見るからに重そうな空からポツポツと降ってきた。
(今日はギャラリーがひとり・・・)
+土曜日の雨+
「おじゃまします!」
ルフィのよく通る声が道場内に響き渡る。
道場に入るときは一礼するのが礼儀だと、知ってか知らずかルフィは最初からこれができていた。
今日は本来なら休日であるはずの土曜日。
どこの部にも所属していないルフィがこんな日に校内にいるのは、模試のせいだと知っている。
そして模試のある時は、大会が控えていない限りこの剣道場に来る者は皆無に等しい。
今日もやはり、道場にいるのはおれだけだった。
「ゾロはもう昼メシ食ったのか?」
「ああ、おれらは2教科だったしな」
「いーなー・・・って、なんで3年の方がテスト早く終わってんだよー」
「おまえらと違っておれらは明日もあるんだよ」
ルフィはものすごく嫌そうな顔をしてビリビリとパンの袋を開けはじめる。
休みが模試で全部潰されるなんて、と言いたげだ。今に自分もそうなるだろうに。
ルフィは雨が降っているときだけ道場にやってくる。
アイツは家を出るときに降っていないと傘を持たないのだ。
だからこうして今日のように降り出すと、いつも雨宿りに道場にやってくる。
そして帰りはたいていがおれの傘に同居だ。
あいつはバクバクと山となっているパンやらおにぎりやらを消費してゆく。
おれは竹刀を振り続ける。
あいつは食い終わるとその辺で好き勝手にゴロゴロしている。
それでもおれはただ、竹刀を振り続ける。
いつでもこの空間は雨の音に支配されている。
雨音に支配されているこの空間が、おれは気に入っていた。
濡れてしまった肩を、タオルで軽く拭いてやりながら電車を待つ。
男二人で傘ひとつでは、いくらルフィが華奢な部類でも雨をしのぐには不十分だ。
「おまえ、いい加減降りそうな時は傘ぐらい用意しようって考えねぇのか」
ここで拭いてもどうせまた電車を降りれば家に辿りつくまでにもっと濡れてしまう。
毎度同じことを繰り返していればそれくらいわかりそうなものなのだが。
「んー、あんま考えねぇなーそういうことは」
それに、と一瞬視線をやって来た電車へ泳がせてルフィはいったん区切る。
扉が開く間際、ルフィはのたまった。
「おれが傘持つようになったら、ゾロさみしくなるんじゃねぇか?」
まったくこいつは。
たまにとんでもなく核心を突くから困るのだ。
これでもゾロルと言い張るのです。
ゾロルはどのカプよりも学生パラレルがハマルと思う。