爆裂純愛物語


存在...12

タケと付き合いはじめて一週間。

相変わらず周囲の視線は気になったけれど、それでも充分毎日が楽しくて、あっという間に一週間が経ってしまったという感じだった。

学校ではグループのみんなと楽しくおしゃべりをし、登下校はタケと手を繋ぎながら色んな話をする。

この学校に来るまでの事を考えると、自分でも本当に明るくなったと思う。

こんなにも笑うことが出来て、こんなにもおしゃべりだったなんてと驚かされるぐらいに。

タケのお陰で、どんどん変わっていくわたし自身と周りの環境。

だけどそれは外の環境ばかりで、静かな家と父との関係は相変わらずのものだった。


「明日から三日間、仙台の支社に行く。土曜日の夜まで予定が詰まっているから日曜まで帰ってこれないが、一人で大丈夫だね?」

「はい。大丈夫です」

「多分、日曜日の昼には帰れると思うんだが……また連絡を入れるから家の事を頼んだぞ?」

「わかりました……」

相変わらず、事務的に交わされる父との会話。

家族団らんの場であるはずのリビングは、ピーンと空気が張り詰めているようでとても息苦しく感じる。

わたしは何故か居た堪れなくて、この場から逃げるように自分の部屋に向けて一歩足を踏み出したけれど、父が珍しくわたしを呼び止めた。

「雪菜」

「……はい」

「あれから私の言い付けは守っているだろうね」

「え?」

「あの学校の連中とは、学校以外では関わらないこと……」

その言葉に、ドクンッと、脈が揺れる。

一瞬、タケとの事が頭に浮かび、嫌な汗が背中を流れたような気がした。

「お前なら、何度も言わなくても私の言う事が理解できていると思うが……お前は今、受験を控えた大事な時期なんだ。あんな連中に流されてしまっては、お前の大事な将来が駄目になってしまう。自分を見失わないように、将来の事を考えてしっかりと勉学に勤しむこと。いいね?」

「は…い。わかって…います」

そう、小さく返事をしながら、父の顔を見ることが出来なかったわたし。

もちろん、後ろめたいという気持ちもあるけれど、それ以上に感じた底知れぬ不安。

父から向けられる鋭い視線。 威圧感が漂うこの場の雰囲気。

タケとの事を知られてしまったらと思うと、ゾクッと背中に悪寒が走ったような気がした。

タケと付き合っていることは、絶対に父に知られてはならない。

父に知られてしまったら、きっと何もかも奪われてしまう。

初めて知った、友情も恋も……わたしの宝物を全部取り上げられてしまう。

そんな予感を感じさせる父からの圧力。

だから、隠し通さなければと心に誓った。

何があっても絶対に。

「ところで、その肝心の勉強の事なんだが、あの学校に移ってから随分と遅れを取ってしまっているだろうからな。お前がいくら優秀でも、今までのように一人で勉強していては受験は難しいと思う。 だから、良い塾がこの近所にないか探しているから、決まるまで差が広がらないように頑張りなさい」

「え…じゅっ、塾って……」

「そのほうがお前の為にもなる。 あんな学校にいて、悪い影響ばかりを受けていては堪らないからな。これまでの学校のように、同じレベルの人間がいる場所で、互いに切磋琢磨して学問に励むほうがいいんだ」

「…………」

「今のところ、二つほど候補はある。どちらも月曜から日曜までしっかりとカリキュラムが組まれていて申し分ないんだが、少し遠い場所というのが難点でな。その点でどちらにするか決めかねている。他にないかまた探しておくけれど、その二つのパンフレットを渡すから一度目を通しておきなさい」

「そんな……」

月曜から日曜までなんて、毎日塾に通えと言うの?

今まで一度だってそんな事を言ったことはなかったのに、どうして急に。

「もっと早くにこうするべきだったと後悔している。今までは、お前の成績と学校自体にしっかりとした受験に向けての対策が組まれていたから安心していたんだが、私としたことがうっかりしていたよ……あの学校は、教師までもが堕落した人間が多いんだったと。生徒の悪態をみすみす見逃すような、事なかれ主義ばかりが集まるあんな学校では期待も何もない。自身で何とかしなければ将来はないとね……」

「…………」

「お前なら大丈夫だとは思うが、あんな連中に流されない為にも塾に通いなさい。そうすれば、学校以外で関わることもなくなるし、きっとお前自身も関わりたくなくなるだろう。あの学校に通う者がいかに程度の低い人間かがわかるだろうからな」

「…………」

わたしは言葉を失い、何も言うことが出来なかった。

タケとの事を隠し通すまでもなく、先手を打たれて彼やかづみちゃん達との大切な時間を、もう既に奪われてしまった気分だった。

ずしん。と、心が重く沈む。

何も考えられないほど、気分が酷く落ち込んだ。



*** *** ***




「はぁ……」

何度目かわからないため息が、またわたしの口から漏れた。

昨日の夜、父に塾の事を告げられてから、わたしの心は重く沈んだまま浮上出来ないでいる。

今日一日こんな調子で浮かない顔をしているから、かづみちゃん達みんなから、どうしたん? と、何度も声をかけられてしまった。

何があったのかと聞かれても、本当の事なんて言えるわけがない。

みんなから心配される事に申し訳ないと思いつつ、わたしはただ、家の事でちょっと……。と、曖昧に答える事しか出来なかった。

「なあ、後藤さん。今日一日、ため息ばっかついてホンマにおかしいで? 家の事って、何があったん?」

「え?……あ、いや……ちょっと……」

楽しいはずの、タケと手を繋ぎながらの帰り道。

それなのにわたしは、浮かない顔のままため息ばかりついている。

ダメだってわかっているのに。 心配させるだけだってわかっているのに。

口からついて出てくるのはため息ばかり。

それほど昨夜の父との会話は、今のわたしにとって衝撃的なものだった。

言葉を濁し、何も語ろうとしないわたしの様子に業を煮やしたのか、タケは繋いだ手をグッと引っ張ってわたしを強引に止まらせた。

「…………っ?」

「ちょっとって何? 俺でも聞いたらあかん事なんけ?」

「えっ? やっ……そっ、そんな事はないけれど……でも……」

「でも、何? 言える事なら濁さんとハッキリ言うてぇや。俺、こういうの嫌やねんけど」

「…………」

「一日中、辛そうな顔をしてため息ばっかつかれたら、どうしたんやろう? って、めっちゃ気になるし、心配にもなるやん。俺でよければ力になるし、何があったか言うてぇや。それとも、俺では頼りない? そんなに深刻な問題なんか?」

ギュッと手を強く握りしめて熱い視線を向けてくるタケに、胸が熱くなってじんわりと涙が浮かぶ。

こんなに心配してくれているのに……

口を開いた時には、ポロリと一粒の涙が頬を伝って落ちていた。

「ごめっ……タケ、違うの。ちょっと、昨日、父から言われた事がショックで……どうしたらいいのか、わたし……」

「後藤さん……」

タケは、ポロポロと涙を零すわたしの背中を優しく撫でると、ちょっとそこに寄ろうか。と、すぐ傍にあった公園のベンチに連れて行ってくれる。

そして二人並んでそこに腰掛けると、何を言われたん? と、頬を伝う涙を拭いながら顔を覗き込んできた。

何から、どう言おう……。

全部言っていいものかと少し悩んだけれど、わたしは有りのままをタケに伝える事にした。

父が、あの学校の事をあまり良く思っていないこと。

そして、そこに通う生徒たちの事も毛嫌いしていること。

学校以外では友達と関わる事は避け、その手立てとして毎日塾に通えと言われたことまで。

タケはわたしが話し終わるまで、何も言わずにじっと聞いていてくれた。

そして全部聞き終わったあと、そっか…。と、短く呟いて、少し空を仰ぎ見た。

「理由はどうであれ塾に通うことに関しては、大学を目指している後藤さんの為になるもんな。それは俺も、親父さんの意見に賛成やけど……でも、後藤さんが塾に通うようになったら、こうして一緒に帰れんようになるって事やもんな。ただでさえ二人だけの時間って短いのに、ちょい痛いなぁ」

「ん……。その事もショックだったし、何も知らないのに、あんな学校とかあんな生徒とか、タケたちの事を悪いように言われるのも辛くて……」

「ははっ……まあ、その点は何を言われてもしゃあないかなぁとは思うけど。まさにその通りやし?」

「タケ……。 ごめん、ね」

「なんで後藤さんが謝るねん。そんなん俺ら言われ慣れてるって。本人たちも認めていることやねんから、後藤さんが謝ることじゃないやろ。それよりも問題は……後藤さんとの貴重な時間が大幅に削られてまうって事やねんなぁ」

どーしたもんかな。と、タケは困ったように金色に染まった髪をガシガシと掻き毟る。

それからやや間をあけて、若干顔を歪めながらボソリと呟いた。

「俺が行くしかないな」

「え?」

「その、後藤さんが通う塾に俺も通う」

「え…………ええぇっ?!」

「ちょい、待て。それ、驚きすぎやろ……」

いや、だって。

勉強は嫌いだからと授業もロクに出ていないタケが、塾に通うと言い出すなんて……そりゃ、驚くでしょう?

「だって、タケ……勉強は嫌いだって……」

「おぉ。大っ嫌いやで? あんなもん、社会に出てどんだけ役に立つねん! クソくらえじゃっ!! って思ってる」

「だけど塾って、その大っ嫌いな勉強をするところだよ? しかも授業よりもずっとずっとハードで……」

「おぉ、知ってるで? 後藤さんが通う塾やから、相当レベルが高いやろうなってのもわかる。んで、俺の性にも合わんやろうなってのもな」

「だったら、どうして……」

「ん? そんなん、答えは決まってるやん。後藤さんと一緒におりたいからや」

「タケ……」

二ッと、人懐っこい笑みを浮かべてわたしを見るタケ。

その彼の様子に、どう返事を返していいのかわからなかった。

「それしか方法はないやろ? 会う時間がないなら、どうにかして作ったらいい話やん。 後藤さんが塾に通うなら、俺もそこに通う。そうしたら後藤さんに会えるわ、俺の頭は良くなるわで一石二鳥やで? うちのオカンなんて、泣いて喜びよるわ」

「でも、なにもそこまでして……」

「そこまでしても、俺は後藤さんに会いたい。少しでも長く一緒におりたいんや。 まあ、動機が不純やし、頭も足りんくて塾に入れへんかったら、その行き帰りだけでもついていく。時間はなんぼでも作るよ、俺は。後藤さんに会う為ならどんな事だってしたるわ」

「タケ……」

「親父さんが俺らに対して言った言葉は、その通りやから後藤さんが気にすることはない。会える時間がなくなるって落ち込んでくれているんやったら、俺がどうにかしてその時間を作るから心配はない。 どや? これで後藤さんの悩み事は見事解決やろ?!」

何でも俺に任せとけって。と、声を大にして言ってくれたタケの前向きな姿に、思わずフッと笑みが零れる。

なんか、不思議……

あんなに沈んでいた心が、こうしてタケに全部話して、彼の言葉を聞いただけで晴れてしまうなんて。

やっぱり、わたしはタケの事が好きなんだなって心の中で思っていた。

気付かぬうちに、どんどんその存在がわたしの中で大きくなっているんだとしみじみと思った。

「タケ?」

「ん?」

「ありがとう」

「イヒヒッ。んな、お礼なんていいよ。なんか、照れるやんけ……」

「ううん。だって、あんなに沈んでいたのにタケのお陰で楽になったんだもん。タケに聞いてもらえて本当に良かった」

「そう言ってもらえて、俺もホッとしたわ。 この、役立たずめがーっ!! って言われたらどうしようかと内心ヒヤヒヤしとったからな。後藤さんに笑顔が戻ってホンマに良かった。今日一日、心配で心配で堪らんかったもん」

「ごめんね、タケ。心配してくれて、ありがとう」

そう言ってはにかんで見せると、タケは私の頭を優しく撫でながら、俺、後藤さんの彼氏やもん。当然やんけ。と、またニッと笑って返してくれた。

まだちょっと慣れない“彼氏”という響き。

タケの口から出たその言葉が、少しくすぐったく感じた。



「そやけど、後藤さんの親父さん、なかなか手ごわそうやな」

「え……?」

「いや……実は俺、もう少ししたら後藤さんの親父さんに会いに行こうと思っててん」

「えっ?!なっ、なんで……」

「なんでって、付き合いはじめたんやから、親に挨拶に行くのは当然やろ? やし、親父さんのいる時に家に呼んで貰おうと思ってたんやけど……」

その様子やと、門前払い食らいそうやな。と、タケが苦笑を漏らす。

いや、会うなんて確実に無理だと思う。

ただでさえ関わるなと言われているのに、付き合っているなんて事がバレたら……

その事を考えるだけで恐ろしくて鳥肌が立ってくる。

せっかくタケに心を軽くしてもらえたのに、また沈んでいきそうだ。

再び黙り込んでしまったわたしを気遣ってか、タケはわたしの手をギュッと握って指先を絡めてきた。

「そんなに怖いか? 親父さんのこと」

「……え?」

「いや、えらく親父さんに対して気を遣ってるなぁって思うから。後藤さんを見ていると、なんちゅーの? なるべく親父さんを怒らせないように、怒らせないようにってしているように見えるねん。言いたい事も言えずにグッと我慢してさ……そういうのって、疲れへん?」

父に対して気を遣ってる……?

タケに言われるまでそんな事を一度も考えたことはなかった。

ただわたしは、父の言葉に従順に従ってきただけ。

逆らおうなんて思ったこともないし、考えたことだってない。 当然、父に対して気を遣っているなんて意識もわたしにはなかった。

だから、タケの言葉が少し衝撃的だった。

妙にその言葉が引っかかって、脳内をぐるぐると旋回する。

「確かに、怒らせないようにってしている気がするけれど、それって気を遣っているのかな」

「思っきり遣ってるやん、それ」

「そっか……なんか、タケに言われて初めて気がついた。今までそれが当たり前だったから」

「ぶはっ! 何となくそういうとこ、後藤さんらしいよな。でも、親に対して気ぃ遣うことないと思うねんけどな? 言いたいこと、バンバン言うたったらええのに。親子やねんし」

「そう、かもしれないけど。わたしね、父を前にすると何も言えなくなっちゃうの。言葉が浮かばないっていうか、頭の中が真っ白になっちゃうっていうか。タケが言うように、怖いのかもしれない……父の事が」

ずっと父との間に感じていた分厚い壁。

それは、もしかしたらわたし自身が作り出してしまったものかもしれないと、心の中で思っていた。

母が生きていた頃はそんな事はなかった気がするのに。

いつからわたしは……

「頭が真っ白にねぇ……。俺はあかんわ。親を前にしたら思っていること全部ぶちまけてまう。何で息子の言うことがわからんねん! お前ら俺の親ちゃうんけっ!! てな。だから、凄いで? 本郷家の親子喧嘩は。お互いに納得するまでやり合うから、近所迷惑ちゃうんけってくらいド派手やねん」

「そっ、そうなんだ……うちは喧嘩なんてしたことがないよ」

「そうやろうなぁ。後藤さんも、もうちょっと勇気を持って、親父さんに自分の思っていることを伝えるように努力してみてもええんちゃうか?」

「え……」

「ま、無理にとは言わんけどな。いろんな家庭の形があるやろうし、俺の家が全てとも思わんけど……腹を割って何でも話せる家族がおるっちゅうのも、結構ええもんやで?」

親にしたら、えらい迷惑な息子かもしれんけど。と、タケはおかしそうに笑う。

何でも話せる家族……か。

たった二人きりの家族なのに、わたしは一体これまでに父とどれほどの会話を交わしただろうか。

腹を割って話すどころか、日常会話さえ記憶に乏しい。

もしもわたしが勇気を持って一歩あゆみ寄ることが出来たなら、父との間に聳え立つ分厚い壁も少しは薄くなるのだろうか。

父の姿を思い浮かべながら、はぁ…。と、一つため息が漏れる。

それに気づいたタケが苦笑を漏らしながら、繋いでいないほうの手で優しく頭を撫でてきた。

「そんなに深刻に悩まんといてぇな。俺、後藤さんを困らせるつもりで言うたんちゃうし」

「え……あ、ごめん。なんか、ちょっと色々と考えちゃって……」

「まあ、暫くは付き合っている事は親父さんには秘密ってことにしとこうや。そのほうが後藤さんもええんやろ? ホンマは俺、嘘ついたり、隠れてコソコソしたりすんの嫌やねんけど……後藤さんと別れさせられるようなことになったらもっと嫌やから、挨拶しに行くのは当分やめておくわ」

「……ごめん、ね……せっかく言ってくれたのに……」

「いや、ええよ。親父さんに絶対に反対されるってわかってるのに、こうして付き合うことを選んでくれたんやし、それだけでも俺は幸せや」

「タケ……」

「でも、こんな俺でもいつか親父さんに認めてもらえるように、俺、頑張るつもりやから……」

そう言ってタケは、にっこりと白い歯を覗かせて微笑んだ。


父には内緒でも、順調に進みだしたわたし達。

タケが言うように、父にいつかは……と、わたしも頭の片隅で思っていた。

タケと一緒なら、頑張れそうな気がしたから

いや。タケと一緒だからこそ、頑張れると思ったから。

だけど、わたし達が考えるほど簡単なものじゃないと、のちのち思い知らされることになるなんてこの時は思いもよらなかった。

そしてタケの事を好きになればなるほど、辛く悲しみに襲われるなどと想像すらしなかった。

暫く幸せな時間を過ごすことが出来ていたから余計にだったのかもしれない。


「まあ、親父さんの件はおいおい考えていくとして、とりあえず後藤さんの悩みは一応解決ってことで……俺からも一つ話があるんやけど、ええかな」

「話? うん、なに?」

「突然やけどな……今度の土曜日って、何か予定入ってる?」

「土曜日? えっと、特に予定は入っていないけど、どうして?」

「俺、ちょうどその日、珍しくバイトが休みなんや。そやし、デート……せえへんかなぁって思って」

「でっ、デート?!」

「いや……あの話のあとで、こんなデートの話を持ちかけるのはどうかと悩んだんやけどな。昨日から言おうって決めとったし、土曜日まるまる空いてるなんてチャンス滅多にないからさ。後藤さんの門限の事を考えても、ゆっくり遊べるしって思ってんけど……」

ポリポリと鼻の頭を指先で掻きながら、タケが照れくさそうにボソボソっと喋る。

突然の彼からの申し出に、わたしも俄かに頬が染まっていくのがわかった。

「やっぱ、あかんかな。親父さんが家におったら出にくいもんな?」

「あっ、やっ、えと……父は今日から仙台で仕事だから……日曜日まで帰ってこない予定なんだけど……」

「マジで? ほな、出られる?」

「え? でっ、出るには出られると思うけれど……でも、デートって、その……どんな事をするの?」

デートなんて言葉に動揺してしまって、つい口から出てしまった言葉。

すぐに愚問だったかと少し後悔したけれど、出てしまったものは仕方がない。

顔を紅く染めて躊躇いがちにタケを見ると、彼は一瞬ギョッとしたように気まずそうな表情を浮かべて、ボソボソッと彼らしくなく口ごもった。

「えっ?! どっ、どんなって……急に俺に聞かれてもやな……俺も初めてでどんな感じかなんて……」

「え? ごめん、ちょっと聞こえづらい」

「あ! いや……おっ、俺に任せといて! うん。後藤さんが楽しめるように、俺がプランを練るからさ。ほれ、ここ俺の地元やし、後藤さんはまだ知らん所が多いやろ? だから、いろいろ俺が案内したるよ。 観光名所巡りとかさ、ショッピングとか? あ! 映画を見に行くって手もあるやんな?」

満面の笑みを浮かべながら、あれこれと楽しそうに話すタケを見ていると自然とこちらにも笑みが浮かんでしまう。

タケとデートって、どんな感じなんだろう……

学校の外で誰かと遊んだ経験もないし、ましてやデートなんてしたこともないから想像もつかないけれど、きっとタケと一緒ならどこで何をしたって楽しいに違いない。

土曜日なら学校も休みだし、普段の何倍もの時間をタケと一緒に過ごすことが出来る。

いろんな所へ行って、いろんな話をして……もしかしたら、学校では見られないタケの姿も見られるかもしれないよね。

今度の土曜日は父がいないから、比較的出かけやすいし……


――――あの学校の連中とは、学校以外では関わらないこと


一瞬、父の姿が脳裏に浮かんで少し後ろめたい気持ちになったけれど、どうしようと考える前にわたしの心は既に決まっていた。

「あの……じゃあ、うん」

「え……それって、オッケーってこと?」

「うっ、うん」

「おっしゃーっ! 初デートッ!! よかったぁ。今朝の後藤さんの様子から、絶対あかんわって半分諦めとってん。思い切って言ってみて良かったわ。 ほな、土曜日約束な!! 俺、めっちゃ楽しみにしてっしな!!!」

「ん……わたしも楽しみにしてるね」

「うわ〜。そやけど、デートやって……後藤さんと念願の初デートやって!! どうしよう、俺。今からワクワクしてきてんけどっ。眠れるやろか?」

手を繋ぎながら、隣で子供のようにはしゃぐタケの姿に思わずフッと吹き出してしまう。

それにタケは少し頬を赤らめながら、笑うなやぁ。と、ちょっと口を尖らせて見せた。

その様子がまたおかしくて、声を立てて笑ってしまったわたしもどこか浮かれていたかもしれない。

タケと出かける初デートに思いを馳せて。

大変長らくお待たせいたしましたm(__)m
久々に書きましたね、この二人(汗
父親の存在に、いつもの如く先が読めそうな展開ですが……知らないふりして読んでいただけると助かります(逃走)
さて。
やっと次回は初デート編♪
本当は、前ページあたりで書く予定をしていたんですが、諸々の事を書いていたら延びちゃいました……てへへ。
相変わらずジレジレさんで、あまり進展のない二人ですが温かい目で見守ってやってくださいまし(笑)

神楽茉莉