「相姦の鎖」


第3章 母の胸に灯る性炎

 伊勢内の家に入って、留美子に心休まる日は一度もなかった。陽一に無理やりレイプされ、愛していた男と引き離され、やっと陽一のやりかたに慣れてきた数年後、陽一は外に女を作り始めた。留美子は当然陽一を非難したが、陽一は聞く耳持たず、逆に浮気を見せつけるようにさらに何人もの女とつながっていった。  
 自分の人生を無茶苦茶にしていながら、夫は自分を見放し性の放蕩を楽しんでいる。この家で自分を通すことをあきらめた留美子は、長男 和彦、長女 由梨絵が生まれ、愛情のない夫との関係より、子どもをしっかり育てることに生きがいを感じ始めたのだ。  
 やがて陽一が料亭の仲居との間に子供を作っても、留美子は相手の女と自分で交渉し、その子どもである恵里香を引き取ったのだ。留美子にとって、伊勢内家とは恨むべき陽一と、愛すべき子どもたちの同居するものになっていたのだ。  
 しかしその恨みの日々のため、留美子が失ったものがあった。それは『性欲』である。陽一の奔放な性を冷ややかな目で見てきた留美子は、セックス自体を汚いものとして認識し始めたのである。だからたまに陽一が、気まぐれで留美子の躰を求めて来ても、留美子は断固それを拒絶した。自分の欲求が溜った場合は、一人指での自慰で処理する。しかし、いくら夫の愛情を拒否したとはいえ、四十歳の熟れきった肉体は、現実の男とのつながりを求めていたのだ。   

 留美子は家事をすべて終え、自分の部屋で一人考えていた。さきほど、恵里香が言った『エダ シンジ』という名前が気にかかっていたのである。エダ シンジ……えだ しんじ……江田 慎二。留美子にとって、一生忘れることのできない名前だ。江田 慎二は、陽一にレイプされた時に付き合っていた恋人だ。将来を誓い合い、慎二が就職し、安定し次第結婚するつもりだったのだ。それが  あの不運な出来事によって全てがダメになってしまった。留美子は、伊勢内家の圧力によっていずこかに姿を消した慎二の身をを案じていた。その男の名前が突然、娘である恵里香の口から出たのだ。

「恵里香と江田さんが、何で……」  

 何度考えてみても、その答えは見つからない。いや、答えは出ていた。しかしそれを肯定する勇気は留美子にはなかった。その答え、つまり『江田 慎二が伊勢内家への復讐のために恵里香に近づいた』ということだ。それが事実なら、奔放な恵里香の性格からしてすでに肉体関係を持っている可能性が高い。それでは留美子が今まで耐えてきたよりどころであった『子どもをしっかり育てる』という心の支えが守れなくなり、それこそ陽一になにを思われるか分からない。  
 留美子はもう考えることがおっくうになり、服を脱いでベッドに横たわった。

「もう、いいわ……」  

 留美子は何も考えないようにした。うわべで伊勢内の顔を演じていることにも疲れ、さらに女としての悦びさえ手に入れられない生活に飽き飽きしていた。

「壊れるなら、壊れてしまえばいい……」  

 そうつぶやいて、留美子は目を閉じた。やがて浅い眠りに落ちていった。  

 留美子は目を覚ました。時計を見ると深夜の二時を回ったところだった。そして、知らぬ間に自分の手がパンティーの中に入っていることに気が付いた。 いつのまにか、知らず知らずに自慰を行っていたようだ。

「やだ……わたしったら」  

 留美子は手を下着の中から引き抜いた。指先が濡れている。おそらく自分の知らない間にかなり本格的なオナニーをしていたらしい。

「わたし、だいぶガマンできなくなってきたみたい……」  

 意識すると、全身が自然に興奮して来る。鼓動が高鳴り、つく息も荒くなる。自分ではちゃんと欲求をセーブしているつもりなのだが、現実にこのようなことが起きてしまう。こう落ち着こうとしている時でも、頭の中に淫らな妄想が次々と湧いて来る。

「やっぱりわたし、淫らな女なんだ……」  

 ここ何年か、それを意識することはなかった。しかし現実には、女ざかりの躰をもてあますようになってしまった。  
 留美子は決意してベッドを立った。それは、この躰の火照りを鎮めるためである。ドアを開け、少し前まで夫婦の寝室であったはずの部屋に向かった。ドアの前に立ち、遠慮気味にノックをする。返事はないが、ドアを開けて中に入ってみる。  
 陽一は、そこに寝ていた。留美子が近づくと、陽一は目を覚ました。

「……何だ、留美子。何か用か?」  

 そっけない態度で陽一が言う。

「ねえ、あなた……ねえ」  

 留美子は陽一のパジャマを掴んで誘う。

「おいおい、いい加減にしろよ。俺は疲れてるんだ」  

 機嫌悪そうに陽一が言う。しかし留美子はかまわず陽一の下半身に手を伸ばした。陽一はもう何も言わない。パジャマのズボンを下ろし、久しぶりに見る股間の膨らみに、頬ずりをする。しかしその途端、留美子の燃え上がっていた性欲はみるみるしぼんでしまった。そこから、女の匂いが立ち昇っていたのである。

「ふふっ……」  

 陽一が笑った。留美子は無言で立ち上がり、さっさとドアから出ていった。
(わたしを笑い者にするために、あの男は……!)留美子はふつふつと怒りが沸いていた。おそらく陽一は、あのめぐみという看護婦と一戦交えて来たに違いなかった。留美子の心は完全に自暴自棄になっていた。
(いいわ、あなたがその気ならわたしにだって考えがある……)留美子は歯ぎしりしながら思った。  

 次の日の午後、和彦は医大から帰宅した。しかし家の雰囲気はいつもと違っていた。いつもなら、母かお手伝いさんが出迎えてくるのだが、今日はだれ一人出てこない。べつにどうでもいいことなのだが、なぜか和彦には不思議に思えた。和彦はかまわず上がったが、少し不機嫌になっていた。  
 リビングに顔を出すと、留美子がそこにいた。ソファーに座って目を閉じ、クラシックを聴いている。

「かあさん、寝てるの?」  

 和彦は声をかけた。その声で、留美子はゆっくり目を開けた。

「あ、和彦さん。おかえりなさい」
「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、ちょっと疲れただけだから……あ、そうそう。お茶を沸かしてたの。和彦さんも疲れたでしょう?お茶を一緒に飲みましょうよ」

 留美子はソファーを立ち、キッチンへと向かう。しばらくして、留美子がティーセットを持ってやってきた。

「お手伝いのサチさんは?」
「サチさんは田舎のおかあさまが、急に病気になって、急いで帰郷されたわ」  

 留美子がカップに紅茶を注ぎながら答える。

「あ、そう」
「さ、和彦さん……飲んで」  

 母が差し出した熱い紅茶を、和彦は飲んだ。甘く豊醇な香りに、和彦の体が落ち着きを取り戻す。

「おいしいよ、かあさん」
「そう、よかった……」  

 留美子が嬉しそうに微笑む。和彦はため息をついてソファーに体を横たえる。

「なんだかおいしい紅茶を飲んだら、眠たくなっちゃった……」
「疲れているのよ。さあ、そのままお休みになって……」  

 優しい母の声が和彦を包む。ゆっくりと、さわやかな眠りに落ちていった。  
 しばらくして留美子は立ち上がり、むかいの和彦に近寄ってしっかり眠っていることを確認した。そして大きなため息をつく。

「こんなことしか、あの人に復讐できない……」  

 一言留美子はつぶやいて、寝息を立てている息子の前に座った。  
 もちろん、紅茶には病院から盗んだ睡眠薬を入れた。お手伝いのサチはお金をやってしばらく旅行に行かせていた。二人の娘も今日は帰宅が遅いことを知っている。この時間を手に入れるため、留美子は最良の手を打ったのだ。  
 熱い瞳でしみじみ見ると、いつの間にか息子は男らしくなっていた。高校時代サッカー部で活躍していたせいか、ポロシャツからのぞく腕はかなり逞しい。留美子のイメージでは実の親である陽一より、留美子が若くして離された、あの江田 慎二に似ているような気がする。
(気のせいね……わたしがあの人を忘れていないから……)そう思ってはみたが、そのイメージは留美子の中で確かなものとなっていった。

「和彦……」  

 念のため留美子は、もう一度声をかけた。睡眠薬が効いたのか、まったく目覚める気配がない。留美子は震える手を、ゆっくり息子の股間に近づけた。触れた途端、留美子の鼓動は最高潮に達した。

「でも、やるしかない……」  

 留美子は決心して、和彦のジーンズのボタンに手をかけた。パチンとそれをはずし、さらにジッパーを下げる。そうすると中に、トランクスを膨らませるものの物体を確認できる。  
 さらに勇気を出して、留美子はそのトランクスを思いきり引き下げた。

「……!」  

 目にしたのは、想像したよりかなり大きいペニスだった。夫と慎二以外の男に抱かれたことのない留美子だが、勃起していないのに、その大きさは理解できた。胸がキューンと締めつけられ、頭にカーッと血が昇るのがわかった。  
 男の性器が、これほど美しく愛おしいものに見えたのは、これが初めてだった。留美子はその時、心からこのペニスを欲しいと思った。

「和彦、いいわね……」  

 留美子はそうささやいて、そのモノに手を添えた。さやさやとさすっていると、若い和彦のペニスはすぐに力がみなぎってきた。息子のその反応に嬉しくなって、留美子はさらに力をこめて擦る。やがて和彦の分身は、母の手によって完全に勃起しきった。留美子は手を離し、それをしげしげと眺める。鼓動に合わせてピクンピクンと震えるそれは、留美子の欲望を燃え上がらせるのには最高のモノだった。こうして眺めているだけで、自分の股間が興奮に濡れていくのがわかる。  
 留美子は再び手を添えて、少し持ち上げてみる。赤く腫れ上がった先端からは、ツーンと男の匂いが漂う。その匂いはさらに留美子の興奮を昴らせた。  
 禁忌の壁を感じる一抹の不安はあっても、もうブレーキはきかなかった。留美子は支え持ったその怒張に、ゆっくりと顔を近づけて行く。そしてその先端に、優しくキスをした。また胸がキューンとときめく。その感動のまま、留美子は息子のペニスを呑み込んでいった。
(ああっ、おいしい……!)留美子は甘美な味に感動した。フェラチオが、こんなに素晴らしい行為とは知らなかった。留美子は続けてその甘美な行為に没頭した。  
 母親の熱い口の中で、和彦の肉茎はさらに張りを増していった。その反応に、留美子はさらに勢いをつけて、激しく頭を上下させる。そうすると先端から、射精の前触れであるあの液が洩れ出していた。
(和彦、イクのね……イイわ、かあさんの口にちょうだい!)留美子は心で叫びながら、舌を這わせていった。  
 やがて、口の中で息子の怒張がぐっと体積を増した。留美子は息子のほとばしりを全部受け入れようとかまえた。  
 次の瞬間、留美子の喉奥に和彦のスペルマが勢いよく当たった。和彦は少し眉をひそめうなっただけで、目を覚まさなかった。留美子はそのほとばしりを一滴残らず飲みくだした。そして口の中のモノがしぼんでいくのを感じると、名残惜しそうに口を離した。留美子はすぐに和彦のジーンズを元に戻し、ティーセットを片づけた。  
 留美子は相変わらずよく眠っている息子をリビングに残し、自分の部屋に戻った。   
 荒い息を整えながら、留美子は思った。
(これで、少しはあの男への復讐になったはず……)しかし、落ち着いて考えてみると、自分でもこのことと陽一への復讐がどうつながっているのか分からなかった。

「もしかしたら復讐でもなんでもなく、わたしの単なる欲求だった……?」  

 留美子は自分の深層心理を知って、なぜかおかしくなって笑いだした。

「それでも、いいじゃない……!今まで女の悦びなんて感じて来れなかったんだもの、これくらい許されるはずよ!」  

 そう叫んで、留美子はいつまでも笑い続けた。  

 夜、留美子は恵里香の部屋を訪ねた。

「恵里香、ちょっと入るわよ」  

 ドアを開けると、恵里香は机に向かっていた。勉強していたようだ。

「なーに、ママ?わたし忙しいんだけど……」  

 相変わらずの口調で恵里香が言う。

「昨日あなた、江田 慎二さんの所に行ってた、って言ったわよね?」
「……うん、そうだよ」
「その江田さんっていう人とは、いったいどういう関係なの?」  

 留美子は毅然とした態度で言う。恵里香は逆に母をおちょくるように笑っている。

「エダさんとはねぇ……もちろん、恋人だよ。二人は、深ーく愛し合ってるの」  

 恵里香は悪びれずに言う。その態度に、留美子は思わず頬をひっぱたいた。

「なんてこと言うの!江田さんはあなたと三十歳も年が離れてるのよ……!」  

 留美子はわなわなと震えながら叫んだ。恵里香はひっぱたかれたショックか、黙って留美子の方を見ている。

「……ママ、エダさんのこと知ってるの?」  

 恵里香の言葉に留美子は、しまったと思った。

「ねえママ、どうしてエダさんの歳まで知ってるの!?」  

 留美子は無言になってしまった。知らず知らずの失言に、場の形勢は逆転してしまった。

「ねえママ、答えてよ!どうして?エダさんを知ってるの?」  

 恵里香の猛烈な語威に圧倒されかけた留美子は言った。

「とにかく、わたしが言った通りにしなさい!付き合うなんて許しません!」  

 留美子はそう言って、部屋を出た。部屋の中から恵里香が叫ぶ。

「ママずるい!ママはわたしの質問に何も答えてない!」  


 深夜の伊勢内病院資料室、和彦とめぐみはあの日のように抱き合っていた。冷たい床の感触を味わいながら、すでに何度も精を吐き出している。

「フフッ、今夜はどうだった?色々やってみたんだけど……」  

 めぐみが色っぽい声でささやく。

「よかったよ、最高だった……!」

 和彦が答える。めぐみがうれしそうに微笑んでキスをする。しばらくして、和彦がつぶやく。

「めぐみさん、あのさぁ……エッチな夢って見たことある?」
「エッチな夢?」
「ああ、実は今日その夢を見たんだ……家のリビングでね」
「ねえ、どんな夢?」
「あのね、女の人にフェラチオされる夢」
「えーっ!和彦さん欲求不満なんじゃない!?」
「そんなことないよ、こうしてめぐみさんが色々やってくれるからね」
「やだーっ、和彦さんのエッチ!」
「……とにかく、めぐみさんは見たことないの?」
「そうね、まだオトメだった時は何度か見たことあるけど……二十歳過ぎてからは見ないわね」
「あ、そうなんだ……じゃ、見た俺ってやっぱりヘンなのかな」
「うーん……内容にもよるかな。くわしく話してみてよ……」
「夢の舞台は僕が寝ていたリビングで、僕はいつのまにかジーンズとトランクスを脱がされて、それで……」  

 突然和彦の言葉が詰まった。めぐみが不審そうな顔をする。

「それで、どうしたの?」
「え、あ、そ、それから、あのー……女の人がフェラチオをしていった……」
「なによー、それ。全然くわしくないじゃない!誰が出てきたとか……」
「知らない、覚えてない!」  

 和彦の語威が強くなる。めぐみは変な顔をしたが、小さいため息を一つして立ち上がった。

「まあいいわ。今日は機嫌悪そうだから、わたし帰るわ……」
「あ、めぐみさん……!」
「いいのよ、気にしなくても」  

 そう言ってめぐみは服を着始めた。

「めぐみさん、怒らせたんなら僕謝るよ」
「気にしなくていいの。また明日、ここでね」  

 服を着終わっためぐみはそう言って資料室を出ていった。  
 残された和彦は、一人考えていた。さっき夢の内容を思いだしているとき、フェラチオの相手の顔が浮かんだのだ。それは間違いなく、実の母 留美子の顔だった。

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