「全然 敵わなかったなー」
空の国のさらに高い場所で雷人間に言い放った言葉が蘇る。
青い海に戻ってきて早々に、この海はどこよりもトクベツなのだと実感を深める。
「怪物みてぇなヤツらがうじゃうじゃいるもんなー」
海まで凍らせるなんて、ならば溺れることもないのかと思うとちょっとズルイ、と思う。
溺れると息は出来なくて苦しいし水が鼻に入って痛いし、力は抜けてふにゃふにゃになるし海水はしょっぱすぎてうまくないし。あんまりイイコトないのだ。
「んん?でも泳げねぇのは一緒か」
じゃあいいや。
とルフィは独りごちて腹をさする。
海水の味を思い出したらウマイものが食いたくなった。そういえば朝、スープやらお粥やらコック曰く「胃に優しいもの」ばかりでイマイチ食い応えがなかったのだった。
「あーハラ減ってきた」
たぶん今キッチンに行っても昼メシにはまだ早いと追い払われる。もしかしたら小難しい顔をしたコックにヤツアタリ的に蹴飛ばされる。さっきなんだかとても不機嫌だったから。
そうとわかっていてもハラはすでに主張しはじめている。
ルフィの足はすでにラウンジへと向かっていた。
ラウンジ前の柵を掴もうと見遣れば後甲板でゾロが振り回しているのだろうデカイ鉄アレイもどきが見える。
今朝目が覚めたらいきなりナミに殴られた。
凍ったおれの格好がおかしかったと笑うウソップにバシバシ叩かれた。
「ケガ人なんだぞ!」とウソップを制しながらチョッパーも笑ってた。
(そんなに面白かったならおれも見たかった。ムリだけど。)
不機嫌な顔したサンジに猫みたいに首元掴まれて乱暴にメシの前に運ばれた。
ロビンはなんだかわからない不思議な顔をして「よかった」と言った。
ゾロは眉間のしわがいつもより多いような気がした。
感じた違和感の理由はなんとなくわかる。
わかるけど おれには何もできない。
何か しようとも思わない。
「う〜ハラ減ったー」
蹴られても殴られても もし 泣かれても
321話、対青キジ戦後妄想。