爆裂純愛物語


Mail (本編7ページ・やむ落ちシーン 笑)

門限が夕方の5時ということで、4時半を過ぎたあたりでタケに促されて家路についたわたし。

今まで一度も門限のことを苦に思ったことはなかったけれど、今日は少しだけそれを疎ましく思った。

もう少しみんなと話していたかった…

もう少しあの空間にいたかった…

そう思えるほどみんなといる時間が楽しくて、一人、この場を去らなければならないことに少し寂しさを覚えた。


「…な? 後藤さんが心配するほど悪いヤツはおらへんかったやろ?」

帰り道がまだわからないだろうからと、タケもついて来てくれて肩を並べて歩く帰り道。

彼は少し顔をこちらに向けてニッコリと爽やかな笑みを浮かべた。

「ん…ごめんね。 なんか、タケの友達を疑うような態度を取ってしまって…」

「ええって。 だって、しゃーないもん。 あいつらどっからどーみてもコテコテのヤンキーやし、後藤さんがああなっても仕方ないわ」

そう言ってタケはおかしそうに他人事のように笑うけれど。

いや…タケもその部類に入るんだけどな…

とは、決してわたしの口からは言えなかった。


ミッチーの部屋で話していた話題を引っ張りつつ、タケと話をしながら歩いているとカバンの中から、ピリリッ…ピリリッ…と、メールの着信を告げる音が聞こえてくる。

「え…メール?」

首を傾げながらカバンから携帯を取り出す間にも、2回、3回と着信音が続く。

えっ、えっ…えっ!?

未だタケとしかメールのやり取りをした事がなかったわたしは、この立て続けに鳴ったメールの着信音に慌てふためいてしまう。

危うく携帯を落しそうになりながら、慌ててメール画面を開こうにも再び手の中で鳴り続ける音にプチパニックを起こしてしまって、どうして開けていいのかわからなくなってしまった。

「あっ、あの…タケ…いっぱいメール来てる。 どっどうしよう? どうやって見たらいい?」

「ぶははっ!どうやって見たらいいって…教えたやんか。 どうしようもこうしようも、開けるだけやで? やっぱおもろいなぁ、後藤さんは。 そやけど、いっぱい来てるって誰から?もしかして迷惑メールちゃうやろな…都合悪くなければ一緒に見てもええか?」

「う、うん…」

迷惑メールって何?と、不安に思いつつ携帯を持ったままタケに差し出すと、それを覗き込むように彼が少し体を屈めて身を寄せてくる。

わたしが右手で携帯を持って固まっていると、タケが、俺がやろか?と言ってくれたので、うん。と頷いた。

わたしの手の中にある携帯をそのままに、タケは左手の人差し指を使って操作をしてくれる。

画面が移り変わり、今連続して届いたメールの差出人の名前がずらりと並んだ。

――相沢かづみ…西向桃子…竹内雅美…的場光弘…中村正志…近藤鉄治…

帰り際に、みんなと交換したメールアドレス。

また送るわな〜。なんて言ってくれていたけれど、まさかこんなにすぐに、しかも本当に送ってもらえるだなんて思ってもいなかったから、みんなの名前を見て思わず顔が綻んだ。

「あ…みんなからだぁ」

「うーわ、ホンマや。 あははっ!あいつらやりよるやんけ。 トップバッターは、かづみか…あいつ何気に後藤さんのことホンマに気に入っとったしなぁ。 多分、一斉メールもかづみが考えよったんやろ。 ナニナニ?…

“これから宜しくな、雪菜!いっぱいメール送るし、雪菜もいっぱい返してきてな〜♪”

…って、ホンマにクソほど送ってきよるで? 覚悟しといたほうがええわ、かづみのメール攻撃」

「ふふっ。 ホント?頑張って返信しなくちゃだね」

「えーっと、次のモモは…パス。 こいつギャル語使うし解読不能。 っちゅうことで、次…」

え…わたし、まだ読んでないんですけど……っていうか、ギャル語ってナニ?

わたしの疑問符など気付いていないようで、タケはサクサクと次のメールに進んでしまう。

「次はガンコか…って、おゎっ!?」

「えっ。どっどうしたの?」

画面を見るや否やタケが妙な声を出すものだから、少しびっくりしながら一歩遅れて自分も画面を覗き込む。

「………っ!?」

あまりの衝撃に声が出なかった…

ガンコちゃんの送ってくれたものは画像添付メール。

メールに画像を添付できるんだって事も初めて知ったけれど、その画像はそれをも忘れさせるほどに衝撃的なもので、思わず画面を凝視してしまった。

「あいつ…何考えとんねん…夢に出てくるやんけ…」

「……………」

画面いっぱいに表示されたのは、ガンコちゃんの顔のアップ写真。

いやもうこれは “どアップ” と言っていい。

あまりにも近づきすぎてピントが少しあっていなくて、それが逆に彼女の特徴を際立たせているというかなんというか…一言でいうと “強烈”とも言える。

その画像添付メールには、こんな文字が添えられていた。


“ウチの顔、覚えてやーっ♪ 忘れたらしょう地せえへんしな!”


あの……このメイク(顔)を忘れろというほうが難しいと思う。 しかも漢字…違うよ?


タケは、見なかったことにしよう。とポツリと呟き、大きく一つ深呼吸をしてから気を取り直して次のメールを開けると、途端に声のトーンが低くなった。

「うーわ、光弘にマサに…テツまで送ってきとるやんけっ。 あいつら生意気に後藤さんにメールしてきよってからに、許されん。シメたる…」

「え、なんで? わたし、送ってきてもらえて嬉しいのに」

どれも同じような内容の短い文章だったけれど、送ってもらえたことがわたしは素直に嬉しかった。

だから、タケに返事を返しながらも顔を綻ばせ、視線は画面に向いたままだった。

「後藤さんが嬉しくても俺が嬉しないねん。 光弘のヤツ、なにが“これから仲良くしよな〜vv”じゃ! ハートマークついてるしっ!! あかん…これ見ただけで腹立ってきた。 後藤さん、こいつらには返事せんでええしな?」

「そんな…せっかく送ってくれたのに? 返事しないと悪くな…い…っ!?」

そこでようやく携帯の画面からタケへと視線を移し、今まで気付かなかったあまりにも近い彼との顔の距離に瞬く間に頬が紅くなって言葉に詰まり、更にびっくりして鼓動が高鳴った。

幸い、タケのほうは画面を見るのに夢中でこちらの様子には気づいていないようで、わたしは慌てて視線を画面に戻した。

こんなに顔が近づいていたなんて…

タケの腕に自分の肩が触れそうなのにも気付くと、徐々に体が固まっていくような気がして、それを意識すると更に顔まであげられなくなってしまった。

ど…どうしよう。 動けない…

ドクドクドクッ。と、加速を見せるわたしの鼓動。

携帯を持つ手が汗ばんできたのがわかる。

その携帯を落さないようにとグッと手に力を入れたとき…――――ピリリッ…ピリリッ…。と、また着信音が響いた。

「おっ、最後は誠司か。 あいつ、不精者やから滅多にメールなんてしてきよらへんのに…さては、かづみにせっつかれよったな。 いひひっ、何書いてきよったんやろ」

そのタケの声にふと意識を戻される。

だけど、先ほどまでの心のゆとりは持ち合わせておらず、自身に落ち着きを取り戻そうと必死になっていると、一転して少しトーンの落ちたタケの声が耳に届いた。

「あのクソボケ…なめとんのか…」

「え…」

聞き慣れない言葉に首を傾げつつ自分でも画面を見て確認をしてみる。

そこには奇妙なものが表示されていた。


《 (-.-)y-~~~イップク中 》


なに…これ…

「誠司のヤロォ、帰ったら一発どついたる…」

「あの…これって、どういう意味?」

「あぁ、これか? ほら、この部分が顔でコレが煙草、ほんで煙が出てて…タバコ吸ってるって意味の顔文字やねん。 いつもは絵文字使ってるやろ?こうやって記号を組み合わせて作ってある顔文字ってのもあるんや」

「へぇ…顔文字。 ホントだ、確かに顔に見えるね。クスクスッ…うんうん、タバコを吸っているようにも見える。 わぁ、なんか凄いね?面白い」

妙なところに関心を持ってしまったわたし。

その顔文字とやらを見ながら小さく笑っていると、タケが、他にもあるんやで?と、画面を切り替えて色々と表示して見せてくれる。

笑っている顔、泣いている顔、踊っている様子などが次々と表示され、その度に反応を見せるわたしにタケも気を良くしたのか声のトーンがいつしかいつも通りに戻っていた。

「な、色々あるやろ? 他社の携帯には表示されへん絵文字も中にはあるから、そういう時はこうやって顔文字使ったりするねん」

「へぇ、そうなんだ? じゃあ、わたしもこれから顔文字をマスターしなきゃだね。大変だなぁ」

「ぶははっ! まあ、頑張ってマスターしてな。俺とは同じメーカーのやからそれは必要ないけど…」

そう言って笑うタケと、顔をあげたわたしの視線がバッチリと合った。

ひとつの携帯を持つ二つの手。 近づいていたお互いの顔の距離。

一瞬忘れていたのに…。

それをまた認識した瞬間、落ち着きかけていた鼓動が再びドクドクと暴れだす。

ボッと音を立てて顔に火がついたように頬が急激に熱くなった。

「おゎっ?!」

タケも同じ事に気がついたのか、奇妙な声と共に弾かれたように手を離し、そのまま自分の髪をガシガシと大きく掻き毟った。

「ごっごめん。夢中になってもうて。 あっと、その…なんや…顔文字はそうやって出したらええしな」

「あ、う…うん。 ありがと…」

頬を染める二人の間に微妙な空気が流れる。

その空気を断ち切ろうと、タケが少し上ずった声で促してきた。

「ほっほな、帰ろか。 あんまり道草食ってると門限に間に合わんようになるし…」

「う、うん…」

タケが歩き始めたのにつられるように、わたしも携帯をカバンにしまって歩き出す。

トクトクッ…トクトクッ…トクトクッ…

みんなから届いたメールに浮かれていたことも忘れ、わたしは治まってくれそうにない胸の高鳴りに、暫しの間翻弄されてしまっていた。

- end -

タイトルにあるように、やむ落ち…即ち“やむなく落としたシーン”(ト○ックDVDの真似ですが 笑)
ということで、雪菜視点のお話になっています。
書いていると、こういったものが出てきたりするんですよ(笑)
どっちのパターンを使おうかなぁとか、とりあえず浮かんだものを書いとけ!という覚書だったり。
ストーリーの流れから出せないものもあったりするんですが、支障がない一コマなら大丈夫かな、と。
今回書きかけのコレを見つけたので、ちょっと加筆してみました。

こちらも何てことない一コマなんですが、せっかく書いたし読んでもらいたいなぁって。
こういうのも一つの楽しみとして読んでいただけたら幸いです。
二人が頬を染めながらモジモジしている様子が浮かんだらいいなぁ…(笑) 

神楽茉莉