例えばこれが信号なら青に変わるのをただ待てばよいのだ。
だのに同じ赤でもこちらはいくら待てども進めない。
[通行止め]
どうしたものか、と思う。
毎日通るこの道で見掛けるようになってもう何日、いや何十日目だろうか。
毎晩現れるその少年は、何をするでもなくただぼんやりと通りを眺めている。童顔に赤いコートがその少年をずいぶん幼く見せているが、高校生、コートの下は山の手の高台にある学校の制服だ。夜目にはわかりにくい、しかもコートに隠された校章にサンジは気付いていた。それほどに、サンジはその少年を毎晩見掛け観察してしまっていたのだった。
サンジが毎晩この道を通る時間帯はお世辞にも雰囲気がいいとは言い難い。子どもがひとりでいれば世話焼きな大人が声を掛けることもあるだろうし、そうでない者がちょっかいを出すこともある。そしてこの場所に似つかわしくない風貌のその少年に掛けられる声の、大部分が後者であろうことは想像に難くなかった。実際、時折何者かに声を掛けられているのをサンジは見ている。接客もこなす職業柄、一目で人となりを大まかに判別する術は心得ているつもりだ。この子どもに声を掛けている輩はみな褒められた性質ではない種類の人間だ。だがこの少年も、そういう人間の対処には長けているように見えた。あの目は人を怯ませる。無意識ならば相当こなれたものだ。
一瞬、確かに交わったあの目がサンジをその少年のテリトリーに侵入することを妨げている。だのにあの目がサンジをどうしようもなく誘惑をもしているのだ。何者とも知れないどこぞの高校男子に毎晩目が留まる、それだけでサンジを困惑させるに足りるというのにただの一瞬合っただけの視線に絡め取られた。困惑を通り越してもはやサンジは途方に暮れている。これが向こうも同じならば話は早いのだが、悲しいかな少年は変わらず通りを眺めているだけでその後サンジをその目に映したことは一瞬たりともない。サンジは自分が一方的に絡め取られた挙句、自分の存在にさえ気付いて貰えてはいないのだとこの数週間で思い知らされた。
無意識にああいう目をする人間はきっとロクなもんじゃない。関わったが最後、どうなるかわからない。果てもなければ標識さえないような気がする。そんな道はそれこそ途方に暮れるばかりだ。
今夜もまた同じ場所で足が止まる。視線が留まる。
少年がこちらを見ることはない。
ほんの少し身を軽くしてやれば見知らぬ他人でも声を掛けることなどサンジにとっては容易い。
少年が自分をその目に映すことも、たぶん容易い。
留まって途方に暮れるか進んで途方に暮れるか。
今夜もまた袋小路に迷い込んだままだ。
一目惚れ片恋サンジ。ルフィはほんと何してるんだ。