仇
〜ada

<第一話>



『覚悟!』

  そう叫んで、いかほどの時が過ぎただろうか。刀の柄で腹を突かれ、
 悶絶している所を殴られた。斬られたのではない、殴られたのだ。
 私が握っていた父上の形見の長刀は、相手に触れることすら叶わず、
 足元に転がっている。そして、それを拾う力も残されていない。
  幾度も殴られたことだけは、微かに覚えている。全身が重く、
 指先を動かすのも苦しい。しかし、眼球だけは悲しく父上のかたきを
 捉えることができる。目の前に繰り広げられている光景など、
 見たくもないのに。

 「そうか……思い出したぞ。おぬし、惣兵衛の妻であったな」
  母上の顎の辺りをぐいと掴み、顔を近づけ語る男。忘れようにも
 忘れられぬかたきの顔。
  二年前、不正蓄財の罪を全て父上に着せ、脱藩した男 木嶋忠吾。
 父上は何の言い訳もせず「気付かぬのも罪。甘んじて受けよう」と
 我らにだけ言い残して刑場の露に消えた。なのにこの男は、
 持ち逃げした大金でこの二年間、江戸で放蕩暮らしをしてきたのだ。
 「馬鹿な。勝てると思うたか?惣兵衛と同じ役に就いてはいたが、
 剣の腕は藩でも随一だったのだぞ。真面目一辺倒で生きてきた惣兵衛と
 比べられては困るな。クククッ……

  顔を背ける母上を無理矢理に捻り、前を向かせ語る。
 「仇討ちなど考えずに親子二人でおとなしく暮らしておけばよいものを……
 そなたたちの家に行くだび、おぬしの姿に見惚れていたのをやっと
 思い出せたわ」
  そして、よりにもよって木嶋忠吾は、母上の唇を、奪った。
 「ん……っ!ん、くうっ!」
  洩れる母上の声。必死に首を振り逃れようとするが、木嶋の唇は離れない。
  所在を調べ上げ、母上に仇討ちを進言したのは私だった。町の剣道場で
 褒められた程度の腕前で天狗になり、相手の力量を見誤った愚かさのせいで、
 母上がこのように辱められているのだ。

 「……ぷはっ。ふふん、よい味じゃ。美しい惣兵衛の女房様は、
 唇も美味であったぞ」
 「……無礼者っ!」
  気丈に忠吾を睨み付ける母上。しかしその瞳は、涙で潤んでいた。
 零れ落ちていないことのみが、母上の意地であるに違いない。
 「いい声じゃ。もっとわしを嘲るがいい。そうすればするほど、
 あとで恥ずかしい思いが残るのだからな」
  忠吾が立ち上がった。母上は動かない、いや、動けないのだ。
 我らが忠吾を待ち伏せした林の中、その中に一本の木に、母上の両手は
 無残に括られていた。決意の強さを表すための白鉢巻は、母上の自由を
 奪う拘束具と化していたのだ。

 「さて女房様……名は、確かお凛と申したな。仇討ちが失敗したのじゃ、
 おとなしくわしのいうことを聞くがよい。なあに、すぐ済む。
 前から抱いておった願望を果たすだけなのだからな」
  しゃべりながら、差していた刀を抜き、帯を緩め始めた。
  まさか、まさか、まさか!
 「おのれ……っ、殺せ!今すぐ我ら二人を、殺せっ!」
  張りのある母上の声が憎きかたき、忠吾に向けられた。しかし忠吾は、
 まるで関せぬように帯を緩め続ける。そして、開いた裾から覗いたものは。
 「ひ……っ!」
  私が女であるなら、母上と同じ悲鳴を上げたに違いなかった。

 「ほほう。お凛どのはこのようなものを見たことがなかったか?
 そうかそうか、惣兵衛の一物は、まるで幼子のようなものであったからな!」
  股間に現れたものと同じように目の前の母上を意地汚く嘲りながら、
 忠吾は母上のほうへと歩みを進める。何も出来ないでいる自分が、
 この上なく情けない。
 「く、来るな……殺せぇ!」
 「馬鹿な。このように艶めかしい姿の女を目の前にして、何もせぬ男が
 どこにいようか……ふふ、おそらくそこに転げる息子でさえも、
 母親の姿に欲情しているだろうよ」
  力がこもらないのが、幸いしたかもしれない。

  確かに私は、自由の利かぬ躰を僅かでも逃がそうと捩る足元や、
 羞恥に歪み始める母上の表情に、色を感じていた。全てを賭けてきた仇討ちが
 この上なく無様に失敗したことで、禁欲続きの肉体が、あらぬ興奮を
 呼んでいた。
  母上が、犯されようとしているのだ。美しく聡明で力強い母上が
 憎き父上のかたきに、陵辱されようとしているのだ。
 「や、やめろ……来るな、くる、な……っ、あああっ!」
 「……おとなしくするがよい。身を任せておれば、おぬしの知らぬ世界を
 たっぷりと味わせてやれるぞ、クククッ……
  先程と同じくらいに、母上と忠吾の顔が接近する。そしてそれ以上に、
 忠吾の下半身は必死に閉じようともがく母上の両足の間に迫る。
 ぐいぐいと、迫る。私の瞳は、暴れることで痛々しい跡を残し始めた
 白い両腕と、陵辱者の攻めに眉を歪めて耐える母上の苦悶の表情を
 捉えていた。

 「さあて……おぬしが下っ腹で一物の感触を味わっておる間に、
 わしはおぬしの乳でも弄らせてもらおうかな」
 「ひい……っ!」
  忠吾の両手が、母上の白い仇討ち装束の襟元を、ぐいと開いた。
 幼き頃より憧れていた、母上の白く美しく、そして豊かな乳房が
 私の目にも飛び込んでくる。
 「ほほう……これはこれは、大層張りのある乳じゃのう。先はほれ、
 わしに『舐めて舐めて』と誘っておるぞ」
 「ちが、う……忠、吾ぉ……!」
 「何が違うものか、ほれ触らずともふるふると誘うように震えておるぞ。
 ああ、早く舐めてやりたいのじゃが、おぬしのご主人殿が嫌々と泣いて
 ござるからな。しばし待てよ……ククッ」

 「誰、が……あ、くうっ!」
  抗おうとする母上の声を遮ったのは、忠吾の節くれだった手だった。
 憎き忠吾のその手は、遠慮なく母上の二つの乳肉を掴み、揉みしだき始めた。
 「や、やめろぉ……あ、あうう、ああ……っ」
  母上の白い肌と、忠吾の浅黒い肌。美しい乳房と、獣じみた手。
 周囲の林の光景などまるで目に入らないほど、その二つの物の
 際立った違いに私は目を奪われてしまっている。
 「ほれほれ……やはり誘っておるようだぞ。息子ももう大きいというのに
 堪らんのう、この肌触り。街の遊女どもとはまるで違うわ。
 おおそうかそうか、お凛どのは惣兵衛にしか触らせたことがないので
 あろうな……ほれほれ、まるで乙女のように指に吸い付いてくるようじゃ」

 「あ、あう……や、やめっ……
  必死に身を捩じらせる母上の死装束は、忠吾の陵辱に染め上げられるように
 土に汚れていく。あれほど凛としていた母上の声が、掠れるように
 弱々しくなっているのに私は気づいた。
 「まったく、揉み応えのある大きな乳じゃ。ほれほれ、指の間で先が
 しこってきたぞ。そうかそうか、やはりわしに舐めてほしいか……
 しかたがないのう」
 「や、やっ……あふうう……っ!」
  これ見よがしに荒々しく首を振り、忠吾は母上の乳房に顔を沿わせた。
 必死に弾こうとする母上にかまわず、わざと舌を長く差し出して舐める。
 先端の桜色の突起を、舐め始める。
 「あっ、いっ……や、やめっ……いや、いやっ」
  母上の赤い唇からは、思い出したようにしか抗いの言葉が
 出て来なくなっていた。全身が怖気上がっているのか、それとも……

 「んんー、お凛どのの乳は唇よりもさらに甘いぞ。これは甘露じゃ。
 ほれ、わしの珍棒もますます固くなって来た。わかるじゃろう、
 お凛どのよ……
  豊かな乳房に顔を埋め母上を嘲りながら、忠吾は腰をさらに
 押し付けるようにしている。死装束の下に薄い襦袢だけを身に着けた
 母上の下腹は、その禍々しい感触をしっかりと受けているはずだ。
  だから、声が弱くなったのですか、母上……


                 続く


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