がかかりそうだ。
























捕まえて、閉じ込めて、逃がさずに

抱き締めて、離さずに


周りのことなど、何一つとして見えなくていい










お前もそれを望んでいるだろう?


だから、お前は俺だけ見ていればいい

















FIN.



後書き