くのいちハガネ忍法帖第三部
〜ハガネ、愉歓〜
「あっ、あうう……」
三人はしばらくぐったりと倒れ伏していた。やがてウスラが一番先にゆっくりと立ちあがる。尻の穴からゴンザの陰茎がスペルマの糸を引いて抜け出る。
一人立ち上がったウスラは、自分の淫裂に埋まっているあの張形を、荒い息のまま抜き始めた。
「うう……ふうん……っ!」
三人の淫らなまぐわいを、文吉はとり憑かれたように見つめていた。股間の若いペニスはすでに一度自然に射精しており、さらにまたジンジンと勃起していた。だから、ウスラがこれからなにをするのかも、興味があった。
抜き出した張形は、ウスラ本人と、ハガネの愛液でびっしょりだった。材質が木材だから、じっとりと中まで染み込んでいるようだ。
ウスラはそれを、闇で見えない洞窟の奥深くのほうに投げた。しばらく、そのまま無言で立ち尽くす。
文吉がその声を聞いたのは、それからすぐ後だった。地獄の悪鬼が発するような、また全身が心から震え上がるような恐ろしい声だった。その声が、だんだんこちらに近づいてくる。
「ふう……んっ」
ゴンザはその恐ろしい声に呼応するように、絶頂を越えてぐったりとしたままのハガネの淫裂を再び長い舌で舐め始めていた。少女のそこからまたピチャピチャといやらしい音が発生する。ウスラはそんな二人に目もくれず、漆黒の闇を見つめ続けている。文吉はウスラの視線の先をじっと集中して見ていた。
やがて、それは姿を現した。文吉が見たことも無い古めかしいデザインの鎧を纏った、大男だった。体中錆びた鎧を着たその男の顔は、兜の影になってよく見えない。あの恐ろしい声は、この鎧武者の口から発せられていたようだが、今はその口に、あのウスラが投げた張形を口にくわえている。
「……どうだい、十五歳と二十六歳の美女の淫汁だ。お前の大好きなものだろう……?」
ウスラは鎧の大男に語り掛ける。鎧武者はその言葉を聞いているのか分からぬが、ただ今は口の疑似ペニスを赤ん坊のようにチュウチュウと吸っている。
「フフッ……どうやら気に入ってくれたようだね。さあ、今日はそれだけじゃないんだ。お前にとっておきのご馳走を用意しているのさ」
ゴンザの長い舌の愛撫に悶えているハガネを、ウスラは見やった。ハガネはまだこの恐ろしい姿の男に気がついていない。
「ゴンザ!もういいよ。この『怪物』が戦場でしっかり働いてくれるように、ハガネの躰を隅から隅まで味わってもらうんだ!」
長い舌を離して、ゴンザがハガネの躰から離れて立ち上がった。
「ああんっ……ゴンザぁ……」
張形でイカされ、そのままゴンザに舐められ、夢うつつのハガネはゴンザの愛撫が止まったことに喪失感を感じているようだ。身を淫らによじって切ない吐息を吐く。
「……おやおや、今からどんなことがあるかも知らずに、すっかりイイ気分になってるみたいだねぇ……ゴンザ、この男にハガネを犯らせてやりな……!」
ゴンザはうなずいた。瞬間素早い動きで鎧武者の前に立つと、男が口に咥えている淫汁の染みた張形を奪い、横たわったままのハガネのほうに投げた。
カランカランと、張形がハガネの傍らに転がる。肩を怒らせた『怪物』は、音のしたほうを向いて、ゆっくりと歩み始めた。女の淫汁の匂いをたどっている。
「う……ううん」
ハガネも高揚した感覚の中で、何者かの気配を感じたようだ。うっすらと目を開け、たいまつの逆光の中で自分に近づいてくる黒い影をぼんやりと眺めている。
不気味な気配をまとった大男が、横たわったハガネの目の前に立った。張形を探していた『怪物』は少し鼻をクンクンさせて、張形以上に牝の匂いを発散している少女の躰に気がついた。
急に、甲冑の大男はハガネの肉体に飛びついた。そのまま怪力で容赦なく少女のか細い躰を押さえつけた。ハガネは突然の急襲に、目を見開いた。目前に、不快な臭気を放つ顔があった。皮膚は土気色、ひび割れだらけのその顔で、カッと開かれた瞳だけがランランと輝いている。
「ヒッ……ひいい……っ!」
「あははっ!やっと気がついたのかい?ハガネ、お前はその化け物に犯り殺されるかもしれないよ。なにしろ、女を当てがうのは初めて、私も試したことがないからねえ……」
ウスラの冷たい声が響く。
怪物は恐怖におののく少女の躰にのしかからせた巨体を少しずつ下にずらしていった。鼻につく悪臭はハガネの恐怖感をさらに大きくさせる。やがて、ぼろい兜の頭部が、先ほどからの愛撫で熱く湿った淫裂にたどり着いた。
「……!」
腰のあたりに強烈な痛みを感じた。鎧武者は、ハガネの腰を、異様に伸びた爪でしっかりと抱え込んだ。その爪が、白くか弱い皮膚を突き破り、食い込んだのだ。尻肉から赤い血が一筋流れ落ちる。
「クッ……うう」
大男はハガネの苦痛の声にかまうことなく指に力を込めた。そして、紫色に変色した唇から、舌を出す。
「ひ……いいぃ!」
淫裂を、その舌が這う。気味が悪い。さまざまな状況で肉体を開発されてきたハガネだが、今この状態ではただただ躰をこわばらせて、痛みと不気味な気分に耐えるしかなかった。
「グウウ……グ、ウウ」
不気味な声を、鎧武者は相変わらず発している。ハガネの淫裂にしたたった愛液を、ジュルジュルと淫猥な音を立ててすすり取る。
「強烈だねえ、ハガネと『無敵の武者』の交わり……なんだか私もイイ気分になってきた……ゴンザ、ちょっとやって……」
ウスラの指示に、ゴンザは素早かった。後ろから、たわわな豊胸をわしつかんで揉みしだく。
「ううんっ……いいよゴンザ、もっと強くやって……ハガネが怪物に痛めつけられるのをここで眺めて……ああん!」
ゴンザの指が、ウスラの淫裂に這った。息が荒い。ゴンザも、この異常な光景に興奮しているようだ。
「くっ……くうう」
悪寒が全身に走る中、ハガネは目を固く閉じて耐えていた。いやっ、こんなのいやっ……この恐ろしい化け物に、私は殺される……。
突然、目の前が暗くなった。ハガネは、恐る恐る目を開ける。いつのまにか、鎧武者の腰の部分が眼前に来ていた。その巨体を、音も立てず翻らせたのだ。そして、ハガネはさらに恐ろしい光景を目撃する。
その鎧武者の、腰当ての合わせ目から、巨大な毒蛇が巣穴から現れるように、大きなペニスが姿を現わしたのだ。あの顔と同じく、不気味な土気色のその怒張は、強烈な威圧感をハガネに与えていた。そしてそれは、ハガネの苦痛に耐える唇に、少し触れて止まった。
「……ハガネ、その怪物は珍棒をお前に舐めて欲しいんだってさ……」
ゴンザの淫指に声を荒げながら、ウスラが言う。怪物の動きもそれを裏付けるように激しくなる。
「くっ……」
おぞましい気持ちに耐えながら、ハガネは仕方なくその『怪物』のモノに舌をつけた。すぐに拒否反応を示す。なにしろ、冷たいのだ。極限まで猛り狂っていながら、石のように冷たい。人間の生気など少しも感じることのできないペニスだった。しかしハガネはそれを舐めることしかできない。
「グ……ウウウ」
ハガネのもどかしげな舌使いが気に入ったのか、鎧武者は舌を這わせながら、掴んだ腰の肉にさらに力を込めた。痛みが倍加する。
「くっ、ふう……くううっ」
つらい……。ハガネは自分の肉体を恨めしく思った。不気味な気分は少しもやわらいでいない。痛みも増した。しかし、やはりハガネの開発された躰は、この『怪物』の舌にさえ感じてしまう。口に含んだ冷たい怒張も、その快感をさらに昂ぶらせる。いや、人間ではないモノだからこそ、こうやって異常な状況でも感じてくるのではないのか。化け物の珍棒を舐めしゃぶっている私、化け物の舌でもだえ狂っている私……。禁忌の喜びに、ハガネは酔い始めていた。怒張に絡める舌の動きも活発になる。
「フフッ……感じてきたみたいだ。ねえゴンザ、どうなるんだろうね、あの『怪物』のモノが、ハガネのオ○ンコに入った時……ああっ、考えるだけでも感じてくるよ……ゴンザ、もっと強くぅ!」
ウスラもさらに感じてきたようだ。呼吸は次第に乱れ、まさぐられる双胸はすでにまろび出ている。淫裂から淫らな音も洩れている。
「ふうむっ……ふぐううんっ!」
口の中のモノが、さらに膨張する。恐ろしいほど大きくなる。口が裂けるかというほど太くなり、喉につかえんばかりに長くなる。それでもハガネは舌を絡め、首を必死に動かす。恐い、恐いけれど、このモノが自分を刺し貫いた時、それこそ恐いくらいの快感が訪れるのではないか。ハガネの昂ぶった躰は、もはやそんなことさえ思っていた。
怪物が、躰を離した。ハガネの唇から、冷たい怒張が抜ける。亀頭と舌の間で、先洩れ汁が妖しく糸引く。
もうハガネには、ペニスしか目に入っていなかった。古びた甲冑も、悪臭も、不気味な皮膚もなんら気にならない。その潤んだ瞳は、自分の唾液に淫靡に光った巨大なペニスだけ眺めていた。
「ほらゴンザ、『無敵の武者』が、ハガネをヤるよ……あの大きな珍棒で、ハガネのオ○ンコを突き殺すんだ……さあゴンザ、わたしたちもヤろう……ね、ヤろ?」
感極まったのかウスラはゴンザの手を離れ、地べたに手をついた。そして、着物から露になった豊かな尻をゴンザに向けて振った。四つんばいで、誘っているのだ。
そうよウスラ……私はこの化け物の珍棒で、オ○ンコを突き殺されるの……ああんっ、考えただけでも……オ○ンコが、オ○ンコが……。
ハガネは、期待していた。この珍棒なら、なにか今まで味わったことのない感覚が味わえるのではないか。
「グウ……グ、グアッ」
怪物は、ハガネの躰を両腕で掴み、軽々と持ち上げた。躰はそのまま後ろ向きにされ、力まかせに引き降ろされた。『怪物』は立ったまま、ハガネを突然貫いたのだ。
「ああ、あぐう!」
愛液に潤っているとはいえ、その巨大な陰茎をすぐに迎えられるほどハガネの花芯は強靭ではなかった。ピリピリと皮膚の裂ける感触を感じながら、ハガネは鎧武者の怒張に貫かれていった。
「ひ、は、ああ……あぎっ、いっ!」
処女を失った時さえ、このように痛くなかった。ハガネの躰が苦痛に震えていても、大男は容赦なくペニスで膣道を進む。まるで、そうすることがあたりまえのように。
「ウ、ガア……!」
『怪物』のモノは、子宮に届かんばかりの奥深いところで止まった。ハガネは、痛みに顔を歪ませている。しかし、痛みと共に、巨大なペニスに満たされたヴァギナからは期待した通りの感覚がジワジワと湧き出している。
「ああっ……突き刺さってるよ、『怪物』の大きな珍棒が……ねえ、ゴンザも早くわたしのオ○ンコにその珍棒を突き刺して……!」
ウスラが、ねだる。ゴンザはゆっくりと歩み出て、四つんばいで振られる淫らな尻を掴んで、一気に分身を突き入れた。
「はあっ……はあうんっ!」
ウスラの声と同時に、『怪物』の躍動が開始された。太い腕でハガネの華奢な体を掴んだまま、大きなスライドで腰を繰り出し始めた。
「あ、あぎいっ……は、があっ!」
ハガネの口から、叫びとも喘ぎともつかない声が洩れ出る。眉は痛みに歪んでいるが、口は荒い息を吐きながらポカリと開けられている。
「ウグ……ウアアッ!」
「ひあっ!は、あぎ、い……っ!」
容赦のない突き入れが、ハガネの内部を擦り取る。大きく張った鰓は膣壁の粘膜をすべて書き落とすかのように激しく動き、長大な幹は性感帯のあらゆる部分と強引に接触する。その大男の手の中のハガネは、まるでゴミ切れにようにいとも簡単に揺り動かされている。発達し始めた乳房はかすかに揺れ、白い肌は激しい動きに負けて自然に紅潮していく。口から洩れる声も、次第に妖しくなっていく。
「はぎっ……はあう……うんっ、はあう……んっ!」
『怪物』の一突き一突きに、ハガネの思考は破壊されてゆく。全身が壊れるような感覚でさえ、ハガネの若々しくも淫らな躰は素早く反応する。陰花は鎧武者の分身を本能のままに締め付け、腰は誰に強制されるでもなく動き出す。痛みも、激しさも、珍棒から与えられる快感に比べれば大した事はなかった。
「……ふあっ、イイっ!ゴンザ、イイよ……ハガネも、よくなって来たみたい……ああ、はうっ……うんっ、イイ、イイよお……っ!」
ウスラも、ゴンザの激しく巧みな突き入れに、本格的によがり始めた。パンパンッと高い音を立てて、ゴンザの腰とウスラの熟れた尻がぶつかり合う。長年連れ添っためおとのようにぴったりと一致した躍動だった。
「ウゴオッ、ウグ、オオウ……ッ!」
「はあっ、あんんっ……ひ、いい……っ!」
鎧をまとった大男と、ハガネの鳴咽も自然に重なり合ってきた。『怪物』の動きはさらに激しくなったが、ハガネはむしろそれを悦びに感じた。自らも不安定な状態でさらに腰を動かし、大男のペニスを絞り取るように締め付けた。
「あはっ……ああん、はあっ、ふ、ふう……い、いいんっ……ひあっ!」
ハガネは、すべてを忘れて激しく喘ぐ中で、ほんの少しの思考を働かせていた。体内で猛り狂う化け物のペニスに、何とも言えない感触を感じていたのだ。初めて味わうモノのはずなのに、いつかすでに貫かれたようでもある。いつ、どこで……。快感に思考が揺らぐなか、ハガネはこの気持ちイイペニスの主を必死にたどっていた。
「ううんっ、はあっ!ふ、ひっ、イイっ……ああっ、イイっ!」
一刻の猶予もない。花芯の中の冷たい怒張はますます大きく膨張し、いずれ近いうちに爆発するだろう。男が射精すれば、自分も忘我の境地に落ちてしまう。ハガネは必死に頭を働かせた。そして、気がついた。この珍棒を、いつ味わったかを。
「ゴンザ、ゴンザぁ……イイっ、イイよおっ!もっと激しく、激しく突いて……んっ!ああっ、恨めしい……あの『怪物』の珍棒で、ハガネがあんなによがり狂ってる……恨めしい、わたしも、ずっと、憧れて、いた、はあっ、のに……ああっ、ゴンザぁ……っ!」
ウスラは、たわいもなく叫ぶ。その声にかき乱されそうになったが、ハガネの思考はある一点に集約されつつあった。『怪物』の珍棒……それを味わったのは、そんなに昔のことではない。ゴンザの珍棒でも、とのさまの珍棒でも、文吉の珍棒でも、源蔵の珍棒でも、他の下忍の珍棒でもない、ほんの、ほんの少し前に味わったモノだ。大きさは違うが、鰓の張り、充実感その他すべてがその事実を表わしていた。
「はあう……うんっ!イイっ、オ○ンコが、イイっ!これ、これは……うんんっ!」
その事実に気がついた時、ハガネの花芯は忠実に反応した。体内の中のモノをさらにしっかり食い締めたのだ。
「グオッ……ウオオオウ!」
『怪物』もあの不気味な声で答えた。ハガネが気がついた事実。体内を蹂躪するペニスが、先ほどここでウスラによってもたらされたこと。ウスラが、木製の張形を使っていたこと。そして、その張形のモデルが、誰であったかということ……。
「ひあっ、はあっ、ふうん……っ!イイっ、イイのぉ!これ、これがイイのぉ!ハガネのオ○ンコに、この、この……ふああ……っ!」
そう、父上だ。父上の珍棒だ。この化け物の珍棒は、父上を模した張形の感触だ……。じゃあ、じゃあこの化け物って……。
「ひあっ、はあっ、ううんっ……イイっ、オ○ンコが、オ○ンコがイイのぉ……っ!ハガネの、オ○ンコが、この珍棒にぃ……ああんっ、イイの……っ!」
ハガネの性感が、急に高まった。鎧武者の動きもさらに激しくなる。二人とも恐ろしいくらいに躍動を一致させ、きたるべき絶頂を待つ。
「ゴンザ、ゴンザぁ……!イイよお、わたしも、オ○ンコが、イイ、イイっ!ううんっ……悔しくて、未練があって……ああんっ、もう、もう……っ!」
ウスラも、『怪物』の正体に気がついている。ウスラ自身がその男に『無敵の武者』の鎧を着せたのだから、知らぬはずがない。ゴンザも同じだ。だから、今抱いている女が、どんな気持ちでハガネと『怪物』のまぐわいを眺めているかが痛いほど分かる。だからこそ、ゴンザは自分の持てる限りのテクニックで、ウスラを刺し貫いているのだ。
「ウゴオッ……ウ、ゴ、オ、オオウ……ッ!」
鎧武者の叫びが、極限まで高まった。ハガネに突き入れる腰は、もう限界だ。
「ううんっ、はあっ!ああっ……もう私、変になるう……ああっ、イク、イク、イクう……っ!」
ハガネも限界直前だった。淫裂からあふれ出た淫汁は、大男の鎧をビチョビチョにぬらし、地面まで垂れていた。少女のヴァギナは、歓喜の瞬間を迎えようと、万力のような力で怒張を食い締めた。
「ウ、ガアアアアッ……!」
「イク、イク、イクう……っ!」
「ああっ、ゴンザぁ、オ○ンコが……イクっ!」
「ううっ……」
四人の鳴咽が一致した。洞窟の中で、四人の汗が乱れ飛び、すべての動きが集約されて、それはやってきた。感じたことのないオルガスムスが、四人全員に訪れたのだ。
この地獄のような光景を盗み見ていた文吉も、その瞬間まるで空気感染したかにように、着物の中に熱い樹液をほとばしらせた。鳴咽が収まった時、そこにはしばらくの静寂が訪れた。
「ウスラさま、ウスラさま!」
洞窟の外から、誰かが呼んでいる。ウスラは着物を身に着けていた。ゴンザはすでにあの張形で『怪物』を奥の檻に誘導していた。
「何事か!」
「はい、たった今お城よりの使者が参りまして、日向守さまについに出陣の命が下ったと知らせて参りました!」
「……そうか」
ウスラは微笑んだ。そして死んだように横たわっている裸のハガネを見下ろし、さらに冷たい笑いを浮かべた。
その数日後、日向守の軍勢は城を出発した。主君の命により、西のほうで苦戦している味方の軍勢に援軍として出陣することになったのだ。もちろん、ウスラ・ゴンザ率いる『鉄面天狗』も出兵している。軍勢の最後尾で、怪しい大箱と共に進軍していた。
そしてハガネも、その列の中にいた。躰の自由を奪われたまま、籠に入れられウスラの監視下に置かれていた。
文吉もまた、その軍勢に紛れていた。一兵卒に身をやつし、いくさの混乱の中でハガネを何とか助け出そうと真剣だった。
そんななかで、ウスラが日向守に呼ばれた。
行ってみると日向守は、いつもより真剣な顔で、馬上に座っている。
「おう、ウスラか」
「はっ、何事でございましょう?」
「いや、たいした事ではない。お前にひとこと礼を言いたくてな……」
「礼……?」
ウスラが聞く。
「礼と申しますのは、あの『無敵の武者』のことでこざいますか?」
「いや、そうではない。ハガネのことだ」
「ハガネの……?」
「ハガネも、この軍勢に参加しているそうだな」
「ええ。なんの働きも出来ませぬが、『無敵の武者』を上手に操るためには、ハガネが必要なので……」
「それでもよいのだ。ハガネが一緒にいれば、それがしはどんなことでも出来そうな気がする。たとえそれが苦難の道であろうと……」
日向守はどこか遠くを見ながら、達観したような口調で言う。
「……どうしたのでございますか?日向守さま、いつもとご様子が違うような……」
「いや、何も変わってはいない。ただ、気がついたのだ。これまで、どれほど自分が気持ちを偽ってきたかということに。主君の言うことを絶対とし、自我を押さえつけながらここまで出世してきた。しかし相変わらず主君は我々を将棋の駒のように扱う。そんな時、お前がハガネを与えてくれた……」
「……」
「ハガネと素直にまぐわっていると、このまま死んでもいいとさえ思えた。いくさでは、死にたくないとばかり思っていたのにだ。この女と一緒になら、死んでもいい。人間、死ぬ気になればどんなことでも出来る……そんなことに気がついた……」
「日向守さま、何を……何をお考えですか?」
ウスラは、日向守の様子に戸惑って聞く。
「今に分かる。今にな……さあ、もう行け」
日向守は馬上から合図した。ウスラは仕方なく後ろに引き返す。
前方から戻ったウスラを、ゴンザが迎えた。ゴンザも、ウスラの顔色を見て心配そうにしている。
「……ああゴンザ、心配ないさ。ちょっと日向守さまの様子がおかしかったんでね……」
ウスラは、そう言ったまましばらく考えていたが、
「ゴンザ、これからどんな事が起きるか分からないよ。いつ『無敵の武者』を使ってもいいようにしておくんだ、いいね……?」
ウスラの表情は、晴れぬままだった。軍勢は、さらに西へ西へと向かう。
それからまた数日後、夜のこと。軍勢はゆっくりとした行進ながら、しっかりと西方への街道を進んでいた。あの日以来、ウスラは日向守のそばをなるべく離れないようにしている。自分の組織の頭領を暗殺してまで、この男の行く末に賭けたのだ。勝手な行動をされては、『鉄面天狗』はすぐに歴史の闇へ葬り去られてしまう。そうならぬように、ウスラは気づかれぬよう馬上の日向守を密かに監視していた。
軍勢は、都 京都に近い街道に差し掛かった。前日の雨のせいか、ジトッとした風が兵士たちに不快感を与えていた。
日向守の少し後ろにいたウスラは、何者かが、こちらに走り寄ってくるのに気がついて、身構えた。常人の動きではない。まさしく、忍びの動きだ。その忍びは、日向守の馬の前で、止まった。馬上の殿は、気がつかない。
「うむ、来たか」
日向守は気がついていないわけではなかった。その忍びを待っていたようだ。
「……はっ、殿よりの指令、確かに果たしてまいりました……」
『鉄面天狗』の者ではないその忍びは、急に小声になって日向守と会話を始めた。ウスラの存在に気がついているようだ。
しばらくの後、男は先ほど来た道を、また素早い動きで走り去った。ウスラは急いで馬に駆け寄る。
「日向守さま、あの者は何者でございますか?なにを殿に申したのですか……!?」
馬上の男は、ウスラには目もくれずあらぬほうを見てつぶやいた。
「……ついに、時は来た……!」
ウスラに、日向守が大きく息を吸うのが見えた。大きな声で叫ぶつもりのようだ。
「……皆のもの、よく聞け!我が軍はこれより馬頭を返し、都の下京、我が主の本陣に攻めかかる!二度といわぬから心して聞け!……敵は、本能寺 織田信長なるぞ!」
ウスラは、全身の血を逆流させた。
翌朝早く、惟任日向守 明智光秀の軍勢は桂川を渡り、主君織田信長が宿泊している本能寺を望む場所に集結していた。光秀の指令が下れば、すぐにも本能寺に攻めかかる勢いだ。
ウスラとゴンザは、『無敵の武者』の入った檻の前にいた。縄で縛られたハガネも、その重苦しい雰囲気の中にいた。
「……まさか、謀反とはねえ。あのお殿さま、見かけよりかなりイッちゃってるね……」
自らの判断の甘さを悔いながら、ウスラが自嘲気味に笑った。実直そのものと家臣団でも有名だった明智光秀。ウスラは光秀が近江の国に着任した時、いずれさらに出世するだろうと見越したからこそ、危険を冒して『鉄面天狗』を興したのである。そして、その予想は見事に裏切られたのだ。光秀はたった今、天下統一目前の主君 織田信長に槍を向けようとしているのだ。
「……ハガネ、あんたのせいだよ。あんたが日向守をその躰で壊しちゃったのさ。ほんと、笑うしかないよ……アハハッ!」
ゴンザ、そしてハガネはそんなウスラを悲しそうに眺める。ウスラの空しい笑い声は、しばらく早朝の空に響いた。
「……フッ、さあいつまでもはかなんでいるヒマはないね。こうなったら、我ら『鉄面天狗』がこのいくさで最高の手柄を上げてやるんだ。そう、狙うは織田信長の『首』だよ。なにしろこっちには、『無敵の武者』がいるんだ……」
ウスラは大きな檻を見上げた。この間の訓練では、腕の立つ三人の忍者が一刀のもとに切り捨てられた。さらに、エサである女の淫汁をたっぷりと吸わせた。この怪物を本能寺に投入し、混乱のなかで、自分かもしくはゴンザが信長の首を獲る。そうすれば天下の行く末によっては、『鉄面天狗』が表舞台に立つ可能性も出てくる……。
「……ゴンザ、いくさが始まったらすぐにこの『無敵の武者』を暴れさせるんだ。それから他のことには目もくれずに信長の命を奪う、いいね?」
ゴンザは、肯かなかった。
「……なんだい、何か不満があるのかい……?」
ゴンザは、自らの腕の中にいるハガネを見やった。無言で、じっと少女を見つめている。
「ハハッ!いまさらハガネがなんの役に立つって言うんだい?長く怪物を使うんだったらいざ知らず、まさに今が我らの正念場さ。ハガネをエサとして使うヒマなんてないよ。なんなら、今ここで斬り捨てたっていいんだ……」
ウスラの言葉に、ハガネは身を震わせた。
「……ふん、それじゃあんまり楽しくないね……そうだゴンザ、ハガネをその怪物と一緒に本能寺に放してやればいいさ。きっと混戦の中だ。矢や槍が雨のように飛んでくる。それで生き残れたなら立派なもんさ……それに、どうせ死ぬんだったら、父親と共のほうがいいだろう。こんな醜い『怪物』でも、元は我らが頭領にしてハガネの父親であるジンライさまなんだからね……」
今までで一番冷たい表情で、ウスラが微笑んだ。ハガネは、全身に震えが走った。怪物が、父親であることには気がついていた。しかし、やはり改めてウスラの口からその事が知らされた今、身が凍るほどの悪寒を感じずにはいられなかった。
後ろのほうで、鬨の声が上がった。どうやら軍勢は、本能寺に攻めかかるらしい。
「……さあゴンザ、抜かりがないようにね……」
ウスラはそう言って、一足先に走り去った。ゴンザは、ハガネを地べたに突き飛ばした。力なく倒されたハガネの瞳に、檻からゆっくりと出てくるあの『怪物』が見えた。
火矢が容赦なく浴びせかけられ、大きいが古びた寺にはすぐに火が回った。光秀軍は大軍で寺に押し寄せ、全兵士が手柄を上げようと槍を振るう。しかし、寺にこもった信長近習の抵抗も強く、両軍は狭い寺の中で膠着しつつあった。
突然、寺の側壁が大きく崩れた。信長側の兵士がそちらに駆け寄る。そこには、異様な姿の鎧武者が立っていた。
「ええい、死ねっ!」
兵士は槍を突き出した。ズブリとその槍先が鎧武者に埋まった。手応えを感じた兵士であったが、次の瞬間彼の頭は胴体と離れていた。『無敵の武者』は目にも止まらぬ速さで、太刀を振るったのだ。そして、なんともなかったように槍を抜いた。
「化け物……!」
周りの者が叫ぶ。そう言って鎧武者を取り囲んだ数人の兵士も、怪物の恐ろしい太刀の餌食になる。信長軍は、そこから切り崩されつつあった。
「ヒ、ヒイッ!」
「来るな、来るなぁーっ!」
怪物の恐ろしさを目の当たりにした者は、叫びながら逃げ惑う。武者はのっそりと動きながらも、手に持った太刀だけは光のように素早く閃いた。その閃きの数だけ、兵士の死骸が増えていった。
「おう!敵の兵士が逃げて行くぞ!それ今だ、奥まで突き進め!」
明智軍の兵士たちが、敵陣が崩れるのを見て先に進もうとした。しかし、それをさえぎるものがいた。誰あろう、敵陣を切り崩した『無敵の武者』であった。怪物は敵味方の区別なく、ただ目の前にいる者を殺戮していく。戦場はますます混乱していった。
ハガネは、そんな混乱の中に一人逃げ惑っていた。ゴンザによって、怪物が突入すると同時に寺に押し入れられたのである。少し離れたところで、昔父親だった『怪物』が兵士たちを斬り刻んでいる。見たくなかった。ここから早く逃れたかった。なるべく人の目にかからぬよう、ハガネは寺の建物の陰沿いに歩いた。
気づかぬうちに、ハガネの前に一人の兵士が立っていた。ハガネが見上げると、その顔は怒りに満ちていた。
「……貴様、あのウスラとかいう女の手下であろう……!」
明智の者とおぼしきその兵士は、刀をハガネの喉元に突き付けた。
「……!」
「……あの化け物は、ウスラという女が連れてきたそうではないか!あの怪物のせいで、大勢の味方が殺されておる……!わしの目の前で何人も無残に死んだ!」
ハガネは男の迫力に押され、あとずさった。腰が寺の縁側に当たる。これ以上後ろには下がれない。
「……死ねっ……!」
次の瞬間、男は有無を言わさずハガネの頭上に刀を振り下ろした。ハガネは死を覚悟した。
「……」
痛みが、肩に走った。しかし、死んではいないようだ。薄く目を開くと、目の前の男は喉に刺さった矢のために血しぶきを上げながら後ろに倒れた。刀だけが、ハガネの肩に残っていた。
「……誰が……」
ハガネは後ろを振り返った。そこには、一人の男がいた。
「ふう……危機一髪だったな、娘」
男はこんな非常時に、少年のような笑顔でハガネに微笑みかけた。男は笑ったままハガネの肩から刀を抜く。甲冑など身につけておらず、白い寝間着姿だ。しかしその白い寝間着は返り血や自分の流血で真っ赤に染まっている。
「あ、あなたさまは……」
「娘、ここにいては危険だ。さあ、こちらに来るがよい」
男はハガネの問いに応えず、ただハガネの手をとって炎の回り始めた寺の中へと導いた。
「……命に関わらぬとはいえ、ひどい傷じゃ。さ、手当てをせねば」
ハガネは床に座らされていた。男は、傷を手当てするためハガネの着物をまくった。肩の傷と共に、白い乳房も現れた。
自分の肩の傷は、確かに痛む。しかし、目の前で傷の手当てをしてくれている男の方が、さらに激しい傷を負っているようだ。
「……ひどい傷ではございませんか。私より、自分の傷の手当てを……」
「ふん。なに、ふぬけ矢が何本か刺さっただけじゃ。たいしたことはない」
「しかし……」
ハガネが言いかけるのを、男は唇でふさいだ。
「……黙っておれ。どうせわしはここで果てる身。極楽に赴くのに、そなたのような娘を見殺しにしたとあっては織田信長の名がすたる」
「織田、信長さま……」
ハガネがつぶやいた。目の前の男は、まさに天下人織田信長なのだ。天下人である男が、自分の傷を省みず、見ず知らずの自分のために傷の治療をしてくれている。
「……よし、これでよい。血は止まったはずじゃ」
男は自分の寝間着を裂いて、ウスラの傷に包帯代わりに巻いた。
「……恐くないのですか?」
「うん?」
「今まさに、信長さまは殺されようとしています。それなのに、まるで恐くないような様子で……」
「ふむ、恐くないな」
「なぜ?」
「男たるもの、死に場所をここと見極めれば、なにも恐いことはない。いや、むしろ恐いどころか……」
信長は、指で自分の下半身を指差した。ハガネが視線を降ろすと、信長の股間は、盛り上がっていた。
「……!」
「……そなたの傷を手当てしている時に、いやがおうでも美しい胸が目に入るではないか。だから、こうなったのじゃ。……濃に、怒られるかの?」
また少年のような笑顔で笑った。ハガネは、なんとなく男の気持ちが分かり、男に向かって微笑む。
「……娘、よいな」
信長はそう言って、ハガネの首筋に口をつけた。舌が、首筋を撫でる。
「あっ……」
舌はゆっくりと、しかし的確に這いずり回った。首を舐め、切なげに張った乳房の周囲を舐め、頂点で息づいている桃色の乳首を舐め、腹を舐め、へそを舐めた。
「あっ、ううん……っ」
ハガネは全身を駆け巡る心地よさに身を任せた。特にへそへの舌の愛撫は、体内を電流が走るかのような新鮮な刺激を与えていた。ハガネの淫裂は、また少しずつ淫汁に濡れてくる。
「ふうむ……男は知っているようだな。まあ、よい。女は、男を知ってこそ美しくなるものだ……」
信長はハガネにささやきかける。優しいその口調は、明智の殿さまとはまた違う、無邪気な優しさを含んでいた。
「信長、さま……」
「うん……?」
ハガネの声に、信長はまっすぐ少女の瞳を見据えた。その目の輝きは、とても死を覚悟した男のものではなかった。
「明智さまを、恨まないでくださいませ……明智の殿さまをこのように惑わせたのは、私なのです……だから、だから……」
ハガネの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。さまざまな屈辱に、もう枯れたと思っていた涙が、心の底からあふれ出てくる。
「……そうか、そなたが『ハガネ』という娘であったか」
信長は、ハガネのことを知っていた。
「……のうハガネ。たとえ光秀がそなたに出会ったことで変わったとはいえ、それを行うか行わぬかは、光秀本人の心持ち一つじゃ。光秀は謀反に人生を賭け、わしはその賭けに負けた。それだけじゃ」
信長は裸のハガネの涙を、指で拭いた。
「……しかし、負けたとはいえわしはこのままでは死なぬ。極楽に参った時、獄卒たちに『死ぬ間際に、最高の女とまぐわって来た』と自慢したいからな……」
信長はそう言って、ハガネの躰をきつく抱きしめた。ハガネの太ももに、天下人の怒張の固さが感じられる。
「信長さま……」
「ハガネ、そなたは素晴らしいおなごじゃ。あの陰気な瓜のようであった光秀を強き男にし、たった今わしを幸せにする……そなたは男を生かすおなごなのじゃ。そんなおなごは、なかなかおらぬぞ……」
信長は、ハガネの唇にくちづけた。そのままゆっくりと床に押し倒す。寺を包んだ火の手は強くなるばかりだが、信長はそんなことに恐怖する素振りさえ見せずに、ハガネの唇を吸いつづけた。
「あはっ……」
信長の力強い掌が、ハガネのむき出しの双胸に触れた。そのままゆっくりと揉みしだく。
「ああ……信長、さ、まぁ……」
別段激しいわけではない。ゴンザや源蔵、光秀より、ゆっくりとした動きだ。しかし、その掌の動きは、女の躰を奥のほうから溶かしてゆく、慈しみを持ったものだった。
「はあっ、あんっ……い、いっ、いっ」
ハガネは自分の指を噛んで、快感に耐えた。胸への愛撫でこんなに感じるのは始めてだ。
信長は、躰をずり下げた。申し訳程度に巻かれていた帯を、巧みにほどく。ハガネの潤った淫裂が、信長の眼前に現れる。
「……美しい、美しいぞハガネ。このような男を悦ばせそうな女陰は、わしも初めて見た……」
「ああっ、恥ずかしい……」
「ふっ……ハガネ、おなごが男を悦ばせることは、なんら恥ずべき事ではない。男もそれに応えようと踏ん張る。あの堅物がそなたに惚れたのも、分かる」
嬉しそうに笑って、信長はハガネの熱く湿った淫裂に舌を這わせた。ハガネの腰が、ビクッと跳ねる。
「ふ、あっ!くうん……っ!」
男の舌は、少女の全身に痙攣を引き起こした。耐えようとしても、躰の奥から弾けるような感覚が襲ってくる。それほど、信長の舌は巧みで力強く、優しかった。信長はハガネの反応に歓喜して、さらに舌を蠢かせた。
「あっ、はっ、ふあっ……ううんっ!」
ハガネは、もうイってしまった。股間にある男の顔に、女の悦びのしるしを浴びせかけた。
「……ハガネ、気をやったのか……」
信長は上体を起こして、余韻に浸るハガネの髪を撫でた。
「……ふむ。火の回りが激しくなったな。時間がないか……」
信長は立ち上がって、血にまみれた寝間着を脱いだ。下から、これぞ武士というほどのたくましい肉体が現れた。股間の陰茎は、期待に震えて、力強くいなないて脈打っている。
「……ハガネ、参るぞ。そなたの躰をこころゆくまで味わっていたいが、わしの死にそなたまで道連れにするわけにはいかぬからな……」
信長はそう言って、自分の分身を支え持って少女の花芯に挿入しようとした。しかし、ハガネは腰を動かしてそれを阻んだ。
「……」
ハガネは、じっと信長の顔を見て無言で首を振った。
「どうしたのだ?」
心配そうな信長に、ハガネは行動で応えた。自分で首を持ち上げ、男の持った怒張を、唇に含んだのだ。
「……おお、ハガネ……」
ハガネも信長の気持ちに触れ、今までにないくらい優しくなれた。男が命を賭してまで自分を悦ばせようとしている。そんな男に、ただ躰をつなげるだけで、おめおめ生き残ることができようか。口淫は、ハガネなりの覚悟だった。
「そうか……ならばハガネ、わしを存分に悦ばせてくれ……」
信長は床に腰を降ろした。ハガネは自分の躰を起こして、そそり立った怒張を喉奥まで呑み込んだ。舌をしっかりと絡めながら。
「う、うむ……いいぞ、ハガネ……」
娘を見守る父親のような瞳で、信長はハガネの淫技を見つめる。男を心から悦ばせようとする一所懸命さが、信長にしっかりと伝わってきた。
「うぐっ……ふむうっ、ふうんっ……」
唾液をまぶし、舌を動かし、首を弾ませる。唇からわずかに洩れる声は、男のモノをじゃぶり尽くすことで自分の性感も昂ぶらせている証拠だった。口の中のものが自分の淫技によって大きさを増す。それだけで、ハガネは幸せな気分になった。
「……うむ。よいぞハガネ、時間など関係ない。心からお前を抱きたくなった。よいな?」
信長が問いかける。ハガネは、いきり立ったペニスを放した。自分の唾液で濡れたそのペニスを持ちながら、ハガネは信長に向かってうなずいた。
「ハガネ、愛してやるぞ……」
「はい、信長さま……」
涙の跡も消え、ハガネは美しく妖しい表情で信長を見つめる。少女のその目に誘われながら、信長は、自分の怒張を熟れた熱い淫裂にあてがった。
「ふ……あっ!」
眉を反らしてハガネが喘いだ。ゆっくり、ゆっくりと男のモノが自分の体内を進んでくる。熱い。愛おしい。狂おしいくらいに、心地よい。
「う、うむう……」
信長はハガネの快楽に歪む顔をじっと見ながら、腰を進めていった。視線に気がつき、真っ赤になってハガネが目を閉じる。
「……言ったはずだ、ハガネ。恥ずかしがるな。男と女の交わりは、けして恥ずべきことではない。自分の快感に、素直になるのだ……」
ハガネは少しの後、瞳をゆっくりと開いた。信長の微笑む顔が映る。躰に埋まったペニスも、さらに充実感を増している。心と躰両方から沸き上がってくる喜びに、ハガネは打ち震えていた。
「ふうんっ、信、長……さまぁ!」
「そうだハガネ、素直になれ……」
信長も同じであった。怒張にまとわりつく膣壁の感触は、あまりに心地よかった。少女は歓喜に支配され、潤んだ瞳で愛を投げかけてくる。死に際して、このような幸せな交歓に出会えたことに、彼は柄にもなく神に感謝していた。
やがて、信長の分身はハガネの中に収まり切った。二人が同時に、満足感から来る吐息を吐いた。しばらくその感覚を味わう。
「……いくぞ、ハガネ」
「はい……」
男の言葉を合図に、天下人と少女のまぐわいが開始された。信長はゆっくりと腰の躍動を開始した。
「はあっ、ううん……っ!」
ハガネは、すぐに甲高い喘ぎ声を上げた。男が動くたびに、躰の奥が熱くなる。突き、擦り、当たる。炎の本能寺で、ハガネの声が響き渡る。
「……あはあっ、イイっ……の、のぶなが、さまぁ……い、イイんっ!」
腰の突きが、少しずつ大きくなってゆく。全身を、溶けるように甘美な感覚が駆け巡る。ハガネは、思考がどこかにいかぬように、必死で信長の背中にすがりついた。
「ハガネ……そうだ、もっと叫べ、すべてを忘れてしまえ……!」
「は、はいいっ……の、信長さま、ハガネ、とてもオ○ンコがっ!」
「女陰が……オ○ンコがどうしたっ!」
「とても……と、とってもオ○ンコが気持ちイイですぅ……こすれて、ぬめって、当たってっ、あああんっ、イイっ!」
佐吉は、私の躰を初めて触った。源蔵は淫裂に始めて触れた。ゴンザは、私を犯した。明智の殿さまは色々に私をむさぼった。文吉は辱められながら私と交わった。ウスラは、張形でむさぼった。そして、怪物の姿をした父上は娘と知らず激しく犯した……。ハガネの脳裏に、今までのまぐわいが駆け巡った。そして今、初めて愛を感じながらまぐわっている。激しく、高く喘ぎながら。
「ふうんっ、はあっ……の、のぶ、信長さ、まぁん……イイですっ、ほんとにオ○ンコがイイですっ……あっ、ああんっ!」
信長はさらにハガネを悦ばせようと、腰の動きを巧みにした。深く、時には浅く、そしてさらに円運動を混ぜながら、少女の全てを奪い去ろうとした。
「んっ、うんっ……ひああんっ、オ、オ○ンコが、溶けるぅ……熱い、気持ちが、イイっ……」
ハガネも自然に腰を使っていた。白い肌には玉の汗が輝いている。信長も、褐色の筋肉を総動員し、突き、突きまくった。
「ああん……信長さ、ま……ハガネ、もう……もうイっちゃいますぅ……ああんっ!」
「……イケっ!未練なきよう、存分にイケぇ!」
信長、ハガネ二人は、もう限界だった。互いの性器を極限まで擦り合わせ、粘着質の音を発生させた。汗が飛び散り、互いが叫ぶ。
「ああっ、ああっ……ハガネ、イっちゃう!」
「ハガネ、ハガネ……っ!」
動きが同調し、空気が制止した瞬間、二人は果てた。ハガネは、意識が遠のきかけた。
「……ハガネ、邪魔が入ったようじゃ……」
信長はそういって、立ち上がった。ハガネも、あたりを見る。そこには、三つの影があった。あの『怪物』とゴンザ、そして、ウスラだ。
「また、ハガネだよ……。お前は何度男をたぶらかせば気がすむんだい?」
ウスラが引きつった笑いを浮かべる。『怪物』は、低く不気味な声を上げている。ゴンザは、無言だ。
「……織田信長。おぬしの首、我ら『鉄面天狗』が貰い受けた。覚悟せよ!」
ウスラの怒声にも、信長はたじろがなかった。それどころか、そんなウスラに向かって、無防備な全裸の体を進める。異様な迫力だ。
「……く、来るな!」
「……かわいそうに、心から愛されたことがないであろう。愛されておれば、ハガネのようになれたものを……」
「何……!」
ウスラは、たじろぐ。信長は続ける。
「お前は、ハガネと同じ目をしている。ハガネと違う所は、お前には嫉妬の炎が宿っている。嫉妬は、心から愛されたことがないから生まれるのだ……」
「くっ……」
ウスラは、歯を噛み締めた。
「……かわいそうな女だ……」
「……だ、黙れ黙れ黙れぇ!」
ウスラが、刀を振り回す。そして、ゴンザと怪物のほうを向いた。
「……ゴンザ!この口の減らぬ死にぞこないを、その『無敵の武者』で、斬り刻んでやれ!」
そう叫んだウスラは、次の瞬間驚愕した。ハガネも同じだった。ゴンザが、鉄のように閉じられた口を開いたのだ。
「……ウスラ、もう限界だ。我らは、負けた」
「ゴ、ゴンザ……!」
「……我らに、この人は斬れぬ。『無敵の武者』も、ここで死ぬ……」
「な、何だと!」
「……あの洞窟で、『無敵の武者』が蘇った時から、俺はこの液を武者に与えてきた……」
ゴンザが、懐から小瓶を取り出す。
「……そ、それはまさか……」
「そう。小箱の中に入っていた、『武者を殺める薬』だ。蘇って今夜でちょうど三週間……武者は、限界だ」
「あ、ああっ……!」
ウスラの全身から、力が抜けていくのが見えた。
「ウスラ……人の心を知らぬ我らに、天下など取れぬのだ。これからは、犯した罪を悔いて……」
「……いやだ!わたしはいやだっ……!」
ウスラは怒りに震えていた。ハガネの方をキッとにらむ。
「……ハガネ、お前だけは許さぬ……お前だけは、絶対に許さぬっ!」
そう叫んだウスラは、燃え盛る炎の中に駆け込んで行った。姿はすぐにかき消される。
「……ゴンザ、本当にその化け物は……」
ハガネが、ゴンザに聞く。
「……ああ、今、ここで、死ぬ」
「ああっ……」
怪物の姿をしているが、中身は実の父親であるジンライだ。それが、ここで死ぬのだ。
見れば、低い声を立てていた怪物の体から、おどろおどろしい煙が立ち昇り始めていた。
「ああっ……父上!」
「ハガネ、今すぐ逃げろ。今なら、まだ間に合う……」
信長が、ハガネをゴンザの方に押した。
「……ゴンザとか申したな。ハガネを安全な場所に連れて行け。わしは、もう傷が開き出した……激しく動きすぎたようだな」
信長が、あの少年のような顔で笑った。
「信長さま……」
「……信長さま、それがしにも出来ませぬ。ここにたどり着くまで、少々無理をしてきましたので……」
ハガネは、驚いてゴンザを見た。背中が、べっとりと血にまみれている。
「ゴンザ……!」
「ハガネさま、今まで申し訳ございませんでした。このゴンザ、ハガネさまの命だけはお守りします……」
ゴンザはそう言って、ハガネの裸の躰をひょいと持ち上げた。
「おい、文吉!そこにおるのであろう!」
天井に向かって、ゴンザが叫んだ。天井板が、一枚ポコンと開いて、文吉の気弱な顔が覗いた。
「よいか文吉、ハガネさまをしっかりお救いするのだぞ、よいな!」
怪力に任せて、ゴンザはハガネを投げ上げた。文吉は慌ててハガネの躰を掴む。
「文吉、お前も強くなったな……頼むぞ!」
ゴンザは、満面の笑みを浮かべて文吉を見た。
「ハガネさま、さあ早く!ここはもうすぐ崩れます!」
文吉がハガネの手を引くが、ハガネは動かない。
「いやっ!ゴンザも、父上も、信長さまも置いていくなんて……!」
「無理です!助かりません!お二人の傷の深さを見れば……それにジンライさまは……!」
二人は、下を見た。炎が部屋の中に入りこみ、その瞬間、鎧武者は煙と共に崩れ落ちた。
「ああ、父上ぇ……」
ハガネの瞳からまた涙が溢れた。父親が、この世から消えた瞬間だった。
「早く行けぇ!」
信長とゴンザの声が一致した。文吉は泣き叫ぶハガネの手を無理矢理引っ張っていった。炎の中で最後に見た二人の顔は、やはり笑っていた。
ハガネの姿が消えた部屋、血まみれの男が二人、互いを見合っていた。
「ゴンザ、といったな」
「はい」
「……惚れておったのか」
「それがしにお嬢さまを愛す資格などありはしません。ただ、健やかに育ってくれればと」
「しかし、ハガネを汚した」
「……愛するおなごのため」
「……そうか、ウスラか」
「……」
「互いに、漢よの」
「……は」
二人は、同時に床に座り込んだ。すでに全身が鉛のように重い。
「まあよい。よく死のう」
「ははっ」
二人は目を閉じる。炎はもう二人の体を焦し始めていた。
「……ああ!」
「どうなされました、信長さま?」
「よりにもよって、濃の顔を思い出してしまった……っ!」
ゴンザは、笑った。
焼け落ちる本能寺を遠くに見つめながら、ハガネと文吉は悲しそうに佇んでいた。
涙はもう出なかったが、言いようのない喪失感に打ちひしがれている。
「……ハガネさま、まだ明智の軍勢がいるやも知れません。ここを早く離れましょう」
文吉は手を引いた。ハガネの手には力がこもっていなかった。
とぼとぼとあてもなく歩く。これから自分はどうすればいいのか、どう生きていけばいいのか、何も分からなかった。もう涙も出なかった。
文吉は、近くに何者かの話し声を聞いた。ハガネをかばって、近くの草むらに身を隠す。自分だって忍びの者だ。兵士ぐらいならやり過ごす自信があった。
しかし、目の前に音もなく刀の白刃が見えた時、文吉は恐怖し、ゆっくりと振り返った。
「……何者だ?」
その武士は恐ろしい殺気で文吉に聞いた。
「……まあ待て半蔵、まだ子供だ」
後ろに控えていた男が、静かな声で言った。
「……分かりました。家康さま」
「そちらの娘は、裸ではないか。何か着るものを与えてやれ」
「はっ」
回りの男が、自分の上着をハガネにかぶせた。
「娘、震えているのか……ついてくるか?」
家康と呼ばれた男が、ハガネに聞いた。ハガネは、自然にうなずいていた。
「くのいちハガネ忍法帖」 完