「すきだよー、ぜったい」01

「あの……こんにちは」
「あ、こんにちはー」
「えっと……本、見せてもらっていいですか?」
「どうぞー」
「……ふーん、ふんふん」
「あはは。ずいぶん熱心に読んで下さってますね」
「あ、ハイ……『くのいちHAGANE』好きなんです。原作持ってるし」
「へー……あれ読みにくい本だったでしょ?小難しい単語いっぱい出て来たりして」
「そうですね、わたしバカだから必死で読んだかもです」
「いやいや」
「ははっ……へえ、絵上手ですね」
「とんでもないです。まだまだ勉強中で」


 あれ?ちょっと待てよ?

「えーと」
「はい?」
「おいくつですか?」
「あ……えーと」
「いくつ?」
「じゅ、18歳、です」
「……じゃあ、いいですけど」


 ウソ言ってるな、この娘。中学……まあどう上に見ても高校入ったばっかくらいだ。

「……」
「……」
「それ」
「……え?」
「そのコス、『まんちかんハウス』のですよね」
「あ、ハイ」
「えらくシブい所をチョイスしてきましたね」
「うわ、知ってるんですか?『まんちかん』」
「4コマのでしょ?ネコ好きなんでたまにコンビニとかであの雑誌買ってて、その中じゃ『まんちかん』が好きかな」
「うわー。知ってる人に初めて出会ったー」
「え。マジですか」
「うん。じゃじゃじゃじゃじゃじゃあ……これ誰のコスか分かります?」
「誰って……にゃこでしょ?」
「なんでー!」
「なんでって」
「他のキャラもコスはあんまり変わらないじゃないですかー!どうして分かったんですか!?」
「ああ。耳が曲がってる」
「……さすが。ちゃんと見てますねー」
「まあ」
「さっき『まんちかん』知ってるって聞いた時、ウソかと思いました」
「失礼な(笑)」
「や、でも、マジメに感動ですー。友だちも分かってくれなかったんですよ?『なにソレ?普通のメイド?』って」
「まあ、メイドっぽくはありますけどね」
「や、や、や、感動ですー」
「じゃあ、ってことは……手作りですかそのコス」
「ですです。へたっぴですけど」
「や、よくできてると思いますよ」
「うわ、ありがとうございますー♪」
「コス作れる人とか、そっちのほうが尊敬しますよ」
「そんなことないです。好きでやってるだけですから。お母さんが好きでその影響で」
「お母さんがコス作りが好き!?」
「違いますよー!裁縫が!」
「でしょうね」
「あはははっ。わたしは、絵をこんなにきれいに描けるほうがスゴイと思うけどなー」
「いやいや」
「中学の時もマンガ研みたいなのに入ってたんですけど、イラスト1枚描くのがやっとで……コスに逃げました」

 中学の時は……ってことは一応卒業してるんだ。でもまあ、18歳じゃないね間違いなく。

「逃げたとか……そのコスの作り見れば、そっちを伸ばしたほうがいいと思いますよ。マジメな話」
「そう、ですか……?」
「うん。今マジメにあなたのにゃこコス見てて、『まんちかん』もアリだなって思いましたもの」
「あははっ。次回作?」
「そう」
「えっちいのですか?」
「それはどうかな?」
「あはははっ!」

 笑うとかなり可愛いな。ショートカットもにゃこコスに似合ってる。まあ、俺がショートカット属性ってこともあるだろうけど。
 その時。

「あ、あみー!やっと見つけたー!」
「あ」
「もー、私こういうとこ慣れてないんだからちゃんと一緒にいてよー」
「だってみっちゃんジュース買いに行くだけって言ったから」
「それでもさー……まあ、はぐれた時の目印決めてたからよかったね」
「……あ」
「『入口のあのエロっぽいところ』ってね。マジ焦ったけど、だからやっと見つけられたー」
「……」
「さ、行こうって亜未。。マンガ好きだけどココ雰囲気違うよー。おじさん多いし」
「……」
「ほらー」
「あ……っ。あの、ありがとうございました!」

 普通っぽい女の子に手を引っぱられて消えてく、にゃこコスの女の子。まあ、ねえ。
 要は俺のブースが目印にされてたわけね……今さらがっくりも来ないけど。
 エロっぽいところ……事実だけど、そりゃしょうがないわ。ここエロの島だもん。
 おじさん……まだ20代入ったばっかだぞ俺。まあ……高1くらいの娘に見られりゃおっさんか。
 まあ。
 まあ。
 可愛かったな、あの娘。ちょっと期待してしまった俺、情けな。


「さて……帰るか」

 一応本は捌けた。ま、地元の即売会ならこんなもんでしょ。そろそろ夏コミの準備しなくちゃなー。
 『HAGANE』は限界っぽいし、今流行ってるのは『碧洋恋談』とかか?でも俺、あの手のキャラデザ苦手なんだよなぁ。
 マンガじゃ『まきばJOB!』とか好きなんだけど……エロ書きにくいな。まだ微妙に流行ってないし。

「あ」
「あ」
「さっきは……どうも」
「どうも……まだ、帰ってなかったんだ」


 さっきのにゃこコスの女の子だ。廊下のベンチにぽつんと座ってる。今は普通のカッコ。

「や、あの……すみませんでした!」
「……何が?」
「えっと……その……なんかいろいろ、失礼なことになっちゃって」
「イイよ、別に」
「あの……これだけは言っときたくて!」
「うん?」


 なんだ?ゴソゴソかばんをあさってるぞオイ。

「これ!」
「?」


 彼女が差し出したのは……ああ。『くのいちHAGANE』の原作文庫本。

「ホントに、ホントに『HAGANE』好きだったんです!だから、絵が上手いなって気になって!」
「……」
「ホントなんです!これ無理に買ったとかじゃなくって、ちゃんとウチから持って来ました!ほら、新品とかじゃないでしょ!?」

 なんかホント必死になって俺のほうにその文庫を押しつけて来る。いやあの……マジで気にしてないのに(笑)。
 しかし……それだけのために1回帰って戻ってきたのか?えらくヒマなのか、どうしようもなくバカ正直なのかこの娘は。

「あ、でも」
「え?」
「……古本屋で買って来た、って手段もあるよね?」
「そんなぁ……っ!」

 うわ、マジで泣きそうな顔しちゃったよ!ちょ、ストップストップ!

「ウソウソウソウソ!冗談だってば!……ってか、気にしてないよ全然。あんなこと、よくあること」
「でも……」
「こういうジャンルをよく知らない人の言葉なんて気にしてたら、好きな絵が描けなくなっちゃうし」
「……」
「みんな基本は好きで描いてるんだよ。だから、なに言われようとも好きな作品の好きなキャラを好きなように描く!」
「……はい」
「だから君も気にしない。っていうかビックリだよ、これだけのために戻って来たの?」
「はい」
「お友だちは?」
「……ちょっとケンカして来ちゃいました。ここに誘ったのはわたしだし、ホント悪いのはわたしなんですけど……」
「ケンカって」
「ああいうこと言っちゃダメだ、って感じで」
「ああ」
「マンガ好きだから、同人にも興味があるかな?って勝手に思っちゃって……」
「せっかくの友だちなんだから、仲直りしなよ?こんなことでケンカするのもったいないよ」
「……はい」
「マンガ好きなのはいいじゃない。入りにくい場所だけど、来てくれたんならオレらみたいな人間にはありがたいよ」
「……ありがとうございます」
「うん」


 ヤバイな。
 この娘、可愛い。
 可愛すぎる。
 さっきはよく見なかったけど、普通に可愛い。
 性格もよさげ……分かんないけど、これ演技でやってたらスゲエ小悪魔だ(笑)。

「それから」

 俺も荷物置いて、彼女の隣に座った。あ、下心なんてないぞ。

「……こっちもゴメン」
「え?」
「さっき、歳を訊いちゃったりなんかして。それこそ失礼だったね」
「あ……」
「でもさ」
「……はい」
「本当は、18歳じゃないよね?」
「……はい」
「やっぱり」
「……じゅー、ろく、になったばかり、です。6月11日に」
「あ、そうなんだ」


 うわ。5歳違いか。まあ、まあ、なんとか許される。いやいやいやいや藤村くん。それはヤバイだろ。
 って、フツーに誕生日明かしちゃってるよこの娘。……天然、なのかな?

「……ごめんなさい」
「いいよ。買わなかったわけだし。ホントは見てもダメだけど」
「……言われなかったら、買うつもりでした」
「それは……ありがとう。ありがとう?」
「あははっ」

 その後はバカ話。さっき盛り上がった『まんちかんハウス』の話だとか、それの流れで、この娘が家で飼ってるネコの話だとか。
 俺が聞いたのはコスの話。自分がチキンでできないから、単純に興味があった。

「あ、コスは……なんて言うのかな?勢い?」
「勢い?」
「うん。『好き!このキャラに近づきたい!』って思ったら縫い始めちゃう。ま、わたしの場合だけですけど」
「ぬ、縫い始めちゃうって……」
「うん。縫うのはムリでもそこで『カッコイイ!可愛い!着たい!』って思ったら既製品でもアリですし」
「スゴイな」
「わたしも最初は……最初なんだったっけな?えっと……あ、ゲームの、ほら……少し前に流行った……」
「『ファイターズリアリティ』?」
「そう!あのファイリアのちっちゃい子……ジェナだ!」
「……男の子じゃん!」
「そう!でもわたし背も低いし髪も短いしちんちくりんだから、なんか共感覚えちゃって。だから勇気出して作って着てみたんです。で、このイベントに」
「ああ、初めてはここ?」
「はい。で、さすがに最初は恥ずかしくてすみっこで隠れてたんですけど、コスしてたお姉さま方に「可愛いー!」って見つけられちゃいまして」
「あはは……で、現在に至る、と」

「そう!『いいんだ!私こんなちんちくりんでもいいんだ!』って!」

「ちんちくりん押すねー。そんなことないのに」
「いえいえ。ちんちくりんですし、デブですし」

 デブ?……まあ、痩せてはないけど、どっちかっていうと……まあ、発育途上というか、なんというか……。

「や、さすがにデ……いや、太ってないと思うよ?」
「とんでもないです!見た目よりずっとずっと太っちゃってます!」
「そうかなー?女の子って気にしすぎな部分があるからなー」
「おなかの肉とかお尻とか、ヤバイですって」
「……困るな、そんなこと言われても」


 なんかこう……楽しすぎる。だんだん人がいなくなる地元の文化会館で、ベンチに座って今日初めて出会った可愛い娘と2人でバカ話してる状況。
 恋愛……違うな、そういうんじゃなくて、入口感覚だから楽しい?ただ単純に、同じ話題で会話してる感じが。

「ちょっと」
「あ」
「あ」
「もうそろそろホール閉めますよ」

「あ、はい」
「うわ、意外と長居しちゃってますね」
「だね」


 イベントのスタッフさんが、ホールの看板片づけながらオレらに声をかけてきた。
 ちっ。やっぱり、長く続かねえかこんないい時間は。
 うん。このままとりあえずはこのまま文化会館の入口まで一緒に行って、まあそこでお互いに軽く挨拶して、そんでさよなら……って流れだな。
 まあ楽しかったし、いいかー。

「あ、の」
「ん?」
「これ」
「ん?なにこれ」


 名刺?

「はい。わたしの名刺です。コスのお姉さんたちに作っといたほうがイイよって言われて、今日初めて作ってたんです」
「へえ、こんなのもあるんだ……『コスネーム/天、名』?」
「そうです、あ・ま・な・です。本名の真中亜未をちょっともじってつけました」

 こりゃ……マジ天然だ。今日会ったばかりの素性も知らない年上の男に本名バリバリ言っちゃってるし。

「実は……この名刺、初めて人に渡すんです」
「へ?だって……コスのお姉さんにってさっき……」
「言われて作ったけど、渡すの恥ずかしくって……だから、これが第1号」
「そりゃまた……ありがとう」


 うーむヤバイヤバイ。ちゃんと俺の顔を見て、ニコッと笑う。ヤバイヤバイヤバイヤバイ。

「そこにメアド書いてるんで。ブログも始めようかなーって考え中です」
「ああ、うん」
「お兄さんの連絡先、ありますか?」
「え?」
「また、お話したいです。なんか今日、とても楽しくって」
「あ、ああ……いいけど」


 俺はカバンと財布をゴソゴソやって、今日のコピーのフライヤーと会社の名刺を出して渡した。
 渡す時、なんか、こう……えらくドキドキしてしまった。ちくしょう、余裕ゼロ!

「メアドと……あ、ホームページもあるんですね!今夜すぐに行って見ます!」
「あ、でも」
「ん?」
「俺のサイト、18禁だよ」
「あ」
「そのへん、ちゃんとしようね」
「はーい」

 ちくしょう。こりゃ完全にやられた。
 目の前にあるこの娘のこと、惚れちゃった。
 別に初恋でもあるまいに、なんかこうさっきからずっとドキドキしちゃってるぞ?

「じゃあ」
「はい。マジで連絡しちゃいます」
「いいけど」
「うん。今日は本当にありがとうございました!またすぐに!」

 走って、振り返って、ぺこっと礼をして、また走って、振り返って、礼をして。姿が見えなくなるまで、それがずっと。


 これが俺と、亜未の出会い。こっちが冬に向けてプチ悩み中なのに、俺のベッドですやすや寝ちゃってる真中亜未との。
 近いんだからウチ帰って寝ろよなまったく……まあ、可愛いからいいや。
 さて……ネタ探しネタ探し。あ、そうだ。もうそろそろ『あやかし城のプティ・メロウ』が始まるな。録画もしてるけど、リアルも見よ。
 こないだの6話は興奮したなぁ。レイプ寸前の捕虜ネタだったし。演出も明らかにエロ過多。そのネタが多いんだろうなー今度の冬。ま、俺も描く気だけど。
 ……10話か。ふむふむ、ふむふむ、ふむふむ……。

続く

黄昏のパトス目次
     思考師団ブログ