I wish the side















大好きな人たちと一緒にいられること



今この瞬間、そしてこれからもずっと













それが一番、何より嬉しいプレゼント







































「誕生日おめでとう御座います、悟空」



最初にそう言ったのは、八戒。




「今年で幾つかちゃんと言えるか〜?」



揶揄いながら、それでも祝ってくれるのは悟浄。





「いつまで経ってもガキのままだな」



つれない言葉だけれど、優しい声だったのは三蔵。





訳が判らなくて、見上げていたら。
今日はあなたの誕生日ですよ、と言われた。



「何か欲しい物ありますか?」
「食いモンは八戒に頼めよ」
「…今日だけ、仕方ねぇから付き合ってやる」








なんでもいいの? と聞いたら、なんでもいいと頷いてくれた。



























正確に言えば、誕生日ではないと思う。
本当は三蔵に拾われた日なのだ。

街で誕生日を祝う子供達を見て。
羨ましくて、自分にも誕生日が欲しいとせがんだら。
拾われた日が、誕生日になった。


暦を見れば、4月5日。
外を見れば、桜の花が舞っていた。

ついさっきまで、あの桜の下で遊んでいた。
舞い落ちた花びらを集めていたら。
執務室から、いつの間に来たのか八戒と悟浄に呼ばれ。
なんだろうと思って戻ってみたら、おめでとうと言われた。



あの暗い場所から出て。

三蔵と一緒に生活を始めて、6年。
悟浄と八戒と出逢ってから、1年。




今日は、16歳の誕生日。




















三蔵の手を引っ張って、悟空は街を歩く。
その後ろを、悟浄と八戒が歩いていた。

無邪気な子供が、不機嫌な男の手を引いている。
周囲から見れば、奇異な光景だ。
悟浄と八戒も、滅多に見れない光景に笑う。



「今日は手ぇ払わねぇんだな」
「誕生日ですからね」



小さな声で話をしていたのに。
その内容が、三蔵に届いていたらしく。
ジロリと深い紫闇で睨まれる。

けれどその間も、繋いだ手は離れない。
悟空がしっかり握っている所為もあるか。


悟空は、心底嬉しそうな顔をしていた。
最高の笑みで、三蔵を見上げている。



「……で? …何処まで行くんだ」



手を繋いだまま、三蔵が悟空を見下ろすと。
答える気はないのか、笑っているだけで。
仕方なく三蔵は追及を止めた。

悟空はそれで良かった。
だって、別に行きたいところなんかなかったから。



今日ぐらいは構わないだろう。
行きたいところなんてなくても、一緒にいて。
今日という一瞬が終わるまでは、ずっと。

繋いだ手を、絶対に離さない。


本当は悟空は、悟浄と八戒とも手を繋ぎたかった。
けれど生憎、腕は二本しかなくて。

一番好きな人とだけ、手をつなぐ事にした。



桜並木がずっと続いている。
時折、視界を花吹雪が遮ったけれど。
なんだかそれが楽しくて、悟空は声を上げて笑う。



「何笑ってんだよ、お前」



後ろを歩いていた筈の悟浄が、隣にいた。

薄い桜色の中、真紅の色は際立っていて。
けれど、不快を覚えることはなかった。



「なんか、楽しいんだもん」



先の質問の答えを出せば。
悟浄は咲き誇る桜を見上げる。

悟浄がどんな顔をしているのか。
背が低く、見上げる格好になっている悟空には判らない。
来年はもうちょっと身長が欲しい、そんな事を考える。


そうしたら、皆と同じ高さで、同じ物が見えるから。

舞い散る桜の花弁の中、八戒が手を伸ばす。
どうしたのだろうかと思っていると。



「落ちる前に掴むと、願いが叶うんだそうですよ」
「……それってホント?」



悟空の言葉に、八戒は小さく笑って。
「さぁ……」と言葉を濁すだけ。

迷信だという事は、悟空にも判った。
けれど、そんなことを聞いたら。
舞う花弁の中に、手を差し出した。


けれど、掴もうとするとスルリと落ちていく。



「八戒、取れないよ」
「結構難しいんですよ」



拗ねた口調の悟空の頭を撫でて。
八戒は子供に言い聞かせるように、優しくそう言った。


三蔵と手を繋いだまま。
歩きながら、桜を見上げる。

そう言えば、一度取った事があるような気がする。
いつだったかは、思い出せないけれど。
その時は、どうやって取ったのだろうか。



もう一度手を伸ばしてみる。
隣を見れば、同じように悟浄も掴もうとしていた。

しかし、どちらも取る事は叶わなくて。



「無理だって、こんなの」
「…う〜……」



取れないのがなんだか悔しくて。
悟空と悟浄は、揃って桜を見上げた。

それを見ていた八戒がクスクス笑い出す。
三蔵は何も言わずに、前を見ているだけ。
繋いだ手は、離れていない。


目の前で、こんなに桜の花弁が舞っているのに。
その一欠けらでさえ、掴むことが出来ない。

叶えて欲しい願いがあるわけじゃない。
ただ、届くと言うのならば。
届けたい願いが、想いが、ある。




「そんなに取りたいのか? お前」




もう諦めたらしい悟浄の言葉に。
悟空は頷いて、落ちていく花弁を見つめる。



「何かお願い事、あるんですか?」
「………うん」



八戒の言葉に頷きはしたけど。
誰か、他人に叶えてもらうつもりはない。

まじないみたいなものだ。
掴めたら、きっと叶える事が出来ると。
気休め程度に思えれば、それでいい。


隣でずっと黙っている三蔵に視線を向け。
それから、繋いでいる手を見る。

隣を見れば、悟浄と八戒が並んで歩いていて。
やっぱり二人とも手を繋ぎたいと思ったが。
腕が足りないのでは、どうにもならない。



「あ? どうした?」



見ていた事に気付いた悟浄が、こちらを見た。
なんでもない、と笑みを返すと。
不思議そうな紅玉が、じっとこちらを見ている。

それを挟んで、翡翠もこちらを見ている。
なんとなく笑うと、微笑を返された。



「前見て歩け、転ぶぞ」



不意に掛かった声に振り向けば。
相変わらず前を向いたままの三蔵がいた。



「三蔵様ってば、過保護なのね」
「………死ぬか?」



揶揄と混じって、素直な感想なのだろう。
悟浄の言った言葉に、三蔵が剣呑な空気を見せる。

いつもなら、発砲しているところだ。
それをしないのは、利き手が塞がれているから。
悟空とずっと手を繋いだままだから。


離そうとしない三蔵に、悟空は嬉しくなり。
手を繋いだまま、その腕に抱きついた。



「バカ猿、歩きにくいだろうが!」
「だってこーしてたいんだもん!」



いつもなら、真っ先にハリセンが飛んでくる。
けれど、今日はそれがないから。
こうしていていいんだと、言外に教えてくれる。

先刻よりも近くなった距離。
悟浄と八戒がそれを見て笑っている。
たったそれだけの事だけれど。


悟空は、今この瞬間が嬉しかった。




「そういや、悟空」




呼ばれて、そちらを見れば。





「お前の願い事って何なんだ?」





それは、八戒も気になっていたらしく。
聞かせて欲しいと言う笑顔を浮かべていた。

三蔵だけは、相変わらずの無表情。
ひょっとしたら、判っているのかも知れない。
悟空の考えは、いつも三蔵に筒抜けだから。



そんな日常が、好きだから。
ずっと続いて欲しいと思うから。












「皆と、ずーっと一緒にいたい!」












他の何よりも、一番に。
思いつくのは、それだった。



傍にある存在を。
繋いだ手を。
感じる温もりを。

出来ることなら、ずっと手放したくないから。

いつかは別れが来るのだとしても。
それなら、その一分一秒まで。
ずっと一緒にいたいと思う。




繋いだ手に、ぎゅっと力を入れると。
ずっと前を向いていた三蔵をこちらを見て。
強い力で、握り返される。

ぽん、と頭の上に手を置かれ。
見上げれば、悟浄と八戒が笑っていた。


くしゃ、と悟浄が頭を掻き撫ぜて。
それを八戒が軽く整えた。
繋いだ手は、相変わらず離れない。

悟空を見下ろしていた八戒が、笑って。





「欲しいもの、ありますか?」





言われた言葉に、きょとんとしていると。







「誕生日だから、聞いてやるよ」







そう言った悟浄の方も、何処か嬉しそうで。






「仕方ねぇから、付き合ってやるよ」






同じ言葉を、聞いた気がするけれど。
繋いだ手から、それが嘘じゃないと判って。


欲しいものは、たった一つだけ。
他の何にも、代えることは出来ない。
ただ一つの、願い。

きっと他にも、欲しいものはあるだろうけれど。
一番最初に浮かんでくるのは、これだけだ。





大好きな人たちと、一緒に。
大好きな人たちと、ずっと。

今までも、この瞬間も、そしてこれからも。




…………傍に。
























「みんなと、ずっと一緒にいたい!」






























大好きな人たちと一緒にいられること

今までも、今この瞬間も、そしてこれからもずっと











伸ばした手が届いて

呼んだ声が届いて

抱いた想いが、ちゃんと届いて




ずっと一緒にいてくれると、今だけでも言ってくれるなら

それが一番、何より嬉しいプレゼント



















FIN.


後書き