「アーネスト様」
広間に、ウィクリフが入って来る。
「ああ、ウィクリフ。また今も、裁判の事を思い出していたところだよ」
「ええ。ハロッドとピートリーは死刑、ペドロは無期……ただひとつ残念なのは、あの大物軍人にまで追求が及ばなかった事……」
「仕方がないよ。政府も、さすがに現役の陸軍大臣を罪に問う事を躊躇したのさ。しかしその代わりに、奴はその後遠くないうちに手に入れられるはずだった首相の座を、永遠に失った。その屈辱を背負ったまま故郷で憤死したんだ、死刑も同然だよ」
判決の瞬間。ピートリーは父と神に許しを乞い、ペドロは無言でうなだれ、ハロッドは。
『淫乱女の息子め……!確かにお前は勝った。だがお前は、永遠にあの夜の事を忘れられずに生きていかねばならんのだ。俺に後ろからぶち込まれ、ヒイヒイ善がって尻を振っていた母親の姿をな……!』
法廷に響き渡る叫びは、私に対する最大限の嘲りは、官吏に猿轡をかまされるまで続いた。聞けば刑場の露と消えるまで、同じような叫びを上げていたらしい。
ハロッドの言う通りだった。私はこの20年間、あの夜の光景を一度たりとも忘れた事はなかった。そしてこの後の人生も、そうであるに違いない。
「……アーネスト様。それでは、こちらにお連れ致します」
「ああ、そうしてくれ」
ウィクリフは広間を出て、再び戻って来た。一人の女性を連れて。
「あ、あ、あ、あ……っ」
その女性は、声にならない呻きを上げながら、瞳に涙を浮かべ始めた。昔よりも痩せ、その顔に刻まれた苦労の後が見て取れた。しかし、しかし、20年を経たうえでもなお、その女性の顔は、凛として美しかった。
「母さん……会いたかったよ。本当に、すまなかった……」
「ああ……アーニーなのね、本当に、アーニーなのね!」
女性は、母は私に駆け寄り、私の両頬を愛おしそうに撫でさすりながら涙を流し始めた。
「母さん……ごめんよ、突然いなくなったりして……でもこれからは、ずっと一緒だ。この屋敷で、二人だけで暮らそう。ね?」
「ああ、嬉しいわ……アーニー、アーニーっ!」
母の抱き締める力が強くなる。私も、それに応えるように母親の躰を強く抱いた。
ハロッドに犯され、金持ち達の慰み者になり、やがて捨てられ、それからずっと日陰で生きて来た母。裁判に勝った私には、母を探し出す事が人生の最優先事項となった。やがて、一人の探偵がバーナフの街で母を見つけ出した。このブライトンに近い街で生活していたのは、この地での生活を思い返していたからだろうか?
探偵によれば、40を過ぎても母は場末の売春宿で客を取っていたらしい。客である労働者の間では、若くも教養のない女よりはずっと人気があったという。しかし、その件については私は問題にはしなかった。母も、懸命に、生きていたのだ。ノースミッド家の女としての矜持と誇りを胸に抱いたまま、死なずに売春婦として生きて来たのだ。
「ウィクリフ、本当にありがとう。今回の事に関しては、なんとお礼を言っていいか分からない」
ウィクリフは、もう何も言わなかった。ただあの優しげな微笑を浮かべ、しっかりと母と子の姿を見つめていた。
「……しばらく、母さんと二人きりで過ごしたい。休暇を、取ってくれるね?」
「はい」
深々と頭を下げ、ウィクリフは広間を静かに退室した。
「ああ、アーニー……母さん、嬉しいわ。こんなに、立派になって」
母はまるで幼子を愛撫するように、背伸びして私の顔に頬ずりをする。
「……僕もだよ、母さん。ずっと、この日が来る事を待ち望んでいたんだ」
その母の顔に、唇に、僕は口づけた。
「あ……っ」
母の小さな声。しかし構わず、僕は母の唇を奪い続けた。
「……アーニー、駄目よ。そういうキスは、恋人にしてあげるものよ?」
唇を離した私に、母は頬を赤らめさせて言った。私はそれに返事せず、ただ微笑んだ。
「さあ、今日は記念日だよ。僕と母さんが、再会した日……二人だけで、ささやかにお祝いをしよう。父さんが好きだった、シャンパンも用意してるよ」
「ええ、そうしましょう……」
私は母をエスコートする。母は微笑みながら、僕の先をゆっくりと歩く。
母が、歩く。歩を進める。もうすぐ、もうすぐ、あの場所だ。
「……でも、お祝いの前に」
私の言葉に、母は振り返る。そこは、あの、暖炉の前。エンタシスの白柱の、前。
「……きゃあ!」
私は母の躰を、その柱に向かって押した。母は弱々しく、柱に縋った。あの夜の、あの時の、まま。
「母さん、母さん……っ!」
「アーニー……どうしたの、何を、する気なの……?」
母の瞳に、怯えの色が浮かぶ。もしかしたら、あの夜の事を思い出したのかもしれない。
「……ずっと、ずっとこうしたかったんだ。あの夜以来、僕は、女をちゃんと抱く事が出来なかった……ようやく分かったんだ。どんな女よりも、あの夜の母さんの姿が一番美しく、淫らだったって事をね……」
「そん、なっ……」
母の声に構わず、私は背後から母を抱く。そして、母の纏うスカートを、無理矢理押し上げる。
「い、あっ……!許してアーニー、母子でなんて、嫌ぁ!」
「いいや、これでいいんですよ……きっと父さんも、そしてあのハロッドも、あの世から僕ら二人を見てるはずです……存分に見せてあげるのですよ……あらぬ恋に気を狂わせた実の息子に肉体を奪われる、母親の姿をね……」
「やめてアー、ニー……っ!こんなの、こんなの、いやぁーっ!」
身をよじる。ヒップが揺れる。
抗いに負けず、ズロースを毟り取る。母の下半身にある全ての布地を引き剥がす。
白いピップを撫で回す。脚と脚の間の茂りに、指を侵入させる。
母の荒い息が聞こえる。気を遣る。ズボンと下着を、脱ぐ。
あてがう。力を込める。母の中に、侵入する。
「あ、あ、あ、あっ……アー、ニー……っ!」
広間に響き渡る、母の濡れた声。息子である私に向かって、ヒップを振る、母の姿。
奪われ、何より取り返したかった物が、今、私の手に。
完
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